ニュース
社会 教育・オピニオン
掲載日:2018/12/10

企業の人事分野の情報開示状況、最も進んでいる施策は「女性社員活用」。最も遅れている施策は「非正社員活用」~企業の人的資産情報の「見える化」に関する研究:労働政策研究・研修機構

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「企業の人的資産情報の「見える化」に関する研究」を発表しました。


■研究の目的
近年、投資家の行動が変化しつつある。中長期的な企業価値を評価し、投資判断の際に、ESG(環境、社会、ガバナンスなど)非財務情報を組み込もうとしている。非財務情報の中で、どのような項目(残業時間、WLB、多様な人材活用など)を考慮し、それが企業業績、投資パフォーマンスといかなる関連があるのかを明らかにする。「企業が人的資本に関する情報開示を進め、残業時間削減やWLBに積極的に取り組む企業が投資家に選ばれる」という好循環を生み出せば、「働き方改革」の推進にも資する。ここでは、ⅰ)投資家が投資判断の際、考慮する非財務情報・項目、ⅱ)非財務情報の考慮が企業業績と連動するのかを探る。

 

■主な事実発見(抜粋)

1 企業の情報開示の概況

1)施策の実施と情報開示との関係
代表的な施策・制度から人事分野の情報開示状況をみると、各々の施策の実施と情報の間には、多くの企業が取り組んでいる施策だから情報を開示する企業が多くなるという関係にはない。

高齢者活用、障害者活用以外の施策については、実施企業比率の低い施策ほど情報開示企業比率が高い。情報開示が最も進んでいる施策は「女性社員活用」であり、それに続くのが「仕事・介護両立支援」と「仕事・育児両立支援」である。「女性社員活用」で最も問題になることが仕事と育児の両立支援であることを考え合わせると、WLB関連が最も開示の進んでいる人事分野といえよう。それに対して「有休取得促進」と「残業削減」の労働時間分野をみると、取組状況はWLB関連と遜色がないものの、情報開示はやや遅れている。

一方で、全く異なる動きをしているのが、「女性社員活用」を除いたダイバーシティー分野であり、実施企業比率の高低にかかわらず情報開示が遅れている分野である。その典型が「非正社員活用」であり、6割の企業が取り組んでいるにもかかわらず、その情報を開示している企業は15.2%と、他の施策に比べて著しく少ない。また「高齢者活用」、「障害者雇用」を開示している企業は、同施策を実施している企業の4分の1程度にとどまる。

2)情報提供対象者の特徴
「主な情報提供対象者」に関しては、全ての施策を通して「特定していない」と「人材募集対象者」が主要な対象者になっている。そのなかで「人材募集対象者」を第一にあげている施策は労働時間分野の「有休取得促進」「残業削減」とダイバーシティ分野の「非正社員活用」「高齢者活用」であり、とくに正社員を念頭に入れると、企業は人材確保のために労働時間に関わる情報を開示することを重視していることが分かる。それに対して「特定していない」を第一にあげているのは「障害者活用」とともに、「仕事・育児両立支援」「仕事・介護両立支援」「女性社員活用」「残業削減」のワークライフバランスに関わる施策群であり、これら施策の情報開示は特定の対象者に対応するというより、企業の社会的評判の向上をはかるために行われていると考えられる。

もう一つの注目される対象者は上記二者に次いで指摘の多い「株主」である。「株主」が主要な対象者として指摘されている施策は、「仕事・育児両立支援」「仕事・介護両立支援」「女性社員活用」「高齢者活用」「障害者活用」であり、ほぼ第一の対象者として「特定していない」をあげた施策と等しい。企業の社会的評判の向上をはかる情報開示を行うさいには、「株主」がかなりの程度意識されていることがうかがえる。

3)情報開示に積極的な企業の特徴
情報開示に積極的な企業に関しては、施策を超えて共通した傾向がみられ、企業規模では大手企業で、上場先市場では東証1部に上場している企業で、資本構成では外国資本比率と機関投資家比率の大きい企業で、情報開示が積極的に行われている。

さらに施策効果指標との関連をみると、企業は施策効果水準が高いからというより、施策効果が改善されたから情報開示を行う傾向が強く、その傾向は「有休取得促進」「残業時間削減」「女性社員活用」「障害者活用」でみられる。


調査シリーズNo.185全文(PDF:11.7MB)

■研究の方法
アンケート調査結果の分析、パネルデータの分析

①企業調査
期間:2018年1月27日~2月19日
対象:東京証券取引所に上場する3,583社
回収数(率):216票(6.0%)

②機関投資家調査
期間:2018年1月27日~2月19日
対象:「適格機関投資家」リスト(金融庁)掲載の投資家1,946件(個人と外国企業を除く。2017年11月16日現在)
回収数(率):170票(8.7%)

③個人投資家調査
期間:2018年1月26日~31日
対象:調査会社のモニター登録会員を対象にしたWEB調査
サンプル数:3,130票

 

<問い合わせ先>
内容について 研究調整部 研究調整課  03(5991)5104
ご購入について 成果普及課 03(5903)6263

 

◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。

(独立行政法人労働政策研究・研修機構 https://www.jil.go.jp//12月7日発表・同団体プレスリリースより転載)