HR業界団体情報 掲載日:2023/02/20

一般社団法人日本BPO協会(旧:日本生産技能労務協会)
製造業・物流分野の請負・派遣事業を軸に、対象はアウトソーシング全般へ拡大
「働く人・取引先企業・会員企業」のトリプルウィンを目指す

一般社団法人日本BPO協会 会長

清水 竜一さん

一般社団法人日本BPO協会

製造業を対象とする人材サービス会社には、これまで何度も大きな変化が起きています。1979年のオイルショックや円高不況時には、メーカーがそれに対応するため、構内請負の業態が広がりました。しかし、当時の構内請負の会社の中には、労働基準法や職業安定法などを遵守していない会社もあり、雇用が不安定になっていました。そこで是正に向け、1989年に誕生したのが日本構内請負協議会、現在の日本BPO協会です。請負・派遣事業の適正かつ健全な運営と、労働者の雇用の安定と処遇の向上を目的とした活動を行う同協会 会長の清水竜一さんに、今後どのような施策を行い、何を実現していくのか、お話をうかがいました。

偽装請負の撲滅と東日本大震災での雇用創出を実現

最初に貴団体の設立趣旨についてお聞かせください。

1979年のオイルショックや、その後の円高不況などで製造業の生産変動が大きくなり、メーカーはそれに対応するため、臨時工やアルバイトに加え、自社の敷地内や工場内で製造業務を発注する構内請負の業態が広がりました。しかし、当時の構内請負の会社の中には、労働基準法や職業安定法などを遵守していない会社もあって、雇用が不安定になっていたのです。そこで1989年に、働く人に安心して働いてもらえる環境をつくるため、請負事業者の声を行政に届けようと17社が集まり、日本構内請負協議会を結成しました。2000年に社団法人日本生産技能労務協会となり、2009年に日本製造アウトソーシング協会と統合。2021年に日本BPO協会と名称変更して、今に至ります。

貴団体の設立から現在までの沿革や組織についてお聞かせください。

これまでの協会の活動で、特にトピック的なものといえるのは、偽装請負の撲滅と東日本大震災での雇用創出だと思います。

2006年に偽装請負が社会問題となり、真面目に活動している企業まで不正の目で見られる事態が起きました。そこで、厚生労働省は、製造請負事業が適正に行われるようにするため、2007年にガイドラインを策定し、さらに2010年度「製造請負優良適正事業者認定制度」(GJ認定制度)をスタートさせました。この制度の運営は厚生労働省委託事業として行われ、当協会が受託しています。ガイドラインやGJ認定制度により、製造請負事業に対する信頼感が高まり、メーカーは安心して仕事を依頼できるようになり、働く人の雇用も健全化されました。

また、2011年の東日本大震災からの復興を支援するため、被災地での雇用創出に取り組みました。当初、派遣事業者は雇用調整助成金の対象になっていませんでしたが、協会として国に働きかけを行い、支給対象にすることができました。そのうえで会員企業は被災地で働いていた派遣スタッフの受け入れ先を探して回ったのです。

例えば、宮城県仙台市にある会員企業の東洋ワークは、派遣スタッフの雇用を守るために銀行から借金をして運転資金とし、全国の関連企業を回って受け入れ先を探して、ほとんどのスタッフの受け入れ先を見つけました。このようにして会員企業が被災地域での雇用創出を支援し、4年間で累計3万1099人の雇用を生み出すことができたのです。

アウトソーシング全般を対象にし、活動領域を拡大へ

2021年に日本BPO協会に名称変更されていますが、どのような経緯があったのでしょうか。

協会は2020年1月に「JBPO将来ビジョン2030」を策定しました。決定したビジョンは「トリプルウィン(働く人・取引先企業・会員企業)で社会を支える」です。会員企業の請負・派遣事業者が、働く人の働きがいと誇りある仕事の創造および取引先企業の生産性と競争力向上に貢献し、共に成長することでWin-Win-Win実現を支援していきます。今後の方向性はサービスの多様化と高度化、そして協会の活動領域の拡大です。

図1
日本BPO協会の活動方針
図2
日本BPO協会の活動方針

日本BPO協会の活動方針。同協会Webサイトより

そうした流れの中で行ったのは、協会の活動領域を製造・物流分野を軸としつつ、技術、販売、バックオフィス、行政サービスなどに順次拡大し、広くアウトソーシング全般を対象としていくことでした。背景にあったのはデジタルテクノロジーの進展などによる産業構造の変化や、労働力人口の減少などによる労働市場の変化に対応することです。そして2021年に協会名称を日本生産技能労務協会から「日本BPO協会」に変更しました。BPOとはビジネス・プロセス・アウトソーシングの略であり、業務プロセスの一部を一括して専門業者に外部委託することを指します。これにより、発注する企業は経営資源のコア業務への集中やコスト削減、固定費の変動費化、また、より優れた業務品質を実現し、顧客への提供価値を高めることが可能になるのです。

貴団体はどのような会員・組織で構成されていますか。

現在、会員は正会員が90社、物流会員が30社、アソシエイト会員3社。正会員の多くは、製造請負・製造派遣事業者です。2016年から製造業に関わりの深い物流業も支援しようということで新たに物流会員を設けました。さらに、2021年、協会の活動領域の拡大に対応してアソシエイト会員を設けました。

2030年に向けたビジョンを策定し四つの施策を展開

貴団体が今、力を入れている活動は何でしょうか。

2020年1月に定めた「将来ビジョン2030」を実現するために、3年間の中期事業計画を策定し、四つの施策を行っています。一つ目はキャリア形成に役立つキャリア面談の推進です。会員企業の大きな課題の一つに、人材の確保・育成対策があります。そのためにはキャリア面談を適切に実施し、スタッフの仕事に対する不安を解消し、将来に対する展望を持てるようにすることが重要です。そこでキャリア面談担当者のロールモデルならびにキャリア面談の標準化ツールを開発し、会員企業のキャリア面談を支援します。

二つ目はポリテクセンター(職業能力開発促進センター)と連携した人材の育成です。AI、IoTなどの進展により製造現場で必要とされる派遣・請負人材のスキルは高度化しています。それに対応した人材育成が必要となっているのです。そこで人材育成のターゲットを設備保全分野(機械保全、電気保全)に置き、ポリテクセンターと連携。会員企業向けの訓練コースを開発して訓練を実施しています。また、訓練受講生の活用事例を集めて、高度化に対応した人材の育成・活用モデルを作成しています。

三つ目は領域拡大分野での会員拡大の推進です。各種セミナー、交流会、支部活動などの場を活用して、会員拡大を図っています。また、相当数の企業が入会した分野では、部会を設けることとしています。

四つ目は支部の設立推進による会員サービスの拡充です。2020年度に関西・中四国支部を設立したことにより、地域の会員企業の協会活動への参加意欲が高まり、会員拡大にもつながるなど、大きな成果を上げました。2021年6月に関東支部を設立し、引き続き、他地区においても支部設立に取り組み、会員サービスの充実、会員拡大を図っています。

清水 竜一さん

日本の労働市場の現状・課題についてどのように捉えていらっしゃいますか。

日本の労働市場における課題は大きく二つあると考えています。一つは少子高齢化による人手不足の問題で、もう一つはデジタル変革での人材の対応です。デジタル変革以前、人材サービス会社は人を採用し、いかに人と仕事をマッチングさせるかを考えれば企業の要望に応えることができました。

しかし、デジタル変革が起きたことにより、それに対応できる人材を育成することが求められています。人材サービス会社は、新しい時代に合わせて、市場価値の高い人材を育成し、市場に送り出さなければならなくなっているのです。今、世の中が大きく変わっていることを会員企業に知ってもらうため、協会を中心に情報を発信し、支部活動ではさまざまなディスカッションを行っています。

今、働き手を育成し、成長させるチャンスが到来

日本の人材サービス業界の現状・課題をどのように考えていますか。

最近よく「リスキリング」という言葉が聞かれます。この言葉が出てきたのは、社内での配置転換を目的にできる施策だからです。いろいろなリスキリングの事例もその多くは社内での事例です。事実、メーカーが社員の雇用を維持しようとすると「少しでも戦力になるようにリスキリングをしよう」と考えますが、現実にはそれですべての人材配置が解決することはないと思います。個人が会社を辞めるといったジョブチェンジをし、自分のスキルを発揮できる場所を見つけなければ、日本全体での人材の問題はなかなか解決しません。

我々のような人材サービス業界は、個人の労働者にリスキリングできる機会を提供し、そのうえでその人に合った職場とのマッチングを実現することができます。協会としても、こうした人材のリスキリングを大きな旗印と捉えて、今後取り組んでいきたいと思います。

現在の日本は人手不足の状態ですから、取引先企業も人材サービス会社も働き手を向いて考えないと、労働力を確保できない時代になりつつあります。その意味では、今は働き手を育成し、成長させるチャンスといえるでしょう。この機を生かし、働き手とともに人材サービス業界も成長していきたいと考えています。

貴団体の今後の展望をお聞かせください。

長期的には「将来ビジョン2030」を推進し、働く人の多様な就業機会の創出、取引先企業へのサービスの向上を実現したいと考えています。また、業界の健全化を推進するため、協会の活動領域を拡大し、発信力を高めたいと思っています。

活動の中でも特に大事にしたいのは、働き手、働く人々のニーズをいかに実現していくかということです。それによって日本の産業界の競争力をどれだけ高められるのかが決まってくると思います。

製造業における人材サービス会社で5%を超えるシェアを持つ企業は1社もありません。それだけ人材サービス会社が多いということですから、まずは志の高い企業に業界の行く先の方向性を説明して納得してもらい、志を共にしたうえで改革を進めたいと考えています。

最後に人材サービス業界で働くビジネスパーソンのみなさんにメッセージをお願いします。

今、産業界はものすごいスピードで変化しています。労働市場にも課題がたくさんあり、このままでは産業界の変化と労働市場に大きなギャップが生まれてくるのではないでしょうか。私はそうした問題を解決するために人材サービス産業があると考えています。これからは働く方々に本当に寄り添った仕組みをきちんと提供する会社にならなければ、働き手も来てくれない時代になります。そのため、新しい時代に向けて働く方々や産業界に対し、我々ができることをしっかりと行い、労働市場が支持してくれるような業界をつくっていきたいと考えています。

清水 竜一さん

(取材:2023年1月6日)

一般社団法人 日本BPO協会

請負・派遣事業の適正かつ健全な運営と、労働者の雇用の安定と処遇の向上を目的とした活動を行っています。

名称 一般社団法人 日本BPO協会
所在地 〒105-0004 東京都港区新橋4丁目5番1号 アーバン新橋ビル9階
TEL 03-6721-5361
URL https://bpo.or.jp/
設立平成12年(2000年)10月
代表会長: 清水 竜一
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企画・編集:『日本の人事部』編集部