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掲載日:2017/04/18

メンタルヘルス不調者を生む要因とその対策に不整合。対策1位の「残業時間の削減(69.4%)は、要因6位(23.9%)~『組織のストレスマネジメント実態調査』:日本経営協会

一般社団法人日本経営協会(会長:浦野光人 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-11-8)では、事業所におけるストレスチェック制度の実施状況やストレスマネジメント全般の状況、今後の課題等を探るために、「組織のストレスマネジメント実態調査」を実施し、その結果を組織のストレスマネジメント実態調査報告書としてとりまとめました。

 

●背景と調査内容
近年、わが国においては、仕事による強いストレスを主因とするメンタルヘルス不調者が増加傾向にあり、労働者のメンタルヘルスへの関心はますます高まっています。 そのような背景を踏まえ、平成27年12月の改正労働安全衛生法の施行により、企業(団体)活動に負の影響を及ぼすメンタルヘルス不調者の早期発見と未然予防、リスク要因そのものの低減を主な目的として、労働者数50人以上の事業場におけるストレスチェック制度の実施が義務化されました。

今回の「組織のストレスマネジメント実態調査」は、事業所におけるストレスチェック制度の進捗状況やストレスマネジメント全般の状況、今後の課題等を探るために、「勤務先事業所の現状について」「メンタルヘルスに関する取り組み状況について」「ストレスチェック制度の実施状況について」「職場環境の改善について」の4群20項目の設問構成からなる調査として、前述の法律で定められたストレスチェックの実施期限直後の昨年12月から本年1月にかけて行いました。

 

●調査対象と方法、有効回答数
質問紙調査とWEB調査を併用して実施ました。質問紙での調査は、2016年12月下旬に全国の企業(団体) 888団体に調査用紙を発送し、回答を求めました。WEB調査については、2017年1月中旬に実施いたしました。調査の有効回答数は質問紙とWEB調査の合計で552件です。

 

【調査結果概要】

<<メンタルヘルスの現状について>>
◎5年前と比較したときのメンタルヘルス不調による長期休業者数は「増加」が26.0%、「減少」が9.3%、そしてメンタルヘルス不調による退職者は「増加」が17.8%、「減少」が7.3%でした。5年前と比較して職場のメンタルヘルスは悪化しています。

◎5年前と比較してワーク・ライフ・バランスが悪化したと答えた事業所は、メンタルヘルスの状況も悪化したと答えています。同様に、人員の多様化が進行したと答えた事業所もメンタルヘルスの状況が悪化しています。ワーク・ライフ・バランスの悪化と人員の多様化は従業員のメンタルヘルスに悪影響を与えています。

◎平均勤続年数(中位数による推計値)は、ストレスマネジメントに全く取り組んでいない事業所が9.7年であるのに対し、積極的に取り組んでいる事業所は16.8年でした。ストレスマネジメントに取り組むことが従業員のリテンション(人材確保・人材流出回避)に良い効果をもたらしているようです。

◎業種別に比較すると、ストレス耐性度が高く出たサービス業では、メンタルヘルスの状況が5年前からそれほど悪化しておらず、ストレスマネジメントへの関心度、事業所のストレスマネジメントへの取り組みが、いずれも少ない結果となりました。対照的に行政・自治体では5年前と比べたメンタルヘルスの状況が最も悪化しており、職員のストレスマネジメントへの関心度、事業所のストレスマネジメントへの取り組みが最も高い結果となりました。

◎約6割の事業所がメンタルヘルスに関する問題は今後増えると予想しています。

 

<<ストレスチェック制度について>>
◎本調査実施時点(2016年12月下旬~2017年1月中旬)でストレスチェック受検が終了している事業所は7割弱です。

◎従業員数50人以上の事業所の100%がストレスチェック制度を実施または予定していますが、従業員50人未満の事業所では約20%にとどまりました。

◎ストレスチェック制度を実施する動機・理由(複数回答可)の1位は「義務化を良い機会と捉えて」(54.0%)でした。2位は「福利厚生の一環」(37.4%)、3位は「メンタル不調者の増加」(22.6%)という結果でしたが、「義務化された(されそう)なので仕方なく」という消極的な理由も1割弱ありました。

◎全受検者に占める高ストレス者の比率は、「5~10%未満」が28.2%、「10~15%未満」19.8%で多く、ほぼ半数がこの範囲に含まれる結果となりました。全体平均(中位数による推計値)は6.9%です。

◎ストレスチェック制度を実施するメリット(複数回答可)は「従業員のストレス状況が確認できる」が64.0%で最も多く、以下、「メンタルヘルス不調者を早期発見できる」(58.3%)、「従業員自身がストレスケアに関心を持つきっかけとなる(予防)」(56.7%)となりました。メンタルヘルス不調者の未然防止と早期発見が主なメリットと捉えています。

◎ストレスチェック制度の問題点(複数回答可)としては、「面接指導対象者に選定されても面接を受けない人が多い」(34.6%)、「本人の同意がないと結果を閲覧できないので、適切な対応ができない」(33.0%)、「ストレスチェック制度の実施効果に疑問がある(正直に答えないなど)」(29.2%)が上位となりました。従業員は勤務先に自身のストレス状況を知られたくない、知られるのであれば良く見せたい(悪く見せたい)といった心理状況が働いていると推測され、事業所(使用者側)が従業員の正確なストレス状況を把握しにくいことが問題となっています。

◎ストレスチェック制度を実施したことによる効果については、『効果あり』が32.8%、『効果なし』が5.5%でした。残りの61.7%の事業所が判断できないという内容の回答です。現段階ではストレスチェック制度の効果は明確に表れていない事業所が多いようです。

 

<<職場環境の改善について>>
◎メンタルヘルス不調者が生まれる主な要因(複数回答可)の1位は「職場の人間関係」(64.3%)、2位は「本人の性格」(43.7%)、3位は「上司との相性」(40.0%)です。パーソナルな問題とコミュニケーションの問題が上位となりました。なお、「長時間労働」(23.9%)は6位であり、要因としての注目度は相対的に低い結果となりました。

◎メンタルヘルス不調者が生まれる主な要因では上位ではなかったにもかかわらず、メンタルヘルス不調者を生まないために実施している取り組み(複数回答可)では「超過勤務(残業)時間の削減」(69.4%)が1位で、2位以下の項目と大きく差があります。なお、2位には「従業員のハラスメントに対する知識と意識の向上」(44.2%)、3位には「ハラスメント防止・対策の強化」(35.5%)が続いており、労働安全衛生法の安全配慮義務等のコンプライアンスを意識した取り組みが上位にきています。

◎メンタルヘルス不調者が勤務先事業所に与える負の影響(複数回答可)の1位は「所属部署の他の従業員の業務負担増加」(50.2%)です。また、2位の「所属部署の他の従業員のストレス増加」(41.3%)、3位の「人間関係の悪化」(39.5%)、5位の「職場モラール(士気)の低下」(36.0%)の4項目は、職場内の他者に与える影響として連鎖する内容であり、負の連鎖が心配されます。

◎ストレスマネジメントを実施するうえで問題となっていること(複数回答可)の1位は「ストレスマネジメントについての専門知識やスキルを持つ人材がいない」(39.5%)であり、2位は「マネジャーが多忙で部下のストレスマネジメントにまで手が回らない」(29.9%)、3位は「ストレス対策のための費用や人手を捻出できない」(25.9%)となりました。ストレスマネジメントを推進するうえで人員・人材不足が問題となっているようです。

 

【提言】
組織が活性化し生産性を高めると共に、従業員が心身の健康を保ちながら仕事と生活の双方をバランスよく両立させるよう、ストレスマネジメントの充実に向け次の提言をいたします。

1 働き方や人員の多様化に伴うストレス増への対応を行う
超過勤務(残業)時間短縮に関する取り組みは既に多くの事業所で実施されている。今後働き方改革が進めば、ますます労働時間は短縮されるであろうが、その一方で多様な働き方は多様なストレスを生む。メンタルヘルス不調者が生まれる主な原因が「職場の人間関係」「本人の性格」「上司との相性」といった職場の人員構成やコミュニケーションにあるとすれば、「多様な働き方」に伴う職場のコミュニケーションについてストレスなく行える環境を整えなければならない。そのためには、制度やコミュニケーションツールおよびルールの構築、他人の働き方を尊重するマインド等、組織としてのバックアップが必要不可欠である。
 また、上司(ミドルマネジャー)においては多様な人員・多様な働き方をする部下がメンタルヘルス不調に陥らないようにストレスマネジメントに関する知識・スキルの習得と実践能力を高めることも並行して行いたい。

 

2 ストレスマネジメントを優先する職場風土とマインドを醸成する
大規模事業所では、メンタルヘルスのために研修制度をはじめとした様々な制度・仕組みを導入しているにもかかわらず、「マネジャーが多忙で部下のストレスマネジメントにまで手が回らない」「ストレスケアは個人の問題とするムードがある」という回答が多い。このことは、研修による知識やスキルの付与、制度の整備だけではストレスマネジメントが機能しないことを意味している。上司(ミドルマネジャー)のストレスマネジメント力向上は必須であるが、併せてストレスマネジメントを優先する職場風土や従業員一人ひとりの仲間を思いやるマインドを醸成することを行いたい。

 

3 ストレスチェック制度を有効活用する
人材と資金を投入してストレスチェックを行うのであるから、折角のこの制度を有効活用しないのではもったいない。高ストレス者の早期発見によりメンタルヘルス不調者の発現を阻止することは、周囲への負の影響、優良人材の流出、人件費等の費用増を回避できるため、組織にとって有益である。今回ストレスチェックを実施して浮き彫りとなった問題点を検証し、次回以降改善することを進めたい。なお、事業所内、企業(団体)内で解決できない問題点等は、外部の研究会への参加や同業他社との情報交換を通じて改善のヒントを得ていくことも効果的である。

 

4 機を逃さずに従業員の研修や職場環境改善を行う
 今回ストレスチェックを受検した従業員は、自身のストレス状況を把握すると共に、ストレスに対して以前より敏感になるはずである。このタイミングを逃さずに研修(セルフケア研修、管理職へのメンタルヘルス研修など)を実施したり、職場における業務改善推進キャンペーンなどを行ったりすることが肝要である。

 

<本件に関するお問い合わせ>
一般社団法人 日本経営協会 総務センター広報担当
Tel.(03)3403-1337  Fax.(03)3403-1341
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◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。

(一般社団法人日本経営協会 http://www.noma.or.jp/ /4月14日発表・同社プレスリリースより転載)