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掲載日:2024/04/03

女性管理職比率向上に関する大手企業人事部・従業員調査

女性管理職比率向上に関する施策を実施している企業が8割を超える一方、「施策の効果実感なし」と答えた従業員は4割以上とギャップが

株式会社Works Human Intelligence(本社:東京都港区、代表取締役最高経営責任者:安斎富太郎、以下 WHI)は、大手企業の人事部と大手企業に勤務する従業員を対象に、女性管理職比率向上に関する施策の実施状況や従業員の意識について、企業人事部向け調査(全15問)と従業員向け調査(全16問)を実施しました。企業人事部向け調査は610名、従業員向け調査は631名から回答を得ましたので、結果をお知らせします(調査期間:2023年12月11日~2023年12月14日)。

<本調査の背景>
2023年6月に公表された「女性版骨太の方針2023」において、東京証券取引所プライム市場に上場する企業の女性役員比率を「2030年までに30%以上にする」という長期目標が掲げられ、同年12月の男女共同参画会議では「2025年までに19%にする」という中間目標が示されました。
社外から取締役候補を招いて女性役員比率を増やすだけではなく、将来の役員候補となる管理職の採用や育成強化の必要性が高まる中、「女性管理職比率向上」に向けて各企業がどのような施策を実施し、従業員はそれをどのように受け止めているのか、実態や課題を明らかにすべく、企業人事部と従業員に向けた調査をそれぞれ実施しました。
 
<調査結果の概要>
女性管理職比率向上に関する施策実施状況について、企業向けの調査では「何らかの取り組みをしている」企業が84.6%と8割を超えた一方、従業員向けの調査では「効果を感じている施策はない」という回答が42.9%を占めており、企業の施策実施状況と従業員の実感にギャップがあることが明らかになりました。
また、企業人事部側の調査で、自社で実施している施策のうち最も効果を実感しているものについて問う設問では、「効果を感じているものはない」(22.5%)という回答が最多と、施策を実施する立場の人事部も効果実感を得づらい状況であるということが分かりました。
従業員向け調査では、管理職意向を問う設問において、「管理職になりたいと思わない」と答えた女性は85.3%、男性従業員では80.3%と、性別に関係なく管理職を望まない従業員が8割を超える結果となり、その理由として「ワークライフバランスが悪化する」「能力不足」「責任のある仕事につきたくない」が挙げられました。「会社でどのような支援があれば、管理職になりたいか」を問う設問では、女性においては「管理職の職務定義の明確化」「特になし」「仕事に対する評価」の順で回答が多い結果となりました。

<調査結果>
1.企業向け調査の女性管理職比率の向上に関する施策取り組み状況を問う設問で、何らかの取り組みをしている企業は84.6%。

一方、従業員向けの調査で、自社で実施している施策のうち最も効果を実感しているものについて聞いたところ、「効果を感じているものはない」(42.9%)が最多だった。

2.企業向け調査で、自社で実施している施策のうち最も効果を実感しているものについて聞いたところ、「効果を感じているものはない」(22.5%)が最多だった。

3.従業員向けの調査で、「管理職になりたいと思わない」と回答した女性従業員は85.3%、男性従業員では80.3%と、性別に関係なく管理職を望まない従業員が8割を超える結果に。​

理由としては男女共通して、「ワークライフバランスが悪化するから」、「管理職になれるほどの能力がないから」、「責任のある仕事をやりたいと思わないから」という順で回答が多かった。

「会社でどのような支援があれば、管理職になりたいか」を問う設問で、女性では「管理職の職務定義の明確化」「特になし」「仕事に対する評価」の順で回答が多かった。

総括(解説:WHI総研 井上 翔平)
資本市場の世界的な潮流としてESG投資の流れが高まり、非財務情報が重視される中、企業の多様性やガバナンス向上の指標として、女性管理職比率は投資上の大きな判断材料となっています。女性管理職比率向上が多くの企業にとって避けては通れないテーマとなる中、本調査では女性管理職比率向上に関する施策を実施している企業が8割を超えた一方、「施策の効果実感なし」と答えた従業員は4割以上と、企業と従業員の間のギャップが明らかになりました。施策を推進する人事部だけではなく、経営や施策の受け手である従業員が一丸となって施策を推進していくためにはどのようなアクションが必要なのか、今後さらに推進していくための3つのポイントを、本調査結果とWHI総研が培ってきた知見をもとに解説します。

①施策の定量的な効果測定とPDCAサイクルの推進
施策の効果を実感できていないのは従業員だけではありません。企業向け調査において、自社で実施している施策のうち最も効果を実感しているものについて、22.5%が「効果を感じているものはない」と回答しました。さらに、「効果を感じているものはない」と回答した企業の定量的な施策効果測定状況を調べたところ、設問で挙げた8つの女性管理職比率推進施策について「すべての施策で定量的な効果測定をしていない」企業は40.0%、「すべての施策で定量的な効果測定をしている」企業は35.6%となりました。
「定量的な効果測定をしていないために効果実感がない」場合と「定量的な効果測定をしたうえで効果を感じていない」場合では、PDCAサイクルを回すうえでとるべきアクションは大きく異なります。
まず、「定量的な効果測定をしていないために効果実感がない」場合は、自社で女性管理職比率が向上しない原因を、データ分析やエンゲージメントサーベイを通じて把握することが重要です。女性が管理職になりにくい要因として、働き方、キャリア形成、評価制度、教育、職場環境と様々なものが考えられます。これらのうち、自社では何がボトルネックになっているのかを主観ではなく、客観的に把握する必要があります。例えば働き方という観点では、女性管理職比率が低い部署や職種で、残業時間が多くなりすぎていないか、育休取得率が低くなっていないかをデータで比較することが有効です。またキャリア形成という観点では、配属部署の偏りやジョブローテーション回数の少なさによって管理職に必要なキャリアを経験しにくくなっているケースが考えられます。この場合、女性が男性に比べて異動回数が少なくなっていないか、配属部署に偏りがないかを異動履歴を使用して検証することが必要です。また、育休を取得した女性とそうでない女性で評価に差がないかを過去の評価データから見ることもできます。
エンゲージメントサーベイによって従業員の声を直接収集することも有効です。職場で任されている業務に男性と女性で差がないか、育児休暇や時短勤務に周囲の理解があるかどうかといった内容は現場の声を聞かないと状況を把握することができません。このようにデータ分析やエンゲージメントサーベイで客観的に原因を把握したうえで、それに対応するKPIを設定し、効果測定を実施することがPDCAサイクルを回す第一歩になります。
一方で「定量的な効果測定をしたうえで効果を感じていない」場合は、さらに原因を追求する必要があります。前述したように、女性管理職比率が向上しない原因は一つだけではありません。そのため、まずは現在の施策でアプローチできていない原因は何なのかを明らかにしましょう。働き方を改善する施策をいくら実施しても、育休により、評価が下がってしまっている場合、管理職比率はなかなか上昇しないでしょう。この場合は自社の評価制度を見直す必要があります。効果測定ができていることで、初めてPDCAサイクルを一巡することができますので、別の原因を分析しながらさらに次のPDCAサイクルを回していくことが重要です。

②経営層・現場(管理職・非管理職)への問題意識の共有と施策推進体制の構築
施策の実施に対する経営層、現場(管理職、非管理職)の理解度や協力度を5段階で問う企業向け調査の設問では、それぞれ約4割が「施策の必要性を理解しており、実施にも協力的である」と回答しました。
施策に協力的な一方、他の選択肢である「主体的かつ具体的な提案や要望が寄せられる」「主管部門や担当者が主導しながら一緒に効果検証や問題の議論をしている」と比べて積極性は薄いため、より経営層や現場を巻き込めるようなコミュニケーションが取れると良いでしょう。
①と関連しますが、施策のデータ分析ができている場合、経営層や現場も女性管理職比率が向上しない原因を客観的に把握できます。そして経営層、現場とともに、その原因に対して何ができるか、現在の人事制度や現場で何が問題となっているのか、共通の指標をもとに議論することもできるでしょう。このように問題意識を共有したうえで、経営層や現場が主体的に参画し、人事部と協働しながら施策推進体制を構築していくことが重要です。

③管理職の魅力付けと従業員への訴求
従業員向け調査では、性別に関わらず管理職を望まない従業員が8割を超える結果となり、「ワークライフバランスが悪化する」「能力不足」「責任のある仕事につきたくない」といった理由が多く挙げられました。
これらを踏まえると、管理職になるメリットや企業からの支援、施策の実施状況やその効果等、従業員への情報発信に苦労されている企業が多いことが推察できます。
特に、管理職になることに対し消極的な従業員が多いことについて、女性管理職のなり手を増やすという意味で、管理職の魅力付けや従業員への訴求といった対策を講じる必要性が高いと考えます。
では、会社でどのような支援があれば管理職になりたいと思うのか。従業員向け調査の結果で、女性では「管理職の職務定義の明確化」「特になし」「現在の仕事に対する評価」の順で回答が多く寄せられました。管理職の仕事の定義が曖昧であるが故に、仕事内容や働き方に対して漠然と不安を抱いている可能性があります。
昨今、大手企業の中にはジョブ型を導入する動きもあり、ジョブ型の実現によって、管理職としての職務や役割が明確になっているケースも見られます。ただ、ジョブ型を導入しているのは大手企業でもまだ限られています。管理職をキャリアの選択肢として提示するためにも、まずは管理職の職務、役割を明確にすることが必要ではないでしょうか。そのうえで、女性に限らず管理職を目指したいという意向を高めるためにその魅力を発信していくことが必要でしょう。


<調査概要>
調査名 :女性管理職比率向上に関する施策実施状況の調査
期間 :2023年12月11日~12月14日
調査機関 :自社調べ
対象 :従業員数500名以上の企業の人事部610名
従業員数500名以上の企業に勤務する会社員631名
調査方法 :インターネットを利用したアンケート調査
有効回答数:従業員数500名以上の企業の人事部610名
従業員数500名以上の企業に勤務する会社員631名

 

◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。

(株式会社Works Human Intelligence / 3月26日発表・同社プレスリリースより転載)