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グローバル アジア
掲載日:2022/08/23

労働市場の逼迫とインフレ懸念がアジア・太平洋地域における2023年の昇給トレンドを後押し

~日本の2023年昇給率見込みは2.6%、アジア太平洋地域で最も低い水準~

 アジア・太平洋地域(APAC)における従業員の昇給予算は、労働市場が逼迫傾向にあることやインフレ懸念が高まっていることを受け、2023年に増加見込みとなっている。世界をリードするアドバイザリー、ブローキング、ソリューションのグローバルカンパニーであるWTW(NASDAQ:WTW)の実施した最新の昇給率調査(Salary Budget Planning Report)によると、 APAC全体における2023年の昇給率見込みが中央値で5.1%と、2022年実績の4.9%を上回る見通しとなっている。これは2020年以降で最も高い数値である。日本の2023年昇給率の見込みは2.6%と、2022年実績の2.5%から微増したものの、調査対象マーケットの中で最も低い値となった。

<APACマーケット別 昇給率の実績と見込み>
オーストラリア 3.0%(2022年実績)3.0%(2023年見込み)
中国 6.0%(2022年実績)6.0%(2023年見込み)
香港 3.8%(2022年実績)4.0%(2023年見込み)
インド9.5%(2022年実績)10.0%(2023年見込み)
インドネシア6.7%(2022年実績)7.0%(2023年見込み)
日本 2.5%(2022年実績)2.6%(2023年見込み)
マレーシア4.8%(2022年実績)5.0%(2023年見込み)
ニュージーランド3.0%(2022年実績)3.0%(2023年見込み)
フィリピン5.5%(2022年実績)5.7%(2023年見込み)
シンガポール3.9%(2022年実績)4.0%(2023年見込み)
韓国 4.3%(2022年実績)4.5%(2023年見込み)
台湾 3.7%(2022年実績)3.9%(2023年見込み)
タイ 4.8%(2022年実績)5.0%(2023年見込み)
ベトナム 7.8%(2022年実績)8.0%(2023年見込み)

調査結果によると、半数以上(56%)の企業が昨年よりも昇給予算を高く見込んでおり、約1/3(33%)の企業は、期初に計画した昇給予算からの増額を実施済みとしている。なお、半数程度(51%)の企業は、期初に計画した昇給予算を維持している。

企業によっては昇給頻度の見直しも行われている。例えば、人材の流動性の高いシンガポールにおいては、約1/3(34%)の企業が昇給の頻度を増加済みもしくは増加予定となっている。このような対応を取る企業のほとんど(95.5%)は、昇給回数は年2回と回答している。

<APACにおけるダイナミックな事業環境に呼応して、人材・報酬にかかるマーケット・トレンドも動的な傾向を持っている>
昨年時点での見通しよりも2022年の昇給予算を上積みした企業は主に以下をその理由として挙げている:

・労働市場の逼迫懸念がある(63%)
・インフレを受けて昇給への従業員の期待が増している(40%)
・財務業績として好調な着地を見込めている(31%)

「見通しの立てにくい経済環境や新しい働き方などの動向を受けて、各社は継続的に処遇水準の競争力の維持を図る動きを取っている。」と、WTW Rewards Data Intelligenceプラクティス(インターナショナル地域リーダー)のエドワード・スーはコメントしている。 「来年の見通しについては、全体的な傾向としてより高い昇給率が見込まれているが、業種によって温度感が異なることに注意したい。報酬のマーケットがダイナミックな状況下においては、明確な報酬戦略を有していることだけではなく、報酬の相場上昇に繋がるさまざまな要因を丁寧に押さえておく必要がある。」

<APAC業種別昇給率の実績と見込み>
建設・不動産・エンジニアリング 4.9%(2022年実績)5.1%(2023年見込み)
コンシューマー・プロダクト 4.6%(2022年実績)4.6%(2023年見込み)
小売 4.9%(2022年実績)4.9%(2023年見込み)
エネルギー・資源 4.7%(2022年実績)4.9%(2023年見込み)
金融 5.1%(2022年実績)5.1%(2023年見込み)
フィンテック 6.1%(2022年実績)6.1%(2023年見込み)
ハイテク 5.1%(2022年実績)5.2%(2023年見込み)
コンサルティング4.9%(2022年実績)4.7%(2023年見込み)
レジャー・ホスピタリティ4.2%(2022年実績)4.3%(2023年見込み)
製造業4.9%(2022年実績)5.1%(2023年見込み)
メディア 4.9%(2022年実績)5.0%(2023年見込み)
製薬 4.8%(2022年実績)5.0%(2023年見込み)
半導体5.8%(2022年実績)5.9%(2023年見込み)

<人材の獲得・繋ぎとめに向けて企業は非金銭の施策を強化している傾向>
調査結果によると、人材の獲得・繋ぎとめはAPAC全体において引き続き企業の懸案事項ではあるが、その「難しさ」が来年にまで続くと考えている企業は少ない。今年は、約9割(89%)の企業が採用面での「難しさ」を認めているが、2023年に同程度の「難しさ」を見込んでいる企業は39%に留まっている。同様に、今年は86%の企業が従業員の繋ぎとめ上の「難しさ」を認めているが、2023年に同様の「難しさ」を予想している企業は54%にまで低下する。

「ITスキル」を有する人材の需要は引き続き高い。シンガポールでは、53%の企業が今後12か月内にデジタル人材の採用を推し進めると回答。ただし、この職種は採用・繋ぎとめいずれについても難易度が高く、約3/4の企業は実際に困難を感じている(採用の困難:回答企業の75%、繋ぎとめの困難:回答企業の70%)。

人材の獲得・繋ぎとめの難しさに対して、多くの企業は金銭処遇の検討にとどまらず、非金銭処遇の施策を強化している。回答企業の67%は、人材獲得の強化のため、就労場所のフレキシビリティを改善(Increase workplace flexibility)しており、また、回答企業の20%は今後数年以内にそのような対応を実施予定としている。過半数の企業(58%)は、同じく人材獲得を強化するために、多様性(DEI、Diversity, Equity and Inclusion)をより重視する施策を実施しており、今後数年以内にそのような対応を実施予定としている企業は24%にのぼる。なお、回答企業の43%は、オファーを受諾してもらう可能性・実効性を高めるためにサインオンボーナスもしくは株式報酬付与の仕組みを持っていると回答(そのような対応を予定・検討している企業は22%)。

<人材獲得競争に直面するなか、企業側は施策を重ねている>
従業員の繋ぎとめに関しても各社は施策を重ねている。シンガポールを例に取れば、回答企業の57%は、人材の繋ぎとめ強化のために多様性にかかる施策を実施しており、また26%の企業は今後数年以内にそのような対応を実施予定としている。回答企業の48%は、柔軟なリモートワークを推進しており、24%の企業は今後数年以内にそのような対応を実施予定としている。直近に報酬制度(基本報酬、年次インセンティブ、長期インセンティブ)を見直した企業は40%、エンプロイー・エクスペリエンス向上策を取った企業は34%(実施予定または検討中は47%)となっている。

WTW Work & Rewardsシンガポールのリーダーであるタン・ヨンフェイは、「グローバル・エコノミーの見通しの不透明さやインフレ、労働市場の逼迫状況などを踏まえると、企業の人材獲得・繋ぎとめ策としてはこれまで以上にクリエイティブな方法を模索すべき」と述べている。「ひとくちに従業員といってもその集団は多様な個の集まりであり、それぞれ固有の志向や背景を持っている。企業は、従業員個々人について、より良いエンプロイー・エクスペリエンスをもたらしつつ、企業の戦略や方針を実現するという難しい舵取りが求められている。」

<日本企業の取るべきアクション>
今回の調査結果は日本企業にどのような示唆を与えるか。WTW Work & Rewards 日本代表の森田 純夫は以下のようにコメントしている。
「海外で起きていることは他山の石ではない。ダイバーシティ、イノベーションの実現などのさまざまな観点から、日本企業はこれまでとは異なる形で人材の登用や採用を進めるべき局面にあり、希少な人材を確保するためには金銭・非金銭処遇の差別化を図らなければならない。水面下で思い切った報酬戦略を採る企業も現れてきており、一部職種・階層における市場平均を上回る報酬水準の設定や、株式報酬のマネージャー層等への付与などの事例もみられる。これらに共通するのは、会社の今後を左右する人材(群)を見定めて重点的に差別化戦略を展開する、ROIを意識した視点である。自社がどこでどのように人材獲得競争に勝ち抜くべきかを明確にし、限られた原資を有効に活用しながら人材面の競争優位を確保できるかが、会社の行く末を左右する。このとき、非金銭報酬も重要ではあるが、賃金水準が伸び悩む日本市場においては、金銭報酬の思い切った活用も是非選択肢に含めて検討されたい。」

<本調査の概要>
昇給率調査(Salary Budget Planning Report)は、WTWのRewards Data Intelligenceプラクティスによって定期的に実施されています。今回(July Edition)は、2022年4月~5月にかけて調査を実施し、世界168か国について約22,570の回答をもとに分析を実施しました。APACでは14か国6,945社からの回答を集計しています。

 

◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。

(タワーズワトソン株式会社 / 8月18日発表・同社プレスリリースより転載)