ニュース 掲載日:2023/09/04

『日米欧CEOおよび社外取締役報酬比較』2023年調査結果

2023年8月17日(木) - 世界をリードするアドバイザリー、ブローキング、ソリューションのグローバルカンパニーであるWTW(NASDAQ:WTW)は、日米英独仏の5カ国における売上高等1兆円以上企業のCEO報酬および社外取締役報酬について、2022年度にかかる2023年6月末までの開示情報を用いて調査を実施しました。

《 CEO報酬に関する調査結果 》
国名/基本報酬/年次インセンティブ/長期インセンティブ
●米国:167百万円(9%)/344百万円(20%)/1,249百万円(71%)/合計:17.6億円(-8.3%)<
●英国:178百万円(23%)/268百万円(35%)/330百万円(42%)/合計:7.8億円(+5.2%)
●ドイツ:203百万円(27%)/281百万円(37%)/276百万円(36%)/合計:7.6億円(-16.1%)
●フランス:173百万円(24%)/267百万円(36%)/296百万円(40%)/合計:7.4億円(+12.9%)
●日本:89百万円(33%)/96百万円(35%)/86百万円(32%)/合計:2.7億円(+33.5%)
*中央値ベース

《 社外取締役報酬に関する調査結果 》
国名/現金報酬/株式報酬
●米国:1,640万円/2,430万円/合計:4,070万円(+3.3%)
●英国:1,820万円/0円/合計:1,820万円(-2.3%))
●ドイツ:2,380万円/0万円/合計:2,380万円(+1.0%)
●フランス:1,270万円/0円/合計:1,270万円(+4.2%)
●日本:1,680万円/0円/合計:1,580万円(+6.3%)
*中央値ベース

《 日米欧ROEの比較 (2021/2022/2023年度) 》
●米国:12.26%/19.30%/18.51%
●英国:10.43%/11.48%/10.82%
●ドイツ:6.41%/12.10%/10.49%
●フランス:6.50%/11.28%/12.97%
●日本:7.88%/9.81%/8.48%
*中央値ベース

《 【参考】 取締役会議長を務める欧米の社外取締役報酬水準 》
国名/現金報酬/株式報酬
●米国:3,000万円/3,570万円/合計:6,570万円(+3.7%)
●英国:10,120万円/0円/合計:10,120万円(+9.6%)
●ドイツ:5,800万円/0万円/合計:5,800万円(+21.5%)
●フランス:7,410万円/0円/合計:7,410万円(+17.4%)
*中央値ベース

【出 所(2023年調査について)】
2022年度にかかる開示資料よりWTWが作成。なお、調査対象は以下のとおり:

  • 米 国:
    CEO報酬比較 - Fortune 500のうち売上高等1兆円以上の企業400社の中央値社外取締役報酬比較
    - Fortune 500かつS&P 500のうち売上高等1兆円以上の企業215社
  • 英 国: FTSE 100のうち売上高等1兆円以上の企業46社の中央値
  • ドイツ: DAX構成銘柄のうち売上高等1兆円以上の企業35社の中央値
  • フランス: CAC 40のうち売上高等1兆円以上の企業37社の中央値
  • 日 本:
    CEO報酬比較 - 総額は時価総額上位100社かつ売上高等1兆円以上の企業76社における連結報酬等の中央値。内訳(割合)は連結報酬等開示企業(異常値を除く)68社の平均値を使用して算出。長期インセンティブには退職慰労金単年度を含む。
    社外取締役報酬比較 - 時価総額上位100社のうち売上高等1兆円以上の企業76社における報酬等の中央値

※ 米英独仏のデータについては、開示情報をもとにWTWの調査部門(Global Executive Compensation Analysis Team, GECAT)が分析。各国のデータサンプルにつき、在籍期間等により年額が得られないデータサンプルは異常値として集計上除外している

※ 社外取締役報酬比較における米国(Outside Directorを集計)、英国、ドイツ、フランス(それぞれNon-Executive Directorを集計)については、個人別報酬額および報酬の方針の開示情報を分析して集計。取締役会議長や筆頭等の役職を有さない社外取締役については、対象となる全ての個人別報酬額の平均値を算出し、1社につき1サンプルとして中央値を集計している。取締役会議長についてはその個人別報酬額の中央値を集計

※ 社外取締役報酬比較における日本については、社外取締役報酬の総額開示より一人当たり平均報酬額を算出し、1社につき1サンプルとして中央値を集計(社外取締役としての総額開示の区分がない企業2社については、社外役員の総額開示より一人当たり平均報酬額を算出。)

※ 括弧内は2022年度調査結果からの増減率(現地通貨ベース)

※ 参考1におけるROEについては、S&P Capital IQのデータを基にWTWにて作成
※ 参考2、3については、各年度における現地通貨ベースの額を円換算している
※ 参考4における米国の内訳(割合)については、取締役会議長手当の平均値を使用して算出
※ 円換算レートは2022年平均TTM(1ドル=131.43円、1ポンド=161.92円、1ユーロ=138.04円)

 

《 コメント 》
■分析所見

CEO報酬比較(中央値ベース)

  • 米国・ドイツは報酬減(現地通貨ベース)。年次インセンティブの減少が大きく影響。
  • 英国・フランスは報酬増(現地通貨ベース)。英国は基本報酬と長期インセンティブ、フランスは長期インセンティブの増加が影響。
  • 日本は昨年比で33%程度の報酬増。基本報酬、年次インセンティブ、長期インセンティブのいずれも増加したが、特に長期インセンティブの増加が顕著(昨年比で63%程度の増加)。変動報酬比率は概ね1:2となった。
  • ROE(中央値ベース)はすべての対象国で大きな増減はなかった。


社外取締役報酬比較(中央値ベース)

  • 米国・ドイツ・フランスは昨年比で1~4%程度の報酬増。
  • 英国は昨年比で2%程度の報酬減。
  • 日本は昨年比で6%程度の報酬増。
  • 株式報酬の付与状況は大きく変わらず(米国では付与が一般的、その他は日本も含め付与事例は少ない)。


経営者報酬・ボードアドバイザリープラクティス
コンサルタント 佐藤 優樹

今回の調査結果において、CEO報酬は、米国、ドイツで昨年比報酬減となったものの、英国、フランス、日本で昨年比報酬増となった(いずれも現地通貨ベース)[1]。他方、一昨年調査との比較においては、すべての対象国で報酬増となっている。各国において年次インセンティブを中心とした変動報酬額の増減こそあるものの、中長期的な報酬水準の維持・上昇トレンドは依然として保たれていると考えられる。

日本企業の総報酬水準は、中央値ベースで、昨年調査時の2.0億円から33%増となる2.7億円となった。特に長期インセンティブの増加の影響が大きく、基本報酬、年次インセンティブ、長期インセンティブの割合は概ね1:1:1となった。

東京証券取引所からの要請[2]の中でも触れられている通り、資本コストを上回る資本収益性の継続的な確保、およびそれに伴う中長期的な企業価値の向上がステークホルダーから求められている。こうした要請の一環として、経営者のより一層の株主との利害共有への期待も高まっている。今回の調査に見られる長期インセンティブ水準の増加は、こうした期待に沿った形の結果であったといえる。今後、日本企業が株価等を意識した経営への更なる促進を図る際には、株式報酬等の水準のみならず、その制度設計(業績連動条件やその難易度設定等)においても工夫を継続していくことが重要だろう。

社外取締役報酬は、日本が最も大きい増額率であり、昨年比6.3%増となった(現地通貨ベース)。日本の報酬水準が引き続き増額傾向にある中で、社外取締役に対する株式報酬の導入も少しずつ進みつつある。2023年調査において、日本企業のうち社外取締役に対して株式報酬の付与があった企業は13%となっており、これは調査開始以来最も高い割合となっている。

機関投資家の議決権行使基準を見ると、社外取締役に対する株式報酬の導入に対して原則反対とする基準もあるものの、業績連動型や上昇益還元型(通常型ストックオプション等)でないものであれば、肯定的な基準も見られるなど、その捉え方は各社各様となっている状況にある。今後、日本企業が更なる報酬水準の増額を志向する際、株式報酬を活用していくことは十分に考えられるが、十分な対話なく多くの投資家からの理解を得られるかどうかは不透明だ。

また、欧米企業の状況を踏まえると、取締役会議長を務める社外取締役に対しては、より高い現金報酬を支払うことも考えられる。ただし、これは取締役会議長という役割に対する水準であることが明確であることが前提にある。欧米企業においては、社外取締役に対する報酬額の考え方や個人別の支給額が開示されているからこそ容認されるプラクティスと考えてよい。日本企業においても、こうした方向性を志向する場合には、同様の開示レベルを備えることがその第一歩となるだろう。

CEO、社外取締役を含む役員報酬のあり方は多様化しており、またステークホルダーからの期待も中長期的な企業価値向上に向けて常に変化している。今後、日本企業が更なる企業価値向上に資するためには、役員報酬、ひいてはコーポレート・ガバナンス全体のあり方に関して、投資家との対話を促進する体制づくりと積極的な対話の実践が重要な要素といえるだろう。

 

◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。

(タワーズワトソン株式会社 / 8月17日発表・同社プレスリリースより転載)