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掲載日:2022/06/06

【人的資本情報開示に関する調査結果を発表】上場企業は56.1%、非上場企業も40.2%が優先度高く議論

投資家視点にとどまらず、「優秀人材の獲得」「役員の意識改革」も関心対象に

株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:渋谷和久)は、人的資本情報開示に関する調査結果を発表いたします。本調査は、企業における人的資本情報開示に関する理解・取り組みの実態について、定量的なデータで把握し、経営・人事に資する提言を行うことを目的に実施しました。

<調査結果概要>
① 用語として「人的資本経営」は普及しつつも、具体的な開示基準等の理解度は低い
上場企業の役員層・人事部長に対し、非財務情報の開示基準や関連用語についての理解度(※1)を確認したところ、「ESG投資」が最も高く85.4%、次いで「人的資本経営」(75.8%)、「改訂コーポレートガバナンス・コード」(72.6%)であった。経営者や投資家に広く認知されている「ESG投資」と同様に、「人的資本経営」の理解度も7割を超えており、人的資本経営の概念は一定程度、普及してきているものと考えられる。一方、具体的な情報開示指針となる「SASBスタンダード」(15.3%)や「国際統合報告フレームワーク」(19.7%)等の理解度は、他の用語と比べて低い傾向であった。
(※1):「理解しており、社員に説明できる」+「理解しているが、説明する自信はない」の回答割合

② 非財務情報の開示基準への対応は「道半ば」
上場企業における非財務情報の開示基準への対応度(※2)は、「改訂コーポレートガバナンス・コード」(62.4%)を除いては全般的に低い。人的資本に特化したものとしては、「ISO30414」が24.8%、「人材版伊藤レポート」が15.9%であった。
(※2):「既に意識した開示を行っている」+「意識した開示に向け着手している」の回答割合

③ 人的資本の情報開示は、上場企業のみならず非上場企業も関心を向けている
企業の役員層・人事部長に対し、人的資本の情報開示に関する社内議論の実態を確認したところ、取締役会や経営会議で「最優先事項として」、または「優先度高く」議論されている割合は、上場企業では56.1%であった。また、非上場企業においても40.2%に上り、上場・非上場を問わず、優先度高く議論されつつあり、関心を向けている様子がうかがえる。

④ 人的資本情報の開示は、他社動向をうかがいながら「優秀人材の獲得」「役員の意識改革」を重視
上場企業の役員層・人事部長に対し、人的資本情報の開示に際して重視する要素※3を確認したところ、最も関心が高かったのは「優秀人材の採用実績の増加」(80.3%)、次いで「他社の動向」(77.7%)、「役員層の意識改革」(77.1%)であった。
(※3):「とても重視している」+「重視している」+「どちらかというと重視している」の回答割合

⑤ 人的資本情報開示の主管部署は、「人事部門」との回答が多数
上場企業の役員層と人事部長それぞれに対し、人的資本情報に関する議論を主導する主管部署※4を確認したところ、役員層・人事部長いずれにおいても最も多く挙がった部署は「人事部門」であった。次いで、「経営企画部門」が2割前後、「広報・IR部門」が1割程度となっている。人的資本情報の開示においては、《人》に関わる情報ゆえに人事部門が関与するのは必然であろうが、それ以外の部門も含め、各部門が連携して準備を進めている様子がうかがえる。
※4:具体的にどのような情報をどう開示するかの議論を主導する部署

⑥ 人的資本情報の開示に際し、役員層と人事部長では現状認識にギャップも
上場企業の役員層・人事部長に対し、人的資本情報のマネジメント実態(※5)を確認したところ、「経営戦略と連動する人材戦略が策定できている」との回答は59.2%であった。また、「自社にとって重要な人的資本情報が何であるかを設定できている」との回答は45.9%であった。

役員層と人事部長の回答を比較して見ると、「自社にとって重要な人的資本情報が何であるかを設定できている」との回答は、役員層46.6%、人事部長43.6%と階層による認識ギャップも軽微であった。一方で、「自社にとって重要な人的資本情報をデータとして蓄積できている」との回答は、役員層33.1%に対し、人事部長が51.3%であるなど、〈HOW〉の部分の項目を中心に両者間の現状認識の乖離が示唆される結果となった。
(※5):「とてもあてはまる」+「あてはまる」の回答割合
 

分析コメント
実践・改善の進捗状況自体を含め、まず開示していくことが有用。ブームに終わらせず、今後の自社の在り方を問い直す好機に(パーソル総合研究所 主任研究員 井上 亮太郎)


不確実性の高い経営環境下において、企業の将来的な価値を評価するには、財務指標だけでは十分でなく、非財務情報とりわけ人的資本情報の開示の重要性が増している。現在、我が国においてもこの潮流に呼応し、官民が連携して人的資本情報の開示に対する指針やガイドライン等を整備しつつある。
本調査では、企業における人的資本情報の開示に関する実態を確認するため、従業員規模1,000名以上の企業の役員および人事部長に対しアンケートを行った。その結果、人的資本情報の開示は、上場企業のみならず非上場企業においても優先度高く議論されつつあるテーマであることが確認された。
しかし、調査時点では、ISOやSASBスタンダードなど標準化された開示項目やガイドラインを意識した開示を行っている企業は多いとはいえなかった。
従来、非財務情報の開示は、機関投資家との対話を主たる目的とするとの考えがあるが、本調査によると「株価への反映」や「ESG格付け向上」といった投資家からの評価という観点以上に、「優秀人材の獲得」や「役員の意識改革」といった点に関心が向けられていることが確認された。
開示に向けた悩ましさや懸念については、本調査における自由記述回答を見ると、「理想と現実のギャップ」や「実績や達成度の低さ」、「社内の意思統一が成されていない」点、「開示内容の範囲や定量的な指標化の難しさ」、「比較されることへの抵抗感や懸念」などがあることが確認されている。

本調査では、企業の役員層や人事部長らの77.7%(人事部長に限ると84.6%)が他社の動向を意識しており、他社事例などの情報を収集し、情報開示の在り方を模索している段階にあることが示唆された。人的資本情報の開示に向けては、自社らしさを議論しつつ、必要なデータを整理・蓄積していく必要があり、準備には一定の時間を要することが想定される。また、早期に着手し、人的資本情報開示に向けた取り組み自体の進捗を踏まえて、実践からの気づきや学びを活かした改善結果などを継続的に開示していくことが有用との声もある。データの蓄積や精査、他社動向などを慎重に見極める姿勢は理解できるが、まずは情報を開示することで始まる対話もあるのではないだろうか。

本テーマは、投資家からの評価のみにあらず、ましてや一時的なブームとして受け止めるのではなく、今後の組織と従業員の本質的な在り方を問い直す機会として受け止めたい。その際に人事部門の果たす役割は大きいといえよう。

<調査概要>
調査名称:パーソル総合研究所「人的資本情報開示に関する実態調査」
調査内容:
・日財務情報の関連用語や開示指針の理解度、対応度
・人的資本情報開示に関する議論の状況、主管部署
・人的資本情報開示に関して重視する要素
・人的資本情報の管理状況
・人的資本情報の開示のテーマやキーワード、開示にあたっての悩ましさや懸念

調査手法:
調査会社モニターを用いたインターネット定量調査

調査時期:
2022年3月3日-3月7日

調査対象者:
上場企業の役員層(取締役・執行役員)、人事部長 n=157
非上場企業の役員層(取締役・執行役員)、人事部長 n=132
※いずれも従業員数1000名以上の企業

実施主体:株式会社パーソル総合研究所
 

◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。
(株式会社パーソル総合研究所/5月27日発表・同社プレスリリースより転載)