ニュース 掲載日:2017/03/08

日本の中堅企業「経営幹部の女性比率」36ヵ国中最下位~3月8日「国際女性デー」に先立ち調査結果を発表:太陽グラントソントン

世界36ヵ国の中堅企業経営者に、「自社の経営幹部(※1)の女性比率」について尋ねたところ、全調査対象国の平均は25%と前回調査よりわずかながら改善し、経営幹部における女性比率の平均が約4分の1であることが分かった。全対象国の平均は過去13年間の全調査期間(全10回の調査)の中で、今回の結果が最高の比率となったものの、調査を開始した2004年以降の改善のペースは非常に緩やかで、経営幹部への女性参加があまり進んでいないことが明らかとなった。

 

■日本は2004年の調査開始から10回連続で対象国中最下位
■「経営幹部に女性がいない」日本の中堅企業の比率も対象国中最多の67%

日本の中堅企業における「経営幹部の女性比率」は7%で前回2016年調査と変わらず、調査対象国中唯一の1桁の数字となった。また、2004年の調査開始以降、日本は10回連続での最下位となった。調査を開始した2004年の女性比率が今回とほぼ同じ8%であることから、日本の中堅企業においては女性の経営参加の点でほとんど改善が進んでおらず、世界から大きく遅れをとっていることが明らかになった。

さらに経営幹部に一人も女性がいない日本の中堅企業は67%に達し、前回の調査結果(73%)と比べると改善は見られるものの、全調査対象国の中で最も多い結果となった。

 

■前回調査同様、ロシアが女性比率が最も高く47%
■中国、米国、英国は前回調査から大きな変化は見られず

国別に見ると 「経営幹部の女性比率」が今回最も高かったのはロシア(47%)で、インドネシア(46%) 、エストニア、ポーランド、フィリピン、(共に40%)が続いた。その他、主要国では中国が31%(前回調査30%)、米国が23% (同23%)、英国が19% (同21%)などなり、前回調査からの大きな変動はなかった。前回調査との比較で、最も大きく改善したのはインドネシアで46%(前回調査36%)、逆にもっと大きく低下したのはギリシャの20% (同27%)となった。

また地域別に見るとEUの平均は26%となり2016年の調査結果(24%)と比較すると、小幅ながら改善が見られた。 同様にASEANの平均も前回の調査結果の34%に対して今回は36%と改善が見られた。

<中堅企業の経営幹部の女性比率(2004~2017)>参照
※1:本質問の経営幹部には、以下が含まれます。最高経営責任者(CEO)/代表取締役社長・会長・その他会社代表者、最高業務責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)/財務担当取締役、最高情報責任者(CIO)、取締役人事部長、最高マーケティング責任者、取締役経営企画部長、財務部長、経理部長、取締役営業部長、パートナー、共同出資者、共同経営者等。

 

日本の中堅企業の「女性経営幹部」に関する世界36ヵ国同時調査 コメント
三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部 研究員 尾畠未輝

今回の調査結果では、日本の中堅企業における経営幹部の女性比率は7%と、前年調査と同水準にとどまった上、参加国中最下位であることにも変わりがなかった。このままでは「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%とする」という政府の目標は、到底達成出来そうにない。たしかに、アベノミクスが始まった2013年以降、女性の労働参加率は大きく上昇し、女性の雇用者数はこの4年間で150万人以上増加した。しかし、その中心は40歳代以上の非正規雇用であり、子育てを終えて時間に余裕の出来た主婦層や高齢者が再び労働市場に入ってきた影響が大きく、これから管理職を目指そうとする層とは異なる。

「女性活躍促進」について考える時、女性労働力の増加と女性管理職比率の上昇は、異なる視点で捉えるべき目標だろう。女性労働力の増加は、性別やライフステージを問わずに対象とする働き方改革によって促されるものである。現状では、企業の打ち出す対策は働く母親を支える内容に偏っているように感じるが、そうした女性が働きやすい環境であるためには周囲のサポートが不可欠であり、本来、特定の層だけが恩恵を受けるようなものではない。

少し古い調査になるが2011年の総務省「社会生活基礎調査」をみると、様々なライフステージにある有業者の中で、特に末子が就業前や小学生の父親では出勤から帰宅までの時間が12時間を超える程長い一方、子育て中の妻はそれを補うように仕事に費やす時間が短い。パートや派遣といった非正規雇用者が多いことに加え、正社員でも育児中の短時間勤務制度が既に普及していたことも背景にあるとみられる。しかし、独身者では賃貸などで会社の近くに住んでおり通勤時間が短い人が多いことを考慮すると、特に35歳未満の独身男女の労働時間は相当長い可能性がある。例えば、心身の健康を損なうような長時間労働を無くすことは当然だが、単に育児や介護との両立のために時短勤務の制度を充実させるだけではなく、そうした制度の恩恵に与れない人々に対して適切な評価や処遇を行う仕組みを導入することも重要だろう。

内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査(2016年9月)」によると、「職場における男女の地位」について「平等」という回答割合は全体の29.7%にとどまる。一方、「男性の方が優遇されている」は56.6%と「女性の方が優遇されている」の4.7%と比べて圧倒的に高い。しかし、女性や40歳以上の男性と比べ、20歳代及び30歳代男性では、「平等」(29.9%)の割合はそれほど変わらないにもかかわらず、「女性の方が優遇されている」(9.0%)の割合が高い。現在取り組まれているような働き方改革では、子どもを持たない若年男性に業務のしわ寄せが集中し、一部に不満を生じさせてしまっている可能性がある。

<参考図表1:有業者の平日の平均行動時刻>参照

働き方改革が成功すれば、女性の離職率の低下により労働力人口の減少が緩和されるだけでなく、勤続年数の長期化が進むことで管理職を目指し得る女性の数が増え、結果的に女性管理職比率の上昇に繋がることも期待できる。その上で、女性管理職比率の上昇に向けて直接的に求められることは、いわゆる統計的差別iを無くし、採用や処遇に対して正当に評価することである。

厚生労働省「コース別雇用管理制度の実施・指導状況」によると、約20年前に総合職として採用された者のうち女性では8割以上が既に離職しており、約10年前の総合職採用者でも既に6割近くが離職してしまっている(参考図表2)。また、約20年前の女性の総合職採用者で、現在、係長や課長相当職に就いているのは5%に過ぎない。統計的差別を撤廃するために強制的に管理職の一定比率を女性に割り当てるという方法(クオータ制)が度々検討されている。しかし、足元で管理職の候補となるようなキャリアを有する男女の雇用者数には大きな差があり、中長期的にはともかく、現状でクオータ制を導入することには副作用を伴う懸念が強い。また、同調査によると、2014年時点で総合職採用者における女性の比率は22.2%と、年々上がってきてはいるものの水準は依然として低い。しかし、これはそもそも総合職応募者における女性の比率が29.4%と低いことが背景にある。どうせ採用してもらえないだろうと端から応募を諦めるだけでなく、結婚や出産、育児といったライフプランを考えた時に長時間労働が多い総合職への応募を避けてしまっているのだろう。もっとも、Facebookの最高執行責任者(COO)であるシェリル・サンドバーグ氏はかつて著書の中で「働く女性のステレオタイプは大体において魅力的ではない」と述べていたが、そうしたマイナスのイメージが女性のキャリアアップに対する意欲を妨げている根源であるように思われる。

なお、徐々にではあるが女性のキャリアアップが進んでいることを受けて男女の賃金格差は解消に向かっている。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、賃金水準が最も高い50~54歳の年収は、男性では1997年をピークに減少した後、2000年代半ば以降は横ばい圏での推移が続いている。一方、女性は1986年に施行された、いわゆる「男女雇用機会均等法」以降に新卒で入社した人々が50歳に差し掛かり始めた2000年代半ば頃から上昇している。

足元では、少子高齢化とそれに伴う労働力の減少を受けて女性活躍の早急な実現が目指されている。しかし、女性のキャリアアップに向けては、性別や年齢を問わず全ての人が働きやすい環境を整え、正当な評価、処遇が受けられるような仕組みを地道に探していくしかない。

<参考図表2:総合職新規採用者のその後>

 

<本件に対する問い合わせ先>
太陽グラントソントン マーケティング・コミュニケーション 担当  田代知子
TEL:03-5770-8829(直通)  FAX:03-5770-8820  email:mc@jp.gt.com

 

◆ 本リリースの詳細は、こちら(PDF)をご覧ください。

(太陽グラントソントン http://www.grantthornton.jp/ /3月7日発表・同社プレスリリースより転載)