月間分析レポート[2024年9月]
2024年8月と比べて検索数の上昇が顕著だったHRワードは「リスキリング」「公益通報者保護法」「ポリティカル・コレクトネス」でした。上昇の要因と検索意図について考察します。
リスキリング
「リスキリング(Reskilling)」とは、職業能力の再開発や再教育のことです。近年では、企業のDX戦略において、新たに必要となる業務・職種に順応できるように、従業員がスキルや知識を再習得するという意味で使われるケースが増えています。政府が2022年10月に「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明して以来、HR領域でも注目が高まっているワードの一つです。
9月中は継続的に検索されました。厚生労働省の「人材開発支援助成金」が10月1日から制度を見直したため、検索が増えたと考えられます。
「人材開発支援助成金」は、企業が従業員に対して、計画的に知識やスキルを習得させるための職業訓練などを実施した場合に国が費用の一部を助成する制度です。今回の見直しの主な内容としては、「人への投資促進コース(定額制訓練)」「人への投資促進コース(自発的職業能力開発訓練)」「事業展開等リスキリング支援コース」の助成額について、1人1月あたり2万円の上限額を設定。また、支給回数も1人1年度当たり3回の上限を設けました。
サジェストワードでは「リスキリング リカレント 違い」が検索されました。「リカレント教育」とは、社会に出てから、自身が必要なタイミングで学び直しすることを言います。「リカレント(recurrent)」は日本語で「反復」「循環」などと訳され、回帰教育、循環教育とも呼ばれます。「社会人が新たな知識やスキルを習得する」という点はリスキリングと共通していますが、取り組み方に違いがあります。リカレント教育は学習と労働を交互に行うため、休職など労働から離れることを前提にしていますが、リスキリングは戦略的に従業員に学ぶ機会を与えるため、就業しながら学ぶことが大半です。
そのほかには「リスキリング 経済産業省」が検索されました。経済産業省は、個人向けの「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を展開しています。認定事業者が提供するリスキリング講座の受講を経て実際に転職し、継続就業すれば、最大で受講料(税別)の70%(上限56万円)の補助が受けられます。
「リスキリング」についてもっと知る
公益通報者保護法
公益通報者保護法は、労働者が公益目的で企業内の不祥事などについて通報を行ったことを理由に、当該事業者が労働者に対して解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いをすることを防止する法律です。公益通報者保護法では適用対象となる事業者を規模などによって限定していないため、全ての事業者が順守する必要があります。
9月6日に検索回数が増加しました。兵庫県の斎藤元彦前知事がパワハラなどの疑惑を文書で告発された問題を巡り、5日に県議会の調査特別委員会(百条委員会)で証人尋問を実施。公益通報制度に詳しい上智大学の奥山俊宏教授が出頭し、斎藤前知事らのふるまいは公益通報者保護法に違反すると指摘したことから、関心が高まったと考えられます。
サジェストワードでは「公益通報者保護法 改正」が検索されました。公益通報者の保護を強化するため2020年6月に改正法が成立しましたが、その内容を理解して適切な対応を取ることを目的に、企業の法務部門や人事部門の担当者が検索したと考えられます。
改正法では、事業者が内部通報に適切に対応するために、事業者内の「通報窓口の設置」、通報者の「不利益な取扱いの禁止」などの必要な体制整備をすることが義務付けられました(従業員300人以下の中小事業者は努力義務)。内部通報制度を構築した際は、自社の内部通報のルールについて就業規則をはじめとする社内規程に明記し、全労働者が知り得る状態にしておくことが必要です。
「公益通報者保護法 罰則」も多く検索されました。改正法により、違反した事業者に対して行政機関による助言・指導や勧告が行われ、これに従わない場合は公表するといった行政措置が取られることが新たに定められました。さらに、改正法では通報者の匿名性を担保することを目的に、内部通報を受けて事実関係などの調査をする者に対して、通報者を特定する情報に関する守秘義務を新設しています。守秘義務に違反した場合には刑罰の対象となります。
「公益通報者保護法」についてもっと知る
ポリティカル・コレクトネス
「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」は、直訳すると「政治的な正しさ」。そこから転じて、政治的・社会的に公正かつ中立的で、差別や偏見が含まれていないことを指します。
9月16日に検索回数が増加しました。同日、俳優の真田広之氏がプロデュース・主演を務めるドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』が第76回エミー賞で史上最多18部門を受賞したことが国内メディアで報じられました。一部のSNS上で同作品の「ポリコレ」について言及した投稿が話題になり、注目を集めたと考えられます。
サジェストワードでも「ポリティカル・コレクトネス 表現の自由」「ポリティカル・コレクトネス 映画」が検索されたように、近年はエンタメ業界でポリティカル・コレクトネスの取り入れ方が多くの議論を呼んでいます。
日本では、「ポリコレ」というと「“不適切”を過度に恐れて窮屈になっている」というネガティブなイメージで語られるケースもあります。本来の意味は、「特定の人種、性別、宗教、性的指向などに対する差別や偏見が含まれていないこと」であり、多様性を尊重し、公正な社会を実現するために重要な概念です。
日本におけるポリティカル・コレクトネスとして分かりやすいのは、「保育士」や「看護師」です。かつては「保母」「看護婦」と呼ばれていましたが、これでは女性しか就けない職業のようです。総務省の国勢調査によると、保育士も看護師もここ10年で男性の割合が増加しました。名称を変えるだけで、職業のジェンダーギャップを多少なりとも是正できた一例と言えます。