月間分析レポート[2023年9月]

2023年8月と比べて検索数の上昇が顕著だったHRワードは「ネガティブ・ケイパビリティ」「106万円の壁」「人権デューデリジェンス」でした。上昇の要因と検索意図について考察します。

ネガティブ・ケイパビリティ

「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)」とは、どうしても対処できない状況に耐える能力のことをいいます。あるいは、容易に答えが出ない事態にも性急に事実の解明や理由を求めず、不確実さや懐疑の中にいることができる能力を指します。

検索回数が伸びた9月6日は、「すぐに答えを出さず、迷ったり、悩んだりする“モヤモヤする力”」としてネガティブ・ケイパビリティの考え方を紹介するテレビ番組が放送されました。

対義語である「ポジティブ・ケイパビリティ」は、目の前の問題を解決して不確かさや懐疑から脱出する能力、つまり「分からない」を「分かる」にする力のことです。ネガティブ・ケイパビリティとポジティブ・ケイパビリティはいずれも、会社生活において重要な能力です。

現代はハウツー記事やまとめ記事、マニュアル本など、「分かる」ことに照準を合わせた情報にあふれています。私たちは自然災害やパンデミックなどの未知なものや「分からない」ことに接すると、そこからさまざまな意味を見出し、理解しようとします。ただし「分かったつもりになる」ことは、より深刻な事態を生む可能性があります。不確実性が高い世の中だからこそ、どうにもならないことを無理に解明しようとせずに、不透明な状況に耐えながら今できる努力を積み重ねていくネガティブ・ケイパビリティの考え方が、多くの人々の印象に残ったのかもしれません。

サジェストワードでは「ネガティブ・ケイパビリティ 心理学」「ネガティブ・ケイパビリティ 書籍」が検索されました。ネガティブ・ケイパビリティの心理学的な位置づけや、著名な書籍を知りたいと思った人が検索したと考えられます。

この概念は、19世紀の英国の詩人ジョン・キーツが唱えたもので、最初は文学の分野で使われた言葉でした。その約160年後に英国の精神科医ウィルフレッド・R・ビオンが心理学の分野に持ち込み、世界に広めました。日本では、2017年に精神科医の帚木蓬生氏によって『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』が出版され、広く知られるようになりました。

「ネガティブ・ケイパビリティ」についてもっと知る

106万円の壁

106万円の壁とは、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が必要となる年収ラインを指す言葉です。パートやアルバイトで働く人が年収106万円を超え、一定の要件を満たす場合、世帯主の扶養範囲から外れて社会保険への加入義務が生じます。社会保険料が給与から天引きされた結果、その分だけ手取りが減ってしまう逆転現象が起こり得るため、働きたくても年収の壁を超えないように「働き控え」を検討する人が少なくありません。

9月25日~26日に検索回数が増加しました。政府は9月25日に「年収の壁」への対応策をまとめ、27日に「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表しました。106万円の壁への対応の柱となるのは、「キャリアアップ助成金のコース」の新設です。パートやアルバイトなどの短時間労働者が新たに厚生年金や健康保険に加入する場合、保険料負担で手取りが減らないように取り組んでいる企業に対して、労働者一人あたり最大50万円が支給されます。

サジェストワードでは「106万円の壁 いつから」が検索されました。「年収の壁・支援強化パッケージ」は2023年10月から始動しており、2025年度末までの暫定的な措置とされています。

このほかには、「106万円の壁 130万円の壁」「106万円の壁 従業員数」が検索されました。家計に大きな影響を与える年収の壁には、「106万円の壁」のほかに「130万円の壁」もあります。二つの壁の違いや、社会保険への加入義務が生じる詳しい要件について知りたいと考えた人が検索したと考えられます。

2022年10月の法改正によって「106万円の壁」の対象者が拡大しました。被保険者数が101人以上の適用事業所に勤める短時間労働者は、年収106万円以上になると、扶養を外れて健康保険と厚生年金保険の加入義務が発生します。2024年10月からは被保険者数が51人以上の事業所も対象となります。

「130万円の壁」は、配偶者が社会保険の扶養から外れる年収のラインです。勤務先や雇用条件にかかわらず、年収が130万円以上になると、健康保険料と厚生年金保険料を本人が支払うことになります。

「106万円の壁」についてもっと知る

人権デューデリジェンス

人権デューデリジェンス(Human Rights Due Diligence)とは、企業が増大する人権リスクを調査・特定し、防止およびトラブルを対処する取り組みのことです。そもそも、デューデリジェンスとは、投資対象となる企業のリスク・リターンを把握するために事前に調査を行うことで、主に金融業界におけるM&Aや企業・組織再編の場で使用する言葉です。この考え方を、外国人労働者の権利侵害や強制労働、ハラスメントなどの人権リスクに応用したのが人権デューデリジェンスです。

検索回数は9月8日に増えました。アイドル事務所の創業者による性加害問題で、同事務所が9月7日に実施した会見を受けて、8日に、NHKと民放各局が再発防止策の進捗を注視するコメントを相次いで発表。その中で人権デューデリジェンスに触れたコメントがあったことで関心が高まり、検索回数が増加したと推測されます。

サジェストワードでは「人権デューデリジェンス 義務化 日本」「人権デューデリジェンス 経済産業省 ガイドライン」が検索されました。日本において、人権デューデリジェンスが義務化されているのかが気になった人が検索したと考えられます。日本は企業に人権デューデリジェンスの実施が義務づけられていないため、欧米諸国と比較すると遅れているのが現状です。

日本政府は2022年9月に、企業による人権尊重の取り組みを後押しするための「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定。2023年4月には経済産業省が人権デューデリジェンスのための手引書「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しました。ガイドラインに基づき、企業が最初に取り組む「人権方針の策定」や「人権への負の影響の特定・評価」について、検討すべきポイントや実施フローの例を示しています。

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