BtoBのSNSマーケティング
近年はWebマーケティングの中でも、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を活用したマーケティングの有効性が注目を集めており、BtoC企業だけでなく、BtoB企業で導入するケースも目立ちます。BtoB企業がSNSマーケティングを実施することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。導入に際して留意すべきポイントは何なのでしょうか。
1. SNSマーケティングとは
SNSマーケティングとは、TwitterやFacebookといったインターネット上のコミュニティサイトであるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を活用して行うマーケティングの総称です。SNSマーケティングは、読者に対して有益なコンテンツを発信し、顧客を引き付けるコンテンツマーケティングの一種です。
SNSが発達する以前は、企業と消費者をつなぐメディアの形態は、「Paid Media(ペイドメディア:広告)」、「Earned Media(アーンドメディア:パブリシティなどのPR)」、「Owned Media(オウンドメディア:自社のサイトやブログ)」の三つに分類されることが一般的でした。
しかしパソコンやスマートフォンが普及し、SNSを活用する人々が爆発的に増加したことで、メディアの在り方に変化が生じました。2014年には、アメリカのPRパーソンであるジニ・ディートリッヒ氏が上記三つのメディアに「Shared Media(シェアードメディア:SNSに特化したメディア)」を加えた「PESOモデル」を提唱。メディアの一般的なモデルとして考えられるようになりました。
シェアードメディアを活用するSNSマーケティングはまだ歴史が浅い手法ですが、現在のSNSの利用率はきわめて高く、非常に重要な役割を担っています。総務省「令和4年度版情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、SNSの利用率はLINE94.0%、YouTube87.1%、Instagram50.1%、Twitter45.3%です。
かつてSNSと言えば「若者が活用するもの」といったイメージがありましたが、いまや幅広い年代が多様なSNSを活用しています。先の調査では、60代の8割がLINE、6割超がYouTubeを利用しており、TwitterやInstagram、Facebookなども2割以上が利用しています。
2. BtoBマーケティングにおいてSNSを運用するメリット
企業のSNS活用は、BtoC企業にとって効果が高いように考えられがちですが、BtoB企業においても徐々に成功事例が増えています。SNSを活用した施策を実践することは、BtoB企業にとってもマーケティングやブランディングといった観点で有効です。
マーケティング観点
リードジェネレーション(新規顧客の獲得)
かつてBtoB企業が顧客を獲得するには、テレアポや企業訪問、メールで営業活動を行うか、顧客側からの問い合わせを受けることが一般的でした。SNSで自社の製品・サービスやセミナー、会社情報などを紹介すると、より広範な層に継続的にアプローチすることができます。
製品・サービスに興味を持ち、最終的に導入を決める役割を果たすのは「人」です。導入を検討する担当者の立場から考えても、製品に関する情報がカタログしかない状態よりも、SNSを通じてさまざまな情報を入手できる状態にあるほうが好ましいといえます。
特に会社を設立して日が浅く、自社や製品・サービスの認知度が低い場合や、新商品を開発したばかりで新しいターゲット層にアプローチしたい場合に、リードジェネレーションを目的とするとよいでしょう。
ナーチャリング(顧客の育成)
BtoC企業であれば、顧客が自社の製品を街中で目にするケースは多いでしょう。一方、BtoB企業では、自社製品と顧客との接点はあまり多くないのが実状です。SNSを活用して顧客との接点を増やせば、自社への親しみを覚えてもらいやすくなる「単純接触効果」を得ることができます。発信した情報が顧客にとって有用な情報であると認識されれば、投稿が拡散されてフォロワーが増えるなど、SNSならではの好循環も期待できます。
一般的に、BtoB向けの製品は高額なことが多く、初回の接触だけでは成約に結びつかないケースもあります。そのような中でSNSを通して発信し続けることは、顧客に自社の製品・サービスの理解を深めてもらう有効な手立てとなるでしょう。自社が「認知は拡大してきているが、売上が伸び悩んでいる」というフェーズに置かれているのであれば、ナーチャリングを意識した発信が効果的といえます。
ブランディング観点
SNSでは製品・サービスそのものの情報だけでなく、企業の価値観やビジョン、社内の様子などを発信することも可能です。どれだけ素晴らしいメッセージでも、企業の公式サイトに掲載するだけでは、リーチできる範囲はすでに自社を知っている層に限定されます。一方、SNSでは投稿がシェアされると、自社の製品・サービスを知らなかった層を含めて広範囲にメッセージを届けることができるため、企業イメージを構築することができます。
たとえば高級な印象を与えたい場合は洗練された画像や動画を添えて投稿したり、親しみやすい印象を持たせたい場合にはフォロワーと積極的にコミュニケーションを図ったりするなど、SNSは自社の方針に沿った運用スタイルを取ることが可能です。自社の価値観を軸にして発信することで、顧客のエンゲージメントを高める効果も期待できます。
双方向のコミュニケーションが取れることも、SNSの強みの一つです。製品・サービスに対するリアルなユーザーの声を集めてその後の開発に生かしたり、顧客の質問に答えることでさらにより良い関係を構築したりすることができます。「自社製品・サービスの世界観を広めたい」「顧客と長期的な関係を築き、ファンを増やしたい」と考えるときには、ブランディングを意識した発信が重要です。
マーケティングとブランディングは、広告を出稿するペイドメディアで同じ目的を果たそうとした場合、多額の費用がかかることが想定されます。SNSマーケティングは、比較的低コストで運用できることも大きなメリットです。
3. BtoBマーケティングにおけるSNS運用のポイント
SNSの種類と特徴
- 利用者数および利用者層:約4500万人、20代を中心に全世代が利用
- スタイル:140文字以内でテキストを投稿
- 特徴:リアルタイム性が高く、ビジネスや業界のトレンドを素早くキャッチできるプラットフォーム。国内外に多数のアクティブユーザーがおり、リツイート機能による拡散性の高さが強みです。一般ユーザーやBtoC企業だけでなく、BtoB企業も活用しやすく、認知拡大を目指す場合に適したメディアといえるでしょう。
- 利用者数および利用者層:約2600万人、30~40代のビジネスパーソン中心
- スタイル:コンテンツの自由度が高く、テキストから写真、動画まで幅広く載せられる
- 特徴:個人や企業の情報発信に広く使用されているプラットフォーム。実名での登録が多いことから、投稿者と受け手とが安心感を持って関係を築きやすいSNSです。ほかのSNSと比較すると、ターゲティング広告の精度が高く、ペイドメディアとして活用する企業も多くみられます。Twitterと並び、BtoB企業にも親和性の高いSNSです。
YouTube
- 利用者数および利用者層:約6900万人、10~30代ではほぼ全員が利用、全年代でも利用率8割を超える
- スタイル:動画コンテンツの投稿
- 特徴:動画コンテンツの投稿・共有が可能なプラットフォーム。TwitterやFacebookに比べると投稿の難易度は上がりますが、マーケティングとブランディングどちらの観点からも効果が高いSNSです。業界・自社サービスの最新情報やトレンドをわかりやすく伝えたり、従業員を紹介したりするといった活用方法が想定されます。全年代で利用率が高いため、多方面への認知拡大が期待できるほか、ニッチな領域への訴求にも活用できます。
- 利用者数および利用者層:3300万人、10~20代の若い女性中心
- スタイル:ビジュアル訴求の投稿が中心
- 特徴:画像と短いテキストを中心にしたコンテンツが主流で、ビジュアルに訴える情報発信に適しています。視覚を通じてユーザーにダイレクトに訴求することができ、10~20代の若い女性には、Instagramで発信された情報をもとに購入の意思決定をするユーザーが多くみられます。特にBtoC企業にとって親和性の高いツールといえます。
LINE
- 利用者数および利用者層:約9500万人、全年代が幅広く活用
- スタイル:1対1のメッセージ送信ツール
- 特徴:日本国内のアクティブユーザーが多く、インフラ化しているSNS。企業向けの「LINE公式アカウント」が用意されており、トーク画面でメールマガジンのように情報を発信したり、カスタマーサポートの窓口にしたりするなど、幅広く活用できます。BtoB企業でも顧客がスマートフォンやLINEでのやり取りを好む場合は効果的なツールですが、HRソリューション業界での使用割合は高くありません。
- 利用者数および利用者層:約300万人、20~30代のビジネスパーソンが中心
- スタイル:ビジネスの発信・交流を前提とした発信
- 世界最大級のビジネス特化型SNS。投稿スタイルはFacebookに似ていますが、求人票を掲載できるなど、ビジネス上でのメリットが際立ちます。日本におけるユーザー数はこれまで紹介したSNSより劣りますが、アメリカなどではメジャーなSNSであり、多くのエグゼクティブ層が登録しています。
アカウントの種類
企業公式アカウント
企業として情報発信するアカウントです。いずれのSNSもアカウント自体は無料で開設することができます。ただし、広告出稿はもちろんのこと、Twitterの「認証バッジ」やLINEの法人向けプランなど、活用したい機能によって有料となるケースもあります。
サービス公式アカウント
特定の製品やサービスについて深く情報を発信するためのアカウントです。企業が一製品しか展開していない場合、あるいは逆に多くの事業を展開しており、その中から特定の事業を際立たせたいときに有効です。
カスタマーサクセス用アカウント
顧客からの問い合わせ対応やサポート情報の提供を目的としたアカウントです。顧客が問い合わせやすくなることから、顧客満足度を高める効果が期待できます。特にTwitter・LINEで開設されるケースが目立ちます。
社長や社員個人のアカウント
企業の社長や社員個人のアカウントです。個人目線で製品やビジネスへの思いなどを発信することで、SNSユーザーの製品・サービスや会社への理解を促進し、愛着を高める効果があります。特にTwitter、Facebook、LinkedInで開設されるケースが目立ちます。
SNS運用の流れ
【STEP1】目的を決める
まずはSNS運用の目的を決めることが重要です。「自社の認知度を上げたい」「リードを獲得したい」など、目的を明確にして情報を発信したいターゲット層やペルソナを定義します。
【STEP2】プラットフォームを選ぶ
SNSごとに、強みやユーザー層は異なります。まずは自社の製品・サービスや、ターゲット層と照らし合わせ、もっとも親和性の高いプラットフォームを選ぶことが重要です。
【STEP3】アカウントを作る
「企業公式アカウント」「サービス公式アカウント」など、開設するアカウントの種類を決めます。企業が届けたい情報・価値観に沿ってプロフィールを作成し、自社の公式サイトと相互でリンクを設定します。担当者が一人の場合、業務が属人化してしまうため、可能であれば複数人で運用すると良いでしょう。
【STEP4】トーン&マナーを決める
投稿内容がブレないよう、トーン&マナーに関するルールを決めておくことが求められます。定型文や口調、写真や動画の投稿頻度などに関する決まりのほか、ファン獲得につながる世界観に至るまで、認識を共有しておくことが重要です。
【STEP5】コンテンツを発信する
事前に決めたターゲット層や届けたい価値観、トーン&マナーに沿って、顧客の課題が解決できたり、共感を得られたりするようなコンテンツを発信します。投稿を見てもらうには、適切なハッシュタグの選択やビジュアルコンテンツの活用、時事性の高い情報発信など、さまざまな工夫が求められます。自社に関係する他者の投稿にリアクションを取ることも効果的です。SNS用にコンテンツを作成するだけではなく、オウンドメディアの更新を知らせたり、自社で開催するセミナーを告知したりすることも有効です。
【STEP6】効果を測定する
SNSマーケティングの目的を、コンバージョンやリードを増やしていくことにした場合、KPIを設定し、達成状況を定期的にモニタリングする必要があります。SNSマーケティングは企業からの一方的なアプローチではなく、双方向のアクションが重要であることからも、ユーザーの反応を分析し、PDCAサイクルを回していくことが有効です。
SNSごとに見るべき指標は異なりますが、主なKPIとしては、フォロワー数やエンゲージメント率(いいね、シェア、コメントの数)、ウェブサイトへのアクセス数(トラフィック)などが挙げられます。 SNSアカウントの分析を行うには、各SNSに設置されているサイトで確認する方法と、外部ツールを利用する方法があります。まずはTwitterの「Twitterアナリティクス」など、各媒体のアナリティクス機能を活用することから始めてみると良いでしょう。
【STEP7】継続的な投稿
オウンドメディアであれば過去の投稿が蓄積されますが、SNSでは次々に新しい情報発信が行われるため、過去の投稿が埋もれていきます。そのため、定期的に新しいコンテンツを発信したり、重要な内容を再度発信したりするなど、継続的に投稿することが必要です。フォロワー数は簡単に増えないと認識し、短期的な成果を求めすぎない姿勢が求められます。
【STEP8】炎上対策
SNSを運用するにあたり、欠かせないのが「炎上対策」です。SNSではときに、企業にとってネガティブなイメージが拡散される場合があります。具体的な炎上対策として、従業員へのネットリテラシー教育や社内の情報共有ルールの整備、ネガティブなリプライや実際に炎上が起こったときの対応方針を策定しておくことが重要です。
コンテンツ例
製品・サービス情報
新製品・サービスの案内や既存製品・サービスの活用方法などを伝えます。写真や動画などビジュアルコンテンツを活用しながら、わかりやすく簡潔に伝えることがポイントです。
セミナー・イベント告知
オンライン・オフラインで行われるセミナーやイベントを告知します。多くの人の目に届くため、公式サイトに掲載するよりも効果的といえるでしょう。告知と併せて申し込みフォームを案内することで、参加してもらいやすい環境をつくることができます。またセミナー開催の案内自体が、自社の専門性や強みをアピールする機会になります。
オウンドメディアのコンテンツ更新お知らせ・切り抜き
テキストベースでのSNSの投稿は、文字数がそれほど多くないことが一般的です。たとえば、Twitterは基本的に最大140字です。オウンドメディアに掲載した社員のインタビュー記事やホワイトペーパーなど、自社および自社製品・サービスを詳細に記したコンテンツの更新情報の共有により、オウンドメディアへのトラフィックやより深い理解に結びつけることができます。
業界・分野の知見が得られるクイズ
SNSユーザーの興味関心を引き、満足度を高めるコンテンツとして、自社製品・サービスや業界の知見に関するクイズ形式の投稿も有効です。SNSによっては実際に設問に回答できる媒体もあるため、寄せられた回答に対してフィードバックを行うことで、フォロワーとの関係を深めることができます。
質問受付
フォロワーらからの質問や要望に応えるコンテンツです。SNSユーザーと直接コミュニケーションを取ることができるため、特定のユーザーの満足度が上がるだけでなく、やり取りが拡散されることによるブランディング効果も期待できます。また、ユーザーのリアルな声を聞くことができる利点もあります。
会社の日常風景・個人の意見
会社内での日常の風景やイベントや、社員の思いなどを取り上げた投稿です。社員や会社の様子を発信することで、会社そのものへの愛着を持ってもらうことができます。写真や長尺の動画など、多様な形式での発信が可能です。
4. BtoB企業のSNS成功事例
会社のアカウント
コベルコ建機株式会社[Twitter]
- 運営目的:リード獲得、ブランディング
- コンテンツ:セミナー・イベント告知、業界・分野の知見が得られるクイズ、製品情報、会社の風景
- 特徴:建設機械の製造・販売を行うコベルコ建機のTwitterアカウント。写真や動画を多用しながら、コベルコ建機の製品がどのように役立つのかをわかりやすく解説しています。最上位に表示される「固定ツイート」には製品・サービスへの問い合わせや見積もりの相談への案内が表示されており、ビジネスの窓口の一つとして運用されていることがわかります。
サービスのアカウント
SATORI株式会社[Facebook]
- 運営目的:リード獲得、顧客育成
- コンテンツ:セミナー・イベント告知、オウンドメディアのコンテンツ更新お知らせ
- 特徴:マーケティングオートメーションツール「SATORI」の情報を中心に発信するアカウント。投稿文では「こんな方にお勧め」というコンテンツを入れ「誰に向けてどんな困りごとを解決できるか」を明確に打ち出した上で、ホワイトペーパーの紹介やセミナー告知などを行っています。
カスタマーサクセス専用のアカウント
デル・テクノロジーズ株式会社[Twitter]
- 運営目的:顧客対応、ブランディング
- コンテンツ:お役立ち情報
- 特徴:コンピューターおよび関連製品を販売するデル・テクノロジーズの法人向けテクニカルサポートのアカウント。定期的にサポート情報を案内するとともに、パソコンに発生しがちなトラブルへの対応方法についても情報提供しています。一部製品の問い合わせについては、LINEからの問い合わせも受け付けています。
社長・社員個人のアカウント
株式会社ベイジ[Twitter]
- 運営目的:リード獲得、顧客育成、ブランディング
- コンテンツ:個人の意見
- 特徴:ウェブ制作会社ベイジの代表である枌谷力さんのアカウント。同社は社長や社員が積極的にブログを運営していることで有名ですが、Twitterでも個人の日常やマーケティング業界の知見、仕事への向き合い方まで、積極的に発信しています。
株式会社才流[Twitter]
- 運営目的:リード獲得、顧客育成
- コンテンツ:個人の意見、オウンドメディアのコンテンツ更新お知らせ、切り抜き
- 特徴:BtoBマーケティングなどのコンサルティング企業の才流は、栗原康太代表をはじめ複数の社員が個人のビジネスアカウントを持ち、実名・顔出しで発信しています。個人ごとの個性を出しながら、それぞれが知見の発信やセミナー・イベント告知を行っています。