HRソリューションの傾向と選び方 最終更新日:2024/05/30

次世代リーダー育成研修の傾向と選び方
必要性と身につくスキル・事例や研修内容

次世代リーダー育成研修の傾向と選び方

次世代を担う経営幹部の早期育成を目指す次世代リーダー研修。グローバル化や多様化といった言葉が飛び交う現在、時代を読み解き変革を起こせるリーダーが求められる一方で、リーダー育成に苦慮する企業は少なくありません。

そこで『日本の人事部』では、今、次世代リーダーに求められる能力を整理するとともに、次世代リーダー育成研修で身につくスキルや導入時のポイントを解説します。また、『日本の人事部』がおすすめするサービスも併せて紹介します。

次世代リーダー育成とは~求められる背景と必要な能力

日本では、2000年代に入ってから次世代リーダー育成に取り組む動きが活発化したといわれています。まずは、求められる背景と必要な能力について見ていきましょう。

次世代リーダー育成とは

次世代リーダー育成とは、経営を担う幹部を早い段階から育成する取り組みのことをいいます。研修や、あえて達成が困難な仕事やポジションを与えるストレッチアサインメントといった手法を取り入れながら、次世代の経営を担う人材を継続的に輩出することを目的に実施されます。

幹部候補者となる人材を絞り込む選抜型の育成スタイルをとるのが一般的ですが、現在では若いうちからリーダーシップスキルを身につけさせるため、20代の若手社員を対象に行うケースも見られます。

次世代リーダー育成が求められる背景

近年、次世代リーダー育成の必要性が高まっている要因は、大きく三つあります。

一つ目は、グローバルでの競争力が求められる中、それに対応できる次世代のリーダーが必要となっていること。二つ目は、多様な働き方やダイバーシティが進んでいるため、広い視点を持って社員に方向性を示せるリーダーが求められていること。そして三つ目は、人材の流動化が進んでいることです。

スタートアップ企業やベンチャー企業では、若いうちに幹部に就くことができる点を訴求ポイントにスカウト攻勢を強化。企業から優秀な人材が流出することが増えたため、企業内で次世代リーダー育成に取り組むことで流出を阻止しようとする動きが活発化したことも影響しているようです。

従来は「立場が人を育てる」という言葉の通り、一つずつステップアップしながら経営幹部へと成長するという考え方が主流でした。しかし、ビジネス環境の変化が激しい現在、人材が育つまで待っていては競争力を維持できません。また、市場が成熟しコモディティ化が進む現在は、既定の枠を超えてビジネスを展開する発想力や行動力が求められます。

こうした状況を受け、単に仕事を引き継いで、延長線上で思考・行動するのではなく、変化に対応しながらビジネスを創造する経営幹部が強く求められているのです。

次世代リーダーに必要な能力とは

経営をリードする次世代リーダーには、具体的にどのような能力が必要とされるのでしょうか。

ビジョンを作る力 自社だけでなく社会の動向を読み取り、これからの時代にふさわしいビジョンを設定できる力
意思決定力と実行力 正解が見えない中で成果を出すための道筋をつけられる意思決定力。また、それを具現化するための実行力
管理能力 人と組織を理解し、本質的な課題をつかみながら組織や労務、財務などを幅広く管理する力
人と組織をけん引する人間力 倫理観とブレない判断軸を持ち、人をひきつけて組織をけん引する人間力

企業によって次世代リーダーに期待することは異なるため、一様ではありません。しかし、目まぐるしく変わる社会と市場において競争力を維持・強化するうえで、これらの能力は多くの企業が求めているものといえるでしょう。

次世代リーダー育成研修で身につくスキルとは

次世代リーダー育成の代表的な手法である「研修」。ここでは、どのようなスキルを身につけることができるのか、カリキュラムの例を挙げながら見ていきます。

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経営者の視点や思考力が身につく

次世代リーダーに求められるのは、組織を運営するためのマネジメント力だkではありません。次世代リーダー研修では、経営者としての視点や思考力を磨くカリキュラムが提供されます。

たとえば、経営を行ううえで必要となる知識を学び、実際に事業分析を行いながら中長期のビジネスを構想するといった訓練が行われています。こうしたカリキュラムは、事業に対する当事者意識を高めるうえでも有効といえるでしょう。

自社の課題を解決する変革力が身につく

自社の課題を本質的に理解し、解決するための力を養います。具体的には、課題発見の方法や解決方法など。過去にとらわれない発想力を持って組織を進化させる、変革力をともなうリーダーシップスキルも学びます。

実際に自社の課題を題材にするなど、実践的な体験プログラムが数多く提供されています。周囲を巻き込みながら、事業や会社を動かす力を身につけることができます。

成長戦略を描く力が身につく

不確実性の高い環境下で最適解を導き出すための思考方法や手法、戦略シナリオの描き方など、経営幹部としてのクリエイティビティを磨くことができます。

フィールドワークやリアルケーススタディを用いるなど、既存の思考パターンに頼らずに意思決定を行うプロセスを通じて、着実にスキルを向上させるカリキュラムが多く提供されています。これらを通じて、事業を創造する力や成長戦略を描くための実践力が鍛えられます。

自分自身を見つめ直す内省力が身につく

経営幹部には、人と組織をけん引する人間力も求められます。次世代リーダー育成研修では、自分自身との対話と内省を通じて経営観を磨き、経営幹部としてのマインドセットに役立つカリキュラムも実施されています。ブレのない決断力や経営幹部となる覚悟を醸成するうえで役立ちます。

次世代リーダー育成研修の事例

次世代リーダー育成に取り組み、実際に成果が出ている企業の事例を紹介します。

サントリーホールディングス株式会社の事例

田中憲一さん(サントリーホールディングス株式会社 グローバル人事部)、長原優子さん(サントリーホールディングス株式会社 グローバル人事部)

2009年以降、いくつもの大型M&Aを成功させながらグローバル企業へと突き進んできたサントリーホールディングス。巨大な船をかじ取りするうえで、「One Suntory」の実現を掲げ、次の時代を担う経営人材の発掘と育成に力を注いできました。

同社ではグローバル展開が加速する中で、人事制度の共通化やシナジーを生むタレントマネジメント、グローバル人材育成の必要性が増し、グループ全体をけん引するリーダー層に向けた「リーダーシップ・コンピテンシー」を策定。その中には、創業精神に則った「サントリーらしさ」が反映されており、創業以来のカルチャーを大切にしながら実力を発揮できる人材の育成に取り組んでいます。

経営人材を発掘するための取り組みでは、「グループタレントレビュー会議」を開き、グループ各社の人材情報を共有したうえで適切な人材配置や後継者計画に活用。そのうえで、育成プランを実行に移しています。

2015年に開校した「サントリー大学」では、“やってみなはれ”と“利益三分主義”といったサントリーの創業精神への共感を生み出すプログラムを展開。リーダーシップ開発とキャリア開発の推進を図るとともに、企業文化をつくり上げている点も参考にしたいポイントです。

世界で戦える次世代リーダーの育成に向けては、グローバルに必要なリーダーシップを開発する研修を充実させており、米国のトップ大学と独自のプログラムも開発しながらケースステディで学べる環境を作っています。

同社のグローバル人事部長である田中 憲一氏は「人の学びの70%は日々の業務、20%は人を通した支援、10%がプログラムや研修から得られる。それに照らし合わせると、70%は“やってみなはれ”の精神。20%は縦・横・斜めの育成支援。10%の部分でグローバル系の研修を充実させている」といいます。

「高い目標を立てて失敗も許容する」「アイデアを促進してそれをサポートする」という環境の中で、国の垣根を超えて有力な次世代リーダー候補が継続的に輩出されています。

次世代リーダー育成研修を実施するときのポイント

ここでは、次世代リーダー育成を実施するときに重要となるポイントを見ていきます。

次世代リーダーイメージ写真

実施目的を明確にする

社内の理解がなければ次世代リーダー育成は困難をきたします。まずは企画段階で人事と経営層の目線を合わせ、次世代リーダー育成に取り組む必要性やゴールを明確にすることが重要です。

育成は、さまざまな関係者を巻き込みながら進めていくため、周囲の理解を得るためにも、実施目的を明らかにする必要があります。また、候補者に対しては期待を明確に示し、学習に対するモチベーションを高めることも大切です。

次世代リーダーの定義・選抜方法を明確にする

候補者を選抜するにあたっては、次世代リーダーの定義を明確にする必要があります。単に「エース級人材だから」という理由だけでは、潜在的なポテンシャルを正しく判断できず、有力な候補者をプールできないといった失敗が起こりがちです。

このような事態を避けるには、求める人材の定義を明確にし、多角的な視点から公平な選抜を行うことが重要です。また、現在の部署から離したくないという理由から現場のマネジャーが選抜をためらうケースも考えられるため、人選には経営層や人事も関与する必要があります。

長期的な計画を立てる

次世代リーダーの育成は一朝一夕にできるものではありません。経営リテラシーを高めるには、知識と経験の両方を鍛えていく必要があります。そのため、育成には長期的な計画が必要です。

どのような順番とタイミングで、どんなインプットとアウトプットをするかといった具体的な方法も含め、ゴールまでの一連のストーリーを描くことが重要になります。

事業の成長戦略と連携させる

次世代リーダー育成研修を単なる「勉強の場」で終わらせないためには、事業と連携させながら経営幹部に求められる能力を開発することが必要です。そのため、研修で得た知識を実践に移せる「経験の場」を提供することは重要なポイントとなります。

育成を目的とした配置異動や職務内容の変更も含め、事業の成長戦略と連携させた仕事経験を積ませる取り組みも検討するべきでしょう。

経験を積み上げるストレッチアサインメントを検討する

次世代リーダーとしての能力をいち早く身につけさせる手法のひとつが、ストレッチアサインメントです。現時点での能力では達成が困難と思われる業務に就かせることで、能力を引き上げることが狙いです。

具体的には、部門横断のプロジェクトや新規事業の立ち上げ、大きな組織のマネジメントなどが挙げられます。視野が広がるというメリットがあるほか、困難を克服する経験により、経営幹部候補としての自覚が強まるという効果も期待できます。

ただし、ストレッチ度合が大きくなるほど挫折のリスクも高まるため、チャレンジを支援すると同時に、サポート体制を整えておくことも重要です。

次世代リーダー育成研修の選び方

次世代リーダー研修で提供されているプログラムは、各社で大きく異なっています。まずはカリキュラムが自社の課題・目的に即しているかどうかを慎重に判断することが重要です。

また、自社事業との連携や長期的な育成計画を立てる必要があることから、自社の課題や業界について理解したうえで的確な提案してくれる研修会社が望ましいといえます。ゴールまでの成長ステップが明確かつ体系的に整理されているかという点も、チェックしておくとよいでしょう。

次世代リーダー研修の多くはトレーナーのもとで訓練を積む方式となっています。そのため、専門性や豊富な実績を有するトレーナーの存在も重要なチェックポイントです。これらのポイントを押さえ、失敗のない研修選びにつなげてください。

それでは、実際にどのような次世代リーダー育成研修があるのか、紹介していきます。

次世代リーダー育成研修を提供する全国のソリューション企業一覧

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まとめ:実践的かつ企業の課題に寄り添う次世代リーダー育成研修が求められている

変革の経営が求められる時代にあって、リーダーに求められる資質・スキルは以前にもまして高いものとなっています。次世代リーダー育成は多くの企業が抱える課題ですが、同時に、育成に満足している企業は少ないのが実情です。

こうした状況から、現在では、より実践的かつ企業の課題に寄り添う次世代育成研修が増えています。ビジネスサイクルの短期化が進む今、次世代リーダー育成は遠い将来のためではなく、すぐそこにある未来を見据えて取り組むべきといえるのではないでしょうか。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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