タレントマネジメントシステムの機能・ユーザビリティー
代表的な機能
タレントマネジメントシステムに搭載されている代表的な機能を紹介します。
従業員情報(人材データベース)
従業員情報(人材データベース)とは、従業員の年齢や入社歴や役職などの基本情報をはじめ、入社後の異動歴やスキル、昇進昇格などのデータを集約・可視化したものです。一目で従業員の顔と名前が一致するよう、顔写真を登録できるものが主流です。人材データベースの構築による従業員の見える化は、タレントマネジメントを活用するためのファーストステップ。常に最新のデータが反映される仕組みをつくっておく必要があります。
データベースでは情報を確認できるだけでなく、特定の資格を保持している従業員や、高い評価を得ている従業員を絞り込むことができます。役職・権限に応じて、閲覧できる情報を制限することも可能。ほかのシステムと連携させるため、データをCSV形式でインポート・エクスポートすることもできます。
組織情報管理・組織図ツリー
従業員の所属情報を登録するだけで、自動的に組織図や組織図ツリーを生成する機能です。従業員の情報を修正すれば自動的に組織図へ反映されるため、複数の情報を何度も修正する手間が省けます。組織図や組織図ツリーは、組織の現状を俯瞰的に眺められるだけでなく、指示系統の整理や人員の最適な配置にも役立ちます。組織図内に表示された従業員名をクリックするだけで、個人情報を確認することもできます。
配置シミュレーション
システム内で従業員を別の部署やチームに異動させて、シミュレーションする機能です。顔写真をドラッグ&ドロップで移動させる方法が多く見られます。人事異動を検討する際、従業員を動かして個人の基本情報やキャリア希望、チームのバランスを確認しながら議論をすることで、より根拠に基づいたチーム編成が可能になります。システムによっては、異動後の部署やチームの人件費を確認できるものもあります。シミュレーション結果を保存し、複数の結果から比較検討することもできます。
人材育成管理(学習履歴・スキルの管理)
従業員の育成に関する状況を可視化することもタレントマネジメントシステムが得意とするところです。たとえば、従業員のスキルや評価結果などの情報を把握し、高い業績を上げている従業員をモデルに設定。育成対象者とモデル従業員の比較を行うことで育成対象者に足りないスキルや資格を浮き彫りにし、育成の方向性を定めることができます。また、研修やeラーニングの受講記録などから育成状況の進捗を確認することや、時系列で従業員の成長を確認することも可能です。急成長している従業員や停滞している従業員の発見にも役立ちます。
また、従業員自身がスキルや資格を登録することもできます。最適な人材の配置や抜てき、プロジェクトのアサインの場面で使用できるほか、優秀な従業員の傾向から必要なスキルを割り出し、育成に生かすことができます。
人事評価
MBOやOKRといった目標管理制度のほか、コンピテンシー評価や360度評価を含む人事評価の運用、1on1におけるフィードバックにも効果を発揮します。たとえば期間ごとの数値目標と進捗の可視化や、従業員がこれまでに得た評価の確認など簡単な操作で行うことができます。一次評価者が二次評価者の入力内容を閲覧できないようにするアクセス権限の設定や、評価者が複数に上る場合は未対応者にシステム内からアラートを送ることも可能。すべての評価が終わったあとに評点を調整できる機能もあります。
従業員に対しても、ブラックボックス化しがちなプロセスや評価基準をシステム内で可視化することで、評価に納得感を持たせやすくなります。また、これまでの目標とその結果、評価時のフィードバックをすぐに確認できるため、従業員自身の的確な振り返りや今後の目標設定につなげられます。
アンケート
従業員の声を集めるアンケート機能です。アンケートの内容は、従業員の満足度や研修の効果の測定、人事制度への意見の募集などさまざま。テンプレートを活用し、オリジナルのアンケートを自由に作成できます。パルスサーベイのような頻繁に行われるアンケートの回答結果を時系列に分析することも可能です。回答の進捗状況や未回答者への催促は自動で行われ、集計作業やグラフの作成も手軽に行うことができます。
組織分析・レポート
システム内の情報を掛け合わせることで、さまざまな分析やレポートを行うことが可能です。代表的なものとして、会社全体や各部署の状態を知る「組織分析」や社員の満足度を知る「社員満足度分析」、優秀な成績を挙げている従業員の傾向を分析する「ハイパフォーマー分析」などがあります。
ほかにも、勤怠状況から長時間労働者を抽出し把握できるものもあります。分析を行うことで、自社の強みや改善すべきポイントを見つけることができます。
その他
上記で挙げたもの以外にも、システムによっては採用に際して応募者から自社で活躍する可能性の高い人材をピックアップする「採用管理」や、新入社員の早期定着のためのプログラムをシステム上で行う「オンボーディング支援」、社員のストレスをチェックする「ストレスチェック」など、豊富な機能があります。
また、国際標準化機構(ISO)が2018年に策定した「ISO30414」では、組織の多様性や生産性、働き手のスキル・能力など人材に関する11項目・58指標の明示を企業に求めています。日本においても、人的資本に関する情報を開示する動きもあり、人的資本に関する情報を容易に取得できる機能がタレントマネジメントシステムにも求められるようになっていくかもしれません。
ユーザビリティーとセキュリティー
機能のほか、タレントマネジメントシステムにはユーザビリティーとセキュリティーも求められます。
ユーザビリティー
タレントマネジメントシステムを利用するのは、ソフトウエアの操作に慣れている人ばかりではありません。そのため、マニュアルを見なくても直感的に使えるような優れたUI(ユーザーインタフェース=ユーザーが見たり、触れたりする外観やデザインなど)と、UX(ユーザーエクスペリエンス=ユーザーがシステムを利用する際に得られる体験、使いやすさなど)が求められます。中でも、各社が力を入れている項目を紹介します。
ダッシュボード
複数のデータをグラフや表にまとめ、会社の現状を一目で把握できるダッシュボード機能はシステムの要と言えます。時系列のグラフや複数のグラフを設置したものも作成可能。経営層向けの戦略を決める際の判断材料や労務担当向けの勤怠情報といったように、必要な情報を必要な部門・人に届けることができます。登録情報が更新されると表やグラフも併せて更新されるようになっており、常に最新のデータが反映されます。
他社サービス連携
既存の基幹システムをはじめ、勤怠や給与、採用管理などの他社とのAPI(ソフトウエア、アプリケーション、プログラム、Webサービスなどの間をつなぐインターフェース)の連携も、ほとんどのシステムが実装しています。「すでに勤怠や給与などで別のシステムを導入しており、タレントマネジメント機能だけを使いたい」といったニーズに応えることができます。
アクセスの容易性・権限設定
従業員のサインインの手間を省くため、一つのID・パスワードで複数のシステムを横断的に利用できるシングルサインオン(SSO)連携を搭載しているシステムもあります。スマートフォンのアプリからログインできるものもあり、接続を容易にすることで従業員の積極的な活用を促します。ただし、導入企業によっては、アクセス権限を細かく制限したいというニーズもあるため、アクセスの容易性については導入企業ごとに加減する必要があります。
使用する言語
日本語版のほか英語版を備えたシステムもあります。システムにログインする際に、日本語版・英語版を瞬時に切り替えられる機能です。外国人材が増える中、英語版が必要になるケースもあります。逆に、海外で生まれたシステムの場合は、日本語版としてのユーザビリティー(自然な日本語になっているかどうか、など)も求められます。
セキュリティー
タレントマネジメントシステムは多岐にわたる組織情報や従業員の個人情報を取り扱うため、極めて厳格なセキュリティー体制が求められます。
2段階認証
新しい端末やブラウザで利用する際に、IDやパスワードに加え、別のワンタイムトークンを要求して不正アクセスを防ぎます。
外部からの遠隔操作
システムにアクセスできる端末を紛失した場合に、遠隔操作により、その端末からの利用を停止できる仕組みです。自社オフィス以外からのアクセスの遮断や定期的にパスワードの設定を変更させることができるシステムもあります。
ISMS認証取得、プライバシーマーク
ISMS認証は企業の情報資産を、プライバシーマークは個人情報を保護できる体制が整っていることを示します。取引をするうえで重視されることも多いため、いずれか、あるいはどちらも取得していると良いでしょう。
データのバックアップ
定期的なデータのバックアップやデータベースの多重化など、障害が発生した場合に可用性を維持できることが重要です。
通信の暗号化
端末とサービス間の通信をSSL/TLSを使って暗号化し、改ざんを防ぎます。
第三者機関による脆弱性診断の定期実施
高い安全性を保持していることを示すための、セキュリティーの専門機関による診断です。
IPアドレス制限
組織が許可しないIPアドレスからの接続を遮断できる機能です。
ひと目でわかるUIと
他社サービスと連携しやすいUXを期待
長年、さまざまな企業でタレントマネジメントに取り組んできた江上茂樹氏(三菱ふそうトラック・バス株式会社やサトーホールディングス株式会社で人事責任者を歴任)は、タレントマネジメントシステムに期待する点として以下のようにユーザビリティーの良さを挙げています。
従業員一人ひとりの情報を一つの画面で確認できるようなユーザーインタフェースが好ましいです。表示速度の速さも重要です。従業員の基本情報や評価情報をひと目で確認することができれば、タレントマネジメントの取り組みも迅速に行えます。
UXの観点では、他社サービス連携など、使い勝手の良さも期待しています。企業が自社の事業戦略に貢献する人材を育成するにあたって、タレントマネジメントシステムが持つ機能だけではカバーしきれない部分が必ず出てきます。そのため、他のシステムとの連携はもちろん、PDFやExcelといった資料の保管先を記述したり、資料自体を取り込めたりするような機能も望まれるでしょう。