「女性」と「ネットワーク」をキーワードに、
日本初のサービスを次々と生み出す
「アイデア」と「行動」の起業家

株式会社イー・ウーマン

佐々木かをりさん

働く女性のネットワーク「イー・ウーマン」の設立

そのネットワークが「イー・ウーマン」の原点というわけですか。

私自身にとっても、原点なんです。月に20回以上のセミナーを重ねたり、毎年300人規模の年次総会を開いたり、自由な勉強会として活動を続けていくうちに、いろいろな人と出逢うことができましたから。企業のトップになった仲間もいるし、国会議員になった卒業生もいる。振り返ると、あの人も、この人もうちにいた、という感じなんです。勉強会と並行して、96年には女性向けのインターネットのポータルサイトを立ち上げました。もともと89年からEメールや電子会議室を使っていましたが、直接足を運んで顔を合わせるリアルのイベントだけではなくて、もっと気軽な交流の場や自己啓発の機会が広がれば、そう思ってつくったんです。当初はユニカルインターナショナルの業務の一環として運営していました。

当時は女性向けのポータルサイトもまだなかったのでしょうか。

株式会社イー・ウーマン代表取締役社長 佐々木かをりさん インタビュー photo

ええ。われわれが日本初でした。何しろ「ポータルサイト」という言葉も、まだ日本にはなかった頃ですから。プロ意識の高い女性がインターネットを活用するときの、“入口”にしてほしいということで、われわれは「ゲートウェイ」と呼んでいました。でも、最初はほとんどボランティアだったんです。数百ページにわたり、英語と日本語のバイリンガルで日々更新するという、途方もないプロジェクト。それを、さきほどご紹介した女性ネットワークのマンパワーも活かし、進めていました。ユニカルのビジネスとは直接関係ありません。だけど世の中の役に立つと思ったから、そして誰よりも自分が欲しいと思ったから、やっていたんです。ちょうどその頃、国内でインターネットが急速に普及していったこともあって、こうした女性向けのサイトをもう少し本格的な仕組みにしたいというか、ボランティアではなく、企業として、ビジネスとしてきちんと成立させたいという思いが強くなっていきました。

女性向けサイトがビジネスモデルとして成立すれば、女性支援や女性活用の大切さを社会運動ではなく、経済活動の中で実証することにもつながりますね。

まさにそういう思いでつくったのが「イー・ウーマン」という“場”=コミュニティーサイトなんです。構想を始めてみたら、思った以上に反響が大きくて。サイトの内容も、ビジネスとしての規模も、自分が想定していたよりはるかに成長し、ユニカルの一事業という範ちゅうに収まらなくなっていきました。それでやむをえず、別会社にしました。女性を売りにしたつもりはないし、最初から“日本初”や“国内最大”のビジネスを意図したわけでもありません。必要なのに存在しないから、自分でつくってきたまでのことなんです。20年以上前に働く女性のネットワークを立ち上げて以来、私としては“ここ”を目指したというより、いつの間にかここまで来たというのが実感ですね。

サイトの名前はイー・ウーマンですが、男性もコミュニティーに参加できるのでしょうか。

はい。サイトの趣旨にご賛同いただける方なら、年齢、性別、職業は一切問いません。原点はあくまでもダイバーシティ。多様性の推進にあるんです。じゃあ、どうして「イー・ウーマン」なんて、女性を看板にしているのか。よく聞かれます。それはやはり、そうせざるをえないほど、課題が大きいから。女性の社会進出において、日本は圧倒的に遅れているという危機感が強いからです。OECDでもIMFでも、どこのデータをとっても世界各国との差は歴然でしょう。2012年の世界経済フォーラムの男女格差指数なんて、135ヵ国中の101位ですからね。中国などの新興国だけでなく、途上国にもかなわない。給料の男女格差や役員・管理職の男女比率を見ると、日本はとても先進国とはいえません。ダイバーシティの対象はさまざまですが、現在の日本社会では女性が一番大きな、わかりやすいマイノリティーなんです。

だからこそ、今はあえて「女性」という言葉を掲げる必要があるということですね。

そうなんです。男女平等とか女性の権利うんぬんではなく、多様性推進のファーストステップとして、まず女性から進めていこうということですね。それともう一つ。1990年頃にアメリカの起業家会議によく参加していたのですが、そこで触発されたことも、あえて「女性」を掲げる動機になっています。当時、どの会議でも10年後、つまり2000年頃にはアメリカの中小企業の半数以上が女性によって経営されるという予測が発表され、大きな注目を集めていました。その結果、何が起きたかというと、それまで女性の起業家や中小企業経営者に冷淡だった金融機関が、手のひらを返すように、彼女たちへの融資や事業支援に乗り出したんです。考えてみれば当たり前ですよね。10年後、本当に顧客の半分以上が女性になるとしたら、「女性はちょっと……」なんて敬遠している銀行はつぶれてしまうわけですから。

そんな銀行の変わり身の早さを見て、これだと思いました。日本も男女平等ばかり叫んでいないで、企業コミュニティーの大勢を占める男性陣に、これからの経済のカギを握るのは女性ですよと。そう言ってあげれば、向こうも堅く閉ざした扉をあっけなく開けるに違いないと、私は確信したんです。要は、経済合理性の視点から、女性力の価値をきちんとプレゼンテーションできるかどうか。もちろん基本的人権の問題として、男女格差の是正や女性活躍の推進に取り組むことも、それはそれでとても大切。否定するつもりはありません。今、こうしている間にもセクハラやマタハラといった、信じがたい人権侵害に苦しんでいる女性もいるんですから。ただ、「北風と太陽」の話のように、別の方法、違う扉の開け方もあるのではないか。私は、経済合理性に基づく方法論を追求していきたいわけです。男性中心の社会が着込んでいる古い固定観念の上着を脱がせるには、「北風」と「太陽」、どちらも必要でしょう。

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