コンピテンシー適性検査をはじめ次々に「新しい常識」を創り出す原点とは?

株式会社ヒューマネージ

齋藤亮三さん

人材の“獲得”から“定着”まで、ワンストップサービスのビジネスモデルへ

 アトラクスから、MBOによって独立された経緯をお聞かせください。

2004年にアトラクスの適性アセスメント事業とEAP事業を分社化し、アトラクスヒューマネージという子会社を設立、私はその社長を務めていました。分社化したことで事業が明確化し、順調に成長し始めたアトラクスヒューマネージの一方で、もともとのアトラクスの採用ソリューション事業は悪戦苦闘していました。

少しでも売り上げを上げるためにと総花的に事業を展開したところ、過重労働につながって組織もメンバーも疲弊し、ミスを繰り返す……と、負のスパイラルにはまり込んでいたのです。そこで、新規顧客獲得に向けた一切の営業活動をまずは中止した上で、赤字決算の中であえて従業員を増やし、マニュアル整備をはじめとしたサービスの標準化を行い、商品・サービスの「選択と集中」を行うなど、立て直しを徹底的に図りました。短期間に皆で知恵を絞り出し、次々と取り組んだ施策は100を超えていました。それが功を奏し、翌年には運用ミスは減少。退職者も減って、決算も黒字化。それによってメンバーの士気はあがり、2年後には別の組織のように生まれ変わり、アトラクスの採用ソリューション事業もやっと成長軌道に乗り始めました。

ところが、そのような折、当時の株主からアトラクスの人材事業の売却を検討していると聞かされました。成長軌道には乗り始めていたものの、IPOにはまだ時間がかかることが予測できたので、もう待てないというのがその理由でした。そこで、何度も話し合いをする中で、MBO(マネジメント・バイ・アウト)によりアトラクスヒューマネージと、アトラクスの採用ソリューション事業を譲り受け、独立するという決断に至りました。

とはいえ、家や車を買うのとは違い、自分の全ての貯金をつぎ込んでも足りるわけがなく、一生かかっても返しきれないほどの借金を背負うことになります。しかし、取引銀行の方々などから背中を押され、一大決心をしたのです。そんな私の決心に、メンバーも全員ついてきてくれて、新たなスタートを切りました。そして、社名も「ヒューマネージ」に変更し、現在に至ります。

 社名である「ヒューマネージ」は、人的資本経営(Human Capital Management)と、人材が事業価値を生み出す時代(Human Age)との組み合わせだということですね。

そうです。『Another 8』を開発していた時点で、私は究極的に価値を生み出すのはやはり人だということを強く意識していました。そんな私にとって、人を資源としてとらえる「Human Resources」という言葉よりも、資本としてとらえる「Human Capital」という言葉のほうがしっくりきていました。使い切ってしまえば終わりになるリソース=コストではなく、適切な投資を行うことでリターンを無限に生み出してくれる資本としてとらえたいと思っていました。だからこそ、最初に立ち上げた適性検査事業の営業部にも「HCM事業部」という名称を付けていたのです。

そのような人的資本経営(Human Capital Management)を経営理念とし、“人”を主軸とした時代認識(Human Age)への思いを込めた社名がヒューマネージです。人の可能性を信じ、人を育て、新たな事業の持続的な創出につなげることこそが、これからの経営の根幹を成す考え方です。それは時間が経過し、経営環境が変わっても、有効性を失わない本質的で普遍的なものであると私は信じています。

 現在、貴社の事業は、採用ソリューション事業、適性アセスメント事業、EAP事業の3本柱になっていますが、それらの事業を展開するにあたっての理念についてお話しいただけますか。

すべての事業をつなぐのが、「Attraction(人材の獲得)&Retention(定着)」という理念です。例えば、当社が提供するさまざまなアセスメントツールを用いて、自社で活躍できる人材を見極める。マイページ機能を持つ採用支援システム『i-web』とRPO(採用アウトソーシング)サービスによって、限られたマンパワーでも応募者とのきめ細かなコミュニケーションを実現し、有望な人材の入社意欲を高める。さらに採用後は、EAPサービスを活用していただくことで、勤労意欲や生産性の低下、最悪の場合には離職にもつながるメンタル不調を事前に予防し、人材の定着が実現できます。

齋藤亮三さん インタビュー photo

このように、人材の獲得から定着までを1社でトータルにサポートできる点が、当社のビジネスモデルの最大の特徴だと考えています。

 コンピテンシー適性検査もそうですが、採用支援システム『i-web』では業界で初めてマイページ機能をつけたり、EAPサービスにも早くから着手されるなど、常に「新しい常識」を創出されてきました。そのような新しいサービスやイノベーションは、どのようにして生まれるのでしょうか。

当社のイノベーションの原点は、すべて現場にあります。そこに寄せられるお客様の声にお応えする形で生まれてきたのが現在の商品ポートフォリオであり、その背景にあるコンセプトが「新しい常識」だと言えます。

業界初のマイページ機能付き採用支援システムとして誕生した『i-web』は、現在、新卒採用モデル、キャリア採用モデル、グローバル採用モデル、面接支援モデル、リクルーター支援モデル、グループ採用モデルなど、他に類を見ない多彩なモデルを展開しています。効率的かつ効果的な人材獲得を実現するために、お客様の「あったらいいな」にお応えして、各々の採用にフィットした形で打ち出しており、多くの企業様にお使いいただいています。

コンピテンシー適性検査は、「一流大学出身であるとか、従来型の知能検査の得点で現れるような“頭の良さ”を基準に採用しても、入社後、会議などでの発言は立派だが行動が伴わず、具体的な成果を生み出さない人材が含まれてしまい困っている」といった声を反映して生まれたものです。

また、その他の適性検査も同様に、採用担当の方々の声にお応えして開発しました。たとえば、コーピング適性検査『G9』は、「経営環境が厳しさを増す中で、ストレスに強い人材を採用したいが、科学的に妥当な見極め方法がない」という声に応えたものであり、ストレス心理学の知見に基づき、被検者がストレスの元(ストレッサー)にどのように対処(コーピング)しているかを測定する検査として開発したものです。

このコーピング理論に基づくストレスチェックは、採用向けの適性検査だけではなく、現有社員向けのストレスマネジメント検査『Co-Labo』という商品としても展開し、保健同人社と当社が提供するEAPサービス『TEAMS』で多くの企業にご活用いただいています。

『Co-Labo』をリリースした当初は、「これは売れない」と言われていました。なぜなら、当時の企業のメンタルヘルス管理は、社員がメンタルヘルス不調に陥ってしまった後のフォローが中心だったのに対し、『Co-Labo』は、自らのストレス状態を定期的に測定することで、メンタルヘルス不調の一次予防に効果を発揮する点が大きな特徴だったからです。こうした発想は、当時はまだ新しいものだったのですが、2014年6月に労働安全衛生法が改正され、ストレスチェックの義務化が決定したことにより、現在では、メンタルヘルス管理の“常識”として定着しつつあります。そういう先取りができたのも、すべては「現場」の声を大事にしてきたからだと思っています。

いずれにせよ、当社のイノベーションは、現場を離れた研究施設のようなところで誕生したものではなく、現場、つまり顧客のニーズに沿って生まれたものであり、現場が抱えている課題を、物事の本質に立ち返って解決する方法を模索する中で生み出されたものばかりです。それだけに、一時の流行に終わらず、長い間、その有効性を維持できるものだと自負しています。

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