適性検査の今後

全体像

適性検査が含まれる採用アセスメントツール市場やピープルアナリティクス市場は、拡大が続いています。とりわけ採用においては、適性検査が面接では見極めづらい能力や資質を把握するための有効なツールとして認識されており、今後も活用されていくことが予測されます。

新卒採用の動向をみると、2024年卒の大卒求人倍率は1.71倍と売り手市場になっています。そのような環境下では、企業が一方的に応募者の能力を測るだけでなく、応募者も「この企業は自分に適しているのか」を判断するためのツールとして用いられる場面が出てくることも予測されます。

ただし、人口減少に伴い、現在適性検査が主に使われている新卒採用での利用が減っていくことは避けられません。適性検査を合否の判断のために活用したい場合、そもそも応募者がいなければ適性検査を導入する理由はありません。そこで今後は、中小企業などに向けてさらなる普及を目指すとともに、中途採用対象者や従業員といった対象者の拡大や、育成や組織開発などの使用場面の拡大に注力していく必要があるといえます。

現在、適性検査の結果をキャリア支援や組織開発に生かしている企業はごく一部に過ぎません。しかし、人材を資本と捉えて投資する人的資本経営や、従業員にまつわる情報を一元管理して戦略的な人事配置や人材開発を行うタレントマネジメントの取り組みは、少しずつ進展しています。そのような中で大手企業を中心に、新卒採用以外の場面でも活用される機会が少しずつ増えています。

リクルートマネジメントソリューションズが実施した「新入社員意識調査2023」では、働きたい職場の特徴として、「お互いに助けあう」が調査開始の2010年以来トップ(66.4%)となりました。また、「お互いに個性を尊重する」は、過去最高の割合(50.7%)となりました。新入社員が上司に対して期待することは、「相手の意見や考え方に耳を傾けること」(49.5%)が最も期待する項目として挙げられました。お互いの個性を理解し、尊重することが求められる時代には、適性検査はただ個人の能力や特性を測るだけでなく、個性を可視化して理解しあうためのツールとしての役割を求められるでしょう。

働きたい職場の特徴

適性検査は作って終わりではなく、時代の流れに合わせてブラッシュアップしていくものです。また問題そのものだけでなく、問題を出題する仕組みやなめらかなUI、不正受検対策といった点についても、より企業・個人の双方に使い勝手の良いものになっていくことが期待されます。

選ばれる適性検査とは、長年の実績があり、その信頼性や妥当性が高く評価されているものです。一方で後発企業も独自の切り口や使い勝手の良さ、廉価な料金体系など、魅力のある適性検査をリリースしています。企業側の測定したい項目についてのニーズも多様化が進んでおり、課題や予算に合わせた適性検査の導入が進んでいくことが予測されます。

対象者の拡大

新卒採用者向けに検査

現在の適性検査は、多くの応募者が応募してくる中で、基準に満たさない応募者を不合格にするために用いられるケースが目立ちます。

また昨今は採用の早期化、インターンシップを重視する企業の増加、欧米のようなジョブ型雇用の導入が進む動きも見られます。このような動きに伴い、インターンシップの選考時や、インターンシップに合格した学生の理解促進を図るツールとしての適性検査の活用も期待できます。

中途採用者向けに検査

総務省の労働力調査によると2000年以降、転職をしている人数は毎年300万人前後にのぼります。

厚生労働省の令和4年雇用動向調査結果によると、転職者のうち実に男性の8.3%、女性の10.4%が人間関係を理由に以前の職場を離れていることが示されています。中途採用ではこれまで、新卒採用に比べてスキルフィットが重視される傾向にありました。しかし人間関係を理由に転職する人が少なくないことから、中途採用の場面でもカルチャーフィットが重視される流れが加速。適性検査を活用することで、企業も応募者も「自社(自分)に合うか」を客観的にみることが可能です。

全従業員向けに検査

全従業員に適性検査を実施し、その結果を分析することは、自社の成長促進につながります。適性検査を実施するタイミングとしては、定期的に実施して入社以来の能力や価値観の変化をみるパターンと、異動や昇進・昇格時に実施するパターンがあります。

人の性格には、生まれつき備わっている気質的要因と、これまで触れてきた環境によって形成された環境的要因があります。入社以来、能力や価値観がどのように変化したのかを測り、チームの現状や育成方針とのすり合わせなどを行う活かし方があります。また、自分の中にある変わらない価値観を定期的に確認するために活用することも、大きな効果を期待できるでしょう。そのため従業員に対して実施するときは、気質的要因と環境的要因の両面を測定できるものが望ましいといえます。

ただし、すべての従業員に定期的に実施すると、「一人当たり」の形で費用が加算される適性検査の場合、費用が多額になることも考えられます。そのため実施に二の足を踏む企業が出てくることに、注意を払う必要があります。

機能の改善

インターフェイスの改善(対受験者)

今後も売り手市場が続く中で、適性検査の実施が極力応募者にとって負荷をかける行為とならないためには、キャンディデイトエクスペリエンス(応募者体験)の向上に注力していくことが不可欠です。

適性検査はその性質上、どれだけ高い技術を伴う仕組みを導入したとしても、「受検者に回答させる」というアナログな仕組み自体は変わりません。負荷を少なくするためには、動作のスムーズさや見た目の洗練さなどに配慮する必要があります。

コロナ禍では、それまで「対面」が当たり前だったものが次々と「オンライン」に置き換えられました。そのため、応募者がオンラインでの受検を希望する傾向が高まっています。適性検査の受検結果を応募者に開示する企業は多くありませんが、よりキャンディデイトエクスペリエンスを高めていくためには、適性検査の結果を適切にフィードバックしていくことも、重要なポイントになるでしょう。

インターフェイスの改善(対人事)

適性検査をさらに普及させていくには、あまりテクノロジーになじみのない人事でも使いやすいUI・UXを追求することが必要です。従来型の適性検査では、受検者一人につき1枚の回答結果が出てくる形式が主流でした。その形式は選考過程の判断材料や1on1の資料としては十分ですが、応募者全体の比較・分析や活躍している従業員との比較といったことは不得手なケースもあります。導入の目的に応じて、応募者の比較や入社後の活躍状況との相関の分析、採用時からの変化といった項目を簡単に確認できるような設計が求められます。

適性検査をさらに効果的に運用したい場合は、採用管理システムやタレントマネジメントシステムとデータを連携できる仕組みになっていることも重要です。受検者のデータをシステム上で確認したり、未受検者に受検案内を送ったりできる仕組みにより、利便性が向上します。連携する際は細かく閲覧制限をかけながら、受検者やその上司自身も適性検査の結果を確認できる仕組みをつくっておくことで、個人の理解やチームの連携に向けてより有効に活用することが期待できます。

不正受検対策についても、現在すでにさまざまな対策が進んでいます。たとえばWEB受検における対策として代表的なものとして、オンラインでつながった監督者が顔写真付きの本人確認書類や室内を360度確認したり、AIを活用して目線の動きを確認したりするものなどが挙げられます。今後、AI技術の導入によって、カンニングやなりすましを防ぐ取り組みはさらに精度が向上すると予測されます。

使用方法の拡大

人材ポートフォリオ

人材ポートフォリオとは、社内のどこにどのようなスキルや興味関心を持つ従業員がいるかを可視化したものを指します。たとえば人的資本経営の推進に際しては、まず現状とあるべき状態のギャップを可視化することが不可欠とされており、その中で人的ポートフォリオの作成は極めて重要な役割を果たします。適性検査を定期的に実施することで、現状のスキルや価値観を可視化できるだけでなく、その後どの程度理想のポートフォリオに近づいているのかを確認することもできます。

タレントマネジメント

海外ではすでに育成や配置、リテンションといった観点でも活用が進みはじめており、日本でも今後、タレントマネジメントシステムなどと連動しながら活用の幅が広がっていくことが予測されます。

育成

適性検査を用いることで、個人の強みや弱みを可視化することができます。個人のスキルや特性に沿って得意な業務を割り当てたり、逆に足りない部分を埋めるための施策を講じたりするなど、きめ細やかな対応することで、効果的に育成を進めることが期待できます。育成のための施策を講じるうえでは、まず活躍している従業員に適性検査を実施し、共通のスキルや特性を明らかにしておくことも重要です。

配置/選抜

従業員に対して実施することで、その部署で必要なるスキルやチーム単位でのカルチャーを測定し、定量化することができます。新たな人員配置を考えるための材料となるほか、従業員本人にとっては、本人も気づいていなかった適性が浮かび上がることもあります。また、適性検査の結果を選抜に活用することも可能です。自社のリーダー業務に必要な能力や価値観をあらかじめ設定しておき、適性検査で確認することで、納得度の高い選抜を実現できます。

キャリア支援

どのようなキャリアを歩むのが好ましいのかを考えるうえで、適性検査で示されたスキルや価値観は指針の一つになります。適性検査の結果を受検者本人もみられるようにして自身でキャリアを考えさせたり、1on1の場などで上司が部下にフィードバックしたりするなどの活用が考えられます。

リテンション/退職者分析

適性検査の結果を可視化することで、個人の特性に応じた対応が可能になります。またその結果をチーム内で共有することで、心理的安全性の確保にもつながっていくことが期待できます。結果として、適性検査はリテンションにも資するものになると言えるでしょう。

退職者についても、「どのような価値観を持つ従業員が退職しやすいのか」といった相関を分析し、対応を練ることが可能です。エンゲージメントサーベイの結果とかけあわせることも効果的です。

情報の開示

人的資本経営の広がりとともに、今後人的資本情報の開示が進んでいくことが予測されます。たとえば国際標準化機構(ISO)が定めた人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインである「ISO30414」 では、開示すべき項目として「スキルと能力」などを挙げています。適性検査の結果をうまく開示につなげていくことで、企業として魅力の発信につなげていくことができるしょう。

企画・編集:『日本の人事部』編集部