適性検査業務における特徴的な業務、資質

サービス拡販における全体像

適性検査を提供する企業では、下記の流れで業務を進めることが一般的です。

  1. サービスを開発する
  2. マーケティングを行い集客する
  3. 営業活動を行う
  4. コンサルタント/カスタマーサクセスが顧客をサポートする

以前は、リードの獲得から商談、サポートに至るまで一人の担当者が行うケースが多くみられました。ただ近年は、とくにクラウド型(SaaS)の製品を提供する企業において、The Modelの組織体制を取る企業が増加しています。

The Modelとは、米セールスフォース社で実践されている営業活動の分業体制を指します。具体的には、見込み顧客を発掘する「マーケティング」、商談につなげる「インサイドセールス」、受注につなげる「フィールドセールス」、製品の継続利用やアップセル・クロスセルにつなげる「カスタマーサクセス」の領域にわかれます。

The Modelではそれぞれの部署がKPIを設定することで、シンプルな目標に注力することが可能です。The Modelを取り入れることで、営業プロセスの標準化や営業効率の向上につながり、最終的な売上の向上が期待できます。

働く上で必要な資質、考え方

適性検査業界に携わる人材にまず必要なのは、「人と組織、分析への興味・理解」です。まずは、人間の能力・性格や職業との適合性に関する先行研究を確認することが重要です。それらを踏まえたうえで、個人の持つ可能性を最大限に生かし、職場にマッチする人材を追求していく姿勢が求められます。

次いで、適性検査の限界を十分に認識したうえで、適性検査の有効性を信じることが重要です。適性検査の大きな特徴の一つに、「適性検査が示す結果は絶対ではない」ことが挙げられます。人の能力や性格を検査する検査は、どれだけ精度を高めても、どうしても誤差が生じます。適性検査の結果、データ上では「将来活躍が見込める」あるいは「活躍が見込めない」と判断されたのに、ふたを開けてみればまったく逆の結果になる場合もあります。

導入企業の使い方によっては、適性検査が受検者の人生を大きく左右します。企業は適性検査が与える影響の大きさをよく理解した上で活用しなければなりません。

具体的な業務とポイント

ここからは各工程において特徴的な業務内容や、注意点、トレンドなどを整理します。

開発(品質管理)

適性検査の開発は、心理学の知見を基に、人のスキルや能力を測るテストを作成することから始まります。他社の製品を参考にしながら、自社独自の切り口を見出すことが重要です。テストをつくったら、その妥当性や信頼性を検証し、質問項目の取捨選択を行います。意図しない結果となったときは、多様な角度からその要因を突き止め、修正を加えていきます。

テストが完成したら、システムの構築に移ります。受検者全員に同じ問題を提供するケースもあれば、出題した問題に対する回答結果をもとに受検者の能力レベルを推定し、最適な問題を出すケースもあります。また、システム開発においては、よりユーザーが使用しやすいインターフェイスを意識する必要があります。

開発を進めるうえで重要なのは、顧客のニーズを把握することです。適性検査に限ったことではありませんが、研究・開発を突き詰めるあまり、顧客を置き去りにしてしまうケースは少なくありません。顧客に導入されるためには、自社が実現したい世界観と顧客のニーズのバランスを取ることが不可欠です。開発職だけでなく、営業職やカスタマーサクセスらとも密に連携を取ることが求められます。

また、適性検査は、「開発して終わり」ではありません。ブラッシュアップが必要な理由として、下記の理由が挙げられます。

新しい研究結果の発表

人の能力や性格に関する研究は世界中で行われており、人への理解はどんどん進んでいます。適性を予測するのに有効だと思われる理論を、積極的に取り入れていくことが必要です。

技術の進歩

ITツールの劇的な進歩は、適性検査においても大きな影響を及ぼしています。近年はAIを活用する適性検査も現れはじめており、より精度を高めるための最新技術が取り入れられていくことが予測されます。

対策防止

有名な適性検査の場合、高いスコアを出すための対策が出回ることがあります。対策を知っている人だけが有利になるような検査では、適性検査の魅力である公平性や公正性を担保することができません。そのため、誰にとっても常に同じ条件となるよう、品質を維持し続けることが重要です。

受検者の質の変化

たとえば能力検査において、「50問のうち30問解くことができたらスコア50」と設定していたところ、対策が広まることによって、いつの間にか「50問のうち35問解くことができたらスコア50」が適正である状況へと変化することがあります。

適性検査がブラッシュアップされていなければ、本来よりも高い能力を持つ人材として認識されてしまいます。また、時代の流れとともに人の考え方が変化する場合があります。受検者の質の変化は中長期的なスパンで起こるものですが、その変化に併せて問題の内容やスコアの出し方を調整する必要があります。

項目の質の変化

性格検査は、性格を特定の尺度に分類して測定する手法が一般的です。しかし社会の変化とともに、特定の尺度がその時代に生きる人々の性格特性にうまく当てはまらなくなることもあります。項目の質の変化は、受検者の質の変化よりもさらに長いスパンで起こるものだと言えます。適性検査の提供企業には、常に「いま検査で使用している尺度は、測りたい項目を測定するものとして適切か」を検証していくことが求められます。

セールス

The MODEL型の組織では、セールスの中で「インサイドセールス」と「フィールドセールス」に分かれています。インサイドセールスは、マーケティングとも連携を取りながら、見込み顧客に対しテレアポやメルマガ、セミナーを実施してアプローチを図り、 商談を設定します。テレアポやメルマガでは、これまでに効果のあったスクリプトをチームで共有することで、より効果的に進めることが期待できます。

ただし現状をみると、すでに多くの企業が適性検査を導入しています。これから既存製品に換えて自社製品を導入してもらおうと考えている提供企業には、短い時間の中で、現状ではまだ解決できていない課題やコスト面での課題を引き出し、自社の優位性を認識してもらうことが求められます。中には1ヵ月程度の無料トライアル期間を設け、実際の使い勝手を実感してもらってから本契約へと進むケースもあります。すでに自社製品が導入されている企業は、引き続き有効性をアピールすることが必要です。

HR領域では、そのときどきに流行する言葉がありますが、信頼性と妥当性が重視される適性検査においては、安易に流行に飛びつきすぎないことが重要です。流行を意識しながらも、製品そのものの普遍的な良さや使用することで将来得られるメリットを顧客に認識してもらう努力が不可欠と言えるでしょう。

フィールドセールスは、商談からクロージングまでが主な業務となります。多くの場合、商談相手は人事や決裁権を持つ経営者になるため、人事や経営者がどういった課題を抱えているのかを的確に理解することが求められます。そのうえで、例えば採用の場面なら「企業が採用したい人物像」と「適性検査でできること」をすり合わせ、活用イメージを描いてもらうことが重要です。

フィールドセールスでは、企業自身がまだ気づいていない課題を指摘することも大事な業務の一つです。たとえば「新入社員の離職率が高いので、ストレス耐性を見極めたい」と要望する企業があれば、本当にストレス耐性の高低が課題なのか、違う場合には何が問題なのかといった本質を見抜く能力が求められます。場合によっては、適性検査に加えて企業の人事課題を解決するコンサルティングを実施する場合もあります。

他社と協力関係を結び、自社製品を販売してもらうパートナーセールスを置く企業もあります。適性検査は大手企業から中小企業までが販売対象となるため、直販体制でリーチしきれない層に向けてアプローチできる体制を整えることは効果的です。

カスタマーサクセス

自社との適合性を見るための適性検査は本来、「導入してすぐに効果が出る」ものではありません。そのため、短期的に良さを実感してもらうことが難しい製品と言えます。そこでカスタマーサクセスが適性検査を導入した企業に対し、目的達成に向けフォローしていくことにより、顧客満足度を高める必要があります。

基本的に買い切りの製品ではない適性検査は、「継続してもらうこと」が重要です。継続してもらうには、適性検査自体の性能の高さはもちろんのこと、カスタマーサクセスの手腕がものをいいます。営業職と同等のコミュニケーション能力や、お客さまへの提案力が必要だと言えるでしょう。

カスタマーサクセスの業務の範囲は企業によって異なりますが、一般的にはオンボーディングや定期的な振り返り、顧客から寄せられた質問への回答などを担当します。企業が重視している特性と入社後の人材の活躍の相関の分析まで行うこともあり、長期的な付き合いが望まれます。

結果が出ないときに別の切り口を提案することや、顧客の潜在的なニーズを把握して採用の場面以外で活用シーンの幅を広げていくことなども、カスタマーサクセスの果たすべき役割です。また、顧客と深く接する特性を生かして顧客から得られた意見を社内に持ち帰り、製品に生かすことも重要な仕事と言えるでしょう。

企画・編集:『日本の人事部』編集部