グループコーチングサービスの傾向と選び方
組織開発の代表的手法。1対複数だから期待できる効果と導入ポイントを解説

従業員同士のより良い関係性を構築し、組織全体のパフォーマンスを高めていこうとする取り組みが組織開発です。従業員の雇用形態や価値観が多様化している現在、制度や組織図といったハード面だけでなく、従業員の内面に着目して個の力を引き出すソフト面からのアプローチが求められているのです。

今回は組織開発の手法の一つで、グループでのコミュニケーションを通じて相互理解が深まり、集合知が生まれる効果に期待が寄せられている「グループコーチング」を取り上げます。具体的な特徴や有効なケースを整理するとともに、外部サービスの選び方・比較ポイントを解説します。

組織開発とは何か

まずは、組織開発の目的や求められる背景、実践の流れについて見ていきます。

組織開発の目的

組織開発とは、人と人との関係性や相互作用が組織を変えるという考えのもと、関係性の改善や向上によって組織のパフォーマンスを高めていく取り組みのことをいいます。人材開発は「個」に着目して課題解決や能力開発のアプローチを行いますが、組織開発では「人と人との関係性」に着目して相互作用による効果を最大限に引き上げるアプローチを行います。

組織開発の目的は企業が抱える課題によって異なりますが、最終的には、自社のビジョンや目標を達成するための健全かつ変化に強い組織をつくることがゴールとなります。

組織開発が必要とされる背景

組織開発の必要性が高まっている背景には、何があるのでしょうか。現在、企業では、働き方や雇用形態が多様化し、従業員同士の関係性が一様ではなくなっています。その結果、コミュニケーションロスや信頼関係の希薄さが組織全体のパフォーマンス低下をもたらすという課題が浮上しています。この問題を解消するには、個々の人材育成に焦点を当てた人事施策だけでは十分とはいえません。そこで、従業員同士の関係性と相互作用に着目する、組織開発の必要性が高まっているのです。

直近の傾向を見ると、これまでトップダウンの傾向が強かった企業においても、コロナ禍を機に、従業員の自律性を高める組織づくりに強い関心を示すケースが増えています。また、テレワークで従業員同士の接点が減ったことから、従業員エンゲージメントが薄れていると感じる企業も多くなっています。こうした環境下で、組織開発が担う役割は大きくなっています。

組織開発を実践するには

組織開発は、多くの場合以下のようなプロセスで進められます。

1)現状の把握と課題の可視化
まず、組織が目指す方向性やビジョンを明確にし、現状とのギャップや課題を把握します。現状把握では、現場へのヒアリングのほか、組織サーベイを活用するという方法があります。

2)行動計画・実行
続いて、課題解決に向けた行動計画を立て、実行に移します。特定の部門から組織開発を始め、成功例を作りましょう。小規模での導入であれば無理なく始めることができ、その部門をモデルにして効率的に他部門に広めることができます。

3)効果検証・フィードバック
実施した施策は、きちんと効果検証を行い、フィードバックによって改善を進めていきます。

組織開発で重要なのは、トライ&エラーを繰り返しながら、従業員が自ら取り組むプロセスを構築することです。トップの指示通りに動けばいいという状態から脱却し、従業員が問題を自分事として捉え、新たな行動を生み出す姿勢が大切であることを忘れてはなりません。

参考:「組織開発」

組織開発におけるグループコーチングとは

組織サーベイを行ったものの、どのようなアクションにつなげたらいいかわからない、という方もいるでしょう。組織開発には、企業の課題や状況に合わせたさまざまなアプローチがあります。代表的な手法の一つが、グループコーチングです。

グループコーチングの特徴

グループコーチングとは、「1対複数」で行うコーチングのこと。コーチ1人に対し、5~8人ほどのメンバーで実施されることが多くなっています。

進め方は、グループで設定したテーマや課題についてディスカッションやワークに取り組みながら、解決策を見出していく流れが一般的です。コーチは質問を繰り返すことで、参加メンバーの視点や発想を広げ、ゴールへと導いていきます。

テーマは企業が抱える課題によって異なりますが、参考例として以下のようなものがあります。

  • 企業理念や組織のミッションについて
  • 組織の課題を解決するには
  • 新規プロジェクトを成功させるには
  • 次世代リーダーを育成するには
  • 評価と人材育成

どのようなテーマでも、参加メンバーが主体となって考え、アイデアや意見を交わしながら進めていくところがグループコーチングの特徴です。この点で、知識やスキルをインプットする研修スタイルとは異なります。

グループコーチングを実施するメリット

グループコーチングを取り入れるメリットは、まさに現在の組織開発における課題を解決し得るものです。具体的には、次のようなものがあります。

  • 第三者であるコーチが介在することで、メンバー全員の意見を引き出しやすい
  • 他者の意見やアイデアを肯定的に受け止めるコミュニケーション力が身につく
  • メンバーに共通の認識やカルチャーが生まれ、一体感を醸成できる
  • 一つの課題を複数名で考えるため集合知が生まれる
  • 活動を通してお互いへの理解が進み、他者への貢献意欲が生まれる

また、共通の課題を持つメンバーを集めてコーチングするため、時間効率という面でもメリットがあります。

グループコーチングが有効なケース

グループコーチングが効力を発揮する場面はさまざまです。以下に、具体例を挙げます。

  • 特定の組織・グループにおける課題を解決したい
  • 目標やビジョンを共有して、組織の一体感を醸成したい
  • グループメンバーのコミュニケーション量・質を高めたい
  • 多様性を尊重できるチームをつくりたい
  • 従業員の当事者意識を醸成したい

グループコーチングの外部サービスとは

グループコーチングの実施にあたっては、外部のサービスを利用する方法があります。外部サービスを取り入れるメリットと、直近の傾向を見ていきます。

グループコーチングで外部サービスを利用するメリット

グループコーチングを実施するには、コーチに高いレベルのスキルと知見が求められます。コーチは、メンバー一人ひとりの特性やバックグラウンドを理解するとともに、グループという枠組みの中で、個々の考えや能力が生かされるようリードしていきます。

しかし、社内にこうしたスキルを保有する人材が存在するケースは稀です。外部のサービスを利用すれば、高いスキルと豊富な経験を有する人材がコーチングしてくれるため、効果を高めることが期待できます。また、外部の客観的な視点からアドバイスを受けられるというメリットもあります。

グループコーチングの直近のトレンド

これまで、グループコーチングは経営層や管理職を対象として行われることが多かったのですが、最近ではプロジェクトやチームといった現場レベル、次世代リーダー候補者など、さまざまな層を対象に活用されています。扱う題材も広がっており、顧客への価値創造やチェンジマネジメント、戦略的思考など多様なテーマで実施されています。

また、オンラインで実施できるプログラムも増えています。多忙なメンバーでも集まりやすい点が大きなメリットです。

グループコーチングの外部サービスを選ぶときのポイント

ここでは、グループコーチングを外部に委託する際の選び方のポイントを見ていきます。

自社の目的に適したプログラムか

グループコーチングの効果を高めるには、ある程度の回数・期間が必要です。外部のサービスでは、月に1~2回程度の実施で、数ヵ月から1年程度継続するプログラムが多くなっています。

提供会社によって、パッケージ化されたプログラムを用意している場合と、自社の目的に合わせたカスタマイズが可能な場合があります。まずは自社の課題と目的を踏まえて、適切なサービスを受けられるかどうかを確認します。

自社の課題に合わせた提案やサポートがあるか

グループコーチングを組織開発で活用する場合は、自社の現状と課題を的確に把握することから始まります。外部サービスの選定では、自社の課題を深く理解し、最適な提案やサポートをしてくれるかどうかを必ず確認しておきたいところです。

課題抽出や目標設定の段階でつまずいてしまったら、組織開発の計画段階からサポートしてくれるサービスを検討するのも一つの方法です。

オンライン研修への対応はできるか

昨今では、グループメンバーが研修会場に集まること自体が難しいかもしれません。必要に応じて、オンラインでの実施が可能かどうかを確認しておくとよいでしょう。

コーチのスキル・経験値は十分か

グループコーチングの成果を左右するのがコーチの存在です。コーチには、参加メンバーの人となりを理解し、傾聴・承認するコミュニケーションスキルに加え、メンバーのモチベーションを高めながらファシリテーションするスキル、課題解決へと導くコーチングスキルなど、多方面の能力が求められます。事前に確認することが難しいポイントですが、質問できる機会があれば聞いておきたい項目です。

グループコーチングを活用した組織開発ソリューションを提供している全国の企業

グループコーチングは1対1のコーチングでは実現できない相互作用を生み出す

組織開発の必要性は理解しているが何から着手すればよいのかわからない、という声は意外に多く聞かれます。グループコーチングは、人と人との関係性によって相互作用を高めるという目的に対して、たいへん有効です。1対1のコーチングにはないグループという力学が働く中で、メンバーの意識や行動変容を促すことができます。

変化の激しい時代に対応できる組織づくりは、多くの企業が挙げる課題です。組織開発のひとつの手段として、検討してみてはいかがでしょうか。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

HRソリューションの傾向と選び方のバックナンバー

関連する記事