タレントマネジメントシステムに関するユーザーの課題や事例

導入の目的・きっかけ

パーソル総合研究所が2019年に行った「タレントマネジメントに関する実態調査」によると、導入のきっかけは「人事部門として必要性を感じたため」(73.7%)、「経営トップからの要請があったため」(46.7%)との回答割合が多数を占めます。「現場からの要望」は13.8%と少なく、従業員よりも管理部門側からの関心が高いことがわかります。

タレントマネジメントシステム導入のきっかけ

導入の目的としては、「従業員の人事データを一元化するため」が26.3%と最多。次いで「人事データが蓄積しているため、活用を検討していた」が13.2%、「主たる人事システムの付帯機能として備わっていた」が9.9%と続きます。これらの回答から、経営戦略にひも付く人事戦略として新規導入した以外にも、既存のシステムの延長線上で導入したケースも多いことが考えられます。うまくいかなかったケースもあるとみられ、導入企業の約3割が新しいシステムへの移管の検討を行っています。

タレントマネジメントシステム導入目的

実際の活用方法としては、「適所適材の異動計画」(13.7%)、「次世代リーダーの早期育成計画」(12.3%)、「採用における優秀な人材の予測」(9.6%)が上位に来ています。導入状況別に次世代の経営人材育成への注力度合いを比較すると、導入企業では72.4%が注力していたのに対し、未導入企業では37.0%という結果でした。

タレントマネジメントシステムの情報活用方法

一方、未導入企業に導入していない理由について聞くと 「タレントマネジメントシステムについてよく理解していない」が41.8%、「経営トップの関心がない」が38.5%、「有効な活用方法が明確でない」が33.0%と、活用イメージが定まっていないことがわかりました。

タレントマネジメントシステムを導入しない理由

ここ数年で中小企業への導入が少しずつ進んでおり、今後ますます多様な活用事例が蓄積されていくはずです。企業のIT予算も年々増加傾向にある中、各社の人事戦略に応じたシステムの選定が進んでいくことが予想されます。

アンケート結果から見る導入・活用の課題

タレントマネジメントシステムを導入したものの、システムの運用に課題を持つ企業は少なくありません。パーソル総合研究所が2020年に行った「人材マネジメントにおけるデジタル活用に関する調査2020」では、「タレントマネジメントシステム導入の課題」として、「費用対効果が明確でない」「費用対効果が見合わない」「業務プロセスの標準化が進んでいない」「予算が確保できない」「導入によって自社にどのようなメリットがあるかが明確でない」が上位に挙がりました。

また、「タレントマネジメントシステム活用の課題」として、「費用対効果が明確でない」「業務プロセスの標準化が進んでいない」「既存システムとの連携が難しい」などが上位に挙がりました。

デジタルツール導入の課題
デジタルツール活用の課題

企業の失敗例

タレントマネジメントシステムを導入した企業の中には、思うような成果が上げられなかったケースもあります。企業が陥りがちな失敗例を紹介します。

性能やスペック、UIでシステムを選んでしまい、思っていたものと違った、時期尚早だった

「タレントマネジメント」という手段の目的化が起こってしまっている例です。会社によって、有効なタレントマネジメントのあり方は異なります。導入することで何でも解決できると誤った認識をしている場合もあります。

まずは導入企業が自社の現状の課題を整理できているのか、タレントマネジメントシステムの導入によって何を実現したいのかを明確にしておく必要があります。

たとえば退職者が多いという問題が発生している企業が、「退職者予測の機能」に魅力を感じてシステムを導入するケースがあります。しかしまず必要なのは、自社ではどのような退職者が多く、何が課題なのかを知ることです。年齢、社歴、部署、職種、退職理由に傾向はあるのか。「起こってはいけなかった退職」を引き留めるためにはどのような施策が考えられるのか。そういったことを把握しないままに、退職者リスクのある人のリストを手に入れても、実効性のある施策は行えません。

また、退職者の増加が喫緊の課題であるならば、事業にどのような影響があるのか。影響が出た場合、人材を外部から調達(採用)するのか、内部から調達(異動あるいは育成)するのか。こうしたことを洗い出し、施策を行うことも優先順位の高い課題です。

そうすると、今必要なのは、「タレントマネジメントシステム」ではないのかもしれません。もしくは、必須と判断して導入するとしたら、具体的な課題に対して、どのように活用するのかを明確にする必要があります。

導入企業が課題を整理していたとしても、システムのコンセプトや機能をよく理解しないまま導入してしまえば、課題のベストな解決方法とシステムが提供できる手法が合わない、ということが起こりえます。その結果、導入企業が期待していたアウトプットとのギャップを埋めるために手作業で対応する割合が増え、システムは単純なデータ管理のツールとして一時的に活用されるだけになってしまいます。

タレントマネジメントシステムを導入すれば人材データの一元化が容易になると思っていたのに、うまくいかなかった

タレントマネジメントシステム導入前、人事システムを活用していた時点でデータ収集が適切な形で実現できていなかった企業で起こるケースです。具体的には、元々収集していたデータが整備されていない、データの量が不十分である、現存の人事システム以外にもデータが各所に散在していて、集めてくることに苦労している、といった状況にある企業です。

「新しいシステムを導入すれば、自動的にデータが整備され、活用できる。一元化できる」と考えてしまいがちですが、レベルの高いデータ活用を目指し、一元化を実現するためには、ある程度の専門知識と努力を続ける覚悟が必要です。

データの活用目的や収集ルール、従業員への説明もあらかじめ決めておく必要があります。とりあえず収集しておこうという考え方では、従業員からの理解を得られない可能性もあります。

株式会社日本能率協会総合研究所(HRアナリティクス研究室)と 株式会社カオナビ(カオナビHRテクノロジー総研)が2020年に行った「人材データの分析・活用状況や取り組み」実態調査によると、「人材データ分析時の懸念や課題」として「データの項目整備や管理・更新が不十分である」「データが散在している」「どのようなデータを用いれば効果的な分析ができるかわからない」などが上位に挙がっています。

人材データ分析時の懸念や課題

トレンドに左右されて導入した

「人的資本」「ジョブ型」「リスキリング」など、HRのトレンドやバズワードに左右されすぎると失敗につながるケースがあります。これらのトレンドやバズワードのテーマを自社でも取り組むべき課題だと思い込み、その課題解決の打ち手としてタレントマネジメントシステムを活用しても、自社の本質的な戦略に貢献できるものにはなりません。また、「タレントマネジメントシステムがはやっているから」「タレントマネジメントシステムの広告をよく見るから」といった理由だけでタレントマネジメントシステムを導入しても、失敗に終わるでしょう。

人事制度や従業員への案内が追い付いていない

タレントマネジメント実現に向けては、人事制度の改訂や施策の変更が必要になることもあります。目標管理や1on1など、これまで導入していなかった施策を展開する場合や、データ入力を依頼する場合には、従業員にしっかりと周知しなければなりません。

現場の従業員がほとんど使っていない

多くの日本企業では、まだ「タレントマネジメントが確立している」とは言えない状況です。そのような中でタレントマネジメントシステムを導入し、従業員に利用するよう促しても、活用のイメージがわかなければ利用は進みません。

これまで紙やエクセルでまとめていた資料がウェブ上で一括管理できるようになることは人事部門にとってメリットといえます。しかし従業員にとっては、報告の手段が紙からウェブに変わっても大きな工数の削減にはなりません。現場マネジメントの強化やコミュニケーションの活性化といった目的があり、現場で使ってもらいたいと考えていても、実際に従業員が使わなければ、「失敗」となります。

現場でも活用してもらうためには、従業員にメリットを感じてもらうことが大切です。たとえばシステム上で自分と部署、会社の目標のつながりを可視化できたり、自分の能力やキャリア開発の後押しをしてくれたりといった仕掛けが必要になります。

理解しておかなければならないのは、タレントマネジメントシステムは企業の成長を促す人事戦略のためのツールだ、ということです。その理解がなければ、人事部門のための工数削減のためのシステム、できるだけ投資額を低く抑えたいシステムという存在で終わってしまいます。当然、導入によって単純な作業の工数削減を目指すべきです。しかし、その目的は人事部門が「頭を使う時間」を増やすことであり、その時間で行う活動の質を上げることを支援するシステムである、という点をあらためて認識する必要があります。

タレントマネジメントシステムに関するワード月間検索回数データ

2021年5月から2022年4月までの、Googleで検索回数の多い、タレントマネジメントシステムのキーワードの一部を紹介します。タレントマネジメントシステムに興味関心のあるユーザーはこのようなキーワードを入力して情報を探しています。Web上でマーケティング活動を行ううえでは、こうしたユーザーの動向も把握する必要があります。

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タレントマネジメントシステムを導入している企業例

タレントマネジメントシステムをうまく経営に取り入れている企業の事例を紹介します。

サトーホールディングス株式会社

ラベルやラベルプリンタの製造・販売、自動認識ソリューションなどを展開するサトーホールディングスでは、2016年に策定した「人材戦略ロードマップ」でタレントマネジメントの確立を掲げ、2018年からタレントマネジメントシステムの運用を開始しました。社員の基本データや勤怠、目標設定、評価、研修履歴など給与以外のすべての人事情報を一元化しています。部門長が人事を経由せずに情報を確認できるようになったことで、スピード感を持った施策の実行ができるようになりました。

昇進会議でもタレントマネジメントシステムを活用しています。たとえば、課長への昇進を決定する場合、以前は所属長が書いた推薦コメントや過去の評価が記録されたエクセルを確認して判断していたところ、システムの導入により職歴や評価に加え、評価に至ったプロセスなど、さまざまな情報からの多角的な検討が可能になりました。データを基にした適材適所への配置の実現やキャリア形成の後押しに力を入れています。

海外での事業展開に向け、海外の幹部層のタレントマネジメントにも着手。今後は現地スタッフを含めたマネジメントの最適解を探り、タレントマネジメントシステムを活用して創業精神や企業理念、コアコンピテンシーを根付かせる仕組みを展開していく予定です。

株式会社ニトリホールディングス

2032年までに売上高3兆円の目標を掲げるニトリホールディングス。会社を支える一人ひとりの成長を支援するために、学ぶ環境を整え、学んでいる人が評価されて適正な配置が行われることが重要と考え、タレントマネジメントシステムとeラーニングを導入しました。

二つを連携させて一元管理しており、「何をやりたいのか」と「何を学んでいるのか」という情報を合わせることで、配置転換の参考にしています。また、「目指したい部署や職位があるが、まだ能力が足りていない」従業員向けに、次に何を学ぶべきかがシステム上でレコメンドされる仕組みも整えました。

離職防止にも活用しています。たとえば、人が付けた評価は高いのに、システム上では「会社へのロイヤリティが低い」と判断された社員に対しては、ニトリの本当の姿や未来像を伝え、夢や希望を持ってもらえるような働きかけを実施。一歩踏み込んだコミュニケーションが取れるようになりました。

従業員にシステムを使ってもらうきっかけをつくるため、認知度を向上させるインナーコミュニケーションにも注力しています。人事制度や会社の最新情報を紹介する毎週30分の動画番組「ニトリ大学放送局」を社内で制作し、システム上で配信。視聴率も確認しています。ほかにも各部署の仕事を紹介する「ニトリ図鑑」をつくったり、社内報を充実させたりすることで、ニトリの取り組みを伝えています。

導入にあたっては、人事部の社員数削減や効率化といったKPIを一切設定しませんでした。設定したのは、「ニトリのロマンとビジョンを実現するためにはどういう状態にすべきか」といった定性目標のみ。人事は「対話」や「個人と組織の方向性の擦り合わせ」、「企業文化の醸成」などに注力できるようになった結果、仕事は大変になり、人員も増えました。ですがテクノロジーを活用することで、定性目標の達成に近付いている実感を持っています。

江上茂樹氏
<人事パーソンに聞くタレントマネジメントシステム>

「特長のアピール」と
「導入企業との関係性の構築」を期待

長年、さまざまな企業でタレントマネジメントに取り組んできた江上茂樹氏(三菱ふそうトラック・バス株式会社やサトーホールディングス株式会社で人事責任者を歴任)は、人事担当者がタレントマネジメントシステムを提供する企業に期待することとして以下の点を挙げています。

自社のソリューションに関して、他社と比較した特長をもっとアピールして欲しいと思います。経営層や人事部門が持つ課題に対して、「当社のソリューションであれば、その課題を解決できます」といえる強みがあると良いでしょう。

また、タレントマネジメントに特化したソリューションの場合、基幹システムのように重厚なソリューションと異なり、小回りが利く分、他社のソリューションに乗り換えられてしまう可能性があります。そうならないためには、導入後のカスタマーサクセス活動などを通じて定期的にコミュニケーションを図るとともに、導入企業のフィードバックからヒントを得て、新たな機能を開発していくことも必要でしょう。そうすることで、導入企業との長期間にわたる関係性を構築することが可能になるはずです。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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