エンゲージメントサーベイにまつわる仕事

エンゲージメントサーベイにまつわる仕事

福田康隆 著 THE MODEL

福田康隆 著
THE MODEL(MarkeZine BOOKS)マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス(翔泳社)

エンゲージメントサーベイは現在、SaaS(クラウド)での提供が主流です。多くの企業がSaaSと相性の良い「The Model型(ザ・モデル)」の営業体制により、自社で企画・開発したサーベイを販売しています。

ザ・モデルとはSalesforceが提唱したフレームワークで、営業活動をマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスに分業して行います。エンゲージメントサーベイではサーベイ実施後の改善も重要なポイントとなるため、専任のコンサルタントを置くケースもあります。

いずれの職務においても、人への興味関心や、エンゲージメントはどのような場面で上下するのかといった視点が不可欠です。また、顧客から得られた反応や最新の研究結果を業務へ反映させていくことも求められます。

企画・開発担当の主な業務

企画

サービスを提供するにあたっては、まず核となるエンゲージメントサーベイを設計する必要があります。エンゲージメントに関する深い知見やデータの解析能力が必要となるため、データアナリストを採用・育成したり、大学の専門家と連携したりする企業もあります。

エンゲージメントにまつわるデータのチェック

エンゲージメントに関連する学術的な調査結果が記された文献などを読み込み、エンゲージメントに影響を与える要因を理解します。

エンゲージメントにまつわるトレンドの把握

論文や記事、セミナーなどから、エンゲージメントに関していまどのようなトピックが取り上げられることが多いのかをつかみます。

質問項目の検討

従業員一人ひとりのエンゲージメントと深く向き合うとともに、組織全体の強みや弱みを測ることができる質問項目を策定します。策定に当たっては自社で一から検討するほか、海外ですでに使用され、成果が出ている質問を流用するのもいいでしょう。ただし、海外で用いられている質問項目がそのまま日本の状況に当てはまるとは限らないため、日本用にカスタマイズしなければならない場合もあります。

質問項目と結果の検証

社内で検証を行い、一定のレベルに達したところでベータ版としてリリース。得られたデータを基にブラッシュアップを重ねていきます。

アップデート

時代のトレンドや新しい研究成果、利用状況などを踏まえて、サーベイのアップデートを行います。

開発

開発の主体となるのがエンジニアです。SaaS型のシステムは、開発の考え方や流れが売り切り型とのプロダクトとは異なります。“完成形”を追求するのではなく、市場やユーザーのニーズにあわせてサービス設計をしていくグロースハックの視点が重要です。また解約を防ぐために、エンジニアであっても営業・マーケティング組織と綿密に連携し、顧客第一思考で開発を進める必要があります。

一般的な要件定義→設計→開発→テスト→リリース→運用・保守の流れの中で、SaaSおよびエンゲージメントサーベイの特性を捉えた開発を行うことが求められます。

見やすく使いやすいUI/UXの提供

「見にくい」「使いにくい」と感じるシステムは、ユーザー離れにつながります。パソコンに詳しくない人でも使いやすいシステムを構築しなければなりません。ユーザーの視点に立ち、その期待に応えていくことで、選ばれ続けるサーベイを開発することができます。

拡張性のあるシステムの構築

常に未完成状態にあると言えるため、中核となる部分に大きな変更や影響を発生させることなく、新しい機能や性能の向上に向けたプログラムを追加できることが重要です。

高いセキュリティ

SaaS型のプロダクトでは、多くが複数のサービスを同じサーバーやシステムで運営・管理するマルチテナント式を採用していることから、必然的にセキュリティ面でのリスクが高くなります。エンゲージメントサーベイは企業の強み・弱みや個人情報につながるデータを扱うため、強固なセキュリティ環境を構築する必要があります。情報セキュリティの確保を認証するISMS認証やPマークを取得すると、顧客の安心につながるでしょう。

データ分析基盤の整備

エンゲージメントサーベイでは、得られた結果を分析する必要があります。そのため、多数のソースからビッグデータを元のままの多様な形式で保持するデータレイク基盤や、複数のプロダクトのデータ連携の基盤を充実させることが求められます。

改善

SaaS型のシステムには、新しい機能や性能向上のための改善が常に求められます。最新技術を組み入れるだけでなく、顧客の声をよく聴きながら、改修を意味するリファクタリングやリアーキテクチャに取り組む必要があります。

マーケティング担当の主な業務

マーケティングは市場での認知度を高め、自社のブランド価値を高めていくものであり、店頭に商品が並ぶわけではないSaaSのサービスにとっては欠かせない取り組みです。見込み顧客を創出するだけではなく、既存の顧客のつなぎとめや、より高額なプランを勧めるアップセル・関連サービスを打診するクロスセルにつなげていく上でも、大変重要です。

市場調査、分析

エンゲージメントサーベイ市場の現状と、自社がターゲットにすべき企業を調査・分析します。エンゲージメントサーベイを提供する企業が増加しているため、競合他社の取り組みを確認することも重要です。

認知度向上のための広報

エンゲージメントサーベイを導入してもらうには、まず企業の経営陣や人事にエンゲージメントそのものの重要性を認識してもらわなければなりません。そのため、エンゲージメントサーベイと併せてエンゲージメントについても啓蒙していく必要があります。

リード獲得

オンライン・オフラインのマーケティング活動を通して、見込み顧客であるリードを獲得します。そのためには、経営者や人事がいまどのようなことに関心があるのか、課題を感じているのかを把握し、“刺さる”コンテンツを提供する必要があります。直接的に「エンゲージメント」にまつわる情報だけでなく、「マネジメント」や「人的資本経営」など、ユーザーにとって関心のある情報と結びつけるのも効果的です。

リード獲得施策

  • 広告(屋外広告/交通広告/リスティング広告/SNS広告など)
  • セミナー(オンライン/オフライン)
  • 展示会(オンライン/オフライン)
  • テレマーケティング
  • DM オウンドメディア
  • メールマガジン
  • ホワイトペーパー

リードナーチャリング(見込み客の育成)

獲得したリードに対して、リード獲得施策でも用いる手法を使ってコミュニケーションを継続することにより、見込み顧客の購買意欲を高めていくプロセスを指します。商談につながらなかった見込み顧客でも、退職者の増加や投資家による人的資本の開示の要請などによって、その後ニーズが高まっているかもしれません。継続的にコミュニケーションをとり、そのタイミングを見逃さないことが重要です。

営業担当の主な業務

見込み顧客へのアプローチからクロージングまでが営業の仕事です。ザ・モデルの場合、営業は「インサイドセールス」と「フィールドセールス」にわかれるケースがよくみられます。どちらも自社の製品の知識のほか、顧客の課題を理解し、対面の人事のエンゲージメントに関する理解度に合わせて対応することが求められます。

インサイドセールス

見込み顧客のリストの整備から商談の設定までを担当するのがインサイドセールスです。マーケティングと連携してリードナーチャリングに取り組んだり、顧客の期待値を高めた状態でフィールドセールスにつないだりするなど、チーム間での連携について連絡することも求められます。リードに対して電話やメール、Web会議などを使って組織のエンゲージメントに関する課題やニーズを深掘りし、フィールドセールスにつなげます。
 

フィールドセールス

顧客の元を訪れたり、web会議を実施したりすることで、新規顧客への商談からクロージングまでを担うのがフィールドセールスです。顧客企業の課題を解消するために、自社のサーベイがどのように寄与できるのかを伝え、契約締結の判断を促します。エンゲージメントサーベイの場合、サーベイの変化率を見ることが重要であることから、多くの企業が1年以上の契約期間を設けています。

カスタマーサクセス担当の主な業務

カスタマーサクセスは、サービス導入後のサポートを行い、組織の課題を解消する役割を担います。顧客に継続してもらう必要のあるサブスクリプション型のビジネスモデルにおいて、カスタマーサクセスは必須の存在と言えます。サーベイ実施後のサポートが求められるエンゲージメントサーベイでは、さらにその重要性が増します。

運用サポート

エンゲージメントサーベイのオンボーディングから使いこなせるようになるまで、顧客に伴走することが求められます。組織が抱える課題や目標とする状態を正しく理解した上で、サーベイをどのように活用するかを提案していかなければなりません。利用率が低い顧客に対する利用促進も行います。

サーベイ実施後のフィードバック

「サーベイを実施したことで課題はわかったが、どのように解決すればいいのかわからない」という企業は多く見られます。そのような企業に対して、サーベイの分析結果を基にして今後の方向性を示し、組織が取るべき施策などを提案します。経営層と人事の担当者レベルでは、課題として感じていることが異なる場合もあるので、どのようなレイヤーにも対応できるだけの深い知見が必要です。

アップセル、クロスセル

カスタマーサクセスには、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を高めることが求められます。そのため解約を防ぐだけでなく、より便利な機能やコンサルティングサービスが利用できるプランへの変更や、タレントマネジメントシステムやチャットボットなど、関連の高い別のサービスを提案しうることもあります。

コンサルティング担当の主な業務

コンサルタントには、より深いエンゲージメントへの知見と組織課題の本質を見抜く目を持ち、課題解決へとつなげていくことが求められます。カスタマーサクセスがサーベイを活用したサポートを展開するのに対し、コンサルティングはより多様な側面から支援します。企業によっては、カスタマーサクセスやセールスがコンサルティングの役割を担うケースもあります。

現状把握と課題の特定

エンゲージメントに関する深い知識は当然のこと、サーベイデータの解析能力や、他社の成功事例やノウハウに関する知識を持っている必要があります。ときには、組織が気付いていないような隠れた課題を特定する力も求められます。そのため、社内でナレッジを共有する仕組みを構築していることが重要です。

課題解決のサポート

セールスやカスタマーサクセスとも連携し、組織の強み・弱みに基づいて、課題解決に向けた施策を立案します。そのため、定期的に顧客と対話し、正確な課題や社内の温度感、施策の進捗状況を把握しておくことが必要です。「エンゲージメントサーベイ活用」の範疇を超える課題にも解決策を提示することで、顧客が感じる価値をより高めることができます。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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