エンゲージメントサーベイに関するユーザーの課題や事例

サーベイ導入の目的・きっかけ

企業のエンゲージメント取り組み状況

「人事白書2019」でエンゲージメントの重要性について人事担当者に聞いたところ、「大変重要である」が48.6%、「重要である」が41.4%となり、合わせると90.0%に達しました。この結果から分かるように、ほとんどの企業がエンゲージメントを重視しています。理由としては、「組織活性化」「モチベーション向上」「業績との連動」などが挙げられています。

同調査で自社のエンゲージメントの状態を聞いたところ、「高い」が3.3%、「どちらかというと高い」が27.3%で、合わせても30.6%にとどまっています。一方、「低い」は17.2%、「どちらかというと低い」は39.7%で、合わせて56.9%と半数以上を占めました。多くの企業がエンゲージメント向上の重要性を認識しているものの、実際には課題を抱えている現状が浮かび上がります。

業績別にみると、「市況よりも悪い」と回答した企業のうち、エンゲージメントが「低い」と回答した企業は76.1%という結果になりました。

また、「人事白書2021」でパルスサーベイを行っている企業にパルスサーベイの活用目的を聞いたところ、「問題を発見する目的」が78.0%、「施策の効果を検証する目的」が20.0%でした。多くの企業が自社の抱える問題を発見するために、パルスサーベイを行っていることがわかります。

パルスサーベイの活用目的

企業のエンゲージメントサーベイ導入目的

口コミサイトなどでエンゲージメントサーベイを導入している企業の口コミを見ると、さまざまな導入理由が述べられていました。分類すると「離職防止」「コミュニケーションの活性化」「組織に対する満足度・不満足度の把握」「個人における変調の把握」「人材育成」「管理職支援」などがあり、エンゲージメントサーベイが幅広い目的のために導入されていることがわかります。エンゲージメントサーベイを提供する企業には、これらの目的に応えることが求められます。

離職防止

  • 従業員の退職理由を把握したい
  • キャリアアップなど、ポジティブな理由による転職リスクを見つけたい
  • 隠れた離職リスクを発見したい

コミュニケーションの活性化

  • 仕事に対する認識のすれ違いを防ぎたい
  • コミュニケーションの充実度を把握したい
  • 従業員が秘めている思いを知りたい

組織に対する満足度・不満足度の把握

  • 業務内容への満足度・不満足度を知りたい
  • 職場環境への満足度・不満足度を知りたい
  • 部署ごとに抱える課題を明確にしたい
  • 不活性部署を早期に見つけたい

従業員の変化の発見

  • メンタルに不調をきたしている従業員を把握したい
  • リモートワーク導入による精神状態をはかりたい

人材育成

  • ハイパフォーマーを育成したい
  • 従業員のモチベーション要因を確認したい

管理職支援

  • 企業理念やミッション・ビジョンなどの浸透度を把握したい
  • 経営層と従業員のギャップを埋めたい
  • マネジャーの意識改善を促したい
  • 施策の改善や新規施策へ活用したい

エンゲージメントサーベイ導入・活用における主な失敗例

企業や人事が「エンゲージメントサーベイを導入したのに失敗してしまった」ケースの原因としては、「導入目的が曖昧だった」「データの分析ができなかった」「アクションにつながらなかった」といった項目がよく挙げられます。エンゲージメントサーベイを提供する企業は、これらの課題も視野に入れながら顧客に提案しなければなりません。

導入目的が曖昧だった

企業や人事がエンゲージメントサーベイを導入する目的を設定していない場合、十分な効果が得られないこともあります。サーベイは組織の課題や強み・弱みを明らかにしますが、取り組むべき施策を示してくれるわけではありません。目的を設定しないままサーベイを行っても、必要なデータが得られず、無駄になってしまうでしょう。組織の「目指す姿」や課題を明確にし、サーベイを実施することが必要です。

エンゲージメントサーベイを提供する企業は、顧客の目的を確認した上で提案しなければなりません。

データの分析ができなかった

エンゲージメントサーベイの担当者が日常業務に追われ、データを十分に分析できていないケースがみられます。特に1週間〜1ヵ月程度の短いスパンで実施するパルスサーベイでは、データの分析に着手する前に、次のサーベイが実施されてしまうこともあります。データの分析ができなければ、従業員にとって回答の手間が増えるだけ。かえってエンゲージメントが低下するかもしれません。

また、すべての担当者がデータ分析を日常的に行っているわけではありません。そのため、サーベイで取得したデータをどのように扱えばいいのかが分からないケースも多いようです。担当者には、取得したデータをどのように読み解くのか、複数の集計結果をどのように組み合わせるかなど、専門的な知識が求められます。

エンゲージメントサーベイを提供する企業は、「どのような分析ができるのか」「どんなサポートを実施しているのか」を伝えると良いでしょう。

アクションにつながらなかった

アクションにつながらないケースの原因として、「社内で結果の共有が不十分だった」「人事からデータを共有された社員が、何をすればいいのか分からなかった」といったことがあげられます。人事主導で実施したところ、経営陣に課題が伝わりきらず、痛みを伴う施策の実施が許可されなかったケースや、従業員にフィードバックを行わなかったため、課題を解消するための施策への協力が得られなかったケースなどもみられます。

エンゲージメントサーベイを提供する企業は顧客に対して、サーベイの実施だけでなく、その後のフォローもあわせて提案するといいでしょう。サーベイの結果をアクションまでつなげなければ組織は変わらないことを、念入りに説明することが重要です。

エンゲージメントサーベイの導入・活用におけるその他の課題

前項では、エンゲージメントサーベイを導入・活用する際に、よくみられる失敗例をまとめました。本項では、その他にどのような課題があるのか、調査データや口コミから探ります。エンゲージメントサーベイを提供する企業は、具体的な人事の声を参考にサービスを提供することが必要です。

「人事白書」に見る、サーベイ結果の活用における課題や傾向

「人事白書2019」では、エンゲージメントサーベイを実施した結果の活用について、自由記述で聞いています。業績が市況よりも良い企業では、「部門へのフィードバックと、その後の部署内での対話」「従業員や管理職へのフィードバックによる意識づけや、具体的な改善施策の実施」など、フィードバックをしっかりと行っていることが分かりました。

また、「労使に公表し、人事施策や各施策に反映させている」「評価制度・人事制度改訂時の参考資料にしている」などのように人事制度・施策へ反映したり、「上長への報告により、組織の状態把握に利用してもらっている」のように組織開発に活用したりするなど、実施結果を幅広く活用している現状が示されています。

一方、業績が市況より悪い企業では、「数値が低下している従業員の上長と本人へのフォロー」「データを分析し、改善のためのアクションプランを立てる」といったマイナス面への対応に活用するケースが目立ちました。そのほかには「自社では集約のみで、活用は独自には取り組んでいない」「現場では、ほとんど活用されていない」といった回答もみられました。

また、「人事白書2021」でパルスサーベイの結果を活用できているかを聞いたところ、「できている」16.0%、「少しできている」48.0%、「あまりできていない」30.0%、「できていない」2.0%でした。「できている」と「少しできている」を合わせると64.0%、「できていない」と「あまりできていない」を合わせると32.0%であり、行っている企業では結果を活用できている割合が高いことがわかります。

パルスサーベイ結果の活用

パルスサーベイ結果の共有について聞いたところ、最も割合が高いのは「経営陣」の64.0%で、以下「管理職」62.0%、「人事部門」60.0%、「全従業員」28.0%でした。経営陣、管理職、人事部門での共有が多いことがわかります。

口コミからみるエンゲージメントサーベイに対する声

口コミサイトなどでエンゲージメントサーベイを導入している企業の口コミを見ると、主に「時間」「フィードバック」「プライバシー」「サーベイに対する理解」の点で課題を抱えている様子がうかがえます。

時間

  • 質問項目が多く、回答に時間がかかる
  • パソコンでしか回答できない仕組みになっており、不便
  • 結果の画面が見にくい

フィードバック

  • 結果は分かったが、どう変えていけばいいのかわからない
  • 他社のサーベイ結果など、参考となるデータがほしい
  • 回答者へのフィードバックが少ない

プライバシー

  • 従業員数が少ないと、誰がどのような回答をしたのかがわかってしまう
  • エンゲージメントが低い従業員を特定したくなってしまう

サーベイに対する理解

  • そもそも部下が上司に配慮して本音で回答しない
  • サーベイ結果が活用されていない
  • サーベイ結果が高くても離職する人、低くても離職しない人がいるため、効果を見いだせない
  • コストに見合うだけの結果が得られているかが分からない

これらの失敗例や課題などから、エンゲージメントサーベイ結果を活用するには、以下のようなチェックが必要になると言えます。

  • 組織でサーベイ導入の目的を共有できているか
  • サーベイ結果を管理者で共有できているか
  • 部門・部署にフィードバックできているか。またその後、部署内での対話が行われているか
  • フィードバックを受け、管理職や従業員が改善を意識して行動できているか
  • 結果に対して、具体的な改善施策が実施できているか
  • 改善施策をフォローし、どのような成果が生まれているかを確認できているか
  • 定期的にサーベイを実施し、PDCAサイクルを回せているか

エンゲージメントサーベイに関するワード月間検索回数データ

2022年5月から2023年4月までの期間に、Googleで多く検索されたエンゲージメントサーベイのキーワードの一部を紹介します。エンゲージメントサーベイに興味関心のあるユーザーはこのようなキーワードを入力して情報を探しています。Web上でマーケティング活動を行う際は、ユーザーの動向を把握する必要があります。

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エンゲージメントサーベイを利用してきたユーザーの声

藤間美樹氏
<人事パーソンに聞くエンゲージメントサーベイ>

意義のあるサーベイにするために
「本当にそうか」というツッコミ役を務めてほしい

武田薬品工業、参天製薬、積水ハウスなどで人事の要職を歴任されてきた藤間美樹氏は、エンゲージメントサーベイを提供する企業に対し、人事のレベル感に合わせた対応を要望しています。

サーベイを実施する意図は何かということを、企業人事に対してじっくりと追求してほしいと思います。そうした過程で「本当にそうなのか」というツッコミ役を務めてほしい。サーベイを実施するということは確認すべき課題があるわけで、それを明確にするには推論し、仮説を立てて、それらが検証できる設問を立てる必要があります。「従業員が自律しない」という悩みがあれば仮説を立てて、検証でき解決策を考えられるような質問の作り込みが必要です。サーベイはあくまでも手段で目的ではありません。

また、人事とコミュニケーションを取る中で、人事のエンゲージメントに対する理解度が把握できるはずです。これはある種、アセスメントに似ているとも言えます。人事がどのような課題感を持っているかを把握した上で、人事の知識レベルに合わせたサービス・ソリューションを提供することが求められていると思います。

有賀誠氏
<人事パーソンに聞くエンゲージメントサーベイ>

依頼企業ごとの課題や魅力を見つけ出し、
それらをベースに提案してほしい

外資系企業をはじめ、さまざまな企業で人事責任者を歴任されてきた有賀誠氏(株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO、株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌)は、エンゲージメントサーベイを提供する企業に対して、自社の強みと弱みを引き出してくれることを期待しています。

私たちが求めているのは、単にサーベイのオペレーションだけではなく、私たちが気づかなかった課題、あるいは自覚していなかった自分たちの良さなどを発見し、それらを踏まえてサーベイを提案してくれることです。アクションについても、他社の例など多数の選択肢からチョイスし、意味のある提案をしてほしいと思います。

また、同業他社あるいは近い分野の会社と比較したいという気持ちがあるので、スタンダードな質問をしたい。一方で自社に固有の課題があるため、カスタマイズした質問もしたい。両方を求めることは難しいので、わがままなお願いだとは思いますが、こうしたジレンマにうまく寄り添ってくれるとうれしいですね。例えば「50の質問のうち、40問はスタンダードで、10問はカスタマイズしましょう」など、実践から得られたノウハウをもとに提案してもらえると、バランスのよい調査ができると思います。

髙倉千春氏
<人事パーソンに聞くエンゲージメントサーベイ>

エンゲージメントは「組織」から「個人」へ
実施後の行動変容につながるフォローアップが重要

外資系製薬や医療機器企業、大手食品企業で人事の要職を歴任されてきた髙倉千春氏(株式会社ロート製薬株式会社 取締役CHRO)は、エンゲージメントサーベイを提供する企業に対して、サーベイ後のアクションの充実を望んでいます。

エンゲージメントに対する考え方は、従来型の「組織中心」から「個人中心」へと変化してきています。そのため、サーベイも個にフォーカスを当てたものへと変化していかなければなりません。サーベイを提供する会社には、経営理念と社員一人ひとりの価値観の重なりや、ウェルビーイングを土台としたワークエンゲージメントを測る質問とは何なのかを考え、提案することが求められます。

またエンゲージメントサーベイは「やって終わり」ではありません。むしろ、その後の方が大事です。組織のどこに問題があり、どのようなアクションを起こせばいいのか。アクションを起こした結果、組織はどのように変わったのか。単にツールを売り込むだけではなく、そのような観点を持って優れたフォローアップ支援を提供してほしいと思います。

有沢正人氏
<人事パーソンに聞くエンゲージメントサーベイ>

サーベイはカスタム性が重要
企業の目指す方向性とサーベイの提供範囲のすり合わせを

銀行や精密機器メーカー、外資系保険会社などで人事の要職を歴任されてきた有沢正人氏(カゴメ株式会社 常務執行役員CHO)は、エンゲージメントサーベイを提供する企業とユーザーが共に価値観をすりあわせ、企業の思いを織り込んだサーベイをつくっていくことを期待しています。

目指す方向性や文化は、企業ごとに異なります。そのためベンダー企業には、パッケージをそのまま売るのではなく、企業の考え方やニーズを理解し、どのような質問項目が必要なのかを考えてパッケージに織り込んでいくことが求められます。人事がサーベイ結果について「なぜこのスコアになったのか」を考えられるよう、データをできる限り細分化して提供してくれるとありがたいです。

エンゲージメントサーベイを活用する際は、ユーザーとベンダー双方の期待をすり合わせることが重要です。ユーザーは自分たちの思いを正確に伝える必要があります。ベンダーは自分たちのプロダクトで何ができて何ができないのかをしっかりと把握した上で、ユーザーの思いに応える提案をしてほしいと思います。互いに真摯に向き合い、一緒になって最適なサーベイをつくりあげていくのだという気概を持ってほしいですね。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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