企業のメンタルヘルス対策をどのようにサポートしていくべきなのか

景気回復に向けた明確な動きが見えぬまま、迎えた2011年。厳しい経営環境は当面続くと考えられるが、人事部にはこれまで以上に、企業の舵取り役として重要な役割が求められるだろう。それでは、実際に人事の現場で実務に携わる人たちは、現状をどのように捉え、今後はどうしていこうと考えているのか――。今回は、人事担当者5名にお集まりいただき、『日本の人事部』編集部が現在の人事の重要課題に関する「生の声」を聴いた。

人事サービス業に携わる皆さまには、今後のサービス向上や業務支援を行なっていくためのヒントにしていただきたい。

Theme 1:キャリア開発

司会(『日本の人事部』編集部): 昨年は、「キャリア」 という言葉を頻繁に聞いたように思います。皆さんの企業では、社員の「キャリア開発」というテーマに、どのように取り組まれていますか。

人事A: 人事部門ではキャリア開発の重要性を認識していて、経営陣にも説明しているのですが、なかなか理解を得られず、苦労しています。一部の役員は「考えなければいけない」と危機感を抱き始めているようですが、同時に「優秀な社員から辞めてしまうのではないか」という考えも未だにあるようです。世間一般の注目度の高さと比較すると、うちの会社はまだまだ遅れていますね。キャリア開発に関する施策を導入するには、しばらく時間がかかりそうです。

人事C: 施策を導入するには、まずトップの理解が大事ですからね。うちはトップの一声で、数年前から研修を行なうようになりました。もちろん、そこに至るまでは、いろいろな根回しがあったわけですが…。もともと「キャリアは自分で考えるべきで、会社がサポートするようなものではない」という考えだったのですが、「人材が育つことで、組織も強くなる」ことを地道に伝えてきた結果、理解を得られました。

司会: しかし、全社的に意思を統一することは難しいでしょう。特に現場をコントロールしているマネジャーたちには、「この忙しいのに研修なんて…」という考え方が多いのではないですか。

人事C: そこで、まずはマネジャー向けにキャリア研修を行なうことから始めました。実際に効果があることや、研修によって「気づき」が得られることがわかれば、必ず現場にも浸透していきますから。

イメージフォト人事B: キャリア開発自体の重要性は認識しているのに、一方で問題が多いのが若手社員です。最近の若手は学生時代の就職活動を通して、「自己分析」をしっかりと行い、キャリアについて深く考えています。これには良い面もありますが、自分なりのゴールを明確にしすぎていて、融通が利かないことも多い。例えば、入社後に自分の描いていた理想と違っていることがわかったり、希望通りの部門に配属されなかったりすると、すぐに「自分の力を発揮できるところが他にあるのではないか」などと考えてしまう。

人事E: 自分にとって都合がいいことばかりを考える傾向が強いですよね。私は、もし自分の理想ではない仕事だったとしても、決してキャリアの上で無駄ではないと思います。特に若いうちは、とりあえず自分が担当することになった仕事を、一生懸命やるべきじゃないかな。それによって、新たに見えてくることもあるし、周囲も必ず見てくれていると思うんです。こういう考え方は、もう古いのかな(笑)

人事D: 一番問題なのは、与えられた仕事をやるだけで、キャリアについて考えず、長い年月を過ごしてしまうことでしょう。自分の能力や動機、自分が置かれている環境を考慮しながら、現実的にどういう仕事がしたいのか、将来どうしていきたいのかを、節目ごとに考えていくべきだと思います。

人事C: そういう意味では、新年という大きな節目を迎えた今こそ、自分のキャリアについて考える必要があるということですね。ただ、お話をうかがっている限り、多くの企業が組織的にキャリア開発には取り組めていないようですね。

司会: 実際、『日本の人事部』の勉強会「HRクラブ」でも「キャリア開発」をテーマとして取り上げましたが、「まだ取り組めていない」という企業が大半でした。

人事B: だからこそ、人事部が社員に働きかけ、「自分自身の役割とは何か」「将来の目標は何なのか」を考えるよう、背中を押してあげるべきではないでしょうか。ただし、あくまでも社員自身がキャリア開発の重要性を認識し、自ら考え、自分なりのキャリアプランを作っていくことが重要。人事はあくまでもサポートする役割であることを、決して忘れてはいけないと思います。

Theme 2:若手人材育成

司会: 企業にとって厳しい経営環境が続いていますが、この状況を何とか乗り切って、5年後、10年後には大きく成長していかなければなりません。その頃、企業の中核を担っているのは、現在の若手社員。皆さんは、最近の若手社員をどのように評価していますか。

人事D: 最近の若手社員には、主体性が不足していると思います。受身の姿勢で、自ら課題を発見しようとはしない。先ほどのキャリア開発の話しにもつながりますが、すぐに答えを求めようとしますね。本当は、自分で考え、答えを導き出すことが重要なのに。自分から学ぶことの重要性を気づかせるような教育が必要だと思います。

人事E: いわゆる「ゆとり世代」というのでしょうか。叱られることに慣れていない若手が多いように感じます。しかし、叱るときは叱り、褒めるときは褒めるという姿勢で接しないと、人間は成長しません。情熱を持って指導すれば、必ず「想い」は伝わるはずです。

人事C: 若手社員だけの問題ではなく、若手の気持ちを引き出せない人事にも問題があるのではないでしょうか。若手社員を批判することは簡単です。しかし、私は、そういう世代であることを認識した上で、彼ら彼女らにふさわしい指導を行なうべきだと思います。若手社員が自ら考えることができるような仕組みを作っていくことが重要です。

人事A: そのためには、若手社員に常に目をかけ、何かあったらフォローアップし、フィードバックすることが大切ですね。若手本人が自主的に話してくれるよう、心を開かせる――人事には、メンターとしての役割が求められているのだと思います。

人事B: しかし、それだけでは不十分で、本当に若手社員の成長を期待するのなら、いわゆる「修羅場体験」も必要だと思いますね。今後は、ビジネスのグローバル化がさらに広がっていきますから、当然、若手社員が厳しい環境に置かれることも増えるでしょう。そこで、どれだけの決断や判断の「経験」を積むことができるかが重要です。その積み重ねの結果、多くの「気づき」が生まれ、若手社員は成長します。そうすれば、企業も大きく成長することができると考えています。

Theme 3:メンタルヘルス

司会: 昨年6月に政府が閣議決定した新成長戦略では、2020年までの目標として「メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合100%」が掲げられています。これを受け、9月には、厚生労働省の「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」が、ストレス検査の義務付けを提言する報告書を公表。企業にとって、メンタルヘルス不調者の早期発見と適切な対応が、今後はさらに大きな課題となりそうです。

人事E: 正直にいうと、うちの会社では「予防」としてのメンタルヘルス対策を全く行なっていません。そこまでの余裕がないというか…。何か問題が発生したら、その都度対処する、ということの繰り返し。人事担当者としては、これではいけないと思っているのですが。

人事D: うちも、何か問題が発生してからの「対症療法」が多くなってしまっています。しかし、これからは「予防」が何よりも必要だと考えています。今まで人事制度の整備などに追われていましたが、少し落ち着いてきたので、今年は手付かずだったメンタルヘルス対策に着手しようと考えています。

司会: 対策としては、ベンダーのサービスをパッケージで導入している企業が多いようですね。

人事C: しかし、それでは、自社に本当に合ったものとはいえないかもしれません。人事としては、メンタルヘルス問題についてしっかりと考え、自社の方針をしっかりとベンダーに伝えた上で、自社に最も合った対策を作っていくべきだと思います。

人事B: 一緒に作っていこうという姿勢が重要ですよね。うちでは、人事担当者と現場のマネジャー、産業医が一体となって取り組んでいます。ただ、それでも判断に迷うことばかりです。プライベートに関わることや、法的な問題など、考えなければいけないことが山積していますから。

人事A: 昔と比べて、メンタルヘルス不全は明らかに増えています。しかも、問題の根が深い。人によって受けとめ方は異なるため、それぞれに違う対応が必要で、マニュアルだけでは対応できません。そういった意味でも、私は、人間的に「幅」のある人が社内にどれだけいるかということが重要だと思います。

人事C: メンターや相談役になれる人が必要、ということですね。しかし、いまの企業には「傾聴力」のない管理職が多いのが実情だと思います。予防策として、まずはそういう研修から行なうべきかもしれませんね。社員・会社それぞれの立場をしっかりと認識していて、部下の小さな変化にも気づくことができ、話を聴く姿勢がある…。そういう上司として当たり前のことができる人材が増えるべきだと思います。

司会: 皆さんの人事の課題に対するお考えが、とてもよく分かりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。


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