会計監査の世界から情報技術を融合した経営会計コンサルティングの実現へ
時代の波に乗りながら自身も組織もレベルアップに挑戦していく

株式会社ビジネスブレイン太田昭和 代表取締役社長

小宮 一浩さん

小宮 一浩さん(株式会社ビジネスブレイン太田昭和 代表取締役社長)

あらゆる分野で企業間競争が激化している現代。本来のビジネス領域に経営資源を集中してイノベーションを生み出すためには、どの企業にとってもバックオフィスの効率化は避けられないテーマです。そんな企業の強力なパートナーとして存在感を高めているのが、株式会社ビジネスブレイン太田昭和(BBS)。大手監査法人のグループ企業としてスタートした同社は、制度会計・管理会計などの業務システムの導入コンサルティング、設計・開発、定着に強みを持ち、さらには蓄積したノウハウをベースに会計・人事・給与計算などのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスも提供。「企業の総合バックオフィスサポーター」へと進化しています。長らくコンサルティング部門の責任者を務め、2020年より代表取締役社長として同社を率いる小宮一浩さんに、BBSとともに重ねてきたキャリア、同社サービスの特色、日本企業の課題や今後の展望などをうかがいました。

Profile
小宮 一浩さん
株式会社ビジネスブレイン太田昭和 代表取締役社長

こみや・かずひろ/1962年生まれ。立教大学卒業。公認会計士試験合格後、監査法人にて監査経験を積み、1998年株式会社ビジネスブレイン太田昭和に入社。2013年取締役執行役員、2018年代表取締役専務執行役員。2020年6月より現職。

大手ではできない経験を積んだ新人時代

監査法人からキャリアをスタートされたとお聞きしました。学生時代は公認会計士をめざして勉強に打ち込まれたのでしょうか。

もともと会計士をめざしていたわけではありません。学生時代は友人たちと一緒に夏はテニス、冬はスキーといったサークル活動に打ち込む、ごく普通の生活でした。転機は会計学のゼミに入ったこと。そこではじめて公認会計士という仕事があること、ゼミのOBにその分野で活躍している人がたくさんいることを知りました。

当時はバブル期で就職先には困らない状況でしたが、ゼミの先生や先輩たちから「会計士の勉強をしてみたら?」と誘われるうちに、しだいに会計のおもしろさや魅力に気づきました。また、国家資格があれば自分の強みになるし、親が家業をやっていたので、将来それを継ぐとしても会計の知識は役に立つだろうと考えたわけです。

周囲の後押しもあり、流れに身を任せてはじめた受験でしたが、やっていくうちに本気になっていきました。就職活動もして数社から内定をもらったのですが、入社はせずに家の仕事を手伝いながら勉強を続けました。2次試験に合格したのは大学卒業後4年目の1990年で、バブル崩壊の直後。大手監査法人の求人はなかったこともあり、比較的小規模な井上監査法人にお世話になることになりました。

監査法人ではどのような仕事を経験されたのでしょうか。

一般的な会計監査の業務です。クライアントには優良な上場企業が何社もあり、それを大手監査法人の一部門くらいの人数ですべて担当します。新人時代から監査業務を幅広く経験することができ、2~3年でインチャージ(現場責任者)も任されるようになりました。大手に入っていたら考えられないことでしょう。同時に徒弟制度のような、非常に厳しい社風もあったので鍛えられましたね。結果的に最初のキャリアとしては非常に良かったと思っています。

その後、現在のビジネスブレイン太田昭和(BBS)に転職されます。キャリアアップに対してはどんな思いがあったのでしょうか。

井上監査法人には約8年勤めました。3年目には3次試験にも合格し、仕事は順調でした。ただ、当時は今と違ってパートナー任期によるローテーションはありません。同じ企業をずっと担当するので、決算を3回くらい経験すると大体わかってきます。悪くいえば慣れて目新しさがなくなってしまうんですね。それもあって新しいキャリアを模索したいという気持ちがわきあがっていました。

実際、会計士には監査法人の仕事を続ける人もいれば、独立して開業する人、専門知識を生かして他業界に行く人などさまざまな選択肢があって、日本公認会計士協会ではそういう人たちのための転職のあっせんもしています。その協会から「こんな求人がありますよ」と提案されたのがBBSでした。

1990年代は多くの企業でコンピューターシステムが新しくなっていった時代です。汎用機といわれる大型のオフィスコンピューターがどんどんパソコンに置き換えられていました。会計の世界でもそれまでの手書き、電卓の世界がLotus Notesやエクセルで一気に効率化されていきます。そういう状況を目の当たりにしていたので、これからはITの時代になるだろうという予感はありました。そんなときにBBSの話が舞い込んできたので、期待をもって新しい世界に転職することにしました。

関係のある業界とはいえ他業種への転職ですね。

当時のBBSは太田昭和監査法人(現・新日本監査法人)の系列企業で、監査法人から転職しても違和感はないと聞いていました。実際に入社してみても、それはその通りでしたね。最初に所属したのは公認会計士の有資格者を集めたCPA室。会計システムなどの導入を検討しているクライアントに、グランドデザインや基本構想を提案していく上流コンサルティングの専門部隊です。

当然ですが会計だけでなく、システムの専門知識も求められます。プロジェクトは、会計士と経営コンサルタント、システムエンジニアの三者がチームを組んで進めるのですが、BBSでは会計士にもシステムを学ばせるというのがポリシーでした。

この頃の主流はパッケージではなく、テンプレートで一から構築していくスクラッチ開発です。コンピューターの仕組みからわかっておいたほうがいいので、上流だけでなく設計・開発、さらに定着化まで全工程に関わらせてもらいました。今から考えると中途採用した専門人材にもそれだけの教育投資をしていたわけです。非常にいい経験になりました。

どのような経験が今に生きていますか。

小宮 一浩さん(株式会社ビジネスブレイン太田昭和 代表取締役社長)

コンサルタントとしていちばん大きかったのは、多くの企業を見ることができたこと。監査法人時代も含めて業界それぞれの考え方を知ることができ、ものすごく勉強になりましたね。特に損保、自動車、エネルギーなどの業界には長く携わりました。

テーマ別ではIFRSの考え方や導入、連結の仕組み、子会社の管理、IPO、内部統制(J-SOX)など。業務システムにもその時々でいろいろなトレンドがあります。最近だとインボイス、電子帳簿など。当社はそういった最新トレンドにまつわる情報提供、コンサルティングも得意にしています。本部長くらいまではプレイングマネジャーとしてそういったプロジェクトに関わりました。

役員になってからは次世代層の育成を意識するようになりました。人材づくり、組織づくりです。また既存ビジネスを伸ばすだけでなく、新しい事業を考えるようにスタンスも変わりました。世の中の流れを捉えて新事業を構想していくことは経営の重要な役割です。

以前の当社は制度会計・管理会計が中心でしたが、現在ではバックオフィス全般へと事業領域を拡大しています。私が役員になった頃から特に力を入れているのが、業務全般を請け負ってセンターで処理するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。この方針を決定したのは当時の社長ですが、私もプロジェクトの一員としてBPOセンターの立ち上げなどを担当しました。

2020年に現職の代表取締役社長に就任されています。トップとしてまず何から手がけられたのでしょうか。

当社は今年(2022年)、55周年を迎えた歴史ある企業です。その間、社会情勢は変化してきましたが常に結果を出し続けてきました。そのポテンシャルは非常に大きいと思っています。トップになってまず考えたのは、当社をもう一段階レベルアップさせたいということでした。

もうひとつはブランディングです。BBSという略称は業界では知られていますが、一般にも広く浸透しているとまではいえません。従業員が家族に誇れる、友人にも紹介できるような存在にしていきたいという思いもあります。

企業の総合バックオフィスサポーターとして

あらためて現在の貴社のサービスについてお聞かせください。

創業以来の強みとしてきたのが「経営会計」、いわゆる企業の会計に関連するコンサルティングやシステムの開発です。最上流のコンサルティングからシステム設計・開発、さらに導入から定着までのトータルなプロセスをワンストップで提供できる「BBSサイクル」が特色です。

現在はそこをベースに、クライアントのバックオフィス全般を支援するサービスへとビジネス領域を拡大中です。コンセプトは「企業の総合バックオフィスサポーター」。近年は人手不足で多くのクライアントが定着の部分に課題を抱えています。できればその業務を全部請け負ってもらえないか、というニーズに応える形で立ち上げました。主に会計・人事・給与計算などを当社のBPOセンターが担います。また保険の代理店システムに関するコールセンター業務もスタートさせました。

新ビジネスという位置づけのBPOサービスの売上は、全体の中でどの程度の割合でしょうか。

現状では25~26%です。当面はそれを30%にもっていくのが目標です。システムコンサルティングなどのIT分野は社会情勢の影響を受けやすく、実際リーマンショックや東日本大震災直後などにはかなり落ち込みました。それに対してBPOサービスは日々の業務なので、そこまでは変動しません。確実に売上が見込める分野が30%あるというのは経営の安定にもつながります。ただ、昨今はクライアントのIT投資が堅調でシステム分野がかなり伸びており、BPO自体も成長してはいるものの、まだ30%には達していない状況です。

貴社は「波乗り経営」を掲げ、「半歩先」を見すえたマネジメントに取り組んでいるとお聞きしました。

「波乗り経営」は当社の創業者の言葉で、代々のトップも大切にしてきた経営姿勢です。サーフィンをやったことがある人はわかると思うのですが、波頭の先端に乗ろうとすると落ちてしまいます。しかし後ろのほうでは波自体に乗ることもできません。ちょうどいいのは先端から半歩くらい下がったあたりです。

経営も同じです。時代の波に乗ることは大事ですが、先に行き過ぎるなということです。当社は決して大企業ではなく、特に現代は「VUCAの時代」といわれ、何歩も先を見通すようなことは誰にもできません。半歩先を見て着実に経営していくことが大切だという考え方は今でも十分に通用するでしょう。

本業を核としてその周辺にサービス領域を拡大している今の方向性は、まさにこの経営姿勢に基づくものです。私自身は残念ながら創業者と一緒に働いたことがないので、直接目にしたわけではないのですが、この堅実な考え方はとても当社らしいと思っています。

現在、経営者として注力されていること、取り組まれていることを教えてください。

企業として一段階レベルアップさせたいとお話ししましたが、具体的には現在300億円強の年商を、社長就任から10年を目安に1000億円にしていきたいと考えています。その目標に向けて中期経営計画で掲げているのが「Make Hybrid Innovations」という考え方です。

先ほどの「波乗り経営」でもお伝えしたように、既存のものと新しいもの、あるいは既存のもの同士を組み合わせながら、半歩ずつイノベーションに近づいていきたいと考えています。昨今のトレンドであるクラウドやAIの技術も、当社が持つ既存の知見と組み合わせる形で展開しています。

社内で重視しているのは人材です。当社が創業以来提供してきたのはサービスで、いわゆるモノづくり企業ではありません。その意味では人がすべてであり、企業としてのレベルアップには人材のレベルアップが欠かせません。社内では「人財」という言葉を使っています。

特に重視しているのは次世代リーダー育成です。リーダーにもさまざまなタイプがあって、プロジェクトマネジャー、事業部長、経営陣など、それぞれ適性は異なります。優れた部長が必ずしも優れた経営者になるわけでもありません。各リーダーの役割を明確化し、その役割をしっかり果たせる人材を育てることが重要です。

現状でいちばん不足しているのは、現場を支えるプロジェクトマネジャーです。当社ではITと会計の両方がわかる人材が求められますが、どちらもわかる人はそもそも市場にほとんどいません。そのため、ITのわかる人に会計を教える、会計のスペシャリストにITを学んでもらう、といったことに以前から取り組み、実績を積み上げてきました。

小宮さんご自身も、入社後にITの知識を身につけられたとお聞きしました。教育のノウハウも貴社の強みなのでしょうか。

基本的にはOJTで学んでもらいますが、私たちの時代とはすでに異なる部分もあります。たとえばITといってもクラウドとパッケージでは求められる専門知識がかなり違います。まず大前提として携わりたい気持ちが必要ですが、さらに自分はこれからどの分野で生きていくのかを見すえて自律的にキャリアを選択することも重要です。会社としても個人の志向やレベルを把握して必要な研修機会を提供し、支援していくことが欠かせないと思っています。

顧客とのセッションで最適解を探る

現在の日本企業の「経営」「会計」「DX」などの現状や課題についてどう捉えていらっしゃいますか。

現在はDXやAIの活用といったテーマが注目されていますが、先の見えない時代であり、今後はどうなるかはわかりません。業界全体が変わろうとしているところもあります。自動車業界ではエンジンのついた車が電気自動車にかわるだけでなく、さらにその先のモビリティーという考え方に移行しつつあります。

いずれにせよ、人も組織も柔軟にすばやく変化できるようにしておくことが重要です。以前なら組織を数年かけて変えていたかもしれませんが、これからは半期、四半期で変えていく時代になるでしょう。人材の育成も大切です。当社も取り組んでいますが、それぞれにあった研修プログラムを組めるように企業側がキャリアプランを提示していくことが、これまで以上に求められるのではないでしょうか。

そうした企業の課題解決を担うのが貴社も含めたコンサルティング業界の役割かと思います。日本のコンサルティング業界についてはどうお考えでしょうか。

小宮 一浩さん(株式会社ビジネスブレイン太田昭和 代表取締役社長)

日本のコンサルティング業界は、欧米のそれをお手本にしてきたところがあります。海外の先進的なメソッドを参考にして、さまざまな課題を解決してきました。しかし、経営環境が急速に変化する中で、徐々に従来の理論が通用する保証はなくなってきています。そこに乖離が生じているように思います。

当社の場合は、いわゆる戦略系コンサルティングではなく、業務とシステムという現場に密着した課題を扱っています。それだけに顧客と一緒に考え、日々の業務を泥臭いかもしれませんがひとつずつ効率化していけるようにやっていきたいと考えています。

貴社がコンサルティングサービスを提供する上で常に心がけていることをお聞かせください。

まさにクライアントと一緒に歩んでいくことです。システム導入もクライアントの言いなりになっていてはうまくいかないことが多々あります。専門家の視点から「ここは絶対こうしたほうがいい」と主張すべきときもあり、真剣に向き合って議論していくことが大事です。

もちろん現場での業務経験や知識をいちばんたくさん持っているのは顧客なので、当社が提供できるのは、他社の事例、技術的に可能なことなどの情報です。そうやってクライアントに選択肢を示し、その中から最適解を見つけ出してもらうやり方です。そのため当社のコンサルティングはセッション形式が中心。業務を題材としてフラットにセッションしながら、どうすればいちばん効率的かを探り当てていきます。

自分のことだけでなく社会貢献の視点も

今後、貴社で新たに手がける事業などがありましたらお聞かせください。

新ビジネスについてはいろいろと構想中です。すでに実現しているところでは、昨年上場させたセキュリティー分野の子会社(グローバルセキュリティエキスパート株式会社:GSX)があります。主にサイバーセキュリティー教育を浸透させ、社会をバージョンアップすることをミッションとする会社です。

当社はビジネスを通しての社会貢献という視点も重視しています。社会に価値を提供できなければ事業も伸びません。今、とりわけ重要だと考えているのはSDGsです。属性にかかわらず能力のある人材がスポットライトを浴びる時代にしなければなりません。

他にも新事業を展開している子会社があり、さらにIPOをめざせるような存在を増やしていければ、グループ全体としても成長できると考えています。今後は確実に人手不足が進展するので、RPA関連などは次の有力候補かもしれません。

最後に、人材サービス、HR・ソリューション、経営コンサルティング、法人向け業界などで働いている若い読者の皆さんに向けて、ビジネスで成功するためにやっておくべきことなど、アドバイスをお願いします。

ありきたりかもしれませんが、経験をたくさん積むことでしょう。若い頃は多少失敗しても大きな痛手にはなりません。がむしゃらにやってほしいと思います。慎重にキャリアを選ぶことも重要ですが、将来がはっきりと見通せる人はいません。私も公認会計士をめざしたとき、BBSに転職したときは、いずれもそのときの流れで決めたようなところがあります。流れに乗りながらいろいろな経験を積むことで、自分の天職がみつかるのではないでしょうか。

同時に、判断する際に持っておいたほうがいい視点もあります。給与が高い仕事を選ぶのもひとつの判断ですが、自分のことだけでなく、もう少し大きく社会のためになる仕事かどうかという基準も大切にしたいところです。これはキャリアを重ねる中でちょっとした壁にぶつかったときにも有効です。

人の成長には段階があり、一段あがったら自分はものすごく仕事ができるという気になるものです。しかし、順調に伸びるときばかりではありません。失敗して壁にぶつかって落ち込むこともあるでしょう。そんなときは視点を変えて、社会について考えてみてほしいと思います。そうやって違う角度から見ることで、必ず打開策は見つかるものです。

小宮 一浩さん(株式会社ビジネスブレイン太田昭和 代表取締役社長)

(取材:2022年8月30日)

社名株式会社ビジネスブレイン太田昭和(BBS)
本社所在地東京都港区西新橋1-1-1 日比谷フォートタワー 15F
事業内容経営会計コンサルティングやシステム構築・運用、ビジネス・プロセス・アウトソーシングを提供
設立1967年8月

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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