「アンコンシャス・バイアス研修」の傾向と選び方
~ダイバーシティ&インクルージョン推進に欠かせないトレーニングプログラム~

「アンコンシャス・バイアス研修」の傾向と選び方

「アンコンシャス・バイアス研修(トレーニング)」とは、「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)の概要を把握した上で、組織や個人に偏った視点・見方がないかを見直し、行動変容を生み出していくプログラムです。近年、日本企業ではダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の重要性が叫ばれていますが、なかなか進展していないのが実情。その要因の一つとして注目されているのがアンコンシャス・バイアスです。この概念が、組織に望ましくない影響をもたらしていると言われ、「アンコンシャス・バイアス研修」を導入する企業が増えているのです。

そこで『日本の人事部』では、アンコンシャス・バイアスの正しい理解と対処法を学ぶ「アンコンシャス・バイアス研修」の概要を整理。実施するメリットやサービスの比較、選び方のポイントについて紹介します。

1.「アンコンシャス・バイアス」とは

「アンコンシャス・バイアス」とは

1-1:「無意識の偏見」

アンコンシャス・バイアスとは、「アンコンシャス(unconscious)=無意識」と「バイアス(bias)=偏見」という二つの単語から成り、日本語では「無意識の偏見」「無意識の思い込み」などと言います。過去の経験や知識、価値観などに基づいて自動的に認知したり、判断したりするもので、自分では「偏ったものの見方や考え方をしている」とは気付いていない点が特徴です。

例えば、「雑用は女性や若手社員の仕事」「定時で帰る社員は仕事のやる気がない証拠」「最近の若者は覇気がない」などは、アンコンシャス・バイアスの事例といえます。これは、特定の人だけに見られる偏見ではありません。誰もがバイアスを持ち合わせています。また、全面的に「悪」というわけでもありません。無意識の思い込みがあることによって、物事をスピーディーに思考し、判断していける一面があるからです。

1-2: 意思決定に悪影響を与える可能性も

問題は、アンコンシャス・バイアスが放置されたままになると、組織の意思決定にネガティブな影響を与えてしまいかねない、ということです。最近の心理学や脳科学の研究成果によって、アンコンシャス・バイアスは文化や価値観が異なる人間同士、およびそれらのメンバーから構成される組織に悪い影響を及ぼすことが明らかになってきました。そこで、社員一人ひとりに無意識の偏見や先入観があることを気付かせ、組織運営への悪い影響を取り除いていく取り組みが必要となってきているのです。

アンコンシャス・バイアスが組織に及ぼす悪影響としては以下のようなものがあります。

  • 性別」や「年齢」に対して無意識の偏見を持ったまま、採用や昇進、評価、人材育成など人事に関わる意思決定をすると公正さを欠いてしまう。長期的には従業員の不満につながり、定着率や業績が低下する
  • 職場のコミュニケーションを悪化させ、組織や個人のパフォーマンスやモチベーションを低下させたり、ハラスメントを増加させたりしてしまう
  • 組織の多様性を阻害する恐れがある
  • イノベーションを創出しづらくなる

いずれも、ビジネス上の大きなリスクです。それだけに、アンコンシャス・バイアスの知識を身に付け、しっかりとした対策を行っていく必要があるといえるでしょう。

2.「アンコンシャス・バイアス研修」とは

「アンコンシャス・バイアス研修」とは

2-1:気づきを与え、行動変容を促す研修

「アンコンシャス・バイアス研修(トレーニング)」とは、アンコンシャス・バイアスの概要を把握した上で、組織や個人に偏った視点・見方がないかを見直し、行動変容を生み出していくプログラムです。これを行うことで、社員は安心して自分の力を発揮できるようになり、個人と組織のパフォーマンスが向上します。

研修の対象となるのは、管理職やリーダー層だけではありません。「思い込み」や「偏見」は誰もが持ち合わせているため、全社員が対象となります。研修の内容はそれぞれの組織の事情や受講ターゲット、目的、ゴールに合わせて設計する必要があります。

研修の構成も運営会社によって変わってきますが、例えば、「アンコンシャス・バイアスの定義やどのような悪影響があるかを理解する・知る」「自分自身の行動を振り返ってアンコンシャス・バイアスがないかを自覚する・気づく」「アンコンシャス・バイアスを起こさないために必要なスキルを習得し対処する」といった流れの研修が行われることが多くなっています。

2-2:働き方の多様化と労働力人口の変化が背景

アンコンシャス・バイアスが注目されるようになってきたのは、2010年代からです。米国のIT企業大手がD&I施策の一つとして「アンコンシャス・バイアス研修」を実施したことが話題となり、日本でもさまざまな業種で導入する企業が増えてきました。

日本において「アンコンシャス・バイアス研修」が必要とされている背景には、働き方の多様化と労働力人口の変化があります。少子高齢化が進む日本では、今後は性別や年齢、国籍などにかかわらず、さまざまな人々が働く組織を創り上げていかなければなりません。ただ、実際にはまだまだ不平等をもたらす旧来型の考えが一部に根強く残っており、男女間の賃金格差やダイバーシティの遅れが指摘されているだけに、研修などを通じてアンコンシャス・バイアスに向き合うことが求められています。

「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する詳しい解説はこちら

ダイバーシティ&インクルージョン|日本の人事部

3.「アンコンシャス・バイアス研修」の導入事例

「アンコンシャス・バイアス研修」の導入事例

ここで、「アンコンシャス・バイアス研修」を導入している企業の事例を紹介します。

3-1:Google

Googleでは2013年、民間の研究所から「検索エンジンとして使用しているロゴが男女差別的である」という指摘を受けました。これをきっかけに、同社の人事部は、社員が無意識の偏見を認識し、多様な視点・見方を持った組織へと生まれ変わる必要性を経営陣に提示しました。理解を得たところで、社員と経営陣を対象とする「Unconscious Bias @ Work」という名称のワークショップを実施するとともに、関連するツールを開発し、偏見排除に向けた全社レベルでの教育活動を行ったのです。現在もその活動は継続しており、同社における最大規模の自発的学習プログラムとして位置づけられています。

参照:Google re:Work-ガイド:無意識の偏見に意識を向ける

3-2:味の素グループ

味の素グループでは、多様な人財の成長と適材適所での能力の発揮が、社会価値の創出と会社の成長につながると考えています。そのために全社におけるダイバーシティの取り組みを推進しています。研修にも積極的で、2018年度からは「無意識の思い込み」を取り払うトレーニングとしてアンコンシャス・バイアスをテーマとした研修もスタートさせました。最初は、経営メンバーを対象に実施。現在では対象者を全社員に拡大させています。

参照:味の素グループHP 味の素グループにおけるダイバーシティとは

3-3:ファーストリテイリンググループ

ファーストリテイリンググループも多様な社員が安心を感じる風土づくり、それぞれの能力を最大限に発揮できるためのさまざまな取り組みに注力しています。その一環として、外部講師を招き、「アンコンシャス・バイアス研修」を実施しています。プログラムは、グループの役員や海外のCOO、一部の部長といった経営層向けもあれば、女性を対象にキャリア構築で重要なセルフコンフィデンス(自信)を創出させる研修もあるなど、バラエティに富んでいます。今後は、さらに対象者を拡大するとともに、D&Iを推進し、多様な人々を尊重して受け入れられる企業文化を醸成していきたいと考えています。

参照:ファーストリテイリングHP 「アンコンシャス・バイアス研修」を実施しました!

4.「アンコンシャス・バイアス研修」を実施するメリット

「アンコンシャス・バイアス研修」を実施するメリット

「アンコンシャス・バイアス研修」を行うことで、どんなメリットがあるのでしょうか。想定されるメリットを以下に挙げてみました。

  • 組織における意思決定の質、マネジメントの質が向上する
  • 多様な視点を手に入れ、組織全体の柔軟性が高まる
  • ハラスメントの予防・防止につながる
  • 心理的に安心・安全な職場を構築できる
  • コミュニケーションが円滑化し、職場の人間関係が改善できる
  • 多様な社員が自らの能力を最大限に発揮し、活躍していける
  • 組織の持続的な成長や業績向上を期待できる

要約すれば、「アンコンシャス・バイアス研修」は、組織のD&Iを加速し、企業のさらなる成長をもたらす良い学びの機会となる、ということなのです。

5.「アンコンシャス・バイアス研修」のトレンド・選ぶ際のポイント

「アンコンシャス・バイアス研修」の傾向・選び方

5-1:実施スタイルはオンライン・対面・ハイブリッド

「アンコンシャス・バイアス研修」の実施スタイルは、オンライン(eラーニング、マイクロラーニング)、対面(講演、フォーラム、ワークショップ)、ハイブリッド(オンラインと対面)などさまざまです。最近は社会情勢もあって、一つの会場に何十人もの社員が集まって研修を行うケースは少なくなっており、オンラインの需要が伸びています。

ただ、自己のアンコンシャス・バイアスに気づかせたり、他者からのフィードバックを取り入れさせたりするためには、説明よりも体験が重要になってきます。オンラインでの座学だけだと難しい面があり、ワークショップを行うなどハイブリッドを考慮したいところです。感染症対策に十分配慮した上で、参加者同士で対話をしながらアンコンシャス・バイアスに気付く場、自己開示する場を設けるように工夫してみてください。

5-2:選ぶ際のポイント

こうした「アンコンシャス・バイアス研修」を運営しているソリューション企業は全国に多数あります。そうしたなかから、自社にフィットする研修会社、研修プログラムを選ぶにはどうすれば良いのでしょうか。

研修の運営会社・講師・内容・費用など、検討する際のポイントはいくつかありますが、以下の点を考慮することも忘れないようにしてください。

  • 表面的でなく、深く理解できるか
  • 具体的な解決策があるか
  • 参加者同士が安心して本音を引き出せるか
  • 研修の目的を共有し、自社の課題に合った内容を工夫してもらえるか

研修会社が一つのメニューとして「アンコンシャス・バイアス研修」を提供しているケースがほとんどです。ただ、少ないながらも「アンコンシャス・バイアス研修」に特化した会社もあります。

上記のような点を考慮したうえで、自社にとって最適な研修会社や研修プログラムを選ぶことが重要です。

6.「アンコンシャス・バイアス研修」の料金

「アンコンシャス・バイアス研修」の料金は、開催方法や開催時間、受講人数、開催内容などによって変わってきます。たとえば、以下のようなケースがあります。

  • 動画コンテンツ(1本あたり3~7分程度)によりアンコンシャス・バイアスに関する基本的な知識やスキルを習得する研修。料金は一人あたり15,000円(税抜き)。3ヵ月契約。
  • 研修講師が派遣され、集合研修で1回3~4時間、受講人数は最大30人、ワークショップ・講義により、アンコンシャス・バイアスを理解し、コントロールする手法を理解する研修。料金は250,000円以上(税抜き)。
  • 研修講師が派遣され、集合研修で1回1日間、受講人数は最大24人、講義とディスカッションにより、ダイバーシティの本質と対応方法を理解したり、女性部下とのコミュニケーション・育成を考えたりする研修。料金は350.000円以上(税抜き)。

7.「アンコンシャス・バイアス研修」を提供する全国のソリューション企業一覧

ここからは、実際にどのような「アンコンシャス・バイアス研修」を提供する企業があるのかを見ていきます。

株式会社アントレプレナーファクトリーの「アンコンシャス・バイアストレーニング」は、「アンコンシャス・バイアス」について、他者や組織に与える影響や対処法を学ぶ動画コンテンツです。動画は1本あたり3~7分程度と短く、スキマ時間に手軽に効率よく学習することができます。

株式会社エムズカンパニーの「アンコンシャス・バイアス研修」は、アンコンシャス・バイアスを知り、それをコントロールするための手法を学べる集合研修です。ダイバーシティ&インクルージョンとその必要性、アンコンシャス・バイアスとの関連についても理解できるようになっています。

7-1:総合的に研修を提供している企業

7-2:アンコンシャス・バイアス研修に特化している企業

8.「アンコンシャス・バイアス研修」は組織を良くするために取り組むべき重要な研修

「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」を目的として「アンコンシャス・バイアス研修」を実施することに、切実さを感じない方もいるかもしれません。

それでは、「自社の社員は皆モチベーションが高い」「ストレスがなく、伸び伸びと働いている」「職場には活気があふれ、新しいアイデアがどんどん提案されている」と自信を持って言えるでしょうか。組織の中にはびこるアンコンシャス・バイアスがこれらを阻害している可能性もあるのです。逆に言えば、アンコンシャス・バイアスにしっかりと向き合った組織では、ポジティブな変化が次々と起きています。あなたの会社でも「アンコンシャス・バイアス研修」の実施を検討してみてはいかがでしょうか。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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