テレワークを支援するツールの傾向と選び方
~種類・概要の解説、代表的なソリューション一覧、助成金の紹介~

~種類・概要の解説、代表的なソリューション一覧、助成金の紹介~

働き方改革やテクノロジーの進展、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、テレワークを導入する企業が増えています。テレワークを導入するうえで欠かせないのがIT関連のツール。テレワークを支援するさまざまなサービスが急増しています。そこで「日本の人事部」では、テレワークを支援するツールの概要を整理。必要なツールや代表的なソリューションなどについて解説します。併せてテレワーク導入を支援するさまざまな助成金も紹介します。

テレワークとは

テレワークとは

テレワークとは、時間や場所にとらわれない働き方のことを意味します。1970年代にアメリカで登場しました。近年はインターネットを介して物理的な距離を気にせずに働くことが可能になったため、国内・海外を問わず、さまざまな場所をつないで働く形へと発展しています。さらに2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本企業でも導入する企業が急増しています。

企業に勤務する従業員が行うテレワークには「在宅勤務(自宅で仕事をする)」「モバイルワーク(PCや携帯電話などを使い、働く場所を柔軟に選択する)」「施設利用型勤務(勤務先以外に設けられたスペースでPCや携帯電話などを使って働く)」などの形態があります。

テレワークには以下のようなメリットが挙げられます。

企業にとってのメリット
(1)離職防止と人材確保
(2)オフィス運営におけるコスト削減
(3)緊急時の事業継続
従業員にとってのメリット
(1)ワーク・ライフ・バランスの実現
(2)通勤にかかる負担の軽減
(3)スキル・経験を生かした多様な働き方を実現

テレワークに必要な最低限の環境

テレワークに必要な最低限の環境

テレワークを導入する上で、最低限必要なハードウエアとソフトウエアの環境があります。

ハードウエア環境

<在宅勤務あるいは施設利用型勤務の場合>
インターネットにつながったPCが不可欠です。また、インターネットに接続する際は、ファイルのやりとりやWeb会議を行うため、高速大容量な通信環境が望ましいでしょう。利用するPCは、会社支給のPC(持ち歩くなら、端末にハードディスクを持たず、サーバーで一元管理するシンクライアントが望ましい)、個人が所有し家庭で利用しているPC、貸PC(サテライトオフィスなどで備え付けのPC)など、さまざまなものが考えられます。

<モバイルワークの場合>
ノートPC、スマートフォンやタブレットなどの端末が必要です。スマートフォンは使えるアプリが限定されますが、メールチェックとスケジュール管理、さらにチャットなどは、十分可能。Web会議やリモートデスクトップなどをスマホで実行している例もあります。

ソフトウエア環境

<コミュニケーションツールと管理ツール>
電話、メール、スケジュール管理は必須です。必要に応じて、チャット、Web会議システム、勤怠管理、在席管理のツールなどを活用します。

<業務ソフトウエア>
社内で利用している業務アプリをテレワーク環境で利用する場合、どの(どこの)PCで実行するかで以下の三つに分類できます。

(1)社内のPCに外部のPCからリモートログイン(画面転送方式)する方式
業務アプリは社内のPCで実行するので、外部のPCにインストールする必要はありません。

(2)社内の業務をすべてクラウドサービス化して、外部でもクラウドを用いる方式
処理はクラウド側で実行するので、外部のPCにインストールする必要はありません。

(3)外部のPCで業務アプリを実行する方式
この場合は、自宅など外部のPCに、業務ソフトウエアを別途インストールする必要があります。また、業務ファイルも外部に持ち出す必要があるので、セキュリティー上リスクがあります(別途、安全にファイルを持ち出す方式の検討を行うことが望ましい)。

出典:一般社団法人 日本テレワーク協会『テレワーク関連ツール一覧』

テレワークに必要な安全性

テレワークに必要な安全性

テレワークでは、会社の中の厳重に管理されて安全・安心な環境から外に出るため、リスクがあります。リスクを低減させるための環境やツールを用意する必要があります。

テレワークで発生するリスクの種類

テレワークで発生するリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。まず、情報を外部に持ち出すことによる、情報漏えい、情報紛失などの「持ち出しリスク」があります。また、社内の環境と外部のテレワーク環境を接続することによる、ウイルス感染、外部からの攻撃などの「接続リスク」もあります。

テレワークで発生するリスクの対処方法

「持ち出しリスク」に対しては、画面転送方式などの「ファイルを持ち出さない方法」、セキュアブラウザ、セキュアコンテナなどの「安全にファイルを持ち出す方法」があります。

「接続リスク」に対しては、インターネットと分離する方法、信頼できるサイトとのみ接続できるようにする方法などがあります。また、社外に持ち出したPCは汚染されている可能性があるため、安易に社内の環境に再接続しないように注意しなければなりません。

出典:一般社団法人 日本テレワーク協会『テレワーク関連ツール一覧』

テレワークに必要なツール

テレワークに必要なツール

ここまでテレワークに最低限必要なハードウエアとソフトウエア、リスクの種類と対処法の基本を解説してきました。ここからは、主にソフトウエアを中心に、テレワークを実現するための具体的なツールを紹介していきます。

テレワークを導入する上では、ITを活用した情報の共有化、業務プロセスの見直し、コミュニケーション改善などを具体化するとともに、セキュリティー対策を講じた環境構築が不可欠です。ここでは、「基盤となるICT環境」「セキュリティー対策」「労務管理」「円滑なコミュニケーション」の四つの領域に分けて、それぞれにどのようなツールがあるのか、その概要と特徴、選び方を解説していきます。

基盤となるICT環境

ICT環境を整備するにはまず、作業環境を構築する最適なシステム方式を選定しなければなりません。主に以下の四つの方式があります。

■リモートデスクトップ方式
社内に設置されたPCのデスクトップ環境に、外部のPCやタブレット端末などを通じて遠隔からアクセスできる方式。社内のPCにソフトウエアを導入するだけで、オフィスでの業務をそのまま遠隔で再現できます。アプリケーションや認証キーの購入で済むなど、システム構成を大きく変えなくても良いため、比較的安価に導入することができます。

■仮想デスクトップ方式
社内に設置されたサーバー内にある仮想PCに、外部のPCから遠隔でアクセスできる方式。処理は仮想PCで行いますが、作業した内容はサーバーに保存されます。そのため、テレワークで働く人の手元のPCにファイルが残りません。最近は、クラウドベースの仮想デスクトップを1台から実現できるサービスもあります。

■クラウド型アプリ方式
外部業者が提供するサーバーとクラウドアプリをインターネット経由で利用する方式です。処理はサーバーで行い、作業したデータはクラウド上に保存されます。サービスによっては、作業したデータをPCにダウンロードできるものもあります。アプリケーションを利用するため、設備コストはほとんどかかりません。アプリケーションは月額や従量課金、無料などサービスによってさまざまです。また、資料などもクラウドで保管共有するので、サーバーも不要です。

■会社PCの持ち帰り方式
社内で使用しているPCやタブレットを社外に持ち出して、VPN※などを経由して社内ネットワークにアクセスする方式。通常業務で利用しているPCにデータが保存されます。オフィスの内外共通で1台のPCを使用するため、他の方式に比べるとコスト負担は少なく済みます。ただし、VPNの装置代やセキュリティー対策の設備には費用がかかります。
※VPN=「Virtual Private Network」、仮想専用線。インターネット上で特定の人だけが利用できる仮想のネットワークのことで、それによって社内サーバーのデータやコンテンツにアクセスできる、というもの。

「基盤となるICT環境」を構築するソリューション企業一覧

セキュリティー対策

オフィスとは異なる環境で働き、オフィスとは異なるツール(PCなど)を用いて仕事をするテレワークでは、情報漏えいなどの観点からのセキュリティー対策が不可欠です。

■アクセスの管理・制限
第三者による不正なアクセスや攻撃を防ぐために、本人認証や端末認証などの措置を講じ、それらをクリアした場合のみアクセスできるようにします。

■ハードディスク(HDD)暗号化
PCの紛失や盗難に備え、ハードディスク内のデータを常に暗号化しておきます。

■セキュアコンテナ
セキュアコンテナとは、スマートフォンなどの端末に暗号化された企業内の業務データエリアを作成するソフトです。これにより、グループウエアやメール、業務アプリケーションを安全に利用することができます。

■セキュアブラウザ
ドキュメントやデータを端末上の安全な領域で表示するだけでなく、終了時にデータを残さずに作業を行うことができます。

■ウイルス対策ソフト
ウイルスを早期に検知したり、検知した際に削除を行ったりすることができます。端末だけでなく、サーバーに対して機能するソフトもあります。

■情報漏えい対策付きのUSBメモリ
暗号化機能やパスワードロック機能、ウイルスチェック機能などを備えています。USBメモリの使用を許可する場合は、こうした機能が備わった製品に限定することが望まれます。

「セキュリティー対策」を実現するソリューション企業一覧

労務管理

テレワークを行う従業員を労務管理するためのツールも多数提供されています。特徴をおさえておきましょう。

■勤怠管理ツール
始業・終業時刻などを管理することができるシステムです。給与計算や人事関連ソフトとの連携やGPSでの位置情報を記録するものもあります。自社の勤務ルールとシステムの機能、打刻方法との相性はどうか。簡単に導入できるクラウド型にするか、自由にカスタマイズできる自社開発型にするか。サポートは手厚いか、無料体験ができるかなどがチェックポイントとなってきます。

■プレゼンス管理(在席管理)ツール
従業員の在席状況や業務状況をリアルタイムで把握、確認できるツールです。テレワーク中の従業員がどのような状況なのかを把握、確認することで、今連絡を取っていいのか、などを判断する材料とすることができます。また、部下の労働状況を管理することもできます。従業員が私用で業務を中断した際に、労働時間を自動的に集約してくれるシステムもあります。グループウエアやスケジュール管理ツールにこの機能が搭載されている場合もあります。

■業務管理ツール
テレワークを行っている従業員の業務進捗を可視化するツールです。スケジュール共有やワークフローなどの機能があります。

「労務管理」を支援するソリューション企業一覧

円滑なコミュニケーション

オフィスで働く従業員とテレワークで仕事をする従業員とをつなぐ、もしくはテレワークで仕事をする従業員同士をつなぐコミュニケーションツールも必須となってきます。

■チャット
Eメールのように逐一メッセージを送受信する必要がなく、気軽に短文のやりとりを行えるソフトウエアです。Web会議システムに付随するサービスとなっている場合もあります。また、無料で始められるものが数多くあります。機能によっては有料となりますが、それでも比較的安価です。

■Web会議システム
カメラを介して、対面であるのかのようにリアルタイムで会議や打ち合わせができるシステムです。資料やPCの画面を、そのまま共有することができます。最近では、チャットやグループウエアのサービスの一部にWeb会議の機能を含めたサービスも見られます。利用する人数や画質・音質などが検討する上で重要なポイントです。自社に適したものを採用するようにしてください。

■情報共有ツール(オンラインストレージサービス)
従業員が保有する大容量データをインターネット上でファイルとして保存し、場所や時間に捉われずに従業員間でやりとりできるツールです。

「円滑なコミュニケーション」を実現するソリューション企業一覧

参考:厚生労働省『テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック』
参考:一般社団法人 日本テレワーク協会『テレワーク関連ツール一覧』

まとめ

テレワークに必要なツールについて解説してきました。多数のツールを取り上げたため、「これらが全部そろわないとテレワークを始められないのか」と思われた方がいるかもしれませんが、その心配は要りません。徐々に範囲を広げていけば良いのです。

それに今なら、さまざまな助成金制度を活用してテレワーク用の通信機器を導入・運用する支援を得られます。その一部を紹介します。

テレワーク相談センター

テレワーク導入を検討している企業・団体などに、テレワークの専門家(労務管理担当、ICT担当)が無料で助言や情報提供を行います。

人材確保等支援助成金(テレワークコース)(厚生労働省)

テレワークの導入により、労働者の人材確保や雇用管理改善などの観点から効果をあげた中小企業事業主が助成対象となります。機器等導入助成で経費の30%、目標達成助成で経費の20%が支給されます(いずれも上限あり)。

IT導入補助金(経済産業省)

中小企業・小規模事業者がITツールを導入する経費の一部を補助します。類型によって補助金額は異なりますが、最大450万円が補助されます。

『地方創生図鑑』(内閣府 地方創生推進室)

新型コロナウイルス感染症対応 地方創生臨時交付金ポータルサイト。各自治体の施策事業が掲載されています。上記リンク先は「テレワーク」でキーワード検索した結果のページです。

特に、中小・中堅企業からは「投資コストがネックになって、なかなか導入できない」という声が良く聞かれます。これらの補助・助成金などを活用しながら、テレワークを支援するツールの導入を検討することをお勧めします。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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