イベントレポート掲載日:2011/12/20

人材サービス産業の近未来を考える会
公開シンポジウム

2011年12月8日、全国求人情報協会、日本人材紹介事業協会、日本人材派遣協会、日本生産技能労務協会(以下「4団体」)は、初めての共同開催となるシンポジウムを開催しました。4団体は、2011年6月に各団体代表者と学識者による研究会「人材サービス産業の近未来を考える会」を設置。11月21日、人材サービス産業の機能や社会的役割、今後の労働市場の課題を明らかにした研究成果を報告し、共同宣言を発表しました。今回のシンポジウムでは、研究内容の報告と4団体の共同宣言が発表されるとともに、「人材サービス産業に期待すること」と題した、有識者によるパネルディスカッションも行われました。当日は、定員200名の会場が満席となる盛況ぶり。あらためて人材サービス産業に携わる方々の問題意識の高さを感じられるシンポジウムとなりました。本レポートでは、当日の模様をダイジェストでお伝えします。

<4団体による「人材サービス産業の近未来を考える会」報告書の概要と共同宣言の内容についてはこちら>
http://service.jinjibu.jp/article/detl/hrreport/695/

【開催概要】
日時 2011年12月8日(木) 時間:13:00~15:00
場所 リクルートGINZA8ビル11階ホール(東京・中央区)
主催 人材サービス産業の近未来を考える会
【プログラム】
■基調報告
「人材サービス産業の近未来」
講師:佐藤博樹(東京大学大学院情報学環教授)

■共同宣言
「人材サービス産業4団体の共同宣言について」
高橋広敏(全国求人情報協会 副理事長)

■パネルディスカッション
「人材サービス産業に期待すること 」
モデレーター 大久保幸夫(リクルートワークス研究所 所長) パネリスト
佐藤博樹(東京大学大学院情報学環教授)
坂爪洋美(和光大学現代人間学部教授)
清水竜一(日本生産技能労務協会 会長)
高橋広敏(全国求人情報協会 副理事長)
福地潔(東レ株式会社 常務取締役人事勤労部門長)
※敬称略

基調報告 「人材サービス産業の近未来」

東京大学大学院情報学環教授で、「人材サービス産業の近未来を考える会」の座長でもある、佐藤博樹氏による基調報告からスタートしました。

「人材サービス産業の近未来を考える会」では、人材サービス産業の機能や役割に関する研究を行い、その結果を「2020年の労働市場と人材サービス産業の役割」と題した報告書にまとめています。その報告書の要点を、佐藤氏があらためて説明しました。「今回発表した内容を、今後具体的なものとして実現していくことが大事だ。労働市場の需給調整の円滑化や高度化のために、各団体、業界で共通する課題やノウハウがあるので、共同で取り組む意義が大きい」とのことでした。

共同宣言 「人材サービス産業4団体の共同宣言について」

次に、全国求人情報協会副理事長であり、「人材サービス産業の近未来を考える会」の広報委員も務める高橋広敏氏が、共同宣言でうたった5つのテーマについて説明しました。

■共同宣言の5つのテーマ
(1)マッチング・就業管理を通じたキャリア形成の支援
(2)採用・就業における「年齢の壁」の克服
(3)異なる産業・職業へのキャリアチェンジの支援
(4)グローバル人材の採用・就業支援
(5)人材育成による人材サービス産業の高度化
この5つのテーマへの取り組みを推進していくために、来年7月をメドに、4団体を中心として人材サービス産業協議会(仮称)を設置することを併せて発表しました。

また、この5つのテーマのうち、(1)~(4)に取り組むためには(5)、つまり業界内での人材の底上げがまず必要で、プロを育成する必要があることを強調しました。

パネルディスカッション 「人材サービス産業に期待すること」

次に、有識者によるパネルディスカッションが行われました。モデレーターとして、リクルートワークス研究所 所長の大久保幸夫氏、パネリストとして、東京大学大学院情報学環教授の佐藤博樹氏、和光大学現代人間学部教授の坂爪洋美氏、日本生産技能労務協会 会長の清水竜一氏、全国求人情報協会 副理事長の高橋広敏氏、東レ株式会社 常務取締役人事勤労部門長の福地潔氏が登壇しました。

まず、各パネリストが、現在の問題点を順に発表。福地氏が企業人事として、坂爪氏が研究者として、人材サービス産業に対する期待を語りました。それを受けて、清水氏、高橋氏が人材サービス産業が果たすべき役割についてどう考えているかを述べました。

各パネリストの発表をまとめる形で、佐藤氏がコメント。「人材育成」というキーワードが頻出していたことに着目し、「人材サービス産業の担い手である各社の人材が高度化していくためには、社員個人個人が自らの能力高めようとする意欲を持たなければならない。能力開発意欲を持つためには、社員一人ひとりが自分の仕事の社会的意義を認識することが必要であり、各企業は社員に対して、人材サービス産業の社会的意義を伝えなければならない」と述べました。

また、人材サービス産業には、コンプライアンス遵守は当然として、マッチング支援やキャリア形成支援などの労働市場の需給調整に関する提供サービスの質の向上が求められるとしました。そのためには、例えば、全国求人情報協会が実施、優れた求人広告を表彰している「求人広告賞」など、手本となるものが作られる仕組みを設けることで、業界全体が底上げされるのでは、と提言していました。

その後、各パネリストが「5つのテーマ」について、自分が特に気になるテーマ、こだわりのあるテーマについて説明。

まず坂爪氏は、(5)の人材サービス企業の「人材育成」について、定義が必要だと主張。人材サービス産業で働く人のキャリアやスキルを高めていくとは、どういう方向性なのか。扱う企業数なのか、単価が高い仕事を担当できるようになることなのか。それ以外なのか。それを定義すると「人材育成」がための仕事像が具体的になる、とのことでした。

福地氏は、「全部重要だが、あえて言うなら(1)」とのこと。東レは毎年20~30名の中途採用を行っていて、さらに今後増やしていく予定だそうです。企業が採用を強化する上では、信頼できる労働市場が必要。そんな労働市場を醸成する役割を人材サービス産業に期待したい、とのことでした。

高橋氏は、まず(1)について、人材サービス産業間で、個人のキャリア情報を共有するような仕組みができれば便利になる、と説明。また、(2)(3)(4)は人材サービス企業の腕のみせどころであり、そのための(5)の人材育成の重要性をあらためて強調しました。

清水氏は、企業が求める人材のスペックと個人の実際のスキルが年々乖離してきているように感じる、という話から始めました。そこで高度なマッチングを実現させることが人材サービスには求められる。また、グローバル化など大きな変化に対応しなければならない。そのためには、(5)の人材育成が必要であり、(1)~(4)を支えるのは(5)であると高橋氏と共通の見解を述べました。人材サービス産業が社会的インフラになる、というぐらいの気概を持つような人材を育てないといけない、と一貫して(5)の重要性を主張していました。
最後に、モデレーターを務めた大久保氏が、パネリストの方々とは異なる視点で意見を付け加えました。大久保氏が着目しているのは(2)だそうです。日本が急速に高齢化している現状を受けて、「高齢者が活躍できる場を作るのも人材サービス産業の重要な役割なのではないか。これまで人材サービス産業は主に若手人材を対象にサービスを展開してきた印象がある。しかし、今後は高齢者向けのサービスが必要。そのためにはビジネスモデルから変えないといけない」と述べました。

全体として、人材サービス産業全体でサービスの質をレベルアップさせるために、(5)つまり「人材育成」が重要であると主張する声が多いのが印象的でした。人材育成がしっかりできてはじめて、人材サービス産業は、日本の労働市場を支え、グローバル化などの変化に対応できるようになるのだと認識することができました。

*    *    *

人材サービス産業、研究者、人事など、多様な視点によるセッションは、来場された皆さまにとって、今後の人材サービス産業を考えていく上で大変有益なものとなったのではないでしょうか。

『HRプラザ』では、今後もHR業界のプロフェッショナルとしてぜひ聴いておきたい講演や、参加しておきたいセミナーなどのレポートをお届けしていく予定です。どうぞご期待ください。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

イベントレポートのバックナンバー