製造業の人材派遣業界の未来のために
人材育成と業界内の協力体制づくりに力を注ぐ

日総工産株式会社

清水竜一さん

業界全体で、高い倫理観を持って取り組むことが大切

そのような取り組みを1社だけではなく業界全体で行うことが重要だと、清水社長はお考えのようですね。

お客さまのニーズを把握し、上手に労働移動させて、労働者が処遇面で不利益を被らないようにしっかり交渉していくことが、本人のキャリアアップにもつながります。ただ、それを一つの会社だけで行うのは、やはり限界がありますし、業界全体で取り組むことで、人材派遣や請負に対する社会的な認知も高まると思っています。

東日本大震災の際も、一般社団法人日本生産技能労務協会(JSLA)では、東北の加盟企業から製造従事者を他の地域の加盟企業に移動させ、受け皿の一助になりました。

私は3年前から同団体で会長を務めていますが、長年、人材育成と加盟企業間での労働移動のプラットホームづくりに尽力しています。現在、全国で約90社が加盟しているのですが、常時情報交換や協力体制を作ろうと頑張っています。日頃はライバル同士かもしれませんが、協会が間に立つことによって、雇用の安定化を図るプラットホームになることも可能だと持っています。

また、この業界は先にも触れたリーマンショックで大変傷ついた状態が長く続いていますが、団体としては、人を扱う業界だからこそ、派遣法よりも厳しい規制を自らに課しながら、人材育成や雇用の安定化に尽力し、しっかり襟を正していることを世間に伝えていく必要性があると考え、行動しています。

清水竜一さん インタビュー photo

リーマンショックから立ち直り切っていなかった中で、苦しい会社もたくさんありましたが、その苦しい中で結果を出していこうと、教育訓練など、人としっかり向き合ったことで逆に力をつけ、この逆風の中でも業績を伸ばした協会員企業は少なくありません。

今後の展望をお聞かせください。

正社員に限らず、ますます多様な働き方が求められる世の中になります。そのような中で、市場価値が高い人は、正社員でなくても優遇されるべきだと思います。そんな人材を育成し、処遇などを守るのも、我々の責任だと思っています。

派遣よりも請負のモデルのほうが難しいのは事実です。しかし、仕事量に対して人が圧倒的に足りない分野に、請負という形だからこそできるコンサルティングのような仕事も重要になると思っています。

フルタイムで働けない女性や高齢者、海外からの労働者など、上手に集めて組み合わせ、企業も労働者も互いにハッピーな関係を、いかに作っていくかが大切です。

また、それを実現していかないと、日本の経済は低迷や混乱が続くかもしれません。安かろう悪かろうではなく、しっかり人材を育て、良いサービスを提供していく。そのためには、さまざまな法の整備も必要になるでしょう。かつて、会長が請負事業を始めたときに、労働法の中には組む込みづらいこの人材サービスを理解してもらい、適正な法制度を定めてもらう活動を、JSLAの前身である任意団体で行っていました。今、改めてJSLAでのロビー活動が重要だと感じています。現場をもっと良くするために、現状をしっかり伝え続けていくことが大事だと思っています。

繰り返しになりますが「人を育て、人を生かす」。それを徹底的に行うことが大事だと思っています。大量消費モデルで、人の出入りの多さによって収益を上げるという仕組みでは、長続きしません。人口も減っていきます。そのような時代に、この商売をする上では、やはり人を育て、大切にしていくのが一番だと思っています。

実際、あまり社会経験のない若者が、どんどん技能や技術を身に付けて、顧客のメーカーから社員にさせてほしいと言われると、本当にうれしく思います。認められるほど育った証拠ですから。本当にこの世界は人生の縮図のようで、非常にさまざまな人生ドラマを垣間見ることができます。それに触れられ、感動するからこそ、人を大切にする気持ちが重要だと思っています。

人材ビジネス業界に携わる皆さまや、これから起業しようとしている若い方々、後に続く方々に、メッセージをお願いします。

人材を扱う、人が中心のサービスを提供するのですから、高い志をもって取り組んでほしいと思います。「大義」のない仕事はしてほしくない。日本の歴史的観点からしても、人材ビジネスは世間から厳しく見られやすい業界なので、なおさら大義を持って、高い倫理観を持って働くことが大切です。

また、企業からお金をいただいているので、どうしても企業目線になりがちです。しかし、やはり労働者の視点に立ったサービスをつくってほしいと思います。例えば、労働者が転職する際に、自社で働いた履歴を記載したジョブカードを発行するといったサポートなど、キャリア形成のエージェント機能を果たす役割も必要だと思います。

こうした意識を持たない問題ある企業に対しては、業界の自浄作用をもって対峙していくことが重要になってくると考えています。それだけ重い責任があるということを、ぜひ理解して、より多くの人が働きやすい環境づくりに貢献できるよう業界全体で一緒に頑張っていきましょう。

清水竜一さん インタビュー photo

(2014年12月8日 横浜市・港北区・日総工産本社にて)

社名日総工産株式会社
本社所在地横浜市港北区新横浜1丁目4番1号日総工産新横浜ビル
事業内容製造業務全般に関する業務受託、業務請負事業/製造業務全般に関する一般労働者派遣事業、有料職業紹介事業
設立1971年2月3日

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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