製造業の人材派遣業界の未来のために
人材育成と業界内の協力体制づくりに力を注ぐ
日総工産株式会社
清水竜一さん
余人をもっては代えがたい人材を育成することが、事業の成長の源
フリーターの登場によって、大きく市場も変化したのですね。
最初は気軽なフリーターとして働いている人たちの中から、徐々に長期で安定して働く人が出始めます。そのうち、「製造」に興味を持って技能や技術が身についてくる人も出てきます。正社員へ移行するケースもありました。当社としても、安心して研修などへの投資ができますし、働く人にもやりがいを感じてもらえると思うので、働く人たちに正社員への転換をお勧めしました。中には、正社員じゃないほうが気楽でいいんだと、何度誘っても断られることがあり、人の価値観はさまざまだと感じることも多いですが。
一方で、そういう人材をうまくマネジメントして活用できる人も必要になってきました。育てた技能を、一人ではなくチームで発揮してもらう。そういう組織体制をお客さまに提供していくことも重要になってきました。
現場の契約社員でずっと働いている人たちには、技能を向上させたい人もいれば、自分たちの面倒を見てくれた上司のようになりたいと思う人もいるでしょう。技能に特化した技能者になる道、管理監督する立場になる道など、さまざまな志向を持った人たちを活用できる人事制度やキャリアフレームを作って、ここに居続けたいと思ってもらえる環境をつくる。それを目指したいと考えてきました。
とかく、製造業の請負は雇用が不安定と言われますが、そういうキャリアフレームをしっかり提供し、技能や技術を高め、余人をもっては代えがたい人材を育成していく。それこそが、雇用の安定化につながるのだと考えています。
これまでに苦難の時期はありましたか。
26年近くこの業界にいて、最も大変だったのは、リーマンショックの時でした。バブル崩壊も大変でしたが、リーマンショックのときのほうが事態は深刻でした。それまでは大変な時期はあっても、必ずどこかに人材を求める分野があり、スタッフに仕事を紹介できないということはありませんでした。しかし、リーマンショックのときは、製造業の全ての業種の需要が落ち込み、しかも、派遣・請負会社の数も、就労人口も多くなっていたので、問題が深刻化したと思います。その頃、雑にスタッフを扱った会社があったから、のちに派遣切りなどが社会問題化したのです。
そのとき、痛感したのは、「余人をもって代えがたい人材を作れば、雇用調整されない」ということ。やはり、どれだけ必要とされる人材を育成していくかが、一番の力になるということを実感しました。
そのため、リーマンショックの時も非常に苦しかったけれど、人材育成への投資は続けました。そういう投資をしっかり続けた企業が、その後やはり成長しているのだと思います。
今、特に力を入れて人材を育成していこうとしている分野はありますか。
一つは、かつてメーカーの社員が担当していたような領域ですが、工場内の製造ラインの設備保全の分野に注目しています。この領域は、圧倒的に人が足りない。設備保全は、かつてメーカーでもずっとそのラインに携わってきたベテランの技術者が担当していましたが、今、そのような人がいなくなってしまっています。製品づくりにおける品質向上には、設備保全が重要なポイントになるので、そこで活躍できる人材育成に力を注いでいます。
また、最近の為替の動向からすると、物によっては国内で作っても大してコストが変わらないものもあるのに、一度海外へ製造拠点を移してしまったために、国内に工場を回していく技術や技能・ノウハウがなくなってしまっている分野もあります。そういう分野の人をしっかり育成することで、再び日本の製造業を元気にすることができるのではないかと思っています。国際分業がどれだけ進んでも、どんな人を使いたいか、どういう人が必要かをお客さまと一緒に考えていくことが大事です。
イメージとしては、メーカーの製造子会社のような考え方ですね。ただ、違う点は、一つの会社に依存するのではなく、景気の変動によって人を再配置し、失業なく人材を移動させることができる。物を作るための経験や基礎知識の多くは、応用が利くのです。同業種であれば、スムーズに移動できるし、新しくできた産業分野でも、抵抗なく業務に取り組めます。昔では考えられないような、同業他社の工場間での技術の交流があったり、技術者がいろいろなところを渡り歩いたり。そんな時代の流れの中で、いかにスムーズに労働移動していけるか。そこが重要になると思います。