人事・労務の常識を変えるクラウドサービス「SmartHR」
「自分たちの代表作をつくりたい」という思いが
原動力に

株式会社SmartHR 代表取締役 CEO

宮田昇始さん

ひたすら試行錯誤を繰り返した創業からの2年間

 会社創業時には、もう事業のアイデアはお持ちだったのでしょうか。

株式会社SmartHR 代表取締役社長 宮田昇始さん

「SmartHR」のアイデアは、まだありませんでした。最初は、エンジニアやデザイナーといったインターネット業界で働く人たちのスキルを可視化、定量化するサイトを開発しました。採用を考えている企業と人材をマッチングすることで、マネタイズする構想だったのですが、結果的には1年で撤退することになりました。マーケットのニーズを十分につかみ切れていなかったのが原因でした。自分のスキルを可視化してアピールしたいと思うのは、どちらかというとキャリア不足の人なのです。しっかりしたスキルのある人は、そういうサイトに登録する必要はありません。一方、企業はハイスペックな人材が欲しい。このマッチングの溝を最後まで埋められませんでした。このサイトの開発に約半年、サービス開始から撤退までに約1年。すでに1年半ほど時間を使っていました。

第二のサービスとして立ち上げたのは、法人向けのクラウド型ITサービス比較サイトです。これも当初は順調だったのですが、しだいに勢いがなくなっていきました。原点に戻って検証してみても、やはり市場のニーズを把握できていなかった。そこそこはいけるかもしれないが、そんなに大きな事業にはならないだろう、ということで、このサービスも半年もしないうちに撤退することになりました。

 まさに生みの苦しみの時期だったわけですね。

しかも、この最初の2年間は、受託開発で運転資金を調達していました。ベンチャーキャピタルからの出資を受けることに漠然とした不安があったのと、自分たちのスキルには自信を持っていたので、受託で稼ぎつつ、空いた時間で本業のサービスを育てていけばいい、と考えていたのです。実際に受託の仕事は順調でした。ただ、いったん受託を始めると、どんどん時間を奪われていきます。最初は、受託と本業を半々でやっていこう、と思っていたのですがとても無理でした。7~8割の時間を受託に使いながら、残った2~3割で本業に取り組むような状況が続いていました。

しかも、それだけ苦労しながら立ち上げたサービスが、続けて不発に終わるわけです。共同創業者でエンジニアの内藤と話し合って、次がダメだったらもう諦めよう、と腹をくくりました。受託の片手間にやるのも良くないと考え、ベンチャーキャピタルのスタートアップ企業支援プログラムに入り、資金援助を受けるかわりに3ヵ月後までに何らかの結果を出さなくてはいけない、と自分たちを追い込む形で最後の勝負をかけました。

 そこでついに「SmartHR」のアイデアが生まれたわけですね。

ただ、すんなりとはいきませんでした。期限の3ヵ月のうち、最初の2ヵ月は10あまりのアイデアを出しては検証することを繰り返しました。そのため、アイデア出しから検証までのスピードは飛躍的に速くなっていきました。それまでは、とりあえずサイトを開発して公開し、その反響を見る、というやり方だったのですが、そもそも課題がマーケットに存在しているのか、自分たちのサービスがその課題を本当に解決できるのか、といったことは、アイデアの段階から当事者にヒアリングすることで十分に検証可能なんです。最初からそういうやり方をしていたら、2年を3ヵ月くらいに短縮できたかもしれない、と今となっては思いますね。

 先が見えない中でも粘り強く続けられた原動力は何だったと思われますか。

この会社は私一人ではなく、内藤と二人で立ち上げました。彼とは同い年ですが、知り合った頃は金融システムのスペシャリストとして活躍していて、とても「会社を立ち上げるから一緒にやろうよ」と気軽に言えるような存在ではありませんでした。ところが、いろいろあって声をかけてみると、意外にもすんなり「やろうか」と言ってくれたんです。彼自身もちょうど独立を考えていたタイミングだったようですが、結果的には一流企業から引き抜いたような形になりました。そんな内藤を「手ぶらでは帰せない」というか、彼のためにも結果を出したい、という気持ちはありましたね。私だけだったら、もっと早くやめていたかもしれません。

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