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社会に変革と創造を促す
グロービス流MBA教育の真髄とは

グロービス経営大学院 学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

堀義人さん

「テクノベート」時代到来! リーダーに必要な資質が激変する

 新しいリーダーシップのあり方を考えるためのキーワードとして、堀学長は「テクノベート」という言葉を自ら創り、提唱しています。テクノベートとは何を意味するのか、あらためてご教示ください。

堀 義人さん インタビュー photo

ビジネススクールの運営と並行して、ベンチャーキャピタルの仕事を20年続けてきましたが、いろいろなベンチャーと触れ合う中で、起業家や経営者に求められる資質が明らかに変わってきていると感じています。グロービスでは、ビジネスリーダーに必要な資質として、次の三つを掲げてきました。第一に、ビジネスの定石となる「経営に関する知識や理論」(ビジネス・フレームワーク)。第二に、状況を分析し最適な戦略をつくる「考える力」(コンセプチュアル・スキル)。そして第三に、人を巻き込んでけん引する「人間関係能力」(ヒューマン・スキル)です。

現在はそれらに加え、たとえばインターネットでトラフィック(関係者や利用者)を生み出すスキルや、ビッグデータを解析して新たなアルゴリズムを導き出したり、人工知能をマーケティングに生かしたりする能力が求められています。経営の中心テーマが、「先端技術を使って従来とまったく異なるビジネスモデルを構築すること」に進化しているからです。この新しい動きこそが、「テクノベート」。テクノロジーとイノベーションを組み合わせた造語です。おそらく今年からは、先端技術の知見が豊富な起業家によってイノベーション創出が加速する、テクノベートの時代に入っていくでしょう。現に、近年の有力ベンチャーに共通するのは、そうしたリーダーがけん引していることですからね。

 リーダー自らにテクノロジーへの理解がなければ、経営ができなくなるということでしょうか。

そういうことです。もちろん、技術的な細かい部分はCIOや現場の担当者が作り込んでいくわけですが、肝心なのは、テクノロジーがビジネスをどう変えるかというグラントデザイン。リーダー自らがそれを理解しなければ、激しい時代の変化にはついていけないでしょう。とくにネットビジネスは、“ウィナー・テイクス・オール”の世界です。二番手、三番手ではほとんど意味がなく、四番手以下は存在しないに等しい。リーダーが無知や理解不足で意思決定を誤れば、すべてを失いかねません。そう考えると、これまで提供してきた既存のMBA理論も、時代に合わなくなっているのは確か。われわれも、変革を迫られているのです。

 そこで今年からカリキュラムを刷新。人工知能やデータ解析などを学ぶ講座を導入し、MBA取得の単位として認定する「テクノベートMBAプログラム」を始めました。

新講座の開講を機に、カリキュラムだけでなく、教え方・学び方も変えていきます。特に僕が効果を期待しているのが、昨年から開始したオンラインMBA。ウェブカメラを通じて、受講生が互いに顔を見ながら授業に参加できるシステムを構築したことで、グロービスが力を入れてきたディスカッションによる学びの場を、オンラインで実現することができました。その学習効果や手応えはリアルの授業と同等か、それ以上であることも確認されています。また、これまではHBSのケースなどを1、2年かけて収集し、紙の教材にまとめていましたが、オンラインであれば、企業事例はネット上からいくらでも引っ張ってくることができるので、わざわざ紙でパッケージ化する必要もありません。受講者が自分でリサーチしながらディスカッションする展開も考えられます。

 オンライン授業は、学ぶ意欲をもつ人にどんな新しい価値を提供できるのでしょうか。

一番は、場所の制約による格差を解消し、誰もが平等に、学びの機会を享受できるようになることでしょう。企業研修でも、オンラインを活用すれば大きなメリットが期待できます。従来の研修で、一番お金がかかる部分は何だと思いますか。最も大きな負担は目に見えません。つまり、国内外の社員が研修場所に集められ、拘束される分の“機会損失”なんです。参加するのが、部長クラスなどのマネジメント層であれば、その損失はなおさら大きいでしょう。ところがオンラインで結べば、台湾にいたまま、マレーシアにいたまま、あるいは本社にいたまま、工場にいたまま、研修に参加できる。当然、機会損失も抑えられ、移動などで削られていた貴重な時間を、学びや仕事に使えるようになるわけです。

 ありがとうございました。最後に、堀学長のように、人を育てることを通じて社会の創造と変革を目指す、同業の若い方々に向けて、メッセージをお願いします。

自分の能力を伸ばすことを楽しんでほしいですね。僕は自分のことを「人生を楽しむ天才」だと思っていて、それくらい楽しいことが大好きなんです。遊びを含め、いろいろなことをやってきましたが、一番楽しいのは「学び」。最大のエンタメは「学び」だと、僕は思っています。自分の能力を高めるということは、飽きないんですよね。ただし、学校を卒業したら、誰も自分のために教育プログラムを作ってはくれません。自分で、自分の能力を高めるプログラムを作らなければならない。そういうことを、ぜひ楽しんでやってほしいと思います。僕もまだまだやりたいことがたくさんあるし、楽しみながら進んでいきます。

堀 義人さん インタビュー photo

(2016年2月18日 東京・千代田区のグロービス本社にて)

社名株式会社 グロービス/株式会社 グロービス・キャピタル・パートナーズ/学校法人グロービス経営大学院
本社所在地東京都千代田区二番町5-1 住友不動産麹町ビル
事業内容グロービス経営大学院/グロービス・キャピタル・パートナーズ/グロービス・エグゼクティブ・スクール/グロービス・マネジメント・スクール/企業内集合研修(グロービス・コーポレート・エデュケーション)/出版・電子出版/GLOBIS知見録/
設立株式会社 グロービス(1992年8月)/株式会社 グロービス・キャピタル・パートナーズ(1996年12月)/学校法人グロービス経営大学院(2007年12月)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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