北海道における人材紹介のイノベーター――
地域密着型の人材ビジネスをトータルに横展開

キャリアバンク株式会社

佐藤良雄さん

雇用環境は危うい

現在の「雇用環境」や「人材市場」の状況を、どのように捉えられていますか。

現在の日本は完全雇用に近い状況だと思います。しかしあらゆる分野で人材不足、という状況は長くは続かないでしょう。現在はハイエンドからローエンドまで、人材を調達できない状況が続いていますが、これからは調達できない人材が限定されていくでしょう。例えば、マーケットが拡大する介護・医療や清掃という分野は景気の如何にかかわらず、人が採れない状況が続くでしょう。つまり、人を採れる分野、採れない分野がはっきりと分かれる、より細分化された労働市場となっていくのです。

また、景気は後退しています。労働市場への影響は遅行して出てくると思いますが、先読みをすれば、人材サービス業界にとっては厳しい状況になっていくでしょう。これまで、正社員として働く能力を持つ人たちは、既に正社員になり、派遣社員で正社員として働く能力を持つ人たちも、「アベノミクス」による政策の下、既に正社員になりました。ですから、人材の流動化をベースとする人材サービス業界にとってのマーケット自体が縮小すると考えられます。

事実、「キャリアアップ助成金」の効果や人材不足によるリスク回避のための正社員化、政策による誘導などによって、かなり多くの人が正社員になりました。そのため、マーケットには優秀な派遣社員が不足しています。そして、この人材がマーケットに戻って来づらいように思うからです。少なくとも、人材派遣のマーケットは縮小に向かう可能性が高いです。

またこの間、日本企業の生産性、その一つの要因である労働力の質が上がったかと言うと、私は上がっていないと思います。結局、外部要因で景気が良くなっただけの話です。株価は政策の誘導で上がり、円安が演出されました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まり、公共事業も創出されました。そして、東日本大震災後の復興事業も続いています。このようなたくさんの要因が重なった結果、景気が創造されたのです。

本来は設備投資を行い、加えて労働力の質が向上することによって、企業の生産性が上がり、収益力が上がります。そしてマーケットが拡大し、売上が伸びていくことによって、景気が作られていきます。しかし、こうした実態を伴うサイクルがほとんどありません。あくまで外部要因によって人材不足が演出され、収益が確保され、株価が上がったに過ぎないのです。私はこの間の「アベノミクス」を、このように捉えています。

また、中国経済が減速し、さらには難民問題など世界マーケットでは景気のいい話はほとんどありません。今後は、相対的に円高になっていくことでしょう。このような環境になっていくと、演出された景気は減速していきます。

佐藤良雄さん インタビュー photo

それによって正社員化が進んだ労働市場は、そもそも流動化のロットが大きくないので、特に人材派遣では売り上げを伸ばすことが難しいでしょう。また、人材紹介は景気が悪くなると流動性が落ちます。このように見ていくと、今後の労働市場において、人材サービス会社はこれまでのように利益を上げられる環境にはないと考えます。

ですから、私が取るべき手段として考えるのは、新しいマーケットを創出することです。その一つが、先ほど申し上げた海外からの人材調達です。大学生のインターンシップの話をしましたが、もう一つ準備しているのが「技能実習制度」です。「技能実習制度」は開発途上国などの外国人技能実習生を日本で一定期間(最長3年)に限って受け入れ、OJTを通じて技能を移転する制度です。

外国人の受け入れに関しては、日本の企業が海外の現地法人や取引先企業の職員を受け入れて行うケースと、非営利の監理団体(事業協同組合、商工会、組合等)が実施するケースがあります。ところが、人材サービス会社は「技能実習制度」には関与していません。

その結果、技能実習生が実質的に低賃金労働者として扱われたり、賃金不払いなどの労働関係法令違反が起きたりするといった問題が顕在化しています。また、技能移転と称しながら人手不足に対応させている実態があります。人材サービス業界として、このままこの問題を放っておいてはいけないし、積極的に関わっていくべきだと思っています。

 さらに今後、「技能実習制度」に介護人材の受け入れが加わる可能性がありますね。

介護人材に関しては、当社でもぜひ関わりたいと思っています。ですから業界として訴えるべきは、「規制緩和をして、介護人材の受け入れ機関を、人材派遣や人材紹介など人材サービス会社へと広げる」ことです。コンプライアンスを守りながら受け入れ先企業を指導し、外国人を的確にマッチングしていくことができるのは、人材サービス会社にほかなりません。我々が関与することができれば、「技能実習制度」がうたう本来の目的に合った内容・サービスを提供できることになり、現行の問題の多くは解決すると思います。

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