人に対する「思いやり」なくして、
人材ビジネスは成り立たない

株式会社パソナグループ代表取締役グループ代表

南部靖之さん

日本社会が目指す雇用のあり方

 雇用のあり方については、若い人たちだけの問題だけではありませんね。さまざまな立場の人に対して、いろいろな働く形を作ることが大切のように思います。

これからは自立社会です。これまでのように、レールが敷かれた人生を歩んでいくような時代ではありません。大企業も、終身雇用を保障してくれるわけではありません。いつリストラに遭うかも分かりません。また、M&Aで全く違う会社になってしまうこともあります。だからこそ、自分が自立すること、そして自分に投資することがとても大切です。

 自分がやりたいことをしながら、仕事を続けるには、正社員ではないほうが好都合の場合もありますね。

株式会社パソナグループ 代表取締役グループ代表 南部 靖之さんPhoto

強い社会を作るためには、強い個人を作る必要があります。強い個人が生きていくことのできる社会制度、インフラがあれば、フリーターであってもイキイキと働くことができます。ニートもいなくなるでしょう。家庭の主婦をはじめとして、いろいろな立場にある人が収入を得ることができます。

ところが、現在は正社員以外は非正規社員という括りで、差別的な対応をしています。正社員であることで問題が全て解決するような論調が見られますが、これはおかしな話です。

 パソナのような取り組みを、他の人材サービス会社も行えばいいように思いますが。

それは、難しいかもしれません。我々は創業時からの理念に基づき、社会の問題を解決するために事業活動を行っています。ところが現実的には、そのような施策は短期的には利益を圧迫するようなことが多々あるわけです。一般的な会社が我々が行っているような取り組みを果たしてできるかどうかはわかりません。

誤解してほしくないのですが、決して、経営効率を最優先することが悪いと言っているわけではありません。そもそもの創業した目的が違うのです。売り上げを上げるだけ、規模を大きくするため、株価を上げるだけのために創業したわけではありません。だからこそ、企業理念について日々、皆に語っているのです。新入社員の段階から、一貫して言っています。

 人材サービス会社として、ベストセラーではなくロングセラーとなる会社を目指す、ということをおっしゃっていますね。

いくら売り上げが上がってベストセラーとなっても、企業理念が揺らぐと、ロングセラーとはなりません。もちろん、景気には波がありますし、突如としてビジネスチャンスが訪れることもあります。ですから人への思いやりを脇に置いて、ひたすら効率重視、あるいは拡大志向でいけば、一時的には儲けることもできるでしょう。しかし、そういう考えで経営している会社が、果たして市場から支持を得続けることができるでしょうか。実際、人に対する対応をおろそかにしたために、市場から消えていった人材サービス会社も少なくありません。

私は創業時に父から教えられた言葉があります。それは「三方よし」です。売り手よし、買い手よし、そして世間よし。社会から必要とされる会社であることが、企業の経営には欠かせないということを教えられました。だからこそ、我々は人を相手にしている以上、思いやりの精神を失ってしまうとベストセラーにはなれても、ロングセラーにはなれないと思っています。

私が自分に言い聞かせている言葉があります。まず「欲は我が身を滅ぼす」。実際、会社が大きくなると、経営者も社員もどんどん欲が出てきます。その結果得たお金によって、「財は子孫を滅ぼす」ということになる。これが政治レベルで起きると、「政(まつりごと)は民を滅ぼす」となってしまいます。そして最後が、「教育は国を滅ぼす」。欲望を追求するような教育を行うと、国家を滅ぼすことになりかねない、ということです。だからこそ、欲(金)ではなく、人を最優先に考えることが大事なのです。

 人に対する「思いやり」を忘れてはならないということですね。

人間には新しい環境に適応する能力があります。その能力を信じることです。私自身、人間の持っている力を信じていたからこそ、「フレッシュキャリア社員制度」を実践したのです。そして、その根底にあるのが人に対する「思いやり」です。我が社が行っている制度は、全てここにベースを置いています。

私自身、大学を卒業した際には自ら事業を起こそうと、今でいうフリーターとなりました。当時は大学を卒業すれば、100人のうち98人は就職できた時代でしたが、私は自ら残りの二人となりました。そうした経験があるので、「フレッシュキャリア社員制度」の持つ意味や大切さが分かるのです。

4月1日、友人の多くが仕事に夢と希望を持って企業の門をくぐっていく中、私のような仕事に就かなかった者は、迷い始めます。自分の置かれた立場に戸惑い出します。希望を喪失し始めます。しかし、私は、精一杯努力をしました。その結果、幸いにも持っていた能力が発揮されることとなり、今のようなビジネスを展開することができました。もし、普通の会社員になっていれば、おそらく5年後にはリストラされていたかもしれません。

 すると、パソナグループも存在しないことになりますね。

そうですね。私自身がフリーターの身にあったからこそ、人間の持つ力の強さ、可能性を信じることができるのです。そのような中からイノベーションが生まれ、新しい産業も出てきます。「フレッシュキャリア社員制度」ではそうしたことを狙っているのです。その上で、若者の失業対策にもなっています。

そのような意味でも、大企業から中小企業へと人材を流動化させることが、社会への活力を生み出していきます。これまでの、大企業に勤務する男性正社員を中心とした仕組みから、いろいろな組織で、いろいろな働き方ができる仕組みを、社会全体で考える必要があるのではないでしょうか。

 だからこそ、人に対する思いやりが大事なのですね。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

株式会社パソナグループ 代表取締役グループ代表 南部 靖之さんPhoto

部屋の天井に実ったトマトと南部さん。パソナグループ本部では、社内のいたるところで野菜が栽培されている。
(2012年9月6日 東京・千代田区のパソナグループ本部にて)

社名株式会社パソナグループ (Pasona Group Inc.)
本社所在地〒100-8228 東京都千代田区大手町2-6-4
事業内容■HRソリューション
 ・エキスパートサービス (人材派遣)
 ・インソーシング (委託・請負)
 ・HRコンサルティング
 ・プレース&サーチ (人材紹介)
 ・グローバルソーシング (海外人材サービス)
 ・アウトプレースメント (再就職支援)
 ・アウトソーシング
■ライフソリューション
■パブリックソリューション
■シェアード
設立2007年12月3日(創業:1976年2月16日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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