経営者は「会社の所有者」ではない
良い人材を集め、
会社のポテンシャルを最大化することが使命

株式会社セルム 代表取締役社長

加島禎二さん

「オーナーシップ」と「リーダーシップ」の違いを常に意識する

 加島さんが経営者として大切にされていることは何ですか。

7年間社長をやってきて感じるのは、経営者は「会社の所有者」ではない、ということですね。とりわけ私の場合は、自分が創業したわけではなく、引き継いで経営にあたっているわけですから、この会社を所有している感覚はまったくありません。経営者は「経営を任された者」。「オーナーシップ」と「リーダーシップ」はまったく異なるものです。それぞれの会社には創業者の意図や社会的な使命があり、これまでの歴史があります。当社にも、組織があって、社員やコンサルタントがいて、お客様がいる。それらの重みをイメージすると、自分ではコントロールできない、大いなるものを感じます。それらはすべて、セルムという会社が培ってきたものであり、私個人が所有しているものではありません。その上で、この会社のポテンシャルを最大にすることが経営者の役割。会社が世の中になくてはならない存在であり続けるために何が必要か、今だけではなく10年後はどうなのか、ということまで考えていかなくてはなりません。「サーバントリーダー」という言葉がありますが、経営者は会社の理念=存在意義に忠誠を誓い、仕える存在だと思っています。

もう一つはやはり、結果を出すこと。私が心がけているのは、「メンバーのやる気を成果に変える」ことです。生まれつき無気力な人はいません。皆やる気はあるのです。社員にやる気があるのに狙った結果が出ないとすると、それは経営者の責任だと思います。成果が出ないときは、戦略、仕組み、組織体制、風土などのどこかに問題があるはずです。それを注意深く観察して、メンバーの報告に頼るのではなく自ら生の一次情報を取りにいく。そしてリーダーたちと率直な対話を繰り返しながら、改善していく。そういう流れや環境をつくっていくのが、経営者の具体的な仕事といえるでしょう。それができないなら、経営者を辞めるべきだと自分を戒めています。

 現在の人事関連業界をどのように分析していらっしゃいますか。

今、社会では大きな三つの変化が起きています。少子高齢化による「働き手の不足」、AIやIoTなどの「デジタル技術の爆発的な進展」、そして「グローバル化のゆがみ」です。これらの変化に対応するために、企業の人事にも新しい課題が次々に生まれています。例えば、働き方改革や生産性の向上、グローバル組織人材マネジメント、さらにはイノベーションを生む組織作りまで多岐にわたります。これらの課題の対応のためには、さまざまな部門や幹部が関わって、従来の守備範囲を超えた対応や調整がますます重要になります。HR-ITの流れも加速していきます。それに対応するためには我々の業界ももっと進化し、対応できる領域を広げていかないといけないと思います。最近人材業界で株式上場や大型合併が相次いだり、人事データビジネスのベンチャーが次々に生まれているのは、このことを裏付けているように思います。

私は、人間の寿命が延びる一方で、イノベーションによって組織や事業の寿命がどんどん短くなっていくというアンバランスに、これからもたくさんの課題が生まれていくと思っています。そうした課題を解決すべく、現在主力事業である「人材開発・組織開発」に加えて、新たな事業に果敢にチャレンジしていこうと考えています。

 最後に、人材ビジネスに関わる若い皆さんにメッセージをいただけますでしょうか。

今、申し上げたように人材ビジネスは大きな変革期にありますから、状況が刻々と変わりますし、新たなサービスも次々に出て来ます。そんな中では、自分の軸をしっかり持たないと激しい流れに翻弄されてしまいかねません。

自分の軸を持つとは、自分が信じる理想の形を自覚することだと思います。自分が信じる理想といっても、それが自分勝手な理想であっては困ります。自分勝手になっているかどうかを確認するためには、その理想によってどんな問題を解決するか。それによって誰が笑顔になるのかを自覚することだと思います。

さらに言えば、ビジネスのリーダークラスの方には、職場や企業の枠の中の課題だけでなく、社会全体を視野に入れて動くことが求められていると思います。その行動を人材の側面から支えること。それも従来のやり方にとらわれずに対応できることが、我々人材ビジネスに求められていることです。果たす役割は大きいと思っています。

株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二さん

(2017年7月3日 東京・渋谷区のセルム本社にて)

社名株式会社セルム
本社所在地東京都渋谷区恵比寿1-19-19 恵比寿ビジネスタワー7F
事業内容企業の経営理念と戦略の実現を、人材開発の側面から支援する組織・人材開発コンサルティング
設立2016年11月 (創業 1995年12月)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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