日本企業が再び成長するためには「モノの見方を変える」ことが不可欠
原理・哲学に基づいた理念を継承し、日本企業を変革
株式会社 ヘイ コンサルティング グループ
高野研一さん
ヘイグループは、世界49ヵ国に87ヵ所のオフィスを構える世界有数のコンサルティング会社。世界各地の企業・団体に使用されている「職務評価」の方法論をはじめ、タレントマネジメント、組織開発などのコンサルティングを提供し、数多くのクライアントからの信頼を得ています。そのヘイグループの日本法人で力を入れているのが、転換期にある日本企業の変革の実現です。終身雇用をベースとした人事制度に慣れ親しんだ日本企業は、グローバル化や事業構造の転換などに対応した新しい人事施策を実行できていません。そんな中、日本法人のトップである高野研一さんは、変革を実現するためには、「モノの見方を変える」ことが重要であると説いています。今後、日本企業が再び成長していくためにはどうすればいいのか、お話を伺いました。
- 高野研一さん
- 株式会社 ヘイ コンサルティング グループ 代表取締役社長
たかの・けんいち/1987年、神戸大学経済学部卒業。1991年6月ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(MSc)修了、1992年6月シカゴ大学ビジネススクール(MBA)修了。大手銀行勤務、外資系、戦略系コンサルティング会社を経て、2006年10月株式会社ヘイコンサルティンググループにディレクターとして入社。2007年10月に同社代表取締役社長に就任。講演、執筆多数。著書に、『ビジネスリーダーの強化書』(日本経団連出版)などがある。
日本企業に迫られるグローバル化への対応
最初に、高野様が人事コンサルティング業に従事しようとお考えになった経緯についてお聞かせください。
大学卒業後、銀行で10数年働いていました。ファンドマネジャーの仕事に長期間従事し、これが天職だと思っていました。ところがバブル崩壊後、銀行が経営破たん。その後、国有化されることになりました。わずか半年余りの間に、人が辞めて、モラールが下がる、リーダー層でも当事者意識を発揮できないという悪循環にはまりました。経営危機に陥った途端、あっという間に組織が崩れていく姿を垣間見たわけです。この経験の中で、財務諸表に基づいて外部から企業を分析し、良い企業の株を買う仕事に疑問を持つようになりました。企業の中に入り込んで、人や組織の要素に触れるような仕事がしたいと思ったのが、人事コンサルティング業界に入ったきっかけです。
この業界に入って、人のモノの見方を変えられるような企業が今の時代における良い企業だとわかりました。例えば、コンサルティングのシーンで、良い企業の例としてよく挙げるのが花王です。消費者の潜在ニーズに迫れるような人材を育てています。モノの見方を変えるような仕組みを組織の中で構築し、消費者自身が気づいていないニーズを発見できるような人材を育成しています。同じくホテルのザ・リッツ・カールトンも、「感動のサービス」を実現するために、人のモノの見方を変えるということを人材育成のゴールにしています。それが会社の強みになっています。このように財務諸表に表れない、人や組織の可能性に光を当てて、人の育成ができているのが良い会社だと、人事コンサルティング業界に入って改めて思い知らされました。
問題は、リーマン・ショック前とは環境が大きく変わり、これまでの戦い方では利益が上げられない企業が増えてきたことです。新たな成長市場を求めるため、業界横断的な競争も厳しくなっています。また、グローバル化が急務となっています。さらに、情報通信の領域では革命的な変化が起こっています。モノの見方を変えて、新しい環境の中で勝ち残れる人や企業を作ることが、今ほど重要性を増している時代はありません。
現在、貴社で力を入れて取り組まれていることは何ですか。
まずは、日本企業のグローバル化の支援。これは我々のようなグローバル企業だからこそできることです。そして、日本企業の構造改革の支援。終身雇用の国だからこそ構造改革は難しく、その原因は多分に人事にあります。海外ではいかにビジネスリーダーとして優れた人材を維持し、引き留めるか。あるいは、いかにして外部から優秀な人材が来てくれるような会社になるか。そのあたりが大きなテーマです。ところが、日本はオーナーのような影響力を持った人がトップダウンで決める場合を除き、外部からベストな人材を探してくる仕組みを持っている企業はまだ少ないのが現状です。
その代わり、会社の中で人材を育成するニーズは、他のどの国よりも強くなっています。特に、これまでのビジネス環境で育成した人材が、新しい環境で通じなくなるといった事態に多くの企業が直面しており、新たな育成の仕方が、日本企業における固有の課題としてクローズアップされています。
貴社では長年、リーダーシップ開発に優れた企業をランキングする「ベストリーダーシップ企業調査」などの調査を行っています。「人事」「人材開発」の面で優れた経営を実現している企業には、どのような特徴がありますか。
優れたリーダーを育てなければならないという危機感は日本企業もベストリーダーシップ企業に挙げられている企業も、同様に持っています。しかし、優れたリーダーになりうる人材を選抜して、適切な配置を行い、意識的に育てているかどうか、という点では大きな違いがあります。
例えば、年齢にかかわらず、素養のある人をプールして、将来の経営者として育てていこうとすると、しかるべきポジションへ早期に配置することが必要です。ところが、日本の場合、バブル経済が崩壊して以降、組織の成長が止まってしまった会社が多く、上のポストが空いていません。そのため、課長クラスのポストに就く年齢が、40代後半になるような会社がほとんどです。しかし、ベストリーダーシップ企業に挙げられているグローバル企業では、30代で将来のリーダーに必要となるポストに就きます。この違いが、日本企業とグローバル企業の差になりつつあります。
それから、ダイバーシティへの対応についても大きく違う点があります。グローバル企業では、多様な人材を活用しています。今、日本企業が、数値目標を決めて、女性の管理職を増やしたり、海外の現地社員の登用を進めたりといったことを行っていますが、グローバル企業はそのような段階をかなり前にクリアしています。経営会議のメンバーが、一つの国・性別の、ある一定の年齢の人たちだけで占められているのはリスクと見られます。
日本企業が、ベストリーダーシップ企業に挙げられている企業のように変わろうとした場合、何が問題となるのでしょうか。
思い切って若手、女性や外国人を登用して、本当に今のビジネスが回るのかと、リスクを感じている企業が多い。その決断ができるのは経営トップだけです。しかし、トップが決断できない、仮にトップが決断したとしても、周りの人が反対して受け入れられないという大きなネックがあります。
ところで、人間の脳は自分で意識できる領域は20%しかなく、残りの80%は無意識の領域といわれています。無意識の領域が自分のモノの見方を形成する重要な役割を果たしています。このモノの見方を変えるためには、新しい刺激を加えるのが一番です。例えば人事異動。若くて優秀で伸びる余地がある人を、新興国に派遣して、新しい刺激を受けさせたり、これまでとは異なるビジネスラインの長にしたりする。役員を多様な人材で構成する。こうして環境を変えないと、人のモノの見方も変わりません。人のモノの見方が変わらなければ、企業も変わることができないのです。