なぜ史上最年少で株式上場を果たせたのか――
HR業界の新しいあたりまえを生み出す覚悟と秘訣

株式会社リブセンス

村上太一さん

バイト探しの体験から生まれた成功報酬型の求人サービス

アルバイト求人サイト「ジョブセンス」が貴社のスタートでした。先述の“高校時代から練っていたアイデア”が、そのビジネスモデルにつながったのですか。

そうなんです。アイデアが生まれたのは高校3年の夏、私自身のアルバイト探しがきっかけでした。自宅近くの求人を探したのですが、求人誌やインターネットでは、条件に合うバイトが全然見つからなかったんです。でも、自分で街中をちょっと歩けば、『アルバイト募集』の張り紙を出している店は結構ある。そういう店はコストの問題で、情報誌やサイトには求人を公開していないんですね。人が採れなくても、掲載費用がかかってしまいますから。バイトをしたい人は大勢いて、近所にもいいバイトがたくさんあるのに、既存メディアではお互いが出会えないから、募集側も応募側も不利益を受けているという構造がそこにありました。

ビジネス書を読むと、社会の不便や問題を解決するのがビジネスの基本だとよく書いてありますよね。私も当時から、何が不便や問題かをずっと考えていたのですが、人と仕事とが出会いにくい構造を自ら経験し、これこそ解決すべき不便、問題ではないかと気づいたんです。掲載料を無料にして、応募が来たら費用が発生する“成功報酬型”(現在は、採用できたら費用が発生するモデル)の求人サイトをつくれば、張り紙を貼るような感覚で、張り紙以上に詳しい情報を大量に掲載できるし、これなら、従来は集められなかった情報を一手に集められる。新しいビジネスモデルとして成立すると思いました。

何かしら世の中の不便や問題を見つけて解決することが起業の主眼であり、必ずしもそれは人材ビジネスでなくてもよかったということでしょうか。

株式会社リブセンス 村上 太一さん インタビュー photo

確かに、最初から人材ビジネスを志向していたわけではありません。でも、やるからには小さいことはやりたくなかったし、考えてみれば、世の中にインパクトを与えるという意味で、仕事や雇用の分野は十分大きなテーマだなと。誰でも“働く”ことに、人生のほぼ三分の一の時間を費やしているわけですからね。もちろん解決されるべき不便や問題は、他にもあるでしょう。でも起業するにあたり、自分にも実現できて、かつ当事者意識が持てるという観点から、人材ビジネスが一番ふさわしいと判断したんです。

“学生起業家”として注目される反面、事業を起こして軌道に乗せるまでは、やはり大変だったでしょうね。

頑張れば何とかなるのが普通ですが、それまでにないビジネスモデルだったので、頑張ってもうまくいく保証はありません。正直なところ、報われないかもしれないという不安というか、恐怖心はいつもありました。私の経験からいうと、スタートアップの時期というのは「溺れながら、どれだけもがき続けられるか」が勝負なんですね。不眠不休で働いても陸地が見えないし、見えたと思ったら幻ということもある。それでも、いつかどこかに必ずたどりつけるはずだと信じて、大海原をあてもなくがむしゃらに泳ぎ続ける、そういうプロセスなのではないでしょうか。

幼い頃から起業や社長になることを志し、それを実現したものの、夢と現実との間にギャップを感じることはありませんでしたか。

夢見ていたことや想像していた内容があまりに表面的すぎました。だから、ビジネスの表面に関してはギャップが少なかったけれど、内実が見えてくると自分の未熟さを思い知らされたり、「これは行ける!」と思っても行けなかったりすることが少なくありませんでした。たとえばビジネスプランの導入予測として、普通は滑り出し上々のパターンと可もなく不可もなくのパターン、出だしでつまずくパターンの、最低3パターンを想定して始めるものですが、私は出だしでつまずくパターンをつくっていませんでした。ダメになる理由がないと考えていたからです。

でも、実際の業績は全然ダメ。当初の見込みとは桁が違っていましたからね。7000万円ぐらいになるはずだった初年度の売上が、たったの400万円ちょっと。現実は大変だと思い知らされました。ビジネスとして形になりそうだと思えるようになったのは、ようやく2年目くらいからでしょうか。それでも、まだ早いほうだと思いますよ。

苦境を脱し、経営が軌道に乗った転機は何だったのか、振り返ってください。

当初は掲載無料で、応募一件ごとに料金をいただいていましたが、これをバイトの採用が決まった時点で課金するシステムに変更し、成功報酬のメリットを強化しました。また「採用祝い金」という仕組みも導入。募集する側の企業だけでなく、応募者にもメリットを提供することで、より多くの人をサイトにひきつけようと考えたわけです。当然、収益面でのハードルを上げることにはなりますが、何かを変えないと“陸地”は見えてきません。でも、それが転機となったのは間違いないでしょう。少しずつですが、結果がついてきました。顧客が増え、求人も増え、求人が伸びるとユーザーも広がるという規模の好循環が現れ始めたんです。

11年12月、リブセンスは設立からわずか5年で株式上場を果たし、当時25歳の村上社長は史上最年少で上場企業経営者となりました。苦しい時期があった分、達成感はひとしおだったでしょうね

それがあまり……。「すごく感動しました!」と言えたらいいのですが、ご期待に応えられなくてすみません(笑)。上場についても、昔から結構イメージトレーニングをしていて、あまりにもそのイメージどおりだったもので。もちろん喜びや達成感はありましたが、事前に想像しすぎたせいか、もう実現したような気になってしまい、感激するところまでいきませんでした。むしろ周りがみんな大喜びして、泣いたりしてくれたのがうれしくて。同時に、ここからが大変だなという思いも強まりましたね。上場企業にはより大きな社会的責任が伴いますから。

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