企業にとって最も大切なものは理念とビジョン
経営者として「キャリア開発があたりまえの世の中」を実現する

アデコ株式会社 代表取締役社長

川崎健一郎さん

経営者としての使命は企業理念を実現すること

 経営者として「理念」や「ビジョン」をとても重視されているようですね。

アデコ株式会社 代表取締役社長 川崎 健一郎さん インタビュー photo

高校生のころは、「経営者になれば時間を自由に使える、だから社長になりたい」と思っていました。しかし、自分が実際に役員になってみると現実はまるで違うわけです。忙しいし、自社の経営にコミットしなければならない。ですから事業部長として結果を出せた時、「いよいよ起業して、時間を自由に使えるオーナー社長になる時が来たかもしれない」と思いました。

しかし、いざ起業しようと思った時に、「ただ自分の自由になる時間がほしい」という理由で独立するのはずいぶん利己的だと気が付いたのです。人生の先輩方の書かれた本や話を聞いていると、「いかに人や社会に貢献できたか」が人生の充実度を左右するのだという。自分の仕事人生を振り返ってみたとき、そうした貢献には達していないと感じました。もしここで起業・独立して自由な時間を手に入れたとしても、それで本当に幸せな人生だったと思えるだろうかと。

その時に心に浮かんだのが「企業理念」でした。VSNにはもともと明文化された企業理念はなかったので、私が専務時代に「人財(ヒューマンキャピタル)の創造と輩出を通じて、人と社会の歓びと可能性の最大化を追求する。」という企業理念をつくりました。よく考えてみると、これはかなり大きな目標。しかも、当時のVSNは上場こそ果たしていましたが、まだ到底そういえる状況の会社ではなかった。この企業理念を実現しよう、これこそが真の社会貢献であるし、自分にとっての「やるべき仕事」になるのではないか、そう考えたのです。

そこで起業・独立という考えから脱却し、再び目の前の仕事にまい進するようになりました。業績を順調に伸ばしていましたが、2008年にリーマンショックが起こるとVSNは9年ぶりの営業赤字に転落します。なんとか業績を回復させなくてはならない。そのタイミングで、私は代表取締役に就任しました。それが2010年。私が33歳の時でした。

 その後、2012年にVSNはアデコの傘下に入られるわけですが、その経緯をお聞かせください。

VSNの社長になって最初に行ったのはMBO(マネジメント・バイ・アウト)です。念願かなって上場を果たしましたが、中長期的な改革を大胆に実施するには、上場企業としての短期志向型のサイクルでは難しいという結論に至ったからです。そこで思い切って非上場化を敢行し、5ヵ年の中期事業計画を打ち出して、さまざまな改革を進めていきました。その過程で、再度IPOを目指すのか、それとも外部の企業と手を組むのかを模索することになり、その中でアデコと出合ったわけです。

アデコとしては技術者領域、アウトソーシング分野をアジア圏でさらに伸ばしていきたいという目標がありました。VSNとしてもグローバル化への対応、海外で活躍したいエンジニアに機会を提供するときにアデコのネットワークを活用できるのは大きな魅力です。両社が掲げる企業理念や価値観が近いこともあり、2012年にアデコグループに加わることになりました。私は引き続きVSNの社長を務めるとともに、アデコの技術者派遣事業の責任者(取締役)も兼任することになりました。

 現在はそのアデコ日本法人の社長を務めていらっしゃいます。

アデコグループで仕事をするようになって2年後に社長に就任しました。当時アデコもまた、リーマンショック後の落ち込みから業績を回復させようとしている最中であり、そこでさらに改革が必要だということになったようです。そのころのVSNの売上は、アデコ日本法人と比較すると10分の1程度でしたが、中期事業計画は順調に進んでいて、改革の実も上がっていました。おそらくそのあたりの「改革する力」を評価してもらえたのではないかと思います。

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