日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX(Candidate Experience)調査
企業が候補者に与える印象とは。採用CX向上のヒントをひも解く
「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX調査」の結果を発表
約6割の学生が「誠実さ」を感じると選考参加意欲があがると回答した一方、
AI面接では「誠実さ」を感じにくいなどの課題も
企業における経営・人事課題の解決および、事業・戦略の推進を支援する株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(本社:東京都港区 代表取締役社長:山﨑淳 以下、当社)は、就職活動を経験し内定が出た797名の大学生・大学院生に対し、「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX(Candidate Experience)調査」を実施し、「各選考プロセスに対する反応」や「各選考プロセスが選考参加意欲に与える影響」など、調査結果から見える実態について公表しました。
【エグゼクティブサマリ】
Topic1:選考参加意欲への影響が最大の「誠実さ」は、個人面接において最も伝わりやすい
・選考参加意欲への影響が最も大きい候補者の評価観点は「誠実さ」
・各選考プロセスを比較して、候補者の評価が高いのは個人面接
・個人面接の選考辞退の理由最多も「誠実さ」の観点
Topic2:AI面接は「参加しやすさ」が評価されている一方で「誠実さ」などを感じにくい
・AI面接経験者は候補者全体の3割弱
・AI面接に対する候補者の評価は低い傾向
・AI面接は、人による面接と比較して「妥当感」「実力発揮感」「納得感」「誠実さ」などを感じにくくなる候補者が多い
・AI面接を経験したことのある候補者の方が、AI面接に対する評価は高まりやすい
Topic3:適性検査で重視されているのは「実力発揮感」や「公平性」を通した「誠実さ」
・「参加しやすさ」は「妥当感」「誠実さ」と比較して候補者の反応が異なる
・「参加しにくさ」が選考実施前の辞退理由になり得る
1.調査にあたり
採用CXとは、直訳すると候補者による採用選考プロセスでの体験を指し、広義にはそれを通じて候補者が抱く選考プロセスや企業への印象のことも言います。この概念は、企業が候補者に好意的な印象を与えているかを測る観点として使われ、欧米では10年以上前から注目を集めてきました。採用CXは近年日本でも関心が高まっている一方で、応募前から内定後に至る選考プロセス全体に影響するため、その評価観点や測定方法は多岐にわたっているのが現状です。また昨今日本では、候補者が選考に参加しやすくなるよう設計された採用ツールが増えてきているものの、採用CX向上という観点で捉えた場合、果たして参加しやすさだけを追求することは適切なのか、といった疑問もでてきています。
そこで本調査では参加しやすさを含む評価観点を6つ用意し、新卒採用選考プロセスと、選考への参加意欲・姿勢との関係を調査しました。具体的には、新卒採用場面の各選考プロセスにおける候補者の体験が候補者からの評価にどのようにつながるのか、各選考プロセスへの候補者の評価が選考への参加意欲や姿勢にどのように影響するのか、という点について調査しました。
2.調査担当者のコメント
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部測定技術研究所 研究員
甲斐 江里
日本でも人口減少などの社会変化を背景に、採用CX(候補者体験/Candidate Experience)の向上が重視されるようになってきました。海外ではこの概念が既に定着し、多くの研究や調査が行われていますが、日本の新卒採用選考プロセスは海外とはやや異なる特徴があるため、海外の調査結果をそのまま適用できるとは限りません。こうした背景を踏まえ、日本の新卒採用選考場面において候補者が重視する評価観点を明らかにしたく、本調査を実施しました。
結果として、候補者にとって6つの評価観点(妥当性~参加しやすさ)は、総じて重要であるものの、特に「誠実さ」の観点が面接経験と相まって選考への参加意欲や選考辞退に大きく影響を与えることなど、重要な示唆を得ることが出来ました。今後、選考プロセスでの採用CX向上の必要性がさらに高まることが予想される中、本調査結果が活用されることで、企業と候補者双方にとってより良い選考体験の構築につながることを期待します。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部測定技術研究所 マネジャー
渡辺 かおり
本調査は、新卒採用において重要性が増している学生の反応を、採用CXという概念で捉え、選考プロセスとの関係性を整理してきました。選考プロセスといえば、エントリーシートと適性検査と集団面接、個人面接が主流でしたが、昨今のIT技術の発展により、動画選考やAI面接等、選択肢が増えてきている状況です。本調査では、複数の選考プロセスの比較とともに、面接に関する掘り下げもしています。結果の中では、候補者から見た時に、個人面接の評価が高いことや、AI面接は他の面接方法と比べて現時点では候補者に受け入れられにくい側面があることなどに触れています。
一方で、今回の結果をもってAI面接が駄目だと論じることは早計でしょう。選考プロセスも候補者の反応も、時代にあわせて変化していくものです。そのような変化の中で、効率化できるところはどこか。対面だからこそできることはなにか。そして変わらず大事にすべきことはなにか。重要なのは、自社の採用成功と学生のより良い反応・状態を両立するために、採用選考で自社が何を重視するのかを考え、検証していくことにあるでしょう。今回の調査が、学生の目線から採用選考プロセスを捉え直すきっかけになれば幸いです
3.調査の結果
【Topic1:選考参加意欲への影響が最大の「誠実さ」は、個人面接において最も伝わりやすい】
● 選考参加意欲への影響が最も大きい候補者の評価観点は「誠実さ」
・選考中に各選考プロセスへの候補者の評価観点が「満たされている」と感じた場合と「損なわれた」と感じた場合、選考参加意欲がどのように変化するかを選択してもらった回答結果のうち、選考参加意欲に最も大きく影響した評価観点は「誠実さ(企業が学生にしっかり向き合ってくれている)」で、満たされた場合/損なわれた場合のいずれにおいても、6観点の中でトップとなった。
・選考参加意欲が上下した具体的なエピソードについても収集したところ、「誠実さ」の観点で特に多かったのは面接におけるエピソードで、これは、企業で働く社員との直接の接点が「誠実さ」を感じさせる重要な要素であることを示唆する。
・また、選考参加意欲を高める指標として「誠実さ」の次に効果が高かったのは「実力発揮感(自分らしさを発揮できる)」、逆に損なわれた場合に影響が大きかったのは「公平性(候補者内での公平感がある)」だった。
⇒「誠実さ」を感じたエピソードの内容は丁寧な声がけや温かい対応などであり、面接官の些細な行動が候補者からの印象に大きく影響し得ることがうかがえる。また、評価観点が「満たされている」と感じた場合は6観点全てが選考参加意欲に対し50%以上の肯定的な影響を示しており、いずれも重要ではあるものの、「誠実さ」「実力発揮感」の強化や「公平性」の維持が特に重要と考えられる。
● 各選考プロセスを比較して、候補者の評価が高いのは個人面接
・前項にて示した選考参加意欲に対して重要な評価観点を踏まえ、これら「公平性」「実力発揮感」「誠実さ」の観点がどのような選考プロセスで評価されているかを確認した。その結果、3つの観点については全ての選考プロセスにおいて平均値が3を上回っており、特定の選考プロセスにおける評価が非常に低い、というような傾向は見られなかった。
・各選考プロセスを比較すると、個人面接は3つの観点全てにおいて他プロセスに比べ評価が高い傾向が見られた。
⇒やはり候補者と面接官が密に対話できる個人面接という状況が、候補者に高い評価を与える要因となっていると考えられる。個人面接における「誠実さ」の項目は「企業が学生にしっかり向き合ってくれている」となっており、対人接点場面の評価が高くなりやすい。また「実力発揮感」の項目は「自分らしさを発揮できる」となっており、選考プロセスにおいて自己表現の自由度の高さが評価に反映されやすいと考えられる。個人面接は、対人接点及び自己表現の自由度の高さという双方の要素を兼ね備えており、総じて評価が高くなったと推察される。
● 個人面接の選考辞退の理由最多も「誠実さ」の観点
・これまでの調査結果から「誠実さ」が損なわれることが選考参加意欲の低下につながると示唆されたが、意欲低下に留まらず選考辞退に至るケースがあることが分かった。個人面接後に選考辞退を経験した候補者のうち48.5%が「面接官の態度から、学生にしっかり向き合ってくれていないと感じた」ことを辞退理由に含めていた。
⇒候補者が面接官に対し「誠実さ」に欠けると感じた場合、単に選考参加意欲が低下するだけでなく選考辞退に至るケースがあると想定できる。また、「誠実さ」の欠如は企業の採用成果に直接的な影響を及ぼす重要な要因となり得ると考えられる。
【Topic2:AI面接は「参加しやすさ」が評価されている一方で「誠実さ」などを感じにくい】
● AI面接経験者は候補者全体の3割弱
・近年増加しているAI面接に着目し、現状の候補者からの評価結果を確認するためにAI面接経験有無を確認したところ、調査対象全体のうちAI面接経験者は28.4%だった。
⇒昨今、AI面接が普及しつつあると言われているものの、実際に経験した候補者はまだ3割に満たないのが現状のようだ。
● AI面接に対する候補者の評価は低い傾向
・「各選考プロセスへの候補者の評価」と同様の質問項目について、個人面接・グループ面接・AI面接の評価結果を比較したところ、AI面接は個人面接やグループ面接と比べて全体的に評価平均が低い傾向が見られた。
⇒AI面接は、企業側の業務負荷の軽減や面接評価基準の均一化を目的に導入されるケースが多いものの、現時点では他の面接方法と比べて候補者に受け入れられにくいことが示される。
● AI面接は、対人面接と比較して「妥当感」「実力発揮感」「納得感」「誠実さ」などを感じにくくなる候補者が多い
・人による面接と比較した際のAI面接に対する候補者の評価を尋ねた結果、「妥当感」「実力発揮感」「納得感」「誠実さ」については「人による面接よりも感じにくい」と回答した割合が40%を超え、選択肢中で最頻となった。
⇒人による面接をAI面接に置き換えることにより、上記観点での候補者からの評価が低下するリスクがあると考えられる。
● AI面接を経験したことのある候補者の方が、AI面接に対する評価は高まりやすい
・前項の回答をAI面接の経験有無別に、「人による面接よりも感じやすい」と回答した割合を比較した結果、「公平性」以外の全ての評価観点において、AI面接を経験したことのある候補者の方がその回答割合が高くなった。
⇒実際にAI面接を受けることによって、AI面接に対する評価が事前の印象から変化する可能性がある。ただし、もともとAI面接に対して評価が低い候補者は、AI面接実施前に選考を辞退する可能性もあるため、さらなる解釈には追加の調査が必要と考えられる。
【Topic3:適性検査で重視されているのは「実力発揮感」や「公平性」を通した「誠実さ」】
● 「参加しやすさ」は「妥当感」「誠実さ」と比較して候補者の反応が異なる
・新卒採用選考場面で頻繁に利用される適性検査に対して候補者が重視する観点を確認したところ、「誠実さ」が最も高く、次いで「実力発揮感」と「公平性」が上位に挙げられる結果となった。
・「参加しやすさ」や「妥当感」は他の評価観点ほど重視されていない傾向が見られた。
⇒通常、適性検査は外部の適性検査サービスが利用され、企業独自に開発されることは稀であるため、面接のように企業が「誠実さ」を直接的に伝えるのは難しいと考えられる。そのため、候補者は「実力発揮感」や「公平性」を通して、企業が自身の実力を公正に評価する姿勢や環境を整えていると感じ、結果的に「誠実さ」も評価されていると解釈できる。
⇒近年、短時間で受検できる適性検査なども増えつつあるが、「参加しやすさ」や「妥当感」は他の評価観点ほど重視されていないことから短時間で受検できる検査が必ずしも候補者からの評価向上に直結しないことが示唆される。
● 「参加しにくさ」が選考実施前の辞退理由になり得る
・適性検査における「参加しやすさ」は、他の評価観点と比べて候補者にとって相対的に重視されにくい指標であると分かったものの、適性検査実施前に選考を辞退した候補者の辞退理由には、「参加しやすさ」に関連する項目が他の指標に比べて多く含まれた。特に、適性検査に向けた準備や段取りが煩雑と感じられたことが選考辞退の一因となっている。
⇒「参加しやすさ」については、「事前準備が手間かどうか」という観点で、選考プロセス実施前に候補者から評価されるケースが多いため、他の観点よりも重視されにくい場合でも候補者の負担を軽減する工夫が求められると言える。
4.調査概要
【方法】Web調査会社を用いたインターネット調査(2024年8月)
【対象】以下全てを経験したことのある大学生もしくは大学院生
・自由応募による就職活動
・内定獲得
・個人面接、適性検査(能力・性格とも)の選考プロセス
【サンプル数】797名
◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。
(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ /11月22日発表・同社プレスリリースより転載)