ニュース
社会 教育・オピニオン
掲載日:2022/08/22

役員報酬にESG指標を反映する企業62%(昨年比32%UP)、米国並みに

世界をリードするアドバイザリー、ブローキング、ソリューションのグローバルカンパニーであるWTW(NASDAQ:WTW)は、役員報酬のKPIとしてESG指標を採用する企業の状況等について、TOPIX100構成企業を対象とした調査を実施しました。

※各社の有価証券報告書、株主総会資料、統合報告書等における役員報酬等の開示を基に分析・集計

《 調査の目的 》
2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や、人材の多様性確保等の要請がより一層と高まるなか、2023年3月期の有価証券報告書より、こうしたESG課題への取組状況等の開示が義務づけられる予定である。

他方で、ESG課題への取り組みを促進するため、役員のインセンティブ報酬をESG指標に連動させる事例がグローバルに急増している。本調査は、日本におけるESG指標の採用がどの程度進んでいるかを分析するとともに、今後の各社の取り組みの参考となるよう、具体的なESG指標の事例を紹介することを目的としている。

《 調査結果 》
① 2022年の役員のインセンティブ報酬にESG指標を採用する企業は、昨年から倍増し、TOPIX100構成企業の62%となった。これは昨年時点における米国並みの普及率である。

<役員報酬のKPIにESG指標を採用している企業>
日本 62%(TOPIX100構成企業)
米国 60%(S&P500構成企業)
欧州 79%(欧州主要インデックス構成企業327社)

② 役員のインセンティブ報酬と連動させる具体的なESG指標は、CO2排出量の削減をはじめとした気候変動などの地球環境問題への対応に関する指標を採用する事例が最も多い。次いで、外部のESG評価機関の評価(ESG関連Indexへの採用やESGのレーティング)をKPIとする事例、従業員のエンゲージメント(外部専門機関による調査結果等)をKPIとする事例と続く。

<役員報酬のKPIとして採用しているESG指標>
環境関連(CO2削減等):55%
ESG評価機関の評価:34%
従業員エンゲージメント:32%
ダイバーシティ&インクルージョン:27%
顧客サービス(満足度等):25%
操業の安全性/事故頻度等:11%
従業員の健康・働き方:9%
その他:43%

  • 従業員に関する指標としては、エンゲージメントの他、ダイバーシティ&インクルージョン(例えば、女性管理職比率、外国人登用)や従業員の健康・働き方(例えば、メンタルヘルス不調による休業者率、男性育児休業取得率)に関する指標などが見られた。
  • 顧客サービスの価値向上を目的とした代表的な指標としては、顧客満足度やNPS(Net Promoter Score)などがある。
  • 交通業界や工場を有する製造業においては、操業の安全性や事故頻度・労働災害件数等をKPIとして採用する事例も確認された。
  • 「その他」には、各社の中期経営計画等におけるESGに関する取組をKPIとし、具体的なKPIを開示していない事例等が多く含まれている。また、数は多くないが、ESGのG(ガバナンス)に関する指標(例えば、コンプライアンス、グループガバナンス強化)も含めて集計している。


③ ESG指標の反映先として、欧米では短期インセンティブ(年次賞与)のKPIのひとつに組み込む事例が多いが、日本では、長期インセンティブ(株式報酬等)のKPIとして組み込む事例も同程度見られた。

<ESG指標の反映先>
年次賞与のKPIとしてESG指標を採用:37%
長期インセンティブ(株式報酬等)のKPIとしてESG指標を採用:37%
短期・長期の両方のインセンティブ報酬のKPIとしてESG指標を採用:26%

④ 役員報酬に反映するESG指標の具体的な事例はウェブサイト上の開示事例集参照。

《 コメント 》
経営者報酬・ボードアドバイザリー プラクティス
ディレクター 宮川 正康
経営トップ自らが、気候変動をはじめとしたESG課題への対応に本気で取り組んでいることを示すため、業績連動報酬のKPIにESG指標を組み込む事例が急増している。日本のトップ100社のうち6割以上が採用するなか、そのうち半数は2022年に導入したばかりである。

日本は欧米に比べてESG課題への対応が遅れていると指摘されることも多いが、一方で、昨今のESG投資の潮流よりずっと以前から日本企業に根付いている取り組みもある。しかし、パーパスに基軸を置いた経営がグローバルに進むなか、これを中心としたESG戦略の策定やマテリアリティの特定が、欧米に比べて遅れていた(時として言語化されていなかった)側面は否めない。それが、規制の後押しやCovid-19拡大の影響もあって、ここ数年で一気に進み、価値創造のストーリーのなかで特に重要なESG指標を開示・説明できる状況になってきたことが背景にあるものと考えられる。

このような視点で今回の調査結果を見てみると、ESG指標として採用割合の高い「気候変動などの地球環境問題への対応に関する指標」や「従業員エンゲージメント」、「ダイバーシティ&インクルージョン」などは、まさに、これまで日本企業の対応が遅れていたESG課題であることに改めて気づかされる。もっとも、日本におけるESG評価は緒に就いたばかりであり、今後の運用のなかで試行錯誤を繰り返しながら、また、ステークホルダーとの対話を重ねながら、より実効性のあるものに改善されていくことが期待される。

他方で、ESGへの関心が高まるなか、あまり注目されていないが、(多くの日本企業に共通する課題といえる)株価・時価総額の向上を目的として、TSR(株主総利回り)を役員報酬のKPIとして採用する企業が、じわじわと増えている。2022年には、日本のトップ100社のうち4社に1社がこれを採用するまでになってきた。社会や企業のサステナビリティの視点からESG指標が重要であることは疑う余地はないが、欧米に比べてPBR1倍未満の企業が圧倒的に多いなか、グローバル競争を勝ち抜くためには、株価・時価総額向上の意識(言い換えると、市場からの成長期待をあげる意識)をより一層高める必要があるのかもしれない。

 

◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。

(タワーズワトソン株式会社 / 8月16日発表・同社プレスリリースより転載)