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掲載日:2016/08/03

新産業革命による労働市場のパラダイムシフトへの対応~「肉体労働(マッスル)」「知的労働(ブレイン)」から「価値労働(バリュー)」へ~を発表:経済同友会

公益社団法人経済同友会は、提言「新産業革命による労働市場のパラダイムシフトへの対応」を8月1日に発表しました。

 

新産業革命による労働市場のパラダイムシフトへの対応
~「肉体労働(マッスル)」「知的労働(ブレイン)」から「価値労働(バリュー)」へ~

<はじめに>
経済のグローバル化の進展や、デジタル化(digitalization)による新たな産業革命の時代を迎え、日本の産業構造は我々の想像を超えるスピードで変化し始めている。歴史的に見ると、これまで人間の「労働」は、進歩する技術が人間の能力を代替・補完することによって生産性を向上し、進化してきた。 18世紀の産業革命により「肉体労働(マッスル)」が機械に代替され、「知的労働(ブレイン)」へとシフトし、現在はその「ブレイン」が人工知能(AI)(※1)に取って代わられる時代となっている。「知識(ナレッジ)」の量を誇るだけで、「価値(バリュー)(※2)」を生み出さない労働は、やがて AIに代替される可能性が高い。

長期的には、 AIも人間並みの高度な価値判断や意思決定ができるという領域に達するかもしれない。しかし、それにはまだ時間を要することであろうから、人間の労働は、高度な価値判断や意思決定、創造性の発揮など、機械には代替されにくい価値の創造にかかわるものへとさらにシフトしていくだろう。

これに伴い、「労働市場」の姿や人々の「働き方」にも大変革が起こることが予想されており、すでにその変化は顕在化している。例えば、先端技術人財(※3)をはじめとする高度プロフェッショナル人財のグローバルな獲得競争の激化、就業者数が多い事務職・ホワイトカラー業務のコンピュータによる代替等である。また、企業と働き手の関係においても、「リモート・ワーク」を活用した地方や海外における就業等、場所や時間を選ばない働き方や、「アライアンス」(※4)といった新しい働き方の世界的な拡大等により、「企業に雇用され、与えられた業務に従事する」ことが常識でなくなり、企業の人財戦略や、個人の職業観・労働観(※5)も大きく変化し始めている。

一方、戦前の「工場法」をベースにつくられた日本の労働法は、「所定の場所」「所定の時間」に「労働時間と成果が比例する業務」に従事することを前提としており、こうした新しい動きに対応していない。また、企業においても「正社員」を中心としたいわゆる日本型の雇用・労働慣行が依然として根強く残っている。しかし、従来の労働法制・慣行の下での一律的な働き方は、日本企業の競争力強化に繋がっておらず(※6)、さらには、デジタル化の進展により新たなビッグチャンスが生じる時代において、逆に世界の中で競争力を失うことにつながりかねない。

したがって、新産業革命という大きなうねりの中で、産業構造の激変や働き方の大変革を展望しながら、新しい価値を生み出す企業や個人にとって最適な「労働市場」を再構築していく必要がある。新しい労働市場においては、多様な働き方の選択肢が存在し、企業と個人のニーズが最適な形でマッチングされていくことになるだろう。例えば、企業は自社のビジネスモデルを徹底的に追求する中で、自社における「働き方」を明確に提示し、「この指とまれ」方式で、その働き方を志向する個人を採用する。一方、個人は自身のスキルやワーク・ライフ・マネジメント(※7)に応じたニーズ等から主体的に「働き方」を選択する。これは企業や個人にとっては、「何でもできる、面白い時代がやってくる」ことを意味する。

本会では、こうした問題意識を背景に、めざすべき将来の「労働」の形、将来の労働市場と労働法制のあり方、その実現のプロセスにおいて労働市場の各主体(企業、個人、政府等)が取り組むべき課題について、以下のとおり提言をとりまとめた。

※1:
人間並みの知能レベルの実現をめざす意味で、「汎用人工知能( AGI; Artificial General Intelligence)」という言葉も使われている。
※2:
付加価値ではなく、新しい価値の創造であること。
※3:
資産、財(たから)となる人材という意味を込めて、本提言では「人財」と表す。
※4:
会社と個人との雇用契約ではなく、会社と個人が対等な関係で「業務」について契約し、その業務が終了すれば次の業務について相談し、希望する業務がなければ他社に移る可能性もあるという新しい雇用形態。
※5:
リクルートワークス研究所豊田義博氏の本会講演資料「日本のミレニアル世代の職業観・労働観と企業の将来像」(2016年5月)によると、日本の若手社員の特徴として、自己実現志向、リスク回避志向、自分の時間重視等の傾向が上げられている。後述するドイツの「ワーク 4.0」における、労働観の調査において、労働者が求める価値観として、以下の7つが示されている。「不安なく仕事で生計を立てる」、「絆の強い共同体で仕事をする」、「努力して豊かさを得る」、「最高の成果をあげるために頑張る」、「仕事を通じて自己実現を行う」、「ワークライフバランスを追求する」、「仕事以外で生きがいを見つける」。
※6:
日本生産性本部「日本の生産性の動向 2015年版」によると、世界から見た日本企業の労働生産性は、 OECD諸国 34カ国中 21位(一人当たり労働生産性)、21位(時間当たり労働生産性)と低い状況にあり、直近 20年を見ても順位はほぼ変わらない。
※7:
個人のライフステージにおける育児・介護等のニーズに応じて主体的に働き方を選択し、ワークとライフをコントロールし、働き続けることが可能な状態。

 

<もくじ>
1.労働市場を取り巻く新産業革命による環境変化とその影響
 (1) 人財の量と質の需給ミスマッチ
 (2)グローバルな人財獲得競争と人財育成競争
 (3) 職種の消滅/誕生
 (4) ライフスタイルや働き方の変化

2.激変しつつある労働市場――その将来像を展望する
(1) 新産業革命がもたらす就業構造の変化
(2) 「労働」のパラダイムシフト
(3) 「労働市場」のパラダイムシフト

3.提言――労働市場のパラダイムシフトへの対応
 (1) 企業の取り組み
  (a)2020年までの課題(Japan 2.0の準備期間)
   [1]スマート・ワークの実現
   [2]価値創出人財の育成・兼業禁止規定の緩和
  (b)2021年以降に向けた課題
   ○雇用形態の多様化、新しい企業と個人の関係の構築な環境の整備
 (2) 政府としての取り組み
  (a)2020年までの課題(Japan 2.0の準備期間)
   [1]「日本再興戦略」の着実な実行と効果検証
   [2]同一価値労働同一賃金に関する法整備
  (b)2021年以降に向けた課題
   [1]新産業革命を踏まえた労働行政の転換
   [2]新しい働き方に対応する社会保障の再設計
   [3]柔軟で安定した労働市場の構築
(3) 教育機関の取り組み
(4)個人としての取り組み
おわりに
2015年度雇用・労働市場委員会委員名簿

 

本文 (PDF)

 

◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。

(公益社団法人 経済同友会 http://www.doyukai.or.jp/ / 8月1日発表・同会プレスリリースより転載)