一般財団法人 労務行政研究所(理事長:矢田敏雄)では、調査資料が少ない役員の年間報酬(報酬月額・年間賞与)その他処遇に関する調査を1986年以降継続して行っています。本記事では、その最新調査結果の中から「常勤役員の報酬・賞与の水準」「業績連動型報酬の導入状況」を中心に、取り上げます。
※『労政時報』は1930年に創刊。80年の歴史を重ねた人事・労務全般を網羅した専門情報誌です。ここでは、同誌記事の一部抜粋を掲載しています。
【 調査概要 】
調査名:「役員の報酬等に関する実態調査」
調査時期:2013年7月16日~10月17日
集計対象:前記調査対象のうち、回答のあった128社。
役位別平均額
社長の年間報酬は4381万円、25歳従業員の年収の約12倍
役位別に年間報酬(規模計平均)を見ると、会長が4674万円、社長が4381万円と4000万円台、副社長は3200万円、専務は3152万円と3000万円台、常務が2273万円と2000万円台。以下は、取締役(兼務は除く)1701万円、従業員兼務取締役1605万円、常勤監査役1390万円となっています。
調査対象や集計(回答)企業は異なりますが、労務行政研究所が実施した「2013年度モデル賃金・年収調査」(第3856号-13.11. 8)による従業員の年収と、今回調査による社長の年間報酬を参考までに比較してみます。大学卒・総合職25歳の従業員のモデル年収(2013年度の年間定期給与+12年年末賞与+13年夏季賞与)は約364万円であり、社長の年間報酬(4381万円)はこの年収の約12倍に当たります。さらに、同調査の役職別年収の水準と比較すると、社長の水準は課長(46.5歳・766万円)の約5.7倍、部長(51.4歳・986万円)の約4.4倍に上ります。
役員報酬は、各社の役員の構成や業績、経営としての考え方によって、同じ役位でも企業による水準差がしばしば大きく表れます。また、本調査の集計(回答)企業も年によって変動があるため、前年集計との水準比較はあまり意味をなさないといえますが、試みに2012年調査の役位別平均年間報酬を見ると、会長4603万円、社長4516万円、副社長3266万円、専務2831万円、常務2333万円、取締役(兼務は除く)1720万円、従業員兼務取締役1668万円、常勤監査役1354万円となっていました。専務と常勤監査役以外の役位では、いずれも今回調査のほうが低くなっています。
年間報酬に占める賞与の割合
従業員は賞与が年収の約4分の1を占めるが、役員は10%台にとどまる
前出の「2013年度モデル賃金・年収調査」によると、大学卒・総合職の従業員の場合、入社1年目を除き、年収に占める賞与の割合は約25~27%とおおむね4分の1を占めています。一方、今回の集計結果から役員の年間報酬に占める賞与の割合を役位別に見ると[図表1]、会長18.6%、社長12.9%、副社長16.8%、専務14.3%、常務11.8%、取締役(兼務は除く)9.0%となっており、従業員に比べてかなりウエートが小さいことが分かります。
このように年収に占める賞与の割合で、従業員と役員との間に大きな差が生じるのは賞与の性格の違いに起因すると考えられます。
従業員に支給される賞与は、かつては賃金や生計費の一部として捉えられ、固定的な性格が強くありました。最近では、賞与についても業績連動型の原資決定方式が多く見られるようになり、人事考課に基づく個人配分も、より業績重視の色彩が強まっています。一方、月例給に連動した基礎給に対して支給率(月数)を設定する賞与算定方式も少なくありません。いわば生計を賄う月例賃金の延長として、賞与にも生活維持のための“最低保障”的な要素が組み入れられているといえます。
これに対して役員の場合、年間報酬全体が職務執行の対価として支給され、賞与はその一部にすぎません。また、2006年の会社法施行により旧制度の利益処分案が廃止されて以降、報酬と業績との連動性を明確化する狙いを含めて、制度上で賞与を切り分けず、年間報酬として一本化して決定・支給する企業も増えているように見受けられます(ちなみに今回調査では社長の報酬に関して「賞与はもともとない」とする回答が全体の43.3%を占めている)。このような支給の性格や制度上の違いが、前記のような年収に占める賞与割合の差となって表れているといえるでしょう。