人事マネジメント「解体新書」

いま、なぜ「エンゲージメント」なのか?【後編(2/2ページ)

~社員が自ら、貢献への行動を起こしていくための取り組み~

「エンゲージメント」向上のための取り組み事例

次に、エンゲージメントを向上させていくための具体的な取り組みついて、2社の事例を紹介していく。

◆事例1:「制度・施策のマッピング」でバランスを取りながら対応

最初に紹介するS社では、仕事を通した個人の成長、それによる組織の成長を加速させるために、多様な制度・施策を講じている。注目されるのは、これらの制度・施策は全て「結果」にこだわったもので、経営の成果へと結び付くように連動させている点である。

「非金銭的報酬」「金銭的報酬」軸×「安心」「挑戦」軸の4象限に制度・施策をマッピング

同社では、これまでの制度・施策の取り組みを目で見て分かりやすい形に視覚化している。具体的には、「非金銭的報酬」と「金銭的報酬」の軸と、「安心」と「挑戦」の軸を設けて、これらをマトリックス4象限に分け、各々の制度・施策をマッピングしている。さらに、取り組みに対する時間軸として「直近(足元)」「中期」「長期」を加えることで、各制度・施策全体の意味づけが一目で分かるようになっている。

【担当者のコメント】

企業が成長を続けるためには、社員の挑戦する気持ちが欠かせません。ただし、挑戦し続けるには、安心が担保されなければいけません。キャリアや生活面での不安が大きければ、守りの姿勢が強くなります。しかし、挑戦と安心のバランスをどう取るかは、各人のライフイベントによって異なります。そのため、挑戦と安心をセットで考え、大きな挑戦のための安心を支える制度・施策づくりに注力しています。

また、非金銭的報酬はエンゲージメントを高めるには重要な要素ですが、働いて生活している以上、金銭的報酬は絶対に必要です。そのせめぎ合いの中で、制度・施策をマッピングするというアプローチが出てきたわけです。何より、4象限でまとめたことにより、「ここが弱い」や「ここが偏っている」などの判断が的確にできるようになりました。

図表1:代表的な制度・施策のマッピング

図表1:代表的な制度・施策のマッピング

「エンゲージメント」向上を体感できるキラーコンテンツを用意

ちなみに、エンゲージメントを向上させるためのキーとなったのは、「挑戦―金銭的報酬&非金銭的報酬―直近(足元)」に位置されている「事業プランコンテスト」の発足だという。同制度は、事業内容、ターゲット、収益モデル、同社の有意性などを書類にまとめてエントリーし、書類選考を通過すると役員にプレゼンテーションを行うことができ、審査されるというもの。優勝者には、社長の椅子と賞金が用意されている。さらに、「切り口とネーミングがいい」「選んだ分野がいい」などといった、アイデア賞も選出され、副賞が贈られる。

選出されなかった人に対するフォローも、丁寧に行われる。書類診査の段階で9割近くの人が落選するわけだが、プレゼンに進めなかった人、プレゼンまでは行ったけれど落選してしまった人を対象に、勉強会を実施している。さらに、希望者には人事部が面談を行い、個別にアドバイスするという。ここで事業化のための改善点やポイントが見えてくれば、再チャレンジしようとする人も増えてくる。

同制度には、金銭的報酬のみならず、このような非金銭的報酬の効果が含まれている点がポイントである。さらに、役員の前でプレゼンテーションを行うことは、若い社員が成長を実感できる大きな機会である。その結果、「事業計画を出すことに意味がある」「意思表明をすることが報われる」と皆が本気で思い、組織に貢献しようとする。こうしたエンゲージメント向上が体感できるキラーコンテンツを用意できれば、その他の制度・施策も機能しやすくなる。その意味からも、「制度・施策のマッピング」を用意し、バランスを取りながら対応していくS社の取り組みは、非常に実効性の高いものと言える。

◆事例2:社員の主体的な挑戦をサポートしていく

次に紹介するN社は、「日本で一番働きたい会社」を実現するプロジェクトをスタートさせ、社員全員が活き活きと働けるよう、さまざまな施策や環境整備を実施。経営理念や社是といった価値観の共有を重視し、毎月開催される全社総会の場でビジョンをシェアしている。社員一人ひとりが自分の仕事に落とし込んで、実践を徹底していることも大きな特徴である。

チャレンジする個人の成長が組織のビジョンの実現につながる

新しい社会の仕組みを創出するというビジョンを実現するために、同社が注力しているのは、人材育成と組織の活性化である。その人事施策のコンセプトは、「日本で一番働きたい会社」というもの。ここで注意してほしいのは「働きやすい会社」ではなく、「働きたい会社」であるという点だ。働きたい会社とは、経営理念を実現するために、あふれる挑戦の機会の中で成長し続ける集団となることを意味しているという。

【担当者のコメント】

決して、居心地が良いだけの環境を作ろうとしているわけではありません。さまざまな挑戦の機会を提供し、社員は自発的にそれを選び取って、自らのキャリアを実現していくのです。チャレンジする個人の成長は、組織のビジョンの実現につながっていきます。そういう価値連鎖のある仕事をしたい人に対して、日本で一番働きたいと思ってもらえる会社を目指しているのです。

同社では、事業が成長し、企業規模の拡大した数年前から「日本で一番働きたい会社」のプロジェクトをスタートさせた。取り組むべきテーマ(方向性)は、以下に示した五つの項目。経営層、人事部門、各現場の社員によるワーキンググループで議論を重ね、そこでの提言を踏まえて、さまざまな人事施策が立案された。これらの施策は現在、エンゲージメント向上に向けて本格的に動き出している最中である。

人事施策のテーマ(方向性)

(1)価値観共有~会社が大切にしている経営理念・社是・ガイドラインを浸透させるための施策

  • ビジョンカード:経営理念・社是・ガイドラインが記載されたカード。全社員が3ヵ月かけて意見を出し合い、作成した
  • 全社総会:月に1回、全社員が集まる総会を開催。社員や役員からビジョンシェアリングを実施し、ベクトルの共有を行う
  • ビジョンカレッジ:ビジョンカードに記載された価値観を自分の仕事につなげて考えたり、経営理念を映像化したムービーを見たりするなど、経営理念・社是・ガイドラインを身近な使いやすいものとしていく研修

(2)人材育成~社員が自発的に成長・挑戦するための施策

  • キャリア支援施策:キャリア目標を描き、実現させるための施策
  • 新規事業提案制度:経営理念に沿った新規事業の提案制度
  • コーポレート大学:必須研修、選択研修(ゼミ)、選抜研修からなる社内大学

(3)コミュニケーション活性化~コミュニケーションを活性化させ、真のチームワークを作り上げるための施策

  • ピザパーティー:月1回、全社総会の後に開催される立食パーティー。普段話すことのない他部署の社員との交流や価値観の共有を目的にしている
  • 誕生日パーティー:月1回、その月に生まれた社員を社長が食事に招待する
  • 目安箱:社内にある投書用ポスト。カギは社長しか持っていないので、社長にだけ意見を伝えることができる
  • ミドルセッション:企業規模拡大とともに社長との距離が出てきた中間管理職層と社長との議論の場
  • 職場環境向上委員会:社員が会社を良くするためにさまざまな議論を行う委員会

(4)褒章~成果を上げた社員を称え、成果を上げたノウハウを全社に展開するための施策

  • トップセールス賞:全社総会において、各事業部のトップセールスを表彰する
  • 部門MVP:マネジャーの推薦により、管理部門の人を表彰する
  • クリエイティブ賞:制作、企画、技術などの部門で、創造的な仕事をした社員やチームを表彰する
  • 社長賞:社長の心に響いた仕事をした社員やチームを表彰する

(5)安心:社員が安心して就業するための施策

  • ワーキングマザー・ファザー賞:子育てしながら働く社員を支援する制度(マタニティー休暇、出産休暇、短時間勤務、看護休暇)
  • イベント休暇:プライベートなイベント(結婚記念日など)の日に取得できる特別休暇
  • ノー残業デー:毎週水曜日、残業をせず退社することを奨励する施策
  • リフレッシュ手当:社員が長期休暇を取得した際に、リフレッシュしてもらうための手当
*               *

エンゲージメントの制度・施策を実効性のあるものにするためには、経営と人事が一枚岩になることが先決であろう。経営の期待にきちんと応え、人事部に任せておけば大丈夫だという信頼感を得た後、人事としての想いとともに、現場からの声を制度・施策にきめ細かく採り入れていく――。事例で紹介した2社の人事責任者は、そうした戦略性について強く語っていた。エンゲージメントだけに限らず、このような「経営と現場をつなぐ機能」が、これからの人事部にはますます求められることだろう。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)


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