人事マネジメント「解体新書」

新しい採用スタイル「再入社制度」による効果とは(後編)
~企業事例に見る、人材戦略から導き出された「再入社制度」の狙いと効果

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事例B社:退職理由にかかわらず再入社が可能な「再入社パス制度」

一度退職した社員を再雇用する企業は多いが、「再入社制度」という仕組みを制度として確立している企業はまだ少ない。そうした中、B社(ITソリューション)では、採用選考における「求める人材像」への信念の下、退職者が再入社できる「再入社パス制度」を10数年前から導入し、大きな成果を得ている。その狙いは何なのだろうか。

◆「問題解決能力」を持った人材に対する強い信念

B社は創業間もない頃から、採用に注力している。背景にあるのは、ITソリューション事業を推進していくために不可欠な「問題解決能力」を持った人材を求める強い姿勢だ。問題解決能力を構成するのは、論理的思考と創造的思考。単に人から言われたことを技術で実現するのではなく、論理的かつ問題意識を持って自らがゼロベースで発想して形にできる人材が、事業の持続的成長には不可欠だと考えている。採用選考においても、この点を徹底している。

そもそも問題解決を図る能力は、面接や筆記試験で簡単に見抜けるものではない。実際に仕事をしてみないければ、分からないことが多いからだ。そこで一定期間、レベルの高い仕事にチャレンジしてもらい、どれだけの結果が出せるかで見極めようというのが、B社の採用の基本的な考え方である。

「最初は中途採用(第二新卒)からスタート(6ヵ月間の試用期間)、その後は新卒にもインターンシップという形で展開して来ました。最近話題となっている「1Dayインターンシップ」とは異なり、長期間に及ぶ欧米企業のインターンシップに近いものです。問題解決能力のある人材を見極めて、採用すること。また、採用した人材が、モチベーション高くチャレンジできる環境を作ること。このような人材採用・育成方針を、創業以来ずっと続けています」(人事責任者)

◆一度採用した人材には絶対的な自信を持っているから、再入社を歓迎

B社の採用方針は、人材難だからといってとりあえず採用目標数を確保し、その後は導入研修で何とかしようとする企業とは対照的だ。「入口の段階」が極めて重要だと考えているので、採用のハードル(求めるレベル)は高い。だからこそ一度採用した人材には、絶対的な自信を持っている。仮に何かの理由によって社外に出たとしても、その人の持つ「問題解決能力」が衰えるわけではない。もう一度チャレンジをしたいのであれば、積極的に戻ってもらおうと考えるのは、自然な流れだった。

このような思いから導入されたのが、退職理由にかかわらず3年間はいつでも再入社が可能な「再入社パス制度」。仕事をしていく中で自信を持って問題解決能力があると見極めたのであれば、3年間はその力量を保障できると判断し、「入社パス(再度働く権利)」を発行することになったのだ。

「入社パス」の発行基準は当初、本人が申請し、経営者に承認されたら発行する、という形だった。しかし現在は特に承認を得る必要がなく、本人が望まない場合を除いて、一定の階層以上の社員全員に発行している。処遇についても、退職前と同等の処遇・ポジションを保証している。

◆「入社パス」は、チャレンジすることへの「通行手形」として存在

退職者にヒアリングしたところ、B社を辞めた理由は、大きく二つに分かれる。一つは、今までと違うことをやるために他社へ転職していくパターン。もう一つは、海外青年協力隊への参加や新しいことにチャレンジするための起業など、自分自身で何かやりたいことがあるパターンである。いずれにしても両者に共通しているのは、チャレンジしようとする意識・意欲の高さだ。

「そういった人たちがなぜ戻ってくるのかと言うと、外に出たことで、当社が自分に一番合っていたこと、また、思っていた以上に面白い会社だったことが改めてわかるからです。酸いも甘いも噛みわけた上で、再チャレンジへの意欲が高まり、戻ってきた人が多い。ちなみに、これまで辞めた人の2割近くが戻って来ています」(人事責任者)

伝統的な日本企業には、「一度自分から辞めると口に出したら、二度と元の職場には顔を出せない」という不文律が少なからずある。辞めることに対して、本人と周囲に“勝手な思い込み”があり、感情的にうまく割り切ることができないのだ。これでは、再入社はままならない。そのためにも、再入社を受け入れることを、事前に社内で周知徹底しておかなければならない。そうすれば、「もう一度チャレンジしてみよう」という気持ちが自然と出てくる。また、周囲も当然のこととして受け止める。その結果、再入社がポジティブな行動へとリセットされる。

「社員には『入社パス』があるから、何かあった時にはもう一度B社で働こう、という気持ちがあるようです。最後の“より所”があるので、一度外に出て、思い切ってやってみてもいいのではないか、失敗してもいいのではないか、と良い意味で開き直ることができるのです」(人事責任者)

このようにB社では、「入社パス」を出すのが“当たり前”という歴史を積み重ねてきた結果、再入社を希望する社員が特別な意識を持つことがない。良い意味で、「入社パス」が一種の「通行手形」としての存在となっているのだ。

◆人事に求められるのは、現場とやりやすい状況・流れを作ること

では、再入社した社員の受け入れ体制はどうなっているのか。B社では人事との面談を通じて、現場との接点が少ない社員の場合は、戻りやすい状態を作るなどのフォローを行っている。ただ結果的に、現場とのつながりが保てている人が多いので、その場合は人事も余計なフォローを行わない。要は、現場とのやりやすい状況や流れを作ればいいのである。

これも、B社には自由闊達な組織風土があり、一人ひとりが自ら考えて行動することをよしとする、組織風土があるからだ。一方、多くの日本企業ではピラミッド組織の下、幾層ものヒエラルキー(組織階層)がある。上からの指示に従う、あるいは上の顔色をうかがって動くといったことが、日常的に行われている。このような組織風土では、自発的な動きにブレーキがかかってしまう。ではこの「壁」を、どう切り崩していけばいいのか。

「自分で戻る意思を持って再入社する人は、自らの手で道を切り開いていきます。そのため、必要以上にサポートする必要は特にありません。それに対して伝統的な日本企業の場合は、人事がある程度うまく誘導していくことが大切です。例えば辞めた後にいろいろと経験し、戻ったらプラスの結果へと結び付いた、という成功事例が社内的に分かるように積み上げ、辞めた社員が戻りやすくなる情報をどんどんと発信していくことです」(人事責任者)

◆制度と組織風土がバリューチェーンとなって醸成されていく

日本企業の多くではまだ、辞めた社員が再入社することについて、「自分たちと価値観が違う。この先、一緒にやっていくのは難しい」という考える人が多いのではないだろうか。一方、欧米では経営の考え方に共感し、信頼して仕事を任せられるのなら「社員の出入り自由」という企業が多い。明らかにB社は、欧米企業の考え方に近い。

「優秀な社員が再び当社で働きたいのであれば、最大限、その意をくんでいきたいと思っています。当社はもともとフレキシビリティーのある職場風土なので、いろいろな制度を導入しても、それが自然となじみ、組織の中で当たり前のように運用されます」(人事責任者)

そのためには、やはり経営トップの強い思い、メッセージがポイントになるだろう。「再入社パス制度」に限らず、制度が浸透し定着するためには、経営層が経営理念を明確に持ち、それをどう実現したいのか、絶えずメッセージを送ることが重要である。

制度が経営理念にひも付いているからこそ、社員が「なるほど!」と思い、組織風土が形成されていく。一つひとつの施策を単独に行っても、そこに“ひも付き感”があるからこそ、当然のように社員は利用するのだ。「再入社パス制度」が導入されて10数年が経った今、B社では制度と組織風土がバリューチェーンとなって醸成されているように思う。その結果、フレキシブルな運用が可能となり、実りある成果を実現しているのだ。

*               *

激しい環境変化にキャッチアップしていくには、新しい視点や経験を持った人材が必要だ。時代の流れは明らかに変わってきており、日本企業の雇用慣行・制度も見直しを迫られている。そういう意味でも、外でいろいろな経験を積んだ人材が再び戻ってきて活躍することが、人と組織をより活性化させることにつながるのは間違いない。両社のケースを見て、「再入社制度」は究極の「人事異動」だと感じた次第である。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)

 


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