人事マネジメント「解体新書」

「ストレスチェック」義務化に伴う実務にどう対応するか 【後編】
~導入企業に見るストレスチェックの実際と活用方法 (3/3ページ)

2015/7/21
事例2:「ストレスサーベイ」の結果を可視化することで、組織活性化を実現
大手電機メーカーB社では、メンタルヘルス対策の一環として「ストレスサーベイ(ストレスチェック)」を実施し、その結果を組織の活性化対策へと上手く結び付けている。ストレス状態を可視化することで、職場のマネジメントに活かすと共に、近年は「ワークエンゲージメント」も調査項目に加え、組織の活性化へとつなげている。休職者も年々、減少傾向にあるという。
◆組織のストレス状態を可視化したことで、認知度が向上

B社では、以前よりメンタルヘルス対策を含む社員の健康管理に注力。人事部とは独立した組織である健康推進グループが中心となり、関連会社を含めた約5万人の社員の健康管理を行っている。2010年からは、メンタルヘルス対策をさらに強化することを目的に、「ストレスサーベイ」を実施。対象者は主にB社本体の社員1万人で、イントラネットを通じて毎年1回、9月に実施している。

調査項目は、厚生労働省が推奨している「職業性ストレス簡易調査表」をベースに作成した。社員が回答すると、自分自身のストレス状態がイントラネット上に表示される。回答は無記名で行い、自分のストレス状態に気づいてもらうことを第一の目的としている。そして、必要があれば常勤のカウンセラーが相談対応を行う、という仕組みだ。制度の導入当初は、このような取り組みを産業保健医療職が中心となって実施し、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応につなげてきた。

しかし、課題もあった。事前の告知がやや不十分であったため、「ストレスサーベイ」の認知度が低く、調査を行うことの目的や意義(活用の方向性)について、社内での理解が十分進んでいなかったことだ。毎年相当数のデータが集まっていたにもかかわらず、その結果が活かし切れていなかった。そこで健康推進グループでは、役員に対して「ストレスサーベイ」の意義を説明することにした。

「事業部の担当役員に対して、メンタルヘルスの重要性を感じてもらい、意識を変えてもらうことが第一に必要だと考えました。そこで、2010年度の調査結果から、各事業部のストレス状態を可視化したアウトプットを作成し、そのデータの持つ意味(重大性)を説明したのです」(健康推進グループリーダー)

職場のストレス状態について、仕事の量的負荷や仕事での裁量、上司・同僚の支援などに関する質問項目から「総合健康リスク」を判定し、事業部ごとの結果を明らかにした。この結果を各事業部の担当役員に説明したところ、「現場での課題が可視化されており、至急、対策を考える必要がある」とのお墨付きの言葉をもらうことができた。そして、人事部の協力を得て、マネジャー研修に「ストレスサーベイ」に関する内容を盛り込むなど、社内での認知度が一気に高まっていった。

◆結果を職場のマネジメント・活性化のために活用してもらう

組織評価として、各職場へのフィードバックにも力を入れた。結果については、以下に示したような四つの資料を配布し、職場のマネジメント、活性化に活用してもらうよう、見せ方・比較の仕方に工夫を行った(回答者数が10人以上の職場を対象)。また、3年前から「ワークエンゲージメント」に関する質問項目も追加し、ストレス状態との関連を見ている。なお「ワークエンゲージメント」とは、社員の「心の健康度」を示す概念の一つである。仕事に対して「熱意」(仕事にやりがいを感じている)、「没頭」(仕事に夢中になり、集中して取り組んでいる)、「活力」(仕事に積極的に取り組んでいる)の三つが揃って充実している状態を指すものである。

1.「ストレスサーベイ」と「組織評価」の考え方 「ストレスサーベイ」は「ストレス要因」(仕事の量・質、裁量など)、「ストレス緩衝要因(上司・同僚の支援など)、「心身のコンディション」(不安感、抑うつ感、疲労感、不眠など)について聞くものであり、総合健康リスクは「ストレス要因」「ストレス緩衝要因」の項目から評価していることを伝えた。
2.組織のストレス状態可視化表 事業部・職種ごとの健康リスク値とストレス分布図(健康リスク値をグラフにプロットし、他職場・職種と比較したもの)を作成した。
3.高ストレス職場のストレス要因表 高ストレス職場については、「ストレスサーベイ」の各質問項目の回答状況を詳細に表示した。どのような項目についてストレスを感じている割合が高いのかが、一目で分かる資料を配布した。
4.「ワークエンゲージメント」と総合健康リスクとの相関図 組織の状態を「ワークエンゲージメント:高いor低い×健康リスク:高いor低い」から四つのカテゴリーに分類し(活性化、疲弊予備軍、低モチベーション、バーン・アウト)、効果的な対策につなげていくことを考えている。具体的には、心身の健康・ワークエンゲージメントともに良好な「活性化」に属する職場を紹介し、より良い取り組みを水平展開できるよう、情報提供を行っている。

「ワークエンゲージメント」を調査項目に入れるなど、「ストレスサーベイ」の積極的な活用、そしてメンタルヘルス対策に取り組んできた結果、メンタルヘルス不調による休職者数は2年前から減少してきたと言う。現在は、今回の法施行をにらみながら、体制整備を進めている。

「ストレスチェック制度は、単に導入しただけでは根付きません。地道に、個人と組織のストレスを減らしていこうとする職場の風土づくりをしていかないと、本当に意義のある取り組みとはならないのです。そのためには、産業保健部門だけでなく、いかに経営を巻き込みながら、人事部門と連携していくことが大切です」(健康推進グループリーダー)

効果的な対策を講じていくためには、結果の見せ方を工夫することと同時に組織全体を巻き込んだ体制とすることが重要であると、B社の取り組みは示しているように思う。ストレスやメンタルヘルスはデリケートな問題であるため、どうしても産業保健医療職が主導となりがちだが、職場環境を改善し、組織を活性化させていくには、それだけでは限界がある。産業保健医療職がきっかけを与え、会社組織を理解し熟知している管理職、人事部門が主導し、自律的な取り組みを浸透させるように働きかけていくことが重要だと考える。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)

 


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