人事マネジメント「解体新書」

「ストレスチェック」義務化に伴う実務にどう対応するか 【後編】
~導入企業に見るストレスチェックの実際と活用方法 (2/3ページ)

2015/7/21
事例1:外部の社員支援プログラム(EAP)を活用し、積極的な予防活動を展開
大手製薬メーカーA社では、ストレス状況や生活習慣に関する外部のEAPに「健康サーベイ(ストレスチェック)」を委託し、その結果を個人と組織にフィードバックしている。結果に基づくフォローについては、健康サポート室と外部のEAPが連携し、効果的な予防活動を展開している。
◆外部のEAPの選定では、フォロー体制の充実が決め手に

A社では、社員の健康管理を担当する健康サポート室が中心となり、ストレス状況や生活習慣を調査する「健康サーベイ」を、毎年10月に行っている。「健康サーベイ」を導入したのは2002年から。過労自殺が社会問題化する中、2000年に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」(厚生労働省)が策定されるなど、企業に対するメンタルヘルス対策が求められていた。そこでA社では社員一人ひとりにストレスへの気づきを促すことが重要だと判断し、調査を行うことにしたのだ。その際、社員の健康診断時に使う「問診票」が健康機関ごとに異なっていたため、当時、日本でも導入する企業が増えてきた外部のEAPに、調査を委託することにした。調査票の作成から、調査の実施、高ストレス者の抽出、集団分析、そしてストレスチェック結果に基づく社員と組織へのフォローについて、健康サポート室と外部のEAPが連携して取り組んでいる。

「ストレスチェックは単に調査を行うだけではなく、その結果を社員や組織に対してフィードバックし、社員と組織の生産性を高めることが大切です。外部のEAPを選定する際にも、調査後のフォローが的確にできる体制かどうかを重視して決めました」(健康サポート室長)

2002年から行っている「健康サーベイ」の調査項目は200項目に及ぶ。項目数は多いが、その分、詳細な分析・加工が可能になる。「総合的な健康度」だけでなく、「心身の健康度」やストレス対応力やライフスタイルの状態を測る「生活の健康度」、業務負荷や職務共感を測る「社会的健康度」など、三つのカテゴリーに分けて結果が記される。そこから、問題解決に向けた具体的な検討を行うという流れだ。

【EAPとは】
EAP(Employee Assistance Program)とは、職場のパフォーマンスを向上させるために、心理学や行動科学の観点から個人と企業に解決策を提供する支援プログラムのこと。職場のストレス、上司と部下との人間関係、プライベートな悩みなど、社員の仕事の生産性に影響を与えている課題の原因と客観的に向き合い、解決の糸口を探し、健康な状態で安定して働くためのサポートを行う。EAPは1960年代にアメリカで、企業や社員を対象としたカウンセリングサービスで発展したもので、日本には1980年代後半から浸透し始めた。近年では、法令順守や健康増進、組織的なメンタルヘルス対策の推進など、さまざまな目的でEAPを活用するケースが増えている。
◆ストレス分析の結果を、セルフケア、職場改善に活用

「健康サーベイ」は社内イントラネット上で実施している。社員が回答すると、ストレス分析の結果が個人のPC画面に表示される。各社員に対して抽出された問題を解決するために、e-ラーニングで対応法が提供されており、それをセルフケアへと活用する仕組みになっている。また、個人のストレスチェックの結果は、外部のEAPから健康サポート室の医療職宛てに送られる。高ストレスでメンタル不調が発生するリスクが高いと思われる社員に対して、医療職が本人と連絡を取り、個別面談を実施する。そこで仕事の状況、健康状態の確認を行い、必要に応じて外部専門機関へつなぐなど、適切な措置を行っている。

一方、組織に対しては、10人以上の回答を得られた部署の管理監督者に、調査結果を部署ごとに集計し分析した内容をフィードバックしている。心身の健康度、高ストレスでメンタル不調発生のリスク状況、全体との比較など、客観的に組織の状態を把握できる数値を示すことにより、管理監督者に対して具体的な対応を促すようにしている。

「高ストレスな職場に対しては健康サポート室が窓口となって、職場改善運動を行います。外部のEAPのカウンセラーと連携し、管理監督者と面談を実施し、職場における具体的な課題解決に向けた支援を行います」(健康サポート室長)

データ分析の結果は、社長をはじめ経営幹部にも報告している。各職場の管理監督者だけでは、職場環境の改善には限界があるからだ。各本部のトップに対しては「予防活動が不十分でメンタルヘルス不調者が発生すれば、職場の生産性は低下する」と説明し、協力を得ている。その結果、予防活動に向けてより効果的、実効的な対策につなげることができると考えている。

◆調査目的を明確にし、個人情報の管理を徹底

「健康サーベイ」の回答率は、実に97%にも達しているという。調査開始から13年が経過し、調査の趣旨・目的が社内に深く理解・浸透しているからだ。さらに、未回答者に対しては健康サポート室から実施奨励を行っていることも大きいだろう。

「健康サーベイ」を実施、継続していくために大切なのは、個人情報の管理を適切に行うこと。そのため、個人情報の取り扱いや使用目的については、社内の掲示板(イントラネットを含む)を使って事前に明示し、「個人の結果を本人以外に確認できるのは、健康サポート室の医療職のみである」と定めている。その際にもプライバシーには十分配慮しており、外部のEAPで加工した結果を受け取る仕組みになっている。

また、「健康サーベイ」を導入する際、個人が不利・不利益を被るような情報を開示することは絶対ないと、社員には事前に約束している。「健康サーベイ」の結果について、人事評価や配置・異動などに使用されることがないよう、徹底した情報管理を行っているのだ。

「導入に当たっては、まず調査目的を明確にすること、個人情報の取り扱いをしっかり行うことが不可欠です。そして、経営層を巻き込んだ取り組みにしていくことが、実効性を高めるためには必要です」(健康サポート室長)

A社の取り組みは、法律で決まったからやることにしたという消極的なものではない。ストレスチェックに基づく積極的な予防活動を、職場の活性化や生産性の向上へとつながる重要な施策として位置付けていることがよく分かる。

 


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