人事マネジメント「解体新書」

「社内SNS」でコミュニケーションを活性化させる
~SNSがもたらす効果・効用と具体例【後編】 (2/2ページ)

2015/3/4
事例2: B社(損害保険) 社内SNSで退職者・休職者の再活用に成功
大手損害保険B社では、退職した社員や休職している社員向けのSNSを開設。これにより、現職の社員が産休などを取得する際の代替要員や、災害時の被害調査など緊急要員の確保を実現した。社内コミュニケーションの活性化だけでなく、社内SNSが人材確保という実利面でのメリットをもたらす好事例となっている。
◆退職社員・休職社員のためのSNSを開設

B社のSNSは、退職した社員および現在休職している社員が入会するものである。トップページを見ると、アットホームな雰囲気のあるSNSであることが分かる。コミュニティーで語られる内容もイベントやお店情報など、オフの話題が中心。SNSメンバーには子どもを持つ母親が多く、産休中の社員にとっては、同じ経験を持つ母親としての先輩社員との交流が大きな支えとなっているようだ。このように普段は、ビジネスSNSとは思えないほど、のどかな雰囲気で運営されている。

SNSには「事務局からのお知らせ」というコーナーがあり、B社からの求人情報が掲載されている。募集内容に興味があれば、すぐに事務局宛にメッセージを送ることができ、お互いの条件が合えば、即採用となる。非常にシンプルな求人情報だが、応募率は非常に高く、2~3日で必要な人員を確保できるという。こうした形のSNSを導入したのも、女性が働きやすい職場を作るというB社のポリシーがまずあったからだ。

◆女性が働きやすい環境を作るものの、専門性の高さが代替要員確保のネックに

周知の通り、損害保険という業態は女性の活用なくしてはあり得ない。その中で大きな課題となっているのが、働きながら子育てのできる環境を実現すること。B社でも産前産後の休暇や育児休業を充実させたが、現実的に臨時の補充要員を確保できず、制度があっても休みが取れない状況が続いていた。

代替要員の確保が難しい原因に、損害保険業務の専門性の高さがある。業務の中心は、保険契約締結時や事故が起きた時の代理店、契約者に対するバックアップサポート。ここでは、保険の専門知識だけでなく、事故が起きた後の調査や補償の交渉などにおける一定の経験が不可欠となる。しかし、このような専門知識や経験を持った人を、瞬時に、かつ短期間確保するのは非常に難しい。

さらには、育児休業制度があるのに利用できない、その結果、辞めたくないのに辞めざるを得ないという、日本企業で働く女性の多くが抱える問題もあった。本当に働きながら子育てのできる環境を実現するには、制度の充実だけではなく、実際に気兼ねなく育児休業を取れる“仕組み”が必要だった。そこで、考え付いたのが退職者・休業者のネットワーク作りである。

これまでも、退職者に対して連絡は取っていたが、退職後に転居する人も多く、時間が経つと連絡が取れないことが多かった。あるいは、退職者との付き合いのある現役社員からの口コミ情報に頼る、といった方法。いずれにしても、要員確保のための体系的な方法はなかったのが実情である。

何より、退職者は社外の人なので、情報のアップデートを強要することはできない。ここに、退職者を人材として確保する難しさがある。そこで、ネットワークを利用して、人材募集のシステムを構築することを考えたという。

「しかし、それだけでは人は集まらないと思いました。退職者には、それぞれの事情があります。いますぐ働きたい人もいれば、しばらくの間は休みたい人もいます。また、働きたいと思っていてもいまは、都合が悪いという人もいるでしょう。求人サイトの場合は、いますぐ働きたい人しかアクセスしません。これでは、産休の代替要員のように、いつ発生するか分からない人材ニーズには、対応できません」(人事担当者)
◆SNSなら、必要な時に必要な人材を確保することができる

そこで考えたのが、退職者・休業者向けのSNSを構築すること。SNS上にいろいろな仕掛けを用意し、少しでも会社に興味のある人たちをつなぎ止めておくことができれば、結果は後から付いてくる。SNSなら、必要な時に必要な人材を確保することができると判断し、求人サイトとは違った発想で、SNSを導入することが決まった。

その際、退職者は既に社外の人であることから、プライバシーの保護には細心の配慮を行った。登録はあくまで任意で、退職者の自動登録は行っていない。SNS利用に際しても、基本的にハンドルネームを用い、匿名での利用を可能とした。ただ登録する際に、在職時の社内IDを使うため、事務局には本名が分かるようになっている。外部の個人情報を扱うことになるため、IDを偽装して不正アクセスできないよう情報漏えいには細心の注意を払っている。

当初、100人程度でスタートしたSNSも、毎月50~60人のペースで会員数を増やしている。最近は、退職した人がすぐに登録するようになっているという。こうした要員確保の効果は、すぐに表れた。前述したように、求人情報を掲載すると2~3日で条件に合致する人が採用できるようになったのだ。さらに驚くのは、こうした人材のマッチングが登録者500人に達した時点で実現できていること。

「あまり人数が多くなくても人材募集効果が表れるているのは、SNSへ登録することによって、人材のフィルタリングが自然と行われているからです。退職者であれば、仕事の専門知識や経験を持っています。さらに、自分の意思でSNSへアクセスして登録する退職者は、会社に対してシンパシーを抱いているのは想像に難くありません。また、一定レベルのPCスキル、ITスキルを持っていることも明らかです」(人事担当者)

採用条件によっては、特定のメンバーに直接連絡を取ることもある。プロフィールで最終所属部署や現住所が分かっているため、ピンポイントの業務依頼や勤務地域へのリクエストが可能だからだ。実際、災害時など、緊急時の要員確保に効果を発揮している。ある地域で集中豪雨の被害があった場合、現地に出向いて被害調査を行う業務が大量に発生する。こうした臨時災害対応要員の募集には、特に素早い反応があるという。いまでは、台風などで大きな被害が予想される時には、事前に募集告知を行うこともある。

◆Uターン制度にも活用

さらには、Uターン制度の活用にも、SNSが役立っている。B社には退職した後でも4年以内なら、以前の給与条件を維持したまま復職できる制度がある。そこで退職して地方に移った人が、現地で正社員として働ける場を探していた時に、SNS上でUターン制度の情報を見て、応募することが可能となったのだ。SNSで情報にアクセスしていなかったら、他の会社で全く新しい環境の下、初任給からスタートすることになる。会社にとっても、知識・経験のある退職者を再雇用することは、新人を採用し、一から教育を行うよりも大きなメリットがある。

「SNSは、導入や運営コストも安く、管理の負担がかからないことが大きなメリットです。実際、SNSの管理には人事部のメンバー三人で行っており、何も支障は起きていません」(人事担当者)

SNSは社内コミュニケーションの活性化だけに限らず、B社のように人材マッチングの仕組みとしても大変有効である。事実、他社の事例を見ても、プロジェクト要員の募集、新規事業の立ち上げ要員募集、異動・配置の申請など、さまざまな形での人材募集に利用されている。そのためにも、普段から利用しやすい仕掛け、コンテンツなどを用意し、SNSそのものを活発化しておくことがポイントと言えるだろう。

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人と人のつながりの基本はFace to Faceであることは間違いない。しかし、ここ10年余りの間における情報伝達のツールやシステムの発達によって、若い人を中心にコミュニケーションの取り方が大きく変わってきた。とにかく、SNSを日常的に利用することが当たり前となっているのだ。またさまざまな事情により、Face to Faceが実現できない人にとってみれば、SNSはコンタクトを取るための不可欠な手段である。そのような意味からも、ここで取り上げた2社の事例を見るまでもなく、SNSはこれからの社内コミュニケーションの中でも、中心的な存在となる可能性を秘めているように思う。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)

 


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