人事マネジメント「解体新書」

「人事部門のグローバル化」を実現する
~取り組み事例と留意するポイント【後編】 (2/2ページ)

2014/12/25
人事部門のグローバル化への取り組み例

ここからは、企業における人事部門のグローバル化の先進的事例を、いくつか紹介していく。

◆A社:バリューを共有化し、取るべき行動の徹底を図る
大手精密機械メーカーのA社は、30年前からアジアを中心とした新興国へ進出している。進出にあたっては、現地の文化・風土やマーケットの違いを認めると同時に、スタンダードとして共有する部分もあるはずだと考え、自社のバリュー(行動規範)を共有し、取るべき行動や態度の徹底を図った。

A社のグローバル社員が取るべき行動規範には「何事にも自ら進んで積極的に行う」「自分自身をコントロールする」「自分が置かれている立場・役割・状況をよく理解する」の三つがある。この行動規範とコンプライアンスに関する規定を現地の言葉に翻訳し、社員が常に携帯できるカードに記載。その背景となるメッセージを載せた小冊子をまとめた。行動規範は、朝のミーティングで繰り返し復唱し、A社社員として取るべき行動や態度を徹底的に確認。各事業の方針・戦略などは、会議などで顔を合わせる中で共有化を図った。

「バリューを共有化することが、ローカルでのマネジメントやオペレーションをスムーズに運ぶためには大きな推進力になると判断しました。この共有化という観点から、毎年『グローバルサミット』を開催しています。9月に2週間の日程で国内外のエグゼクティブが一堂に会し、会社全体の方針・戦略、人事に対する考え方を確認します。また、これとは別に、事業本部ごとの製品戦略会議や商品企画会議を実施。サイクルの短い製品・商品は年に4回、それ以外は年に2回、実施しています。会議では、事業部門だけでなく、管理部門の人事、物流、経理、ITなどの各地域の責任者が集まり、現状報告と問題点の共有、今後の課題への対応策を話し合います」(人事責任者)

また、人事部門では『人事サミット』を年に1回、行っている。全体で問題・課題を共有するセッションを行った後、人事機能別に分科会を行っている。全体で共有するセッションでは、バリューを各ローカル企業がどのように考え、それをグループ内各社がどう展開し、教育していくかという共通のテーマを話し合う。一方、分科会では日本や欧米の販売会社とアジアの生産会社では人事部門の抱えている課題が異なるため、それぞれに特化したテーマで情報共有と意見交換を行っている。

ここ数年、グローバル競争が一段と激しさを増している状況を受け、A社ではバリューを見直す(バージョンアップする)ことになった。基本的な理念は変わらないが、経営環境の変化に応じて、取るべき行動・態度は変わっていくべきだと『人事サミット』で決議されたからである。新しくなった行動規範は、単に発表するだけではなく、言葉の意味をしっかりと伝え、浸透させていくために、全世界で研修を行う予定である。

「ミッションやバリューといったコアとなる部分は、単にウェブサイトに掲載すれば浸透するものではありません。本社の経営幹部が現地で研修を行い、浸透させていかなくてはならないものです。ただ、本当に末端まで浸透させるには、2~3年はかかると予想しています。企業のDNAとして伝承し続けていくためには、そうした努力を継続して行う必要があります。ワークショップやセミナーだけでなく、今後、新たなツールも必要となってくるでしょう」(人事責任者)

現地の言葉で信念や思想を語るのは難しい。基本は英語だが、アジア新興国の場合、必ずしも英語が通じるとは限らない。場合によっては、日本語の方が通じることもあるという。これも、バリューの共有化を徹底してきたこと、現地ローカルでの日本理解が進んできたことの証である。特に人事部門では、アジアの生産会社に日本語を推奨していて、実際に日本語での説明会(通訳付き)を行っている。バリューを共有化することによって、思わぬ“副次的効果”があったのである。

◆B社:日本本社のグローバル化に向けての対応
大手情報サービスのB社は近年、積極的なM&Aでグローバル化を進めている。日本本社の人事部門の中に「GHQ人事部門」を構え、M&Aを行った海外拠点の人事を統括している。しかし、こうした動きがここ数年間で起こったため、グローバル対応に向けた国内人事部門の体制や施策が十分ではない。何より、国内の仕事だけを担当している社員からすると、海外は特殊な社員がやっているという雰囲気になっているため、グローバル意識の不足が懸念されている。

「M&Aがあったからこその海外展開なので、実は日本本社をグローバル化することのハードルが一番高い。もう国内だけではビジネスが成長しないことを、いかに社員に対して腹落ちさせるかがポイントだと考えています」(人事責任者)

実際、事業部門によって、社員のグローバル化に関する意識に温度差があるようだ。こうした違いは、日常的にグローバルなビジネス環境に接する機会が多いかどうかが影響しているようだ。日々、グローバルな環境に身を置けば、当然、意識は高まる。そこで、本社のグローバル化、つまり本社社員のグローバル化意識の醸成・向上を図るため、B社では「グローバル委員会」を人事部内に発足。各事業所のマネジャーとM&A先の担当者が月に1回集まり、日本本社のグローバル化をどのように進めるかの議論を1年間続けた。その結果、「海外から社員を日本に招き、刺激を与える」「海外のローカルスタッフを階層別研修に参加させる」など、海外の人材を一定期間日本に呼ぶことで、日本本社の社員に刺激を与えるのが有効であるという考えに多くの賛同者が出たという。

また、人材育成に関する対応策としては、「全社的なグローバル展開の可能性と課題についてのセッションを入れるなど、海外事業に直接関係のない社員に対して、自社のグローバル化を理解させる取り組みを行う」「(半強制的な形で)外国語研修の機会を提供する」「海外出張や海外研修の実施など、社員が海外経験を意図的に積める機会を提供する」「異文化や言語の異なる国で働くことに関する研修の機会を提供する」「昇進・昇格の条件に、一定レベル以上の外国語能力を要求する」「幹部昇格の条件に、海外勤務経験やグローバル業務経験を設定する」など、多種多様なアイデアが出された。

「グローバル委員会」から提案された施策・アイデアは、既にいくつか実行されているという。特に、「社員の意識をどうやって海外に向けていくか」という議論の中で出た「グローバル人材育成規定を作る」という案は、人事部門がすぐに実行。「グローバル人材」の要件定義を作成すると同時に、「MBA留学」や「海外インターンシップ」「海外留学(短期外国語留学)」なども含めた、人材育成体系のグローバル対応に着手した。トップからも今後、海外の勤務経験を積んだ社員をできるだけ多く増やすこと、そのために、いま駐在している社員の交代だけでなく、短期派遣も含めて海外勤務経験者を増やしていくことが、公表された。

「トップがグローバル化対応とその具体的なあり方にコミットしてくれたことで、社内のグローバル化への意識が随分変わりました。今後は、各事業部との話し合いを進め、本格的なグローバル人材の育成に取り組んでいきます」(人事責任者)

意識改革には、トップのコミットメントが欠かせない。B社のケースでは、事前に人事が「グローバル会議」を開催したことが、その布石となった。また、人事部ではM&A先の企業の人事担当者を受け入れたという。日本本社のグローバル化を進めるために、まず人事部門が率先して動いているのだ。この姿勢は当事者意識が高く、とても前向きだ。必ずや、他の部署にも大きな影響を与えることだろう。

◆C社:ローカルニーズや風土、人材を理解できる人材を育成し配置
C社は、韓国の大手IT企業である。韓国は日本より一歩先んじて、グローバル展開に成功した企業が多い。C社では、社員を特定の業務に従事させることなく、1年間海外に派遣する「地域専門家制度」を導入。ローカルのニーズ・風土・人材を理解できる人材を育成した上で、職場に配置している。

同制度の対象者は1年間、特定の職務に従事する義務がない。自ら立てた行動計画に基づき、派遣先国の言語や文化、歴史、習慣などを吸収し、身に付ける。例えば、アパート探し、語学学習、人脈作りなど、日々の生活について会社からの協力は一切得られず、全て独力で乗り切らなくてはならない。派遣対象者は1年間、派遣国への理解を深めた後、実際に任務に着任することになる。

C社にとって、グローバル化とは現地社会に溶け込み共生することである。そのため、「地域専門家制度」で派遣された経験を持つ社員は、それぞれの国での道案内人となる。中東やインドなど、自国とは異なった文化地域でも、現地の状況を熟知した社員がいれば、相手国への理解が深く、ビジネスでのコミュニケーションも円滑に進むだろう。日本でも「短期留学」「異文化研修」などを行う企業は少なくないが、C社の「地域専門家制度」までのスケールのものはあまり聞いたことがない。これまで国内を中心に動いていた企業が、グローバル化を進めなくてはならなくなった時には、相手国の文化や歴史、風土などへの理解が求められる。それらを知らなければ、ビジネスを円滑に進められないからだ。C社のような相手国を理解するための施策は、大変重要と言える。

◆ローカルスタッフ中心のポジション設計を考える

日本人社員のグローバル化を推進することは、日本人がローカルスタッフをマネジメントするポジションを占めるということではない。それよりも、若手のうちは現地の優秀なローカルスタッフの下、部下として必死になって働くことが、日本人社員がグローバルなマインドセットを醸成するためのよい機会となるように思う。グローバル人材の派遣にしても、語学が堪能であることや個人の希望だけに頼ることなく、厳しい環境下においてもコミュニケーション力を発揮し、パフォーマンスを上げることができる“グローバル・ポテンシャル”のある人材を選定することを、本社人事部門はもっと意識するべきではないだろうか。

何より、現地で主要なポストを日本人社員が独占してしまっているようでは、現地に根差した事業展開は進まない。事業コストが増大するほか、現地の人材のモチベーションは下がり、やる気をなくしてしまうだろう。だからこそ、リスクはあるものの、主要なポストについてもローカルスタッフ中心の配置を実行しなくてはならない。そのためには前述のように、各ポジションのミッションに基づいた人材要件に照らし合わせて、最適な人材を配置することである。そうすれば、自ずとローカルスタッフに任せるべき機能・ポジションが多くなるのではないか。その意味からも、現地ローカルのニーズや歴史・文化、人材に対する理解が重要だと思う。グローバル人事部門(&スタッフ)はそのための先導役として、自らがグローバル化の手本となってほしい。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)


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