人事マネジメント「解体新書」

多様な働き方が求められる時代、注目される“限定正社員”
~具体的事例にみる制度の特徴と、運用面での工夫【後編】 (3/3ページ)

2014/8/25
事例紹介2:能力開発・育成支援

入社3年後に、男女ともにコースを選択させるB社(製造業、従業員数:約3000人)

B社では、男女社員共に一般職で入社し、入社3年後に本人の希望によりコースを選択させる。その後も、全てのコース間のコース転換が可能であり、コース間の処遇格差を設けていないのが特徴である。また、この間のそれぞれのコースに基づいた能力開発に力を入れることにより、組織全体の生産性・活力の底上げを図っている。

◆制度の概要

B社の制度の基本は、「選択と育成」である。個人に仕事を選択させると同時に、会社は個人に明確な目標を持たせて、社員を育てる。これが制度導入の狙いである。B社では人材育成の観点から人事制度の中心に「コース別資格等級制度」を置き、それを「目標管理システム」「ジョブローテーションシステム」「人材開発システム」「処遇システム」の四つのサブシステムが支えるという、トータルな人事制度を構築している。

このように能力開発・育成支援に重きを置くB社の制度は、社員のキャリアを(1)基礎習熟期、(2)専門能力形成・確立期、(3)専門能力発揮期に分け、それぞれにコースを設けている。B社ではどの職種、どの職場にもさまざまなコースの社員がいるからだ。職種や部署は会社が決定するものである一方、コースは個人の意志や適性に応じて決定するものであるという考え方から、職種や部署とコースをリンクさせていない。

(1)基礎習熟期(入社3年目まで)
入社3年間を基礎習熟期間とし、将来のコース選択に向けての準備期間と位置付けている。この期間ではコース分けは行わず、全員が一般職コース扱いとなり、原則として異動はない。

(2)専門能力形成・確立期(入社4年目から約10年間)
この期間は専門能力を身に置付ける時期と位置付けられ、社員個人の意志で以下の三つからコースを選択させる。

・総合職コース(正社員)
管理職を目指すことを期待されているコースで、職務・職種・ローテーションを通じて、キャリアを形成していく。

・担当職コース(限定正社員)
限られた職務について経験を重ね、その職務を身に付けるコース。このコースの社員には、本人の同意がない転居を伴う人事異動はない。

・専門職コース(限定正社員)
デザイナーなど専門職のためのコース。当初からデザイナーに限定して採用した社員もいるが、それ以外の社員がこのコースを希望することも可能である。

(3)専門能力発揮期
この期間は、それまでに身に付けた専門能力を発揮する時期と位置付けられ、その発揮方法に応じて以下の三つのコースに分かれる。

・管理職コース(正社員)
組織をマネジメントし、組織全体の責任を負うことが期待されるコース。専門能力形成・確立期の総合職コースから選択するケースが多い。

・開発専門職コース(限定正社員)
商品開発、技術研究、ノウハウの蓄積を基本とするコース。専門能力形成・確立期の専門職コースから選択するケースが多く、必要に応じて下位者の指導育成も行う。

・専任職コース(正社員、限定正社員)
人事や経理のスタッフ職、営業・販売などの分野でプロを目指すコース。専門能力形成・確立期の総合職コース・担当職コースから選択するケースが多く、必要に応じて下位者の指導育成も行う。

◆コースの選択と転換方法

・専門能力形成・確立期におけるコース選択
専門能力形成・確立期の職能資格に昇格する際には、100%自分の意志でコースを選択することができる。まず4月、昇格対象者は上司との面談時に、昇格後の進路コースの希望を伝える。6月に行われる昇格チャレンジシステムでは、知識検査や昇格に向けての意識変換が行われる。2日間の研修を実施し、その後に昇格が決定する。そして9月、昇格者は本人の希望通りのコースへ分かれることになる。

担当職コースから専門職コース・総合職コースへの転換は、年1回の昇格時期に合わせて行われるが、専門職コース・総合職コースから担当職コースへの転換は、本人の意志に応じてその都度行われる。なお、担当職コースは専門能力発揮期の職能資格へ進むことはできない。

・専門能力発揮期におけるコース選択
専門能力発揮期でのコース選択は、それまでの個人の意志より会社の意志へとウエートが移ることになる。専門能力形成・確立期と同様に昇格チャレンジシステムにおいて昇格審査を行い、要件を満たした者の昇格がまず決定する。その後、昇格者はそれぞれの能力、適性に応じて各コースに進む。

しかし、管理職コースはポストの有無や本人の適性も関係してくるため、希望通りにならないケースも出てくる。そのため専任職コースや開発専門職コースに所属しながら、管理職コースへの転換を待っている社員もいる。

◆キャリア開発面談の実施

入社3年目の専門能力形成・確立期の時期に、人事部と直属上司を交えたキャリア開発面談を行っている。その後も、3年目ごとにフォロー面談を行っている。3年レンジで実施するのは、各自の能力やキャリア開発の検討、適切な評価、今後の育成計画、ジョブローテーションなどを行うためである。

◆社員の反応・制度の評価

同じキャリア内では、コースによる賃金、評価、処遇の格差はない。そのため、結婚している女性社員の場合などは、「会社の都合で異動や転勤を命じられることがなく、落ち着いて仕事が進められる」と評判がよく、結果的に担当職を選択しているケースが多い。また、昇進や昇格が頭打ちであることに関しては、割り切っているようである。

◆課題と今後の対応

・専門職のステータスアップとジョブローテーションのルール作り
「総合職から管理職になるコースが一番偉い」というような意識が社内に何となくできている。人事部としては、そういう意識を払拭するために、社内での広報活動を積極的に行い、専門職のステータスアップやモラールアップを行っている。全体としては専門能力形成・確立期では総合職を選択する者が多いが、近年では担当職へのコース転換を希望する者も増えている。また、総合職の人事異動を積極的に行うためのジブローテーションのルール作りが、今後の課題である。

今後、コース転換をスムーズに行うためにも、本人の適性を気付かせるための検査を行い、キャリアチェンジのための支援策を考えている。

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「限定正社員」はその趣旨から言うと、基本的には個人の選択によって処遇コースを決める制度である。しかし現実を見ると、必ずしも100%希望通りの選択ができているわけではない。また、処遇コース変換に際して、試験を課すケースも少なくない。その意味でも、希望する選択ができなかった人へのフォローと再チャレンジの機会が大切となる。さらに、「限定正社員」に対する能力開発・教育機会をどうするかという問題もある。

一方、会社側の都合で言えば、どのような形(職種・地域・勤務時間、昇進・昇格、教育機会、処遇等の違い)の「限定正社員」とするのか、そして経営合理性の中で全体の要員管理とのバランスをどう図っていくか、という問題がのしかかってくる。言うまでもなく、これは従業員規模・業種、従業員構成、拠点展開の状況などで異なってくるわけで、人事・労務管理上、この点をどう調整していくか今後、「限定正社員」が広まっていくための大きなポイントとなるだろう。

余談だが、この原稿を書いている最中に、メンバー全員がニートで、株主かつ取締役であるという新しいコンセプトで話題となったNEET株式会社が、「ゆるい就職」ということで、「週休4日で月収15万円を目指す」という派遣事業を始めたニュースが飛び込んできた。この就労形態がうまく成立するかどうかは、派遣社員を受け入れる企業次第ではあるが、価値観やライフスタイルの多様化が進む現代にあって、こうした限定的な働き方(限定正社員)が存在するのも悪くはないように思った。人手不足が深刻化している現在、企業は働く人の就労形態について、より柔軟に対応する必要がある。「限定正社員」をうまく活用していく先に、は「ゆるい就職」があるように思った次第である。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)


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