人事マネジメント「解体新書」

多様な働き方が求められる時代、注目される“限定正社員”
~具体的事例にみる制度の特徴と、運用面での工夫【後編】 (2/3ページ)

2014/8/25

事例紹介では、「ワークライフバランス支援」「能力開発・育成支援」の側面から「限定正社員」を導入した企業について、制度の概要と具体的な運用面を紹介していくことにする。

事例紹介1:ワークライフバランス支援

社員の希望通りに勤務地を選ばせるA社の社員群制度(物販サービス、従業員数:約1000人)

A社では、ナショナル社員(N社員)、エリア社員(E社員)、ストア社員(S社員)という三つの社員群の中から、自分の希望する社員群を選べる制度を導入した。社員の家庭の事情や希望する働き方が尊重されることによりワークライフバランスが実現するので、社内にもすっかりと定着している。

◆制度の概要

A社の社員群制度は、全国どこでも転勤できるN社員(いわゆる正社員)と、特定の地域内ならどこでも勤務できるE社員(限定正社員)、自宅から通える範囲の店舗・事業所ならどこでも勤務できるS社員(限定正社員)の3種類から構成されている。またE社員については、次の六つのエリア(都市)の中から選択させている。

(1)首都圏:東京、千葉、神奈川、埼玉
(2)静岡、浜松、名古屋、京都
(3)宇都宮、仙台
(4)京都、大阪、神戸、岡山
(5)広島、山口
(6)九州

現在の社員の内訳は、N社員300人(男性180人、女性120人)に対して、E社員500人(男性150人、女性350人)、S社員200人(男性50人、女性150人)と「限定正社員」が多くなっている。

A社は婦人用品・雑貨の販売という業態のために女性社員が多く、また、地元での採用が全体の6割近くを占めていた。物販業界は人材の採用・定着が大きな課題であり、そのために社員の希望通りに勤務地を選ばせる社員群制度を導入したのである。また、E社員、S社員を選択している男性が200人いることからも分かるように、同制度は全社員を対象にしているのが特徴である。A社では、社員群ごとに仕事内容の差は特になく、それぞれの配属先であらゆる仕事を担当する。あくまでも「勤務地の選択」の違いであり、与える仕事内容や能力評価とは関係させていない。

ただし、異動を伴うという点を考慮し、勤務エリアが広いほど待遇は良くなっていて、給与面ではN社員が最も高い。とはいえ、具体的な金額差は月給にして1~2万円程度とそれほど大きな差ではない。また、昇進についてもN社員が早い傾向にあるが、平均して2~3年に1度程度の転勤があり、さまざまな仕事を体験するチャンスが多いことによるものである。昇進の上限は、原則としてE社員は課長まで、S社員は店長までだが、人物評価でそれ以上昇進しているケースも少なくない。ワークライフバランスを実現させることで、E社員、S社員のパフォーマンスは高くなっている。

◆コース選択の方法

まず、入社時に自己申告で社員群を選択する。入社後は年1回の自己申告時か、本人の事情が変わった時点で、随時変更の申請をすることができる。ただ本人の希望を優先すると言っても、地域によって仕事内容が限定される場合もあるので、限界は当然ある。例えば、S社員が広報の仕事をしたいけれど九州からは出たくないと希望したとしても、広報があるのは東京の本社だけなので、その場合は、N社員となるか、首都圏のE社員を選択しなければならない。

社員群の変更を希望する際には、上司を通じて人事部に「社員群申告・変更願い」を提出する。申告用紙には、変更理由や変更希望期日などを記入する。変更期日は原則として、申請後2ヵ月である。特別な事情がない場合は、10月の自己申告時に申請し、定期人事異動のある2月に実施される。また、家族や本人の事情でできるだけ早く変更したい場合には随時受け付けていて、人員の補充などができた時点で実行に移している。

◆これまでの申請変更のケース

本人の事情に応じて申請変更が自由にできる制度なので、N社員から他の社員(限定正社員)へ、限定正社員であるE社員やS社員からN社員へと年間、相当件数の申請変更がある。例えば、入社時にN社員だった女性がE社員やS社員に変更する場合は、「結婚したため」「恋人ができたため、遠くへ転勤したくない」といった理由が少なくない。事業の主力となる女性社員の平均年齢が20代半ばであるA社では、今後もこうした理由が中心となると見ている。

一方、N社員からE社員に変更した男性社員の場合、「親の介護」「妻の病気の看護」などの理由が多い。また最近では、「仕事の内容を広げたい」「やりたい仕事が首都圏にしかない」などの理由で、S社員からN社員への変更を希望する社員も増えているという。さらに、共働きが増えているため、今後は夫の転勤に合わせ、夫の転勤先の地域のS社員を希望するケースも出てくると考えている。

◆社員の反応・制度の評価

本人の事情を受け入れ、それぞれの価値観にあった働き方ができる制度のため、社員からは好意的に評価されている。また、新卒採用の場面でも社員群制度には学生からの関心が高くなっており、会社説明会では活発な質疑応答が行われるなど、採用面でも好影響が出ている。

◆課題と今後の対応

現状ではE社員が半数を占めていて最も多く、次いでN社員が3割、S社員が2割となっているが、将来、S社員を希望する者がN社員を上回るようなことがあった場合には、出店計画、店舗運営に影響が出てくることが予測される。そのためにも今後はコースの人数枠を決める、採用数で調整するなど、対策を検討しなければならないと見ている。

また、地域密着型のS社員のモラールアップと育成が課題となっている。異動もなく転勤もないS社員は、仕事がマンネリに陥りやすく、勤務年数が伸びていないケースが見られるからだ。S社員を育成していくためには、住居移動のない範囲で、人事異動を体験させるなどの対策が必要かもしれない。

いずれにしても、社員のワークライフバランスを実現することが重要だと考えているので、制度の運用については柔軟に対応していく考えだ。



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