人事マネジメント「解体新書」

多様な働き方が求められる時代、注目される“限定正社員”
~その可能性と雇用管理のあり方について考える~【前編】 (3/3ページ)

2014/8/18
想定される問題と今後の展開
◆事業所閉鎖時の対応

勤務地限定や職種限定の「限定正社員」の場合、勤務する事業所を閉鎖したり、事業を縮小する場合に雇用管理上、どのように取り扱うかという問題がある。実際の対応例を見ると、「勤務地や職種などが限定的でない他の雇用区分への転換をすすめる」「近隣にある他の事業所や関連企業の事業所での受け入れの可能性を探る」「いずれの方法も無理な場合はいったん解雇とするが、事業所が再開した場合の再雇用の仕組みを紹介するなど、可能限り優先的な配慮を行う」といったように、きめ細かな対応を行い、雇用の確保に努めていることが分かる。いずれにしても、正社員に対する対応と均衡が図れるよう、最大限の努力を行うことが求められる。合わせて、労使間で「限定正社員」の解雇に関わるルールを合意しておくことが不可欠である。

◆従業員からの不平・不満への対応

「限定正社員」の賃金制度・水準、昇進・昇格の範囲は、従来のパートタイム労働者よりも上昇するが、正社員との間には差がある。問題は、たとえそれが合理的な差であっても、「限定正社員」から不平・不満が生じる可能性があることだ。そうした場合には、処遇差の改善に向けた取り組みを進め、差を設ける場合でも「転居転勤の範囲に応じた賃金制度・水準とする」「短時間勤務では正社員と同一の賃金制度とした上で、時間比例とする」「労使間の話し合いによって、異なる正社員と限定正社員の賃金水準を設定する」など、労働者が納得できる合理的な水準となるような工夫が求められる。

参考までに、厚生労働省の「『多様な形態による正社員』に関する研究会報告書」(2012年)の結果をみると、「限定正社員」の賃金については、正社員の8~9割としている企業が多くなっている。

図表4:「限定正社員」の賃金水準(正社員と比べた場合)(%)
70%未満 11.1
70~80%未満 16.1
80~90%未満 25.1
90~100%未満 19.4
100% 13.4
100%超 3.6
不明 11.4
出所:「『多様な形態による正社員』に関する研究会報告書」(厚生労働省・2012年)より
◆労働契約のあり方が変わるきっかけに?

ここからは、筆者の独断。「限定正社員」の導入が進むと、日本人の働き方を変える可能性があるように思う。例えば、職種限定の働き方は、正社員のゼネラリスト的な働き方と異なり、その職種のプロとして働くことが求められるからだ。プロとしての能力・スキルを高めていくことで、企業に従属せず、自由に自分の働く場を探すことができる働き方が可能になる。ある意味、それは「勤務地限定」や「労働時間限定」でも同じことが言えるのではないか。

そう考えると、「限定正社員」という働き方はこれまでの正社員と非正社員という雇用区分を崩していくきっかけになるかもしれない。極論すると、これからは企業と労働者の間で、個別に契約期間、職種、勤務地、労働時間などを決めていくことに労働契約のあり方が変わっていくことも十分にあり得る。こうなると、正社員・非正社員だけでなく、「限定正社員」という区分も必要ないくらい、多様な雇用区分が出現する。多様な社員の出現と言ったらいいだろうか……。

以前、あるベンチャー企業の人事責任者が「一人ひとりにカスタマイズした人事制度を作りたい」と言っていたが、時代の流れは多様性、何より個別性に向かっているように思う。働く人は、自分を磨き、自分の能力・スキルを活かすために企業と契約を交わしてプロとして働く。今回、非正社員の雇用の安定を狙った「限定正社員」の導入が、図らずもそういう時代の幕開けになるのではないかと考えた次第である。

*               *

以上、『前編』は「限定正社員」が求められる背景と、雇用管理のあり方について見てきた。続く『後編』では、「限定正社員」活用に取り組んでいる企業の具体例を紹介していく。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

人事マネジメント解体新書 最新記事

関連する記事

HR業界団体情報

HR業界の代表的な業界団体をご紹介いたします。
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会
人材データを分析・可視化して人と経営の未来に活かすピープルアナ...

一般社団法人日本テレワーク協会
テレワークを通じ、調和のとれた日本社会の持続的な発展に寄与する。

一般社団法人 日本エンジニアリングアウトソーシング協会
社会的責任を果たすための厳しい基準をクリアした技術系アウトソーシ...

ATDインターナショナルメンバーネットワークジャパン
米国ATDの活動に賛同しているパートナー。2007年設立。日本において...

公益社団法人 全国求人情報協会
求人情報媒体が読者の職業の選択と安定した職業生活に役立つことなど...

一般社団法人 日本人材紹介事業協会
厚生労働大臣の許可を受けてホワイトカラーを中心とした職業紹介を行...

一般社団法人 日本人材派遣協会
労働者派遣法の趣旨に則り、労働者派遣事業の適正な運営を図るため...

日本人材マネジメント協会
「日本におけるHRMプロフェッショナリズムの確立」を使命に、我が...

一般社団法人 日本生産技能労務協会
製造業などにおける労働者の就業の安定労務管理の安全を図り...

HR業界団体情報一覧

主催イベント

講演&交流会レポート

新年会~講演&交流会~

人事サービス業(人材サービス、研修・教育、人事BPOサービスなど)に携わる皆さまを対象とした「新年会~講演&交流会~」を2月2日に開催致しました。


『日本の人事部』ソリューションナビ
HRカンファレンス出展のご案内
HRリーグ