クラウドソーシングが日本の労働力不足を救う
「人のチカラ」を信じ、仲間と共に新規事業を創出し続ける

株式会社うるる 代表取締役社長

星知也さん

星知也さん(株式会社うるる 代表取締役社長)

近年、一気に注目度が高まっているクラウドソーシングビジネス。新型コロナウイルスの影響による収入減を補うための副業やテレワークの浸透などを背景に、今後も需要の伸びが見込まれています。このクラウドソーシングビジネスに、2007年から取り組んでいるのが株式会社うるるです。代表的なサービス「シュフティ」に登録するクラウドワーカーは、2020年には42万人を突破しています。代表取締役社長の星知也さんは高校卒業後、アルバイトや訪問販売、海外渡航といった多様な経験を経て、当時まだ知られていなかったクラウドソーシングを活用したサービスを展開するに至りました。異色とも言える経歴や会社への思い、今後の展望について、お話をうかがいました。

Profile
星知也さん
株式会社うるる 代表取締役社長

ほし・ともや/北海道札幌市出身。高校卒業後、アルバイト、訪問販売を経て教材販売を手掛ける会社に入社し、2001年に「うるる」を社内創業。2006年MBOにて独立し、2017年東証マザーズ新規上場。クラウドワーカーという「人のチカラ」を活用した自社サービスを多数展開している。

就職の必須条件は「スーツを着られる仕事」

高校卒業後、大学進学や就職をせずにアルバイトを始めたそうですが、それはなぜですか。

僕は小学校からずっと野球ばかりやっていて、勉強が大嫌いだったんです。受験した大学にすべて落ちたことをきっかけに、フリーターの道を選びました。親も放任主義で、一切干渉してこなかったのはありがたかったですね。

アルバイトとして働き出したのは、そもそも「就職活動」をまったくわかっていなかったから。99%の生徒が進学するような高校に通っていたので、先生もあまりわかっていませんでした。コンビニでアルバイト雑誌を買って、見つけたのがビルの窓掃除のアルバイト。選んだ理由は、時給の高さです。危険な仕事だから時給が高いのですが、そういったことも知りませんでした。

そのあと、ほどなく正社員として就職されますが、どのようなことがきっかけとなったのでしょうか。

スーツを着たくなったんです。アルバイトでは作業着で仕事をしていたのですが、「社会人たるもの、スーツにネクタイだ」という勝手な思いが膨らんできて。そこで、「スーツを着られる」という軸だけで就職活動をしました。手に取った雑誌がたまたま正社員の求人が多い雑誌だったので、正社員になりましたが、雇用形態や職種という観点で探したわけではありません。

いいなと思ったのは、スーツを着たお兄さんたちがふざけ合っている写真を載せていた会社。18歳の僕は「楽しそうに働いているな」と心をひかれました。それで、その会社を受けたところ「明日から来てください」と言われ、働き始めました。家庭に訪問してFAX付き電話機を買ってもらう、という仕事です。

大変そうな仕事ですね。トップ営業パーソンとしてご活躍されたそうですが、営業活動にコツはあったのでしょうか。

仕事自体はいま考えるとすごく大変で、数百人入社して一年後には数人ほどしか残っていないような会社だったのですが、僕はとても楽しく働いていました。というのも、受けたのがその1社だけなので、ほかにどういう会社があり、どういう仕事があるのかを全く知らなかったんです。そのため、その会社でやっていることに疑問がなく、社会に出たらこういうものだと理解していました。

評価システムはシンプルで、売れば売るほど昇進していく、というもの。順調に営業成績を出したので入社半年後に課長になり、19歳のときには次長になりました。

訪問販売では、訪問先のインターフォンを鳴らして出てくる人は100%、怪訝(けげん)な顔をしています。でも、1時間後には僕はその人に商品を売っている。どうやってそこまで持っていくかというと、話しながら相手の見えない心の扉を開いていく感覚です。最初は固く閉じているので、その状態で「商品を買ってください」と言っても、まず買ってくれません。話をしながら心の扉を開けていくことが必要です。

まずは「この商品をあなたが使えばこういうメリットがあります」と知ってもらうこと。そうすれば「なんでこんなにいいサービスなの。どんな会社なの」と相手から聞いてきます。どのように話せば相手に心を開いてもらえるかという設計を考える……この仕事は個人向けの営業でしたが、法人向けの営業でも同じように大事なことだといえます。

ほどなく退社を決意されます。2社目に入社されるまでの経緯を教えてください。

ある日、茶髪で長髪の新入社員が入社してきたのですが、彼に「今まで何をやっていたの」と聞くと、「オーストラリアでサーフィンをしていました」との答えが返ってきました。そういう生き方があるんだと知り、「僕もやってみたい」という衝動がわきました。

それですぐに辞表を出して、ワーキングホリデーのビザを取ってオーストラリアに行くことにしました。辞め方もよくわからなくて、正確には辞表ではなく作文を書いて提出したのですが、上司は止めませんでした。その上司とは今でも付き合いがあるのですが、「作文を読んで、止めても仕方ないと思った」と言われます。

1年間オーストラリアに滞在して、帰国後は別の会社に就職。2社目は、「営業」「若い会社」という2軸で選びました。営業であればこれまでのスキルが生かせること、1社目が創立して間もない会社で、社員も若く、会社と共に成長していける環境だったので、2社目もそういったところがいいと思ったことが理由です。ここでも面接を1社だけ受けて「明日から来てください」と言われました。教材を販売する会社だと知ったのは、入社してからのことです。

星知也さん(株式会社うるる 代表取締役社長)

「価値があるサービスになる」事業撤退判断からの独立

2社目に入社した会社で、現在につながる事業を始められます。最初から構想があったのでしょうか。

実は入社してすぐ、辞めようと思いました。売っている教材自体があまり良い商品ではないと感じたからです。1社目にいたときから、商品を売れば会社にほめられるし、給料も役職も上がっていって楽しい一方、ユーザーのことを考えると、もしかしたら僕と出会わなかったほうが無駄な出費をしなくてすんだのではないか、と考えるようになっていました。

2社目も、それと同じようなパターンだったんです。価値のないものを世の中に売ることに対して疑問を感じていたので、「このまま続けていてもむなしいだけだ」と社長に話しました。しかし、引き止めていただき、「新規事業をやらないか」ともちかけられました。それならということで、今度はブライダル事業に携わることになったんです。

そこで3年間ほど携わって、事業がようやく軌道に乗ってきたとき、教材販売の事業がいよいよ危なくなって、社長から「なんとか立て直せないか」と声をかけられました。それまでの社会人人生で、僕は何を指示されても「はい」と即答していましたが、そのとき初めて、引き受けるかどうか悩みましたね。

結局引き受けるわけですが、あらためて考えてみても、やはりいい教材だとは感じられませんでした。そこでユーザーが喜ぶ商材にするために、教材で学んだノウハウを生かしてユーザーが収入を得る機会を作り出せないかと考え出しました。これがクラウドワークをビジネスとして活用する、いまのサービスにつながっています。

クラウドワーカーに「やってみたい仕事」のアンケートを取ったところ、データ入力をしたいという回答が多くありました。しかし、教材販売の会社がデータ入力の仕事を請け負うスキームがクライアントに理解してもらいづらいと考え、スムーズに理解してもらうために別会社として、うるるをつくることになりました。

「うるる」という社名の由来を教えてください。

オーストラリアの先住民族が、「エアーズロック」のことを「ウルル」と呼ぶんです。いろんな風景を見ましたが、オーストラリアにいたときに見たエアーズロックのインパクトが忘れられませんでした。360度見渡しても何もないところに、山のような一枚岩が現れはじめる。地球が織りなす壮大な歴史を感じ、雄大で迫力ある異様な雰囲気に圧倒されました。「大地のヘソ」とも呼ばれる世界の中心のような存在になりたい、というのが一つの由来です。

また、エアーズロックは現地で知り合った仲間と一緒に見たのですが、感動や喜びは共有すると倍になる、と感じました。それまでの一人旅で、つらいことがあったときに誰とも共有できなければ、余計につらくなるという経験をしてきたので、「これからも仲間がいれば楽しいことは倍増し、つらいことは半減する」という思いも社名に含まれています。会社の成長を通じて、エアーズロックを見たときのように感動を社員と共有したいですね。

ちなみに、社名を決めるための議論をしていたとき、最初はあまりいい社名が思い浮かびませんでした。雑談の中で僕が「エアーズロックを見て感動した。先住民族の言葉では『ウルル』と言うんだよ」という話をしたとき、ある女性社員が「うるる、いいじゃないですか。ひらがなで書くと響きも柔らかくて、かわいい」と言ってくれて、社名が決まりました。

事業の一つとしてはじまった「うるる」ですが、のちに完全なる別会社として独立することになります。2007年には、まだ日本で知られていなかったクラウドソーシング事業にも取り組みますが、なぜクラウドソーシングに着目したのでしょうか。

社内で創業して2年くらい経ったとき、親会社が教材販売サービスから撤退すると決断しました。ブライダル事業以外の新規事業も全部たたむことになり、うるるもたたむことになったんです。

しかし、まだデータ入力の事業は赤字でも、僕の中ではこの路線で黒字化できるという感覚がありました。当時は「クラウドワーカーを活用しています」と言うと怪しがられて、収益の拡大に苦戦していましたが、真面目にこのサービスを続ければ、社会にとって価値のあるサービスになるという確信があったんです。あとは、それを収益に変えるという課題が解決できていないだけだと思っていました。

そこで、社長に「うるるを買い取らせてくれ」と話し、合意してもらって独立。僕たちがデータ入力の仕事を獲得し、クラウドワーカーに再委託する形で、事業を進めました。しかし、このプロセスは非常に労働集約的だった。業務を委託してくれる会社も在宅で働きたい主婦の方もたくさんいるのに、僕らがボトルネックとなりサービスを拡大できないジレンマがありました。

そこでクラウドワーカーを活用して収益を上げる方法を考えたときに生まれたのが、クラウドワーカーと企業を直接マッチングさせるサービス「シュフティ」です。当時は「クラウドソーシング」という言葉も知りませんでした。その言葉を知ったのは最近になってから。クラウドソーシングをやろうと思っていたわけではなく、やったことが結果的にクラウドソーシングだったのです。

主婦、高齢者、障がい者をクラウドワークで「労働力」に

現在「シュフティ」は多くの主婦の支持を集めています。当初からうまくいっていたのでしょうか。

いいえ、今の規模になっても単体の事業としてはうまくいっていません。利益率が低いからです。そこで、「CGS(Crowd Generated Service)」というビジネスモデルを生み出しました。CGSとは僕らが考えた言葉で、考え方としては「クラウドワーカーを活用してさまざまなプロダクトをつくっていこう」ということです。これによって生み出されたのが、入札情報の検索サービス「NJSS」や、企業にかかってくる電話の受付代行サービス「fondesk」などです。

現在の事業モデルとしては、データ入力などの受託のBPO事業、「シュフティ」を展開するクラウドソーシング事業、そしてCGS事業。すべての事業において裏側でクラウドワーカーを活用しており、そしてこの三つが相互に支え合っています。BPO事業とクラウドソーシング事業からCGSにたどり着いたことによって、非常に高収益な事業をつくることができました。

現在の「シュフティ」のトップページ

現在の「シュフティ」のトップページ

クラウドワーカーと企業をマッチングさせる企業はほかにもありますが、貴社の強みはどこにありますか。

自分たちのコアコンピタンスが何なのかは、常に問い続けています。根底にあるのは、クラウドワーカーといった、「新しい労働力を活用する」という部分。クラウドワーカーに業務を発注しても、品質が低いものになったり、計画通り進まなかったりと、ビジネスとして成立させるのは容易ではありません。

クラウドワーカーに仕事を依頼すれば、交通費はいらないし、パソコンはクラウドワーカー自身が持っているので、設備投資も必要なく、安く発注できます。報酬だけ支払えばいいので、企業にとってはコスト削減にもなります。

しかし、クラウドワーカーの中には、例えば主婦と言ってもさまざまな方がいます。外資系のコンサルタントとしてバリバリ働いてきて、今は育児で休んでいる人もいれば、全くビジネス経験がない人もいます。この人たちを活用して一定の品質を保つのは非常に難しいことです。これまでにも、期日までに納品してこない、連絡が取れなくなった、でたらめな内容を入力してくる、などといったことが何度もありました。

それでも何万件という仕事を発注し続ける中で、いつの間にか知見が培われてきました。僕らは「クラウドワーカーに仕事を発注するときはこうしないと品質が上がらない」とか、「そんな仕事はクラウドワーカーには発注できない」といったことが自然にわかります。それが当たり前にできることが強みだと思っています。

今後の事業展開について、どのように考えていますか。

まずはクラウドワーカーをもっと活用すること。子どもが小さくて外に働きに出られないような主婦の方を活用し、企業として収益を上げるには、CGSというビジネスモデルが一番だと思っています。

また、日本ではこれから労働力不足がますます深刻な社会問題になってきます。この労働力不足を解決するような事業、サービスを展開していきたい。主婦の方だけでなく、高齢者や障がいのある方を労働力として活用できるようにしたり、女性の社会進出をもっと支援したり。とにかくこれまで労働力としてカウントされてこなかった人たちを労働力として活用できる事業をつくりたいですね。

また、今あるCGSをさらに伸ばすことはもちろん、新たなCGSを1年に一つずつくらいは創出していきたいですね。そのためにM&Aも活用していきます。2020年には出張写真撮影サービスを展開する「OurPhoto」を買収しました。現在、社内では社長直下のM&Aチームの組成も始めています。M&Aを行うことで、会社の成長を加速させていくことが狙いです。

社会的に意義のあるサービスであることと、収益を上げられることのバランスを取りながら事業を展開し、社会から「うるるは次にどんなプロダクト、サービスを提供してくれるのだろう」と期待してもらえる存在になりたいと思っています。

貴社が属するBPO業界やクラウドソーシング業界の課題はどこにあるとお考えですか。

両方とも、もっとアップデートしていかなければなりません。課題だらけですね。まずBPOに関しては高収益にならなければ、事業の価値が上がっていきません。BPOは受託なので、「今月は売り上げが上がった」となっても、翌月にはまたゼロから積み重ねていかなければならないこともある。これでは売り上げが安定しないし、従業員が疲弊する組織になりがちです。いつまで経ってもこの繰り返しなので、サブスクリプションモデルにすることが必要だと考えています。

次に、クラウドソーシングは手数料ビジネスですが、手数料だけで高収益な体質にすることが難しい。世界的に見ると、クラウドソーシングはいま、英語圏での展開が向いています。たとえばアメリカの仕事をフィリピンの労働者に発注するなど、給与格差を生かしています。フィリピン人にとっては「この仕事を1件するだけで、1ヵ月分の平均収入になる」という仕事があります。それぐらいのインパクトを持って、グローバルの巨大なマーケットでビジネスを展開しないと、どうしても薄利になります。

日本においては、マーケットをもっと大きくすることが課題ですが、僕らはCGSというビジネスモデルでクラウドワーカーを活用するビジネスを高収益にしています。

「どういう組織か」を明確にすることでミスマッチを防ぐ

星さんは、これまでフリーターから始まり、さまざまな経験をされています。そんな星さんが考える、働く上で大事なこととは何ですか。

組織にはさまざまなタイプがありますが、絶対に自分に合う組織と合わない組織が存在します。まず自分に合う組織に巡り合うことが大切ですし、自分に合うかどうかを確認できることも大事だと思います。

うるるは、人間関係をとても重視する会社です。「企業は人なり」だと思っています。人に関わらずに仕事をすることはできません。そんな思いを、「人のチカラで世界を便利に」というビジョンにも込めています。

会社の一番の目的は業績を上げて利益を出すことですが、業績を上げるためには従業員のやる気ややりがい、生産性が大きくかかわってきます。しかし、当社とは違う考え方の会社もありますよね。目的は業績を伸ばすことなので、プロセスが違うだけでどちらが正解といったものではありません。自分の考えとは違う組織で働いてしまうと、社員もしんどいですよね。

一番大事なことは、企業側は「うちの会社はこういうタイプの組織だ」と明確に言語化して発信すること、働く側は「自分はこういう組織で働きたい」という好みを持つことです。そうすることが、結果としてミスマッチを防ぎ、お互いの幸せにつながっていくと思います。

最後に、「人材」に関連する企業で働く若い方々へのメッセージをお願いします。

一言だけ言うと、「大丈夫、なんとかなる」ですね。僕は失敗したことも含めて、「とりあえずやってみる」を貫いてきました。知識を得て、それをどんどんアウトプットしてみる。アクションを起こさなければ何も始まりません。僕は学校の勉強は嫌いでしたが、社会に出てからの勉強はすごく好きです。何を学ぶのか、どのように学ぶのかを自分で選べるし、意味のある勉強だと思えるからです。

日々、やったことがないことでもアクションを起こして、そのために必要なことをインプットする。この繰り返しです。そうすると自分にできることが増えていき、うまくいけば成功体験になります。自信がつくと、もっとチャレンジしてみようと思えます。まずは一歩を、恐れずに踏み出してみてください。 

星知也さん(株式会社うるる 代表取締役社長)

(取材:2021年8月25日)

社名株式会社うるる
本社所在地東京都中央区晴海3丁目12-1 KDX晴海ビル9F
事業内容クラウドワーカーを活用した「CGS事業」、CGSを創出するクラウドワーカーのプラットフォームである「クラウドソーシング事業」、CGSを生み出すために顧客ニーズ・市場トレンドをつかむアンテナ役である「BPO事業」
設立2001年8月

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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